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残り火 After Stage ―未来への灯火― のすべてのチャプター: チャプター 121 - チャプター 130

148 チャプター

想いを重ねる夜20

気持ちを落ち着かせるべく深呼吸してから、しっかりと頭を上げて、お父さんを見据えた。目の前にいるその人は、どこか呆れた顔で俺を見つめる。「お父さんあのね、年末実家に帰ります。ばあやとお母さんの話を直接聞きたいし」「そうか……」「それでね、あの……。穂高さんと一緒に、帰りたいと思うんですが――」 ちらっと横を見た俺の視線に、穂高さんはいつもなら気づいて、視線を合わせてくれるはずなのに、なぜだかあえて知らんぷりを決めこむ。だけど、背中に触れている手はそのままだった。てのひらから伝わってくるぬくもりと、大きな存在を感じるだけで、今この場で伝えなければならないことを、ちゃんと言える気がするから不思議だ。「穂高さんと一緒に、玄関から帰ってもいいでしょうか?」 進学に反対された大学へ通うようになってからというもの、勝手口から実家に出入りしていた俺を、お父さんはなんと言ってくれるだろうか。 この島への就職や、同性との付き合い――反対される要因ばかりの俺は、やっぱり認めてもらえないのかもしれないけれど。「仕事は……」「へっ?」 お父さんの声はとても小さなものだったが、運良く聞き取れてしまったので、変な反応をしてしまった。「ここでやってる仕事は、そのなんだ……、つらくないか?」「仕事について、そうですね」 頭の中で考えをまとめる前に、思ったことが口から自然と出てくる。昨夜自宅でお父さんと喋ったときとは違うそれに、素直に従うことにした。「つらくないと言ったら嘘になります。でもとてもやりがいのある仕事なので大変だけど、楽しく勤しむことができています」 俺の傍で同じように漁の仕事を頑張る穂高さんがいるから、頑張らなくちゃと思わされる。「不便だらけのこの環境は、つまらなくないのか?」「都会と比較したら、本当になにもないところですが、そういうところもひっくるめて、俺はこの島が大好きです」 無条件にかけてくれる島の人のあたたかさを、ここ来てから感じられるようになった。「お父さんがわざわざ、ここまで来てくれただけじゃなく、俺の職場を見たり、お世話になってるいろんな人と言葉をかわしてくれたこと、本当に嬉しかったです。どうもありがとうございました」 言いながら頭を下げた瞬間に、フェリーが出発を知らせる汽笛を鳴らした。「仕事が忙しいなら、無理しないで年末に帰っ
last update最終更新日 : 2026-01-31
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想いを重ねる夜21

「はい」 お父さんが告げた意外な言葉に、思わず穂高さんの顔を見上げると、同じタイミングで目を合わせてくれる。 穂高さんと一緒に帰っていいと告げられただけでも嬉しいのに、お父さんはなんの条件をつけてくれるのやら。きっと穂高さんも、俺と同じ気持ちを持っているだろう。目の前にある闇色の瞳が、嬉しげに細められていた。「おまえは玄関から帰ってきてもいいが、その男は勝手口から入ってこい!」 チラッと少しだけ振り返ったお父さんは、妙な注文をつけるなり、足早にその場を立ち去った。「紺野さん、ありがとうございます!」 勝手口から出入りするように命令されたというのに、穂高さんは満面の笑みを浮かべながら、お父さんの背中に大きな声をかけてお礼を言った。「穂高さんだけ、勝手口から入るなんて」「なにを言ってるんだ千秋。一緒に実家に帰ることができるだけでも、俺はとても嬉しいというのに」「でも……」「嬉しいのはそれだけじゃなく、千秋は晴れて玄関からの出入りを許されただろう? ということは、いつかは俺も同じところからお邪魔することのできる、可能性があると思ってね」 誇らしげに告げた穂高さんは口角をあげたまま、フェリーに視線を飛ばした。俺は黙ってその横顔を見つめる。身長の高い穂高さんの栗色の髪が海風になびいている様子は、見たところいつも通りなれど、そこから漂ってくる嬉しそうな感じは、俺まで自然と微笑んでしまうものだった。「千秋、俺ばかり見ていないで、フェリーに乗ったお父さんを捜したらどうだい? しばらく逢えないんだからね」「わかってます……」 ガン見していたことを指摘されてしまったので、慌ててフェリーを見ようとしたら、不意に目の前が暗くなった。気づいたときには穂高さんの顔が傍にあって、いきなりくちびるを奪われてしまった。「ちょっ!」 一瞬だけ触れるだけのキスをして、ゆっくり離れていく。穂高さんの突飛な行動はまちがいなく、俺の気持ちを悟ったからこそ、なされたものだろう。気遣うような微妙に揺らめく瞳が、それを表していた。「ありがと、穂高さん」「どういたしまして。お父さんは見つけることができたかい?」「そんなに早く見つけられません。誰かさんのせいですよ」 言いながら大きなフェリーの甲板に立ち並ぶ人混みの中から、一生懸命にお父さんを捜した。「向かって右側、最後尾付近
last update最終更新日 : 2026-02-01
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番外編 トロけるようなキスをして――

