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変容

作者: 景文日向
last update 最終更新日: 2025-11-15 07:30:00

 スセリヒメからは、香木の香りがする。何だかとても、懐かしい匂い。

 ただ、肝心の神力の源らしい髪は狙えない。そもそも、この読みがハズレである可能性もあるのだが。

「天照大御神、私だけど」

 神殿の扉を開けると、予想外の光景が広がっていた。

「……誰だ、お前」

 雷斗だ。時間稼ぎは、どうやら成功だったらしい。

 蓮の姿は見えなかったが、それは普段と姿が違うからだった。

 フツノミタマ。有事には、蓮は神剣と化すらしい。

 何も語らないが、それは物理的距離の問題かもしれない。雷斗とは話しているのかも。

「私はスセリ。天照大御神の弟である、スサノオノミコトの娘よ」

 スセリヒメの瞳から、少しだけあった光が消えた。

「やからぁ、認めたらあかんのよ。それは」

「……だ、そうだが?」

 天照大御神の柔和な否定に便乗する雷斗。僕には触れてこないのも、雷斗らしい。

「だから、認めさせるのよ。やっておしまいなさい、私の式神たち」

 また髪を数本抜き、式神を形成するスセリヒメ。やはり、神力の源は髪っぽいな。雷斗か蓮に、それを気づかせるしかない。

「式神使いか、面白い」

 雷斗は何だか余裕そうに笑みを浮かべているが、捕らわれている僕はそれどころではない。

「気をつけてください! 髪! 髪なんです、彼女の神力の源は」

 雷斗の視線が、スセリヒメの髪に向いた。

「一成……恩にきる」

 短く言葉を発し、すぐ彼女の懐に潜り込む雷斗。悔しいけど、武神としては超一級だ。

 僕ができないことを、すぐやってのける神なのだ。それは、蓮だって全幅の信頼を寄せる。

「……余計なことを」

 後ろに飛び退こうとしたスセリヒメの腕を掴んで、雷斗は引き寄せる。

 その後は一瞬だった。

 スセリヒメの腰まであった長い髪は、根本からすっぱり断ち切られた。

 それと同時に、僕の拘束も解けた。神殿に、長い黒髪の束が落ちる。式神も、消え去ってしまった。

 もう、長かった時代など想像もつかないほど勇ましい髪型になってしまった。風の刃は、彼女の髪を刈り上げてしまった。これじゃ、女神というより武神のような。

 僕の見立てが当たっていたのは、幸いだ。これで間違っていたら、雷斗に何と言われるかわからない。

 スセリヒメの変化は、髪型だけではなかった。

「……神力が暴走しているな……」

 いつの間にか人間体に戻った蓮が、そう呟く。

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     彼女はそう言うなり、何本か髪を抜いた。そして、それを手で握りしめる。 髪は形を変え、やがて人の姿へと変わった。「やっておしまいなさい、私の可愛い式神たち」 なるほど、これが彼女の手の内。 自分では戦わず、使い魔に倒させる。だから、一人でも高天原を壊せるのか。圧倒的な数の暴力だ。 何にせよ、ここではマズい。神殿が壊れた時、責任を負わなければならなくなるのは僕だ。それは避けたい。 後ろ姿は見せずに、段々後ずさる。「戦いはあかんよ〜」 天照大御神は、こんな時でも平和主義だ。正直、今はそれどころではない。 自分の神殿が破壊されるかどうか、という状況なのに。呑気なのか、それとも僕が考えつかない何かがあるのか。それはわからない。 そんなことより、まずはスセリヒメの戦い方を解析するところからだ。 髪を抜いて式神にした、ということは恐らく神力の源は髪。蓮や雷斗も、アマツミカホシ……記憶に新しいところで言えばタケミナカタも長かった。多分、基本的には髪と神力は一体だ。だから、力を削ぐには髪をどうにかすればいい……のだと思う。その、どうにかの方法を考えなくてはいけないのか。 切る以外にあるか? 長さが力と直結しているのであれば、それが一番手っ取り早い。 では、どうやって? 女性の体とはいえ、神だ。本来なら、僕と住む次元が違う。髪を切る隙なんて、当然だが存在しない。接近するのも危険だ。この仮説が合っているのかもわからないが、やる価値はある。いや、やるしかない。 ……フツノミタマって、アレは……蓮だよな。風神の力を持つフツノミタマであれば、意図しない形で髪を断ち切れるのではないか。となれば、今は防戦するしかない。神殿の外に出たし、逃げ回ってみよう。タケミナカタのように。 体をふわりと浮かせ、空を駆ける。スセリヒメ派当然ついてきた。いけるかもしれない。「喧嘩を売っておいて逃げるなんて、本当は自信がなかったのかしら?」「どうでしょうね」 どんどん加速していくと、彼女もそれに適応してきた。やはり、三貴紳の娘。莫大な神力だ。 僕の神力は無限じゃないから、効率的に使わなくてはならない。あと何時間したら、蓮達は来るのだろう? それさえわかっていれば、もっと上手く立ち回れるのに。「さて、お遊びは終わりよ。私が直々に葬ってあげること、感謝なさい」 結局、逃げ

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