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七年目の終わり、雪が溶けた

七年目の終わり、雪が溶けた

Par:  ピーちゃんComplété
Langue: Japanese
goodnovel4goodnovel
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新婚の夜、親友の弟が、髪から滴る水を拭いながらふと私に尋ねてきた。「ちょっと大きいけど……大丈夫?」 彼のきれいに割れた腹筋に目を奪われながら、頭の中が真っ白になる。「え?な、何が……?」 私の話が聞こえなかったように、彼は真剣な顔で繰り返す。「大丈夫?」 急な展開に、自分の声まで裏返った。「ちょ、ちょっと待って!そういうの、まだこれからって言ってたでしょ?今日はさすがに急すぎるんじゃ……」 その夜、家のセンサーライトが明滅を繰り返し、夜が更けても消えることはなかった。 元夫の森崎賢吾(もりさき けんご)は家の外でうずくまり、目を腫らして泣いていたが、私は気にすることはなかった。 かつて、私が賢吾の幼なじみとの「形だけの結婚」を認めたとき、彼はそれで私たちの冷戦が終わると信じていた。 ある日、彼から電話がかかってきた。 「俺とみやびの結婚式は体裁だけ。母さんのためにやるんだ。終わったら、必ずお前とやり直す。一緒に暮らそう、約束する」 私は何も答えなかった。ただスマホの画面に表示されたカウントダウンを見つめていた――あと何日でこの家を出られるかを計算するために。 彼は気づいていない。私に黙って離婚届を提出したその瞬間から、私たちの夫婦関係はすでに終わっていたということを。

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Chapitre 1

第1話

今年に入って九度目――義理の母、森崎百合子(もりさき ゆりこ)が戸籍謄本を破ったとき、森崎あずさ(もりさき あずさ)の心がふと折れた。

手元には真っ二つになった書類。その片方に、先ほど百合子がぶちまけたスープの跡がまだ残っている。

百合子が怒りを爆発させるたび、決まって最初に犠牲になるのはこの一枚だった。

「何を見てるのよ!」病床に凭れながら、百合子は甲高い声を上げる。

「あんたみたいな厄病神が来なければ、私が寝たきりになることなんてなかったのよ!」

あずさは黙って床に散らばった食器の破片を拾い集める。鋭い端で指先を切り、赤い線が滲む。それでも声は上げず、白いワンピースに飛んだ油じみをそっと拭った。

「可哀想ぶるんじゃないわよ!」百合子はベッド脇のコップを掴み、投げつける。

「さっさと出て行け!顔を見るだけで腹が立つわ!」

コップはあずさの耳すれすれを通り過ぎ、壁に当たって粉々に砕け散った。

あずさは静かに病室を出て、ドアを閉めると、廊下の壁に背を預けて大きく息を吸い込んだ。

鼻腔を刺す消毒液の匂い。二年間、病院で過ごしてきた数え切れない夜が一気に胸に押し寄せる。

彼女はスマホを取り出し、夫の森崎賢吾(もりさき けんご)にメッセージを送った。

【賢吾、介護の人をお願いできない?今日もお義母さんが……】

画面には「既読」の文字が浮かぶ。だが、返事はいつまで経っても来ない。

十数分ほど待ち続けた末に、あずさはスマホを閉じ、戸籍謄本を再発行してもらおうと区役所へ向かった。

区役所の窓口は閑散としていた。破れた書類を差し出すと、職員は確認のために端末を操作し、眉をひそめる。

「……森崎さんは離婚されたようですが、『離婚』とわかる戸籍謄本を発行してもよろしいですか?」

「……離婚?」あずさは耳を疑った。

画面がこちらに向けられる。

「ご覧の通り、ご主人が離婚届を提出されています」

あずさはカウンターの縁を掴み、指先から血の気が引いていく。

彼女の脳裏に、二週間前の光景がよみがえった。治療費の清算に必要だと言って、賢吾が自分の印鑑を借りたことがあったのだ。そのとき、百合子の世話で手いっぱいだった彼女は詳しく聞きもせず、印鑑を差し出したのだった。

