All Chapters of 武神に認められた僕は、高天原の面倒事を処理することになりました: Chapter 31 - Chapter 32

32 Chapters

出雲と食

「……で、何を食べるの?」 人の視線など、全く気にしないかのようにスセリヒメは隣を歩く。「あ、あの……その前に、その服何とかなりませんか」 確かに、普通の人間に彼女は見えない。でも、僕は見える。胸元の破損も、当然気になる。僕は男だし、余計に。彼女はそんなの、気にも留めていないっぽいけど。「服?」 案の定だ。蓮もそうだが、神というものは露出を恐れないらしい。「ああ……現世向きにしろということかしら」 挙句の果てに返ってきたのは、的外れな言葉。僕の反応を待つ前に、彼女は指を鳴らす。 その瞬間、彼女の体が光に包まれた。そして現れたのは、優雅な黒いワンピースに身を包んだスセリヒメ。長い黒髪も合ってか、妖艶に見える。ワンピースなので、少し膨らんでる胸も目立つ。「これでどう? 最近、こういう服が流行っているのでしょう?」 ハイヒールをカツッ、と鳴らして彼女が問う。思わず、息を呑んでしまった。「……良いと思います」「何よ、上から目線ね。私は神よ」 性格は何一つとして変わっていないので、安心した。黒髪を翻し、彼女は歩き出す。「ついてきて。貴方は人間だから、根の国のものは食べると大変なことになるの。……だから、地上で食べるわ。出雲は初めて?」「ああ、はい」 気を許せば、案外優しい神らしい。確かに、大国主の神話でもそうだった気がする。あれも事実か。「出雲の食は、神向けだけれど……何かしらは貴方に合うと思うわ」 だがしかし、歩けど自然しか目に入らない。店の気配などない。一体どうするつもりなのだろうか。「……貴方、飛べるのよね」「まあ……」「姿は、私の力で隠してあげる。飛んで。私の後につくように」 言うが早いか、僕の体が浮いた。今、僕は何もしなかった。スセリヒメの仕業だろう。
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

これってデート……?

 そんなことを悶々と考えていると、蕎麦が運ばれてきた。「いただきます」 啜ると、確かに普通の蕎麦とは何か違うような気もする。あまり食に頓着していないから、どう違うのかと言われると難しいけど。「どうなの、出雲の食事は」 この神、そういうの気にするのか。正直、腹が減りすぎていると味覚が鈍るのか判断がしにくい。 でも、ここで不味いと言えば空気が壊れる。「美味しいですよ」「本当? それならいいけど」 スセリヒメは、じっと僕を見ている。店だと、確かに何も見るものはないか。 それにしても居心地が悪い……既婚者と一緒だなんて、初めての経験だし。 そもそも、女性と二人で出歩くこともなかったし。 そんなことを考えていても、手は動く。蕎麦は、すぐ胃に消えた。二人前あったのに。 会計を済ませ、店を出る。「黄泉平坂、ね。こっちよ」 手を引かれ、段々と体が宙に浮く。「ちょ、ちょっと!」「大丈夫よ。私が、他の人間からは見えないようにしたから」 そんなことも出来るのか。スサノオの娘って、伊達じゃないな。「黄泉平坂はね、一つだけルールがあるの」「ルール?」 そんなもの、記紀に書いてあっただろうか。記憶を探っても、思い当たらない。「あそこでは、後ろを振り返ってはダメ。お父様のお父様……イザナギお祖父様が、痛い思いをしたらしいわ」 そうか。スセリヒメから見れば、イザナギは祖父だ。 イザナギが痛い思いをしたというのは、妻であるイザナミを甦らせようとして失敗した話のことだと思う。 あれも、本当のことなのか。やはり日本神話の記述は、侮れない。「わかりました」 そうこうしている間に、スセリヒメは降り立った。 そこは坂だった。どこまでも続いていそうな、薄暗い先がきっと根の国なのだろう。「……行くわよ。私は、今から後ろを見ない」 ここから先は、彼女の背中だけが頼りだ。 黄泉平坂の空気は、澱んでいる。吸うだけで、吐き気が沈澱する。他の神が「穢れている」と言うのは、これ故なのかもしれない。 一本道だから、迷うことはない。スセリヒメについていけば、辿り着くのだ。それが、後どれくらいかかるのかはわからないけど。 それにしても、殺風景だ。木の一本も生えていない。 こんなところにずっと住んでいれば、それは荒ぶだろう。美しい、と思えるものがない。 それをスセ
last updateLast Updated : 2025-12-23
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status