その日は空気が凛と澄んでいて、とても寒い夜だった。 コンビニのバイトがいつもの時間に終わり、手を擦り合わせながら肩を竦めて店の外に出る。夜空を見上げるとそこには、雲ひとつない空にキレイな星が、これでもかとキラキラ瞬いていた。「ひとりで見るよりもふたりで見た方が、もっとキレイなんだろうな……」 今、隣にいないあの人のことを思い、胸の中がきゅっと切なくなる。 俺の名前は紺野 千秋。市内の大学に通う二年生。親の仕送りとバイトで生計を立てていた。 はーっとあたたかい息を両手にかけて、俯きながら歩き出した途端、身体を奪うように後ろから強く抱きしめられた。包み込んでくれるその二の腕は絶対に、この時間にはいない人なのに――嬉しさのあまり、ひとことも言葉が出てこない。「お帰り千秋。今日もお疲れ様」「……穂高、さんっ!?」 どうしていつもよりも帰りが早いのか聞いてみたいのに、それすらも口から出てこない。 すぐ傍にいる同性の恋人、井上 穂高。昼間は普通のサラリーマンをしているのだけれど、俺と一緒に暮らすマンションを借りるため、夜はホストの仕事をしていた。 背中に感じる穂高さんのぬくもりが、えらくあたたかくて、ほっこりしてしまって。それをもっと感じたくて、身体に回された腕を意味なく、ぎゅうっと握りしめる。 寒さのせいだけじゃない――逢えない時間が、堪らなく寂しくて。まるでふたりの間を冷たい風が、びゅーって吹き抜けているみたいだった。「今夜は冷えるせいかな。千秋の身体が、やけにあったかく感じるよ」「穂高さんの体も、すっごくあたたかいですよ。まるで背中に、毛布をかけられてるみたい」 じわじわっと感じる愛おしいあたたかさを噛みしめて、顔だけ振り向きながら言ってあげると、とても嬉しそうな表情を浮かべた。 身体を包んでいる腕を名残惜しげに離したので、穂高さんの手にそっと触れてみる。予想通り、冷たい:体温(ぬくもり)――「ねぇ、いつからここにいたんですか? 車が、見当たらなかったんだけど」「千秋を驚かせようと、コンビニの影に隠しておいた。今夜はお店が、臨時休業になってね」「そうなんだ。ビックリしましたよ」「ふっ、驚いてくれて何より。ホストの仕事も順調で、めでたくナンバーになれたよ」「もう、ナンバーになったんですか!?」 だってホストになって、まだ一ヶ月
last update最終更新日 : 2026-02-02
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番外編 トロけるようなキスをして(穂高目線)