「もしかして……離婚についてあなたの合意は得られていないのですか?」職員が気の毒そうに尋ねる。

背後で順番待ちの人々がひそひそと声を交わした。

「ねぇ、あれって、森崎家のお嫁さんじゃない?賢吾さんにすがりついてるって噂の」

「そうそう、あの人のせいでお義母さんの足の治療が遅れたって聞いたのよ」

あずさは無言で左手の薬指を見つめた。そこにはめている指輪が、胸の奥に針を刺すような痛みを連れてくる。

「いえ。話し合って決めたことです、特に問題ありません」

かすれた声で言うと、職員は頷いた。

逃げ出すように区役所を後にする。真夏の日差しの下に立っているのに、全身が震えるほど寒かった。

タクシーに乗って病院に帰る途中、ようやく賢吾から返信が届いた。

「仕事で手が離せないんだ。夜に話そう」

何度もチャット画面を開き、問いただしたい衝動に駆られる。だが、文字を打ち込むことはできなかった。

病院へ戻ると、廊下は不思議なほど静まり返っていた。百合子の病室に近づき、中から笑い声が響いてくる。

そっとドアを押し開けたあずさは、その場に立ち尽くした。

ベッド脇に立つ百合子は、両足でしっかりと床を踏みしめ、器用にフォークで果物を口に運んでいた。

傍らには北沢みやび(きたざわ みやび)が座り、リンゴの皮をむいている。そして、忙しいと言い張っていた賢吾が母の肩を優しく揉んでいた。

「寝たふりなんて最高だわ」百合子は満足げに笑う。「あの小娘、私が歩けるようになったなんて夢にも思わないでしょうね」

「おばさんったら、またそんなことを……」みやびがにやりと笑う。「あずささん、あんなに一生懸命お世話してくれてたじゃないですか」

百合子は鼻で笑った。「当然よ。あの女が邪魔したせいで賢吾が電話に出られなくて、私は長い入院生活を強いられたのよ」

あずさはドア枠にしがみつくように手をかけ、賢吾の顔を見た。彼は複雑な表情を浮かべているが、母の言葉を否定しない。

「離婚届はもう出したのに、どうしてあいつはまだ出て行かないの?」百合子が詰め寄ると、賢吾は低く答えた。

「離婚については、まだ話してない。それに……」

「それにって?」百合子が甲高い声で遮る。「まさか未練でもあるっていうの?みやびのほうがあの女より百倍マシでしょ?」

「母さん!」賢吾の声が鋭く響いた。「離婚は俺なりの考えがある。母さんはゆっくり休んで、回復に専念してくれ」

「はいはい、勝手にすればいいわ」百合子は手を振り払うように言った。

「どうせもう別れるんだから。あいつがタダで世話をしてくれるなら、それはそれでいいわ」

あずさは一歩後ずさり、視界が涙でにじんだ。離婚の当事者である自分が、最後にそれを知るなんて……

病室に背を向けると、背後ではまだ笑い声が弾んでいた。

あずさは窓辺に立ち、スマホの中で眠らせていたとある番号を押した。

「……もしもし、私よ」

彼女の声は驚くほど落ち着いていた。「ここを離れたい。できるだけ早く」

スマホの向こうが沈黙したのちに問う。「もう決めたんだね?」

「うん」窓の外の街路樹が風に揺れ、葉が静かに擦れ合う。

「この家に二年も尽くした。もう、十分でしょう」

通話を切り、病室の方へ一度だけ目を向けた。相変わらず笑い声が満ちている。

その声は、まるで幸せな家庭そのもののように響く。けれど、そこに自分の居場所なんて一度もなかった。

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commentaires

mogo
mogo
クズとか生ぬるい、クソ野郎だなぁ……なにクズ女と寝てるの? 裏切りにも程度がある。
2025-10-10 22:18:51
4
0
maki
maki
最後まで読むの辛かった。そんなに愛してるなら、あんな酷い事できるはずないのに。
2025-10-08 22:07:30
3
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蘇枋美郷
蘇枋美郷
形だけだと母親への償いであの女と結婚式を挙げた迄はまだ有りとして、その後ヤッたのは全く関係ないだろ。ただのクズ。あのクズ女も母親の結果も自業自得。 とにかく無事に離れられて、かつ一途に想い続けてくれていた祐介君と幸せを掴めて良かった。
2025-10-05 11:16:12
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松坂 美枝
松坂 美枝
クズの自業自得物語だった 姑の嫁いびり容認に勝手に離婚届出したり他の女と結婚式して一晩中とか擁護できんわ 作中離婚届と離婚協議書出す順番逆ではとか赤信号で 渡るの?がちょい気になった
2025-10-04 10:43:11
5
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第2話
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第3話
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第4話
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第5話
