第九十九回目の「ライオン財団の会長の婚約者と子供を作る計画」に失敗したあと、花井亜月(はない あづき)は親友に電話をかけた。「風子、私、海外に行くね」ほとんど一瞬で、電話の向こうから椅子が床に倒れる音が響き、清水風子(しみず ふうこ)の弾んだ声が届く。「亜月、やっと決心したのね!前から言ってたじゃない、野呂なんてダメだって。あの人、見た目からして頼りないもの」亜月は涙で赤くなった目のまま笑みを作った。「うん、もうはっきりした」「落ち込まないで、こっちに来たら、肩幅広くて腰が細くて脚が長い白人の男を探してあげる。みんな遺伝子の質がいいから、絶対に綺麗な子が生まれるわよ」亜月は小さくうなずく。「うん、婚姻届を取り戻したら」電話を切ったあと、亜月は布団に潜り込み、重たい思いを抱えたまま眠りに落ちた。真夜中、誰かが布団をめくり、その熱い体が腕一本分の距離に腰を下ろす。ほどなくして、衣擦れの音と低く荒い男の息遣いが耳に届いた。体の半分が痺れたように強張るが、彼女はゆっくりと顔を向ける。窓から差し込む白い月光の下で、野呂成哉(のろ せいや)の袖がまくれ、鍛えられた腕が露わになっていた。片手には絹のレースのナイトドレス、もう一方の手は布団の下で激しく動いている。低い唸り声のあと、緊張に固まった体が弛緩した。浴室へと向かった彼を見届けて亜月はようやく、血がにじむほど噛み締めていた唇を解放する。浴室の扉は半開きで、成哉が白いドレスを大事そうに揉み洗いし、そっと鼻先に近づけ、うっとりとした表情でつぶやくのが見える。「美雪……美雪」野呂美雪(のろ みゆき)は彼の義妹だ。三十分ほどして戻ってきた彼は、また腕一本分離れた場所に横たわる。最初から最後まで、彼は一度も彼女に触れない。だが亜月はもう眠れず、目を開いたまま過去を思い返す。二十歳のとき、両親が海難事故で亡くなり、彼女には一生使い切れない財産が残された。孤独の中で、血のつながる子供を欲しいと思った。初めて成哉に出会ったのは、彼が港で荷物を運んで帰ってきた日。広い背中、無駄のない腰、汗が髪先から肩を伝い腹筋の筋に流れ落ちる。その一瞬で、亜月の血は全身で沸騰した。生活に困っている兄妹だと知ると、彼女は金で彼を囲った。関係を結んでからは、あらゆる手で彼を誘
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