街に色彩を与えていた紅葉が、冷たい秋風にその身を任せて、アスファルトの上をカラカラと乾いた音を立てて転がっていく様を、煙草を咥えたまま、ぼんやりと眺めていた。 千秋と出逢った時には、色付き始めていた頃だと記憶しているのだが、いかんせん曖昧だ。それだけ彼のことに、夢中になっていたから―― 店員と客以上の関係になるべく親しげに話しかけて、何とかキッカケを作り、騙した形で車に乗せたっけ。「今となっては、懐かしい思い出だ」 ぼそっとごちながら、燻らせていた煙草の火を消すべく、車の中にある灰皿に押し付けた。あと少しで、コンビニの仕事を終えた千秋が出てくる。 今夜、ホストの仕事がいきなり休みになったので彼を驚かせるべく、隠れて出待ちをしているのだが。外の寒さよりも、ワクワクした気持ちでいるため、寒さを全く感じずにいた。 寒がりな自分が、寒さが平気なんて可笑しな話だなと、笑いを噛み締めたとき、ドアを開ける金属音が耳に聞こえる。 コンビニの影から、顔だけそっと覗かせて様子を窺うと、両手を擦り合わせ肩を竦めた細身の身体が、そこにあった。「ひとりで見るよりもふたりで見た方が、もっとキレイなんだろうな……」 小さな声で呟きながら、夜空を見上げる千秋に、愛しさが募ってしまう。俺のことを想ってくれる千秋が、どんどん好きになってしまうじゃないか。 嬉しさを口元に湛えつつ、足音を立てないように、ゆっくりと近づく。両手に息を吹きかけて、温めながら歩き出す身体を、さらう様に後ろから、ぎゅっと抱きしめた。 その瞬間、千秋の髪の香りが鼻腔をくすぐる。俺の大好きな匂い――「お帰り千秋。今日もお疲れ様」「……穂高、さんっ!?」 それはそれは、驚いた声をあげ振り返ると、大きな瞳を更に大きくして、俺の顔をじっと見上げた。その視線からは嬉しさが滲んでいるのが分かり、微笑まずにはいられない。「今夜は冷えるせいかな。やけに千秋の身体が、あったかく感じるよ」 率直な感想を言うと、身体に回してる腕をぎゅっと掴み、照れた表情を浮かべ視線を外して、ふわりとはにかんだ。 俺と付き合ってから、いろんな顔を見せてくれる千秋に、ずっと目が離せない。「穂高さんの身体も、すっごくあたたかいですよ。まるで背中に、毛布をかけられているみたい」 嬉しいことを言ってくれるな。――君の身体の方が、俺より
last update最終更新日 : 2026-02-03
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番外編 ――発火点――

目覚ましが鳴る前に、珍しくふと目が覚めてしまった。何だろう、この妙な胸騒ぎは……。胸騒ぎというか、高鳴りというか。 ――何かの夢を見ていた。 ノルマとか人間関係とか、毎日擦り切れそうになりながら、くたくたに疲れ果てた自分の心が、何故だかほっとするような、そんな癒し系の夢だった気がする。「目が覚めた途端に消し飛んでしまうとは、すごく残念だな」 時間を確認しつつ起き上がり、両手を上げて伸びをしてから、傍らに置いてある煙草に、そっと手を伸ばした。「ん……?」 煙草と灰皿の間に、白い色した煙草の銘柄が書いてある、いかにも景品でつけましたという感じの安っぽいライターが、いつも使っているジッポの隣に並べて置いてあることに、首を傾げるしかない。 どうして、家に持ち帰ったんだっけ? こういう景品関係は大抵、車に乗せっぱなしにして、ジッポのオイルが切れた時の代用品にしたり、会社の引き出しに仕舞っておくハズなのにな。「そういえば、あのコンビニ店員――」 口に咥えた煙草に火を点けず、昨日の出来事を、ぼんやりと思い出した。 一昨日と昨日は仕事をしていて、最悪の日が連続で訪れてしまった感じだった。お客様の苦情を聞いてクレーム処理をし、そのせいで上司に怒られ残業をして。 お陰で、いつもより煙草の減りが早かったので職場近くのコンビニへ、家に帰る前に立ち寄ったんだ。「いらっしゃいませ!」 午後10時45分頃、元気な店員の声に出迎えられ、飲み物が置いてあるところにまっすぐ歩いて、某メーカーのお茶の500mlのペットボトルを手に取り、数少なくなっている弁当の棚から、大盛り牛丼を選んで、そのままカウンターに置く。「いらっしゃいませ、温めますか?」「ん……。ついでにコレ、1カートンもお願い」 ポケットから煙草を取り出し、店員にしっかりと見せた。すると箱に書いてある銘柄を、きちんと指差し確認し、「かしこまりました。少々お待ちください」 丁寧にお辞儀をしてから、牛丼をレンジに入れてスイッチを押す。待ってる間に棚から、煙草を1カートン取り出してカウンターに置いた、店員の手元をぼんやりと見つめた。「あのお客様、期間限定で1カートンお買い上げの方に、ライターを差し上げているんですが、どちらがいいですか? 本当はそのまま手渡ししなきゃならないんですが、他のお客様がいらっしゃ
last update最終更新日 : 2026-02-03
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番外編 ―純血の絆―

