結婚式当日、恋人は公然と式を放り出し、未婚のまま子どもを妊った幼なじみの出産に立ち会った。参列者たちの嘲るような視線を浴びながら、私はベールを外し、彼に問いただすため病院へ向かった。そこで目にしたのは、幼なじみが産んだばかりの赤ん坊を抱きしめ、愛おしそうに見つめる神谷辰也(かみや たつや)の姿だった。幼なじみの西村彩花(にしむら あやか)がわざとらしく問いかける。「辰也さん、今日は結婚式でしょ?私の出産に付き添って……藤原結(ふじわら ゆい)が怒ったらどうするの?」「結婚式なんていつだってやり直せる。でも出産は一度きりだ。病院に一人きりにしておけない。これからは俺がこの子の父親になる。お前たち母子を絶対に誰にも傷つけさせない」――後日、私が別の人と式を挙げようとした時、辰也は狂ったように会場へ乱入し、もう一度だけチャンスをくれと縋りついた。病院を出た私は、無表情のまま携帯を取り出し、ある番号へ電話をかけた。「橘景(たちばな けい)、前に言ってた『お前を嫁にもらう』って話……まだ有効?」向こうから、飄々とした景の声が返ってくる。「結、お前、俺をなんだと思ってる?都合のいい予備か?」「嫌ならいい。他を探すから」「……俺が娶る!」景は歯ぎしりしながら言い切った。「結、これはお前が自分の口で言ったんだ。もう後戻りはさせないぞ!」「約束だよ」結婚の日取りを決めた私は電話を切り、式場に戻って親戚や友人たちへ謝罪し、式を一か月後に延期することを告げた。参列者たちをなんとか落ち着かせ、疲れ切った体を引きずって家へ戻る。腰を下ろして間もなく、玄関の方から物音がした。入ってきた辰也は、申し訳なさそうに私を見つめる。「結、ごめん。今日は本当に急を要することがあったんだ」私は苦笑を浮かべた。「急を要する?私たちの結婚式よりも大事なことなんてあるの?」辰也は真剣な顔で言った。「友人が事故に遭ったんだ。命に関わることだったから、お前に説明する時間もなくて、とにかく彼女を病院に連れて行くしかなかったんだ」もし私が見ていなければ――彩花と辰也が子どもを抱き、まるで家族のように寄り添う姿を――彼の言葉を信じていたかもしれない。結婚式当日、新郎はいつまで経っても現れず、電話も繋がらない。最初は事故でも遭った
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