心臓を瀧澤逸生(たきざわ いつき)に移植してから五年後、私は人工心臓の拒絶反応で病室のベッドの上で息を引き取った。意識が消えていくその瞬間、閻魔の声が耳元に響いた。「笹本千遥(ささもと ちはる)――おまえに執着する者が人間界にいるせいで、おまえは輪廻に入れぬ。五日の猶予を与える。その間に現世へ戻り、執念を解け」再び目を開けたとき、私は死の五日前に戻っていた。手には北東部(ほくとうぶ)行きの乗車券が握られている。逸生とは三十歳になったら神山で結婚式を挙げようと約束していた。前の人生では、その切符を病院のゴミ箱に捨ててしまった。だが今回は、人でごった返す駅で列車に乗り込んだ。まさか列車に乗り込んだ時に、同じく北東部へ向かう逸生と、彼の婚約者に出会うとは思わなかった。寝台列車の入口で立ち止まり、高い背中を茫然と見つめてしまった。瀧澤逸生と別れて五年。もう二度と再会することはないと思っていた。再び会うとき、自分の命が「カウントダウン」に入っているなんて想像もしなかったし、彼の隣に別の女性がいるとも思わなかった。背後の乗客に押され、急かされる。「前の人、早く進んでくださいよ!」私は慌てて視線を引き戻し、「すみません」と取り繕って通り過ぎようとした。だが逸生が、低い声を投げかける。「笹本千遥。五年ぶりだ。挨拶もなく立ち去るつもりか?」氷のように冷たい声に、かすかな嘲りが混じる。私はその場に釘付けになった。彼の隣に座る女性もこちらを見やる。「逸生、知り合い?」逸生は私の顔に二秒ほど視線をとめ、それから逸らした。「ただの友人だ」友人?なんて都合のいい呼び方。私は目を伏せ、爪が掌に食い込む。魂であっても痛みを感じるのだと、その瞬間初めて知った。無理やり笑みを作り、できるだけ自然に言葉を紡ぐ。「大学の同級生です。何度か顔を合わせただけの」女性は納得したように頷き、私に手を差し出した。薬指のダイヤモンドが光を反射する。「奇遇ですね。はじめまして、私は林雅(はやし みやび)。逸生の婚約者です。今回北東部へは、神山(しんざん)でウェディングフォトを撮るために行くんです」神山。その名前が、鋭い針のように胸に突き刺さった。二十四歳の誕生日の夜。逸生は
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