汐が去った翌月。冬生は彼女に一度だけメッセージを送った。メッセージは確かに送信されたが、返事は一切なかった。内容はこうだった。【アパートを売ろうと思う。お前の服はどうする?】もしかすると、汐が「この家も中身もすべて、好きに処分して構わない。私に確認する必要はない」とメモを残していたことを忘れていたのかもしれない。あるいは、単に理由を作って彼女に連絡しただけだったのか。冬生の心の中では、おそらくこう考えていた。――これで汐に、自分から差し出した和解のきっかけだった。彼女が賢いなら、このきっかけに乗ってくるはずだ。彼は一見、気難しいように見えるが、実はご機嫌を直すのはそう難しくない。汐は一度も返信せず、アパートももちろん売却されなかった。汐の服や以前のすべての持ち物は、そのまま置かれたまま。まるで彼女がここを去ったことなど一度もなかったかのように。冬生は、接待の後の深夜にここへ来るのが常だった。そして汐が寝てたベッドに横になり、夜明けまで眠れずに過ごした。……汐はとても保守的で、素直な女の子だった。家庭は普通だが、生活に困ることはなく、両親からも大事に育てられた。しかし幼い頃から美人だったため、親の監督は非常に厳しかった。大学を卒業した秋、ようやく汐は彼と同棲を始めた。冬生はその夜のことを覚えていた。汐は緊張で全身が震えていた。肌のあちこちが熱く赤く染まっていた。その美しさは圧倒的で、彼の下でまるで壊れそうに儚げで、胸を打たれた。すべてが終わった時、彼女は激しく泣き、何度も繰り返した。「冬生、私を裏切らないで。これからも絶対に裏切らないでね……私に優しくして、私と結婚して……冬生……私たち、ずっと一緒にいるよね?」しかし、あの無邪気で純粋に、好きな男とずっと一緒にいられると信じていた汐は、とうの昔に彼の手によって失われてしまっていた。あまりに長い時間が経ち、彼はもう、彼女のあの頃の姿さえ思い出せないほどだった。別れを言った時、彼女は笑ってうなずいたのか、それとも目を赤くして涙を流したのか。……そして、汐が去ってから三ヶ月後。変わらぬ深夜のことだった。時計の針がもうすぐ十二時を指そうとする時、冬生は汐に電話をかけた。携帯の呼び出し音がしば
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