立都の最上流にある富裕層の社交界には、昔から暗黙の掟があった。――男の子は外でいくらでも女遊びをしていいことになっている。けれど女の子は、成人の日を境に、こっそりと「専属アシスタント」を抱え、密やかに欲を満たすしかない。私の成人式の日、百人もの応募者の中から一目で選んだのは、金縁眼鏡をかけた篠宮聖真(しのみや せいま)だった。彼は成熟していて、落ち着きがあり、しかも潔癖症。彼が唯一受け入れた条件は「体は触れない、手だけ」というものだった。そして終わるたびに、消毒用アルコールで百回も手を洗う。五年の間に、使い切った空き瓶は別荘を七周できるほどに溜まった。私はいつか彼の障害を乗り越えさせて、この男を完全に自分のものにできると信じていた。ところがある日、酒に酔った私は、うっかり篠宮の部屋に入り込んでしまう。枕の下に隠されていたハンディカムから見つかったのは、彼自身の自慰映像。そこに映っていたのは、私に対して常に冷静で理知的だった男が、母を死に追いやった義妹の下着を前に、喉仏を震わせながら――「長馨……愛してる……」そう呟く姿だった。その瞬間、私は気づいてしまった。彼が私に近づいてきた一歩一歩は、すべて彼女への長年の執着に基づいたものだったのだと。だがその後、私がその愛人の子の代わりに嫁いだのは、別の男だった。篠宮聖真、どうして泣いているの……?……「わかったわ、保坂家のあの躁鬱の狂人に、清水長馨(しみず ちょうけい)の代わりとして嫁いでやる」普段は無口な父が初めて机をひっくり返しそうになり、慌てて立ち上がって興奮した顔で叫んだ。「南枝、お前、納得したのか?保坂家のほうが催促がきつい。来週には式を挙げることになるだろう。どんなドレスがいい?今すぐ手配させる……」「いいえ、要らない。条件が二つだけある。あなたがそれを承諾すれば、私は嫁ぐ」父の顔から喜色がすっと引いて、椅子に戻ると警戒を含んだ目で私を見た。「何を要求するんだ?妹に危害を加えるつもりなら、早くその考えを捨てろ。俺を怒らせるなよ」「私の妹はとっくに死んだでしょう、覚えてないの?お墓だってあなたが自ら移したのよ」私は笑みを浮かべた。目の奥は氷のように冷たかった。長馨は父の初恋の娘で、私より一つ年下だ。八年前
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