あ、金縛り――。 疲れが溜まっていたりストレスが溜まったりすると、寝ている間に足がつったり金縛りにあったので、いつものヤツだと思ってじっとしていた。 穂高さんに逢えない寂しさやバイト、その他もろもろのストレスのせいで金縛りにあったんだな。いつ解けるだろうか? 動かせる場所を探すべく、そっと目を開けてみた。「!!」 ベッドの脇に、誰かいるではないか!「あ……ぁ…っ」 ――声が出ない……。どうしよう、泥棒!? ウチには金目のものなんて、全然ないのに(涙) 寝る前にきちんと閉めたはずのカーテンが半分だけ開いていて、傍に立ってる人の姿を月明かりが照らし出してくれた。「雨が止んだんだな。見事な月が出てる」 窓の外を見るその横顔は、ここには絶対にいない人。俺の心を奪った――。「ほ、だかさ、ん?」 言い淀んでしまったのは、いつもの見慣れた姿じゃなかったから。 栗色の髪の毛は何故か金髪になっているし、闇色をしている目が赤く光り輝いていた。「バレてしまったね、俺の正体」 身につけているマントをひるがえし、こっちを向きながら、やるせなさそうな表情を浮かべる。「穂高さんの、正体?」「ん……。ベルリーニの一族の祖先は、ヴァンパイヤなんだよ。その血を継いでいるんだ」「ば、バンパイヤって、えっと、吸血鬼……?」 夢のような話で、目を瞬かせるしかない。だけど傍にいる穂高さんは、明らかにそれっぽい姿をしていて、それが現実だと暗に示していた。「月に一度か二度、血を吸わなければ生きていけなくてね。それもキレイな身体の持ち主の血じゃなきゃダメという、偏食吸血鬼なんだ」 言いながら跪き、寝たままでいる俺の顎を上向かせる。「千秋は俺以外、誰とも関係を持ったことのないキレイな身体をしてるから。君の血の味を思い出すだけで、涎が滴ってしまうくらい絶品でね」 付き合った当初から、何かにつけて俺を見て「美味しそう」と言っていたのは、こういう理由があったからなんだな。 自分なりに納得してる間に、穂高さんのくちびるの隙間から、すーっと牙が出てきた。作り物じゃないそれは鋭利なくらいに尖っていて、これにガブッとされたら痛いだろうなぁと思ってしまったのだけれど……。 俺の血を飲んで生きられるのなら痛いのをガマンすればいいやと考えて、疑問に思ったことを訊ねてみる。「ねぇ穂高
last update最終更新日 : 2026-02-04
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番外編 冷淡無情な心

穂高と出逢ったのは、俺が中学生の時。 母が死んでまだ3ヶ月しか経っていなかったのに、愛人である穂高の母を家に入れた父が、どうしても許せなかった。『今日から穂高は、お前の弟だよ。仲良くしなさい』 そう言われても納得なんて出来るわけがなく、話しかけられても無視してやったんだ。それでもアイツは俺と仲良くしようと、必死になって接触してきて、すっげぇウザかった。 *** 季節はずれの転校生だった穂高は、学校で目立っていた。染めてるワケじゃなく天然の栗色の髪の毛に、彫りの深い甘いマスクは、女子にモテモテだった。 突然沸いて出てきたイケメンな弟に、同じクラスの女子がこぞってやって来て、仲を取り持てだの煩くて、ますます頭にきたんだ。『あんなヤツの、どこがいいんだよ。父親がフランス人だかイタリア人だか、よく分からない人種の血が混じってるだけなのに』 俺の言葉に女子たちは色めき立ったけど、面白く思ってなかったのは、俺だけではなかった。 やがて穂高は、自分のクラスにいる不良グループに因縁つけられ絡まれた挙句に、いじめられるようになった。その内クラスの連中にも無視され、時には暴力を振るわれていたらしいが、アイツは泣き言ひとつ言わず、ひとりで学校に行っていた。 誰にも何も言わず、ひたすら何でもない日常を上手く装っていた理由は、母親に心配をかけたくない一身だったからだろう。今まで親子ふたりで生活していたせいか、異常なまでの気遣いぶりは、度を越えたマザコンにしか見えなかった。 そんな気色悪い血の繋がらない義弟に対して、イライラが頂点に達した時、言ってやったんだ。『お前のような混血の弟なんて、見てるだけで反吐が出るんだ。ここにいるなよ、ホントの父親のところに行けってんだ!』「……行きたいけど、行けないんだ。向こうは、別の家族を持ってるから」『ま、行ったところでお前すっげぇキモイから逢った瞬間、間違いなく拒否られるだろうな。母親もろとも』「っ……母さんの悪口を言うなぁっ!!」 怒りに満ちた目で俺を見下ろしたと思ったら、傍にあったペン立てからボールペンを手に取り、顔目掛けて振り下ろされてしまい――『うあぁあぁっ! 痛いっ、痛いよぉ……』 右目尻から頬にかけて、皮膚を引き裂かれるような強い痛みが走る。顔を押さえて痛みにのたうち回る俺を、冷たい視線で見下ろした穂高が
last update最終更新日 : 2026-02-05
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番外編 冷淡無情な心②

