ホーム / BL / 残り火 After Stage ―未来への灯火― / チャプター 131 - チャプター 140

残り火 After Stage ―未来への灯火― のすべてのチャプター: チャプター 131 - チャプター 140

148 チャプター

番外編 冷淡無情な心⑤

「んもぅ、昇ちゃんのイジワル! 大変だったんだからね」「だから最初に言ってたじゃないか。苛められないようにって」「弟さん、玄人じゃないの。全然新人じゃなかったわよ」 約束どおり一番高いボトルで待ち構えていたので、喜んで呑んでやる。「だけど、目の保養にはなったでしょ。自慢の義弟なんだ」「昇ちゃんのキレイな顔にキズをつけたっていうのに、自慢するなんて変」 寄り添うように体を寄せ、右手でキズのついた頬を優しく撫でてくれた。「俺に、刃向かってくるヤツがいないからね。可愛くてしょうがないんだよ」「血の繋がりが全然ないのに、不思議と兄弟揃って似てるトコあるのよねぇ。遠慮せずに、苛めてください。なぁんて言ってたけど、逆に苛められちゃった」 少しだけふくれ面をしながらも、美味しそうに酒を煽る。「あの店で、穂高はやっていけそう?」 肩を抱き寄せ、反対の手で慰めるように頭を撫でてあげると、嬉しそうな表情を浮かべ、そっと頬を寄せた。「すぐに、ナンバーの仲間入りするんじゃないかな。実力はかなりあるみたいだしね。さすがは、昇ちゃんの弟」 そうか、穂高の実力は健在だったのか。恋人が出来ても仕事は仕事と、割り切れることが出来るんだな。「ね、昇ちゃんは好きな人いないの? 穂高に聞いても、分らないって言われちゃったんだけど」「俺ってば、アイツに嫌われてるからね。仕事以外の話をしないし」「そんなことないよ、嫌ってないって。僕の自慢の兄さんなんだって、言ってたし」 穂高の言った一人称に引っ掛かりを覚えつつ、こっそりと苦笑を浮かべた。装うことに長けている穂高の誤魔化しなのか、はたまた気を遣った華ちゃんがついてくれた、優しいウソなのか――「ありがとね、華ちゃん。分ってるから、アイツに嫌われてるの。子どもの時、仲良くしようって言ってきた穂高の手を、振り払ったのは俺なんだし」 あの時、少しでも仲良くしていたら、今のような距離感が生まれなかっただろうな。「暗い顔してる昇ちゃん、らしくないよ。さぁさぁ呑んで。せっかくの、美味しいお酒なんだから」 まだグラスの中に半分以上は残っているというのに、なみなみに継ぎ足されてしまった。「雑な慰め方は好きじゃないけど、たまにはいいかもね」「またまた、ウソ言っちゃって。目が嬉しそうに笑ってるのに」 お互いグラスを持ち上げ、再び乾杯
last update最終更新日 : 2026-02-09
続きを読む

