あずさはドアを閉め、濡れた傘を壁に立てた。祐介はソファに腰を下ろし、口元をティッシュで押さえている。血は止まったものの、皮膚には青紫の痕が残っていた。「薬箱、持ってくるね」あずさはそう言って棚を探り始める。そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、祐介が不意に声をかけた。「……あずささん」「なに?」彼女は振り返らずに探し続ける。「僕、あずささんが好きなんだ」あずさの手が一瞬止まり、それから黙ってヨード液と綿棒を取り出し、ソファに戻ってきた。「じっとしてて。消毒するから」綿棒に薬を染み込ませ、そっと傷口をなぞる。祐介は眉をひそめたが逃げなかった。「頭が熱くなったとかじゃないんだ」祐介は真剣に続けた。「高校のときから、ずっと好きだった」あずさは綿棒を捨て、落ち着いた調子で答える。「ごめん。今はそういう話、したくないの」「わかってる」祐介は微笑む。「でも僕は待てるって、伝えておきたかった」あずさは薬箱を閉じる。「祐介、私はこれまでの結婚生活を終えたばかり。今はコンテストに集中して、結果を残して、自立できるよう仕事を頑張りたいの」「うん、それもわかってる」祐介は素直に頷いた。彼女はそれ以上何も言わず、キッチンへ水を取りに行った。そのとき、テーブルの上に置いたあずさのスマホが光った。祐介がちらりと目をやると、見慣れない番号からの動画だった。彼は余計な詮索をせず、ただスマホを向こうへ押しやった。あずさは戻ってくると、自然にスマホを手に取り、動画を再生する。画面の中で、椅子に縛られたみやびは電撃を受けたようで、顔色を失って震えていた。見えないところから、賢吾の冷たい声が響く。「これで気が済んだか?」それはあずさに向けた言葉だった。彼女の指が震え、呼吸が一瞬止まった。かつて自分も同じように扱われた記憶が蘇る――「治療」と称して電撃を受け、無理やり罪を認めさせられた。今度は賢吾が同じやり方でみやびに報復し、その様子を彼女に送りつけてきたのだ。おまけに「気が済んだか」と彼女の意見まで伺った。あずさは冷笑しながら打ち込む。【よくも愛した女を傷つけて、その動画を自慢げに送ってこられたね。表彰でもしてほしいの?】送信すると同時に、その番号をブロックした。祐介が彼女の変化に気づき、静かに尋ねる。「どうかしたの
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