「今宵もそのお姿、麗しいですね」 バーのカウンターで1杯引っ掛けていたら、聞き慣れた声が背後からした。 顔だけで振り向くとそこにいたのは、警察にとっ捕まっているハズのやーさん。この歓楽街を牛耳る某団体に所属、そのお陰で変な揉め事はなかったんだけど。某団体に所属してる下っ端のコが、刑事を射殺してから組員が相次いで逮捕されていた。「昴さん、出て来れたんだ。おめでと」 手に持っていたグラスを掲げてやると隣に座り込み、いつものやつを注文する。「保釈金払って、無事に生還。今の警察じゃあ、俺らを拘束することが出来ないから。弱みを強みに上手いこと、利用しているからね」「おお~怖い。そして相変わらずのその目つきも、怖すぎるんだけど」 凄みのありすぎる三白眼、笑っていても違う意味で笑っているようにしか感じない。 やがてオーダーしたグラスが目の前に置かれ、カチンと乾杯した。「こんな目つきでも、好きだと言ってくれるヤツが塀の中にいるんだ。褒めてくれるな」「うっわー、惚気られちゃった。つか、ここに来たのって男漁り?」 レッドアイを口にしながら、思わず訊ねてしまった。塀の中にカレシがいるなら、外にいる昴さんは寂しさのあまり、身体が疼くだろうと考えた。「しばらく、ここを空けていたから。変化がないかなぁと、情報収集に勤しんでいる所」「仕事熱心だね、感心する」「そういう昇さんは、相変わらずだって聞いてるけど。これはもう、違う種類を試してみれば?」 仕事熱心で真面目な昴さんは、絞りたて100%のグレープフルーツジュースを美味しそうに飲んだ。「ご教授、あり難いんだけどね、それなりに試してはみたんだよ。だけど、まーったく感じないんだ。これが!」 もう年なのかもとクスクス笑ってみせたら、顎に手を当てて真剣に考え込む。「生涯現役を目指してる俺としては、その言葉、聞き捨てならないね。たいして年の違わない昇さんが、そんな怖いことを言うなんて」「俺だって、なりたくてなったんじゃないよ。年々、感度が下がっていった感じなんだ」 身体は覚えてる、気持ちよさを――なのに、いつからか全然感じなくなった。相手が燃えるほど心が離れていくように冷めていき、やがて快感が見る間に失われていったんだ。「なぁ、今までヤッた野郎の中で、一番感じたヤツって覚えてる?」 俺の顔を見ずに、グラスを手
last update最終更新日 : 2026-02-06
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番外編 冷淡無情な心③