冷淡無情な心⑥

3日間毎日午後3時から2時間、大学の前で張り込みをし、紺野 千秋を待っていた。真っ白のベンツを堂々と門前に横付けし、手に持ってる写真を見ながら、出てくる学生の顔をチェックしていく作業。目立つベンツに学生が必ずこっちを見るのを逆手に取り、顔が見られるのがいい。 ハッキリと、見られるのだけれど――「……逢いたい人物に逢えないんじゃ、意味がないんだっちゅ~の。まったく!」 運転席で足を組み替えた時、ダッシュボードに置いてあったスマホが、軽やかなメロディで俺を呼んだ。画面を見ると噂をすればというか、穂高だった。 出ずにそのまま、元の位置に戻してやる。「どうせ、くだらない報告だろ。俺は忙しくて、そんな暇ないないっ」 売り上げは穂高が店に入ってから、確実に上がっていた。しかも短期間で、ちゃっかりとナンバーワンになっているとか。「出来た義弟が溺愛する恋人に、兄として挨拶しなきゃね」 長い髪をかき上げ笑みを浮かべたら、写真にソックリな男が、門から颯爽と出てくるではないか! 一瞬だけベンツを見てから、向きを変えて足早に去っていく。写真を助手席に放り出し、慌てて車から降りると彼の後を追った。 サラサラの黒髪をなびかせて、短めのブルゾンにジーンズという出で立ちは、どこにでもいる普通の学生。彼のどこに、穂高は惚れこんだというのだろうか?「紺野 千秋さん」 思いきって、大きな声をかけてみた。自分の名前を後ろから告げられ、驚いたのだろう。肩をビクッとさせてから、恐るおそるといった感じで振り返る。 俺の姿を見て2、3歩後退りする姿に、苦笑いを浮かべるしかない――ま、こんなに長い髪をした男が、そこら辺にはいないからね。「君、紺野 千秋さんでしょ?」「はい……どちら様ですか?」「俺は藤田 昇。穂高の兄です」 兄? と口にして、ぎゅっと眉根を寄せた。やっぱり、何も教えてはいないんだな。「苗字が違うのは、穂高の母親がアイツを連れて、俺の親父と再婚したからなんだ」「そう、ですか……」 肩にかけているショルダーバックに縋るように手をかけて、どこか窺うようにじっと見つめてくる。「血は繋がっていなくても、一応兄弟関係なんだけどね。話、聞いてない?」 俺の言葉に、まぶたを伏せた。長い睫が影を作り、落ち込んでいるのが明らかだ。「……藤田さん、俺に何の用ですか?」
last update最終更新日 : 2026-02-10
続きを読む

冷淡無情な心⑦

***「お疲れ様でーす、いつもお世話様。ええ、この間の未確認情報の事ですね。あり難いお話、嬉しいですよ昴さん」 数日後、昴さんからもたらされた情報を聞きながら、長い髪を人差し指にくるくると巻きつける。『あり難いお話じゃないぞ、昇さん。痛客の話になるんだから』 痛客とは無理矢理ホストに酒を飲ませたり、店内で暴れたり破壊行為を働くなど店や従業員に迷惑を掛ける客、いわゆる「痛い客」のことなんだ。「やれやれ、それは厄介だね。他の店では、出禁になってる客なのかな?」『ご名答! 故に今回運悪く、昇さんのお店に現れたというワケだな。店側が出禁にするしか手がない理由、分かるか?』 クスクス笑いながら問題を出してきたのだが、相手が昴さんだからこそ、答えが簡単に分かってしまう。「面白くない問題、出さないで頂戴。分かりすぎるでしょ。答えは、相手がヤクザ絡みだから」 人差し指に巻いていた髪の毛を引っこ抜いて頭を振り、肩から除けると、机に頬付けをついて、昴さんの答えを待った。『正解、さっすが昇さん』「褒めても何も出ないよ。ビジネスの話をしに、電話してきたクセに」『そこまで読みきっているとは、御見それいたしました。で、どうする? 手を回そうか?』 手を回そうかと言われても、今のところ実害がない状態なんだ。動いてくれるだけ、昴さんに負担がかかってしまう。「俺にはまだ、これといった報告が上がってないんだよ。それを聞いて、実際に確認してからでいいかな?」『OK! 何でも最近ナンバーワンになったホストに、大層首ったけになって暴走してるらしい、組長の娘さんがいるらしいぞ。もしかして、昇さんの弟さんだったりして?』「……分からないね、まだ。一応訊ねてはみたけど、何も連絡がきてないし」 きっとまだ答えを出せずに、悶々と仕事をしているだろう。だけど細かい変化くらい、気がつくはずだ。そこまでバカなヤツじゃない。「俺からGOサインの連絡するから、それまで待機してくれると助かる。報酬は、前情報とプラスして弾んