私は立ち上がり、友人に申し訳なさそうに微笑んで、ホテルを後にした。 もう二度と振り返らなかった。今回は、本当に離婚する。 ――友人の結婚式でその友人が身にまとっていたのは、私がデザインしたウェディングドレスだった。半年かけてその下絵を描いたのに、福井基樹(ふくい もとき)はたった一分で却下した。「あの子が新作映画を見たいと言っている。付き添わなければならないから、結婚式はやめだ」それが彼の理由だった。けれど彼は約束した。結婚したあと、どれほど外で女と遊んでも、私はいつまでも福井家の正妻だと。しかしそれが今日、友人の結婚式に、彼は新しく付き合い始めた女を連れて、平然と姿を現したのだった。ホテルに足を踏み入れた瞬間、周囲から視線が突き刺さる。好奇に満ちたもの、噂好きのもの、そして……同情のものまで。基樹――七年連れ添った夫だけは、相変わらず淡々とした顔をしていた。「来たか」彼の腕に甘えるように絡みつく若い女を見て、私は静かにうなずいた。「来たよ」結婚して七年。これで何度目だろう。新郎は気まずそうに、明らかにこの状況を想定しておらず、慌てて場を取り繕った。「美香さん、立っていないでどうぞ。基樹さんと一緒に座れるように、席はちゃんと用意してありますから……」だが言葉は途中で途切れた。基樹が連れてきたその女が、あまりに無作法だったからだ。私の席に当然のように腰を下ろした。「美香さん、基樹は私が隣に座るのが好きなのよ。気にしないでくれるの?」その女はまだ若く、無邪気で活発な様子を装っていた。基樹はちらりと私を見て、気だるげに口を開いた。「茜の言うとおりだ。お前の席はもう埋まってる。別の場所にしろ」「わかった」私は迷わなかった。これが初めてではないのだから。先週、基樹が女とホテルで寝たときも、電話一本で私がゴムを届けに行った。そして我に返り、私は空いた席に腰を下ろした。 その瞬間、誰かの嘲笑が聞こえてきた。「なんだ、これだけ?修羅場が見られると思ったのに。腰抜けだな」私は目を伏せ、表情を変えずに、掌を痛いほど強く握りしめた。やがて結婚式が始まり、新郎新婦が壇上で胸を熱くして挨拶をしている。基樹にぴったり寄り添った茜が、わざとらしく無邪気さを装い、甘
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