結婚して七年目。夫の居安浩史(いやす ひろし)が私に贈った記念日のプレゼントは、離婚届だった。そして、七日後に結婚届を再提出するって。理由は、彼が会社で自分より七歳年下の女性インターン、外島朝香(そとじま あさか)に目をつけたからだ。彼は朝香と、わずか七日間だけの「正式な交際」を楽しみたかったのだ。七日目、ようやく自分の過ちに気づいた浩史は、翌日の復縁を促すために99回も電話をかけてきた。だが彼は知らない。七日前、私はすでに海外研修の計画を立てていたことを。――もう、彼の遊びに付き合うつもりはない。……浩史が離婚届を持ってきたとき、私は家のアトリエにこもり、彼への七周年のサプライズを仕上げている最中だ。縦220cm、横140cmの大作の油絵。一か月かけて描き続け、仕上げに残すは最後の二筆だけだ。「離婚届はここに置いとく。問題なければ、さっさと署名してくれ。朝香が玄関で待ってるんだ」絵筆を握った手が止まった。私は聞き間違いかと思った。「……何て?」浩史は眉をひそめた。「離婚する。心配するな、七日間だけだ。七日経てば、お前はまた俺の唯一の妻に戻る」その途方もない理不尽さに、言葉を探して口を開きかけたが、浩史は容赦なく遮った。「結婚の日にお前が約束しただろう?俺に一度だけ、過ちを犯す機会をくれるって。今さら気が変わるつもりか?」……確かに、私はそう言った。だが同時に、浮気や心変わりは含まれないと、はっきりと付け加えたはずだ。胸が裂けそうなほど痛む。それでも必死に、体面だけは守ろうとした。「……今日じゃないとダメなの?」外は大雨が降っている。私たちの結婚記念日でもある。七年前も、こんな雨の日だった。深い藍色の傘を差して、彼は私の世界に踏み込んできた。雨に濡れた土の匂い、彼が差していた傘の六本目の骨が少し錆びていたこと――今でも鮮明に覚えている。浩史は舌打ちし、苛立たしげに窓を閉めた。「観鈴、俺の言い方はそんなに分かりにくいか?本気で離婚したいわけじゃない。ただ、あの子をなだめるためだ。来週彼女の誕生日が過ぎたら、すぐにお前と復縁する」そのとき、扉がノックされ、花びら模様のワンピースを着た少女が顔をのぞかせた。「浩史、まだぁ?映画、もう始まっちゃうよ」プ
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