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第6話
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第7話
あずさは、結婚式場の隅にひっそりと立っていた。爪が食い込むほどに掌を握りしめる。明日。明日になれば迎えがきて、この家から完全に解放される。だが今日だけは、賢吾とみやびの結婚式を、この目で見届けなければならない。赤いバージンロードの両脇には招待客がぎっしりと並び、車椅子に座る百合子は満面の笑みを浮かべている。音楽が鳴り響き、漆黒のタキシードに身を包んだ賢吾が、みやびの手を取って歩み出した。あずさの脳裏に、自分の結婚式の日がよみがえる。同じ教会、同じ赤い絨毯。賢吾は緊張で手に汗をかきながらも、強く彼女の手を握りしめ、耳元で囁いた。――「あずさ、やっとお前を妻にできた」だが今、彼は別の女と腕を絡め、落ち着いた顔でかつて彼女が歩いた道を、ためらいもなく進んでいく。不意に涙がこぼれ落ち、あずさは慌てて拭った。だが耳には、周囲のささやき声が容赦なく届く。「ねえ、あれって森崎社長の元奥さんじゃない?こんなとこに顔を出すなんて、図々しいわね」「精神的におかしいって噂よ。お義母さんを危うく殺しかけたとか」「哀れな人ね」あずさはそれらの声を聞こえなかったふりをして、ただ、壇上の賢吾を見つめ続けた。彼もまた何かに気づいたように、視線を巡らせ、やがて彼女の涙をとらえる。ほんの一瞬、彼の表情が揺らいだ。だが結局、何も言わずに顔を背け、儀式を続けた。――あずさ、お前ならわかってくれるだろう?式が終わり、客が次々と帰っていく。あずさが主寝室の前を通りかかった時、中から甘やかな声が漏れた。「賢吾さん、もっと優しくして……」みやびの艶めいた声が、鋭い刃となってあずさの胸を突き刺す。全身が硬直し、指先が震えた。やがて賢吾の押し殺した息遣いが重なる。「っ……声を抑えろ」みやびが小さく笑う。「別にいいでしょ?そのうちわかっちゃうから」「……黙れ」「ねえ、あの人と結婚したの、後悔してる?」不意に、みやびはそう聞いた。あずさは息を呑む。短い沈黙のあと、苛立ちを含んだ賢吾の声が響く。「ああ、後悔してるよ」その言葉が、熱い鉄のように胸に押し当てられ、内臓が焼き切れるように痛んだ。結婚式の日、彼は神父の前で「一生後悔しない」と誓ったはずなのに、今は「後悔してる」と言った。これ以上は耐え
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第8話
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第9話
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第10話
百合子の視線が、テーブルに置かれた離婚協議書に落ちる。その瞳に一瞬、満足げな光がきらめいたが、すぐに表情を作り直し、わざとらしく嘆息した。「まあ……これでいいのよ。ようやく身のほどをわきまえたってわけね」「……何だって?」賢吾が顔を上げる。百合子はゆったりとした口調で続けた。「佐藤さんが言ってたの。結婚式の夜、あいつ、あんたの部屋の前にしばらく立っていたらしいわよ。結局、入らずに戻ったけど」一瞬、空気が凍りついた。賢吾の呼吸が止まり、耳の奥で低い轟きが響く。結婚式の夜――みやびの体温に呑まれたあの時。彼女はこう尋ねていた。「ねえ、あの人と結婚したの、後悔してる?」彼は朦朧とした頭で、無意識に答えてしまった。「ああ、後悔してるよ」今ならわかる。あずさは、その言葉を聞いていたのだ。血の気が引き、顔色は真っ青に変わる。両手がぎゅっと握りしめられた。「おばさん、もうやめてください!」みやびは慌てて声を上げる。目には涙がにじんでいた。「全部、私のせいですから……」百合子は冷笑を浮かべる。「何があんたのせいよ。悪いのは――」「やめろ!」賢吾の声が鋭く空気を裂いた。掠れたその響きに、二人とも言葉を飲み込む。「……部屋に戻れ」冷たく突き放す調子に、みやびは百合子と視線を交わし、黙って車椅子を押して去っていった。リビングに残されたのは、賢吾ひとり。重い呼吸が部屋を満たす。彼はふらつきながらソファに腰を落とし、離婚協議書を凝視した。――あの日、彼女と一緒に役所に行くべきだった。だが彼は、軽く言ったのだ。「今日はお前一人で行ってこい。温泉から帰ってきてたら、何もかもが元通りになるよ」あずさは俯いたまま、小さな声で答えた。「……わかった」その声音には、穏やかすぎるほどの静けさがあった。あのときすでに、離婚を決意していたかのように。胸の奥から、息をも奪う痛みが押し寄せてくる。思い出す。――結婚式の日、式場の隅で涙を流すあずさの横顔。その夜、別の女を抱きながら吐いた、「後悔してる」という一言。そして翌日の朝、「一人で行ってこい」と、何気なく突き放したあの態度。彼に言われたとおり、彼女は行ってきたのだが、結局持ち帰ったのは「婚姻届」ではなく――離婚協議書だった。「……そんなはずはない」賢吾はう
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