涼は、机の上に置かれた離婚届の受理証明を見つめ、しばらく呆然としていた。よく見ると自分の名前が記されていた。心臓がぎゅっと締め付けられ、その場に倒れそうになる。いつの間に……?自分は一度もサインなんてしていないはずだ。唯一心当たりがあるのは、戸籍を抜いたとき――葵は、いつから準備していたんだ?どうして離婚しようと?今どこにいるんだ?どうしても答えがほしかった。すぐに優衣に電話をかける。「あの写真、どこで手に入れた?」優衣は口ごもる。「SNSで流れてきただけよ、詳しいことは分からない……」「送って」届いた写真を拡大して見ると、写っている女性は葵じゃない。「……ふざけるな!」思わず拳で自分の膝を叩きつける。最初から冷静さを失っていたせいで、葵を探すのが遅くなった。今となっては、ほかのことはどうでもいい。とにかく、葵を見つけなければ。もしものことがあったら……想像しただけで、背中に冷たい汗が伝う。離婚届の受理証明を机の上に置き、ふと横を見ると、分厚い紙の束が目に入る。これは……ラブレター?手に取ってページをめくると、見覚えのある筆跡が並んでいた。これ、フランスに優衣が行った頃、「字を練習したい」とせがまれて書かされた練習帳だ。それなのに、何か所も順番が入れ替えられ、レイアウトまで変えられている。一見すると、自分が優衣に向けて書いたラブレターのように見せかけているのだ。なぜ、こんなものがここに?しかも離婚届の受理証明と一緒に。まさか、葵はこれを見たのか?胸の奥で、密かな高揚感が弾けた。もしかして、これを見て、葵はヤキモチを妬いた?それで腹いせに離婚申請したのか?もしそうなら……葵の心の中に、まだ自分がいる証拠だ。彼女も、もしかしたら――自分を愛しているのかもしれない。心臓がドクドクと激しく脈打ち、あまりの喜びに口元が勝手に緩んで、顔つきさえもどこか歪んでしまう。報告に入ってきた秘書は、そんな涼の様子にギョッとし、思わず声をひそめて話し始めた。「社長、調べたところ、奥さまは昨夜クルーザーに乗っていたようです。監視カメラの復旧映像では、すでに二日間何も口にしていません。いま現在も行方が分かっておらず、私たちも心配で……」「黙れ!」涼は我に返り、怒りを押し殺して命じ
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