次の日、穂高が来る時間に合わせて本店に顔を出した。 2階フロアにある事務所のソファで横になり、昨日指摘された恋バナについて考えてみる。 昴さんはどの辺りで俺が穂高に対し、好意を抱いていると思ったんだろうか。一番感じる相手だと言ったから? それはたまたま久しぶりの行為に燃えたのと、身体の相性が良かったからだと思うのに。「顔を突き合わせてもドキドキの一つもないし、むしろどうやって困らせてやろうかと、そっちの方でワクワクしてんだけどね」 口元に笑みを浮かべた時、扉を叩く音が部屋の中に響いた。「失礼します」 折り目正しく入ってきた穂高は、颯爽と目の前にあるソファに腰掛ける。3ヶ月前に逢った時と、明らかに雰囲気が違っていた。「懐かしいだろ、パラダイス。1年半ぶりだよね、来たのは?」「そうですね。さっき下で、信二くんに逢いました」「お前がいた頃のメンツ、半分いなくなったんだよ。信二に逢えて、ラッキーだったね」 和やかに話をしていく穂高を見やり、テーブルに置いてある煙草に手を伸ばしたら、愛用しているジッポで火を点けてくれる。 相変わらず、便利で気の利く義弟だこと――「ありがとさん……ふぅっ」 いつも吸ってる煙草なのに、美味く感じるのはどうしてなんだろ? そんな疑問を思った時に、扉が再びノックされた。「失礼しますっ!」 パラダイス売り上げナンバースリーの信二が、嬉しそうな表情を浮かべて、飲み物を運んでくる。「穂高さん、オーナーと話が終わったらお店の方に顔、出してくださいよ。お願いします!」 オーナーである俺をしっかり無視して、穂高に猫撫で声をあげた信二を、しっかりと睨みあげてやった。「相変わらず、甘え上手だねぇ信二。その調子で、営業も頑張ってほしいものだね」 ――だからいつまで経っても、ナンバーワンになれないんだよ。 その意味も込めて言ってやったのに、へらっと笑いながら頭を掻き、静かに出て行く。イラついた俺を見越して、小首を傾げた穂高。「可愛いコに、冷たく当たるのは変わらないんですね。そんなことをしていたら、いつまで経っても、仲良くなれないというのに」 的確なアドバイスに肩を竦めてやり、意味深な笑みを浮かべてみせた。「前回逢ったのは、3ヶ月前だったっけ。お前、な~んか変わった気がするよ。牙を抜かれた、獣って感じ」 にいっと笑い
last update最終更新日 : 2026-02-07
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番外編 冷淡無情な心④

 しばらく呆然としていたけど、このままじゃいけないと思い、知り合いのホステスに電話した。「もしも~し! おはよ~ございま~す。モーニングコールになっちゃった感じ?」『何言ってんの、昇ちゃん。もうおやつの時間じゃないのさ。しっかり起きてるわよ、さっさと用件言ってくんない?』 おおっ、怖い。寝起きの様な声色なんだけど――「そんな不機嫌になってたら高いボトル、入れてあげないから」『何なの、その脅し文句。一気にヤル気になるじゃない』「でしょ。良かった、話が早くて。あのさ、ウチの支店のシャングリラに、新人が入ったんだ。アイツのことだから今夜働くと思うんだけど、早速チェックしに行ってほしいなって」 機嫌を持ち直すことに成功し、ほくそ笑みを浮かべながら用件を告げると、軽いため息をつかれた。『新人くんのチェックか……つまらなかったら、苛めちゃうかも』「逆に苛められないようにね。ハーフのイケメン新人だからさ。好きに、何でもしてやって」『ちょっ、いい新人じゃないの! 萌えるわぁ(〃'▽'〃)』 予想通り、ハーフって言葉で、見事に食いついてきたね。「結果は、俺がお店に顔を出した時でヨロシクお願い」『一番高いボトル用意して、待っていますからね』「はいはい。じゃあね」 時々こうして互いの店のチェックをし、品質向上を目指している。プロ目線から見る接客の仕方だからこそ、厳しく見てくれるお陰で、こっちの気づかない点が、多々浮き彫りにされるのだ。「身内だと顔バレしてる時点で、警戒されるしねぇ」 とか言いつつ、ちゃっかりと逆営も兼ねていたりする。逆営とは、自分の店に来いという営業のこと。一般のお客が少ない時に、たまぁにお願いしたりするんだ。少しでも利益の足しになれば、とね。「不景気な世の中ですから。持ちつ持たれつなんだよなぁ」 スマホをテーブルの上に置き、煙草に火を点けた。    さて今晩、穂高がホステス相手に上手に接客をする様が、なんとなぁく目に浮かんでしまう。 そのホステスの前に個性的な従業員に辟易するかもなと、弟が困る姿を想像する方が、倍以上に楽しかったりした。
last update最終更新日 : 2026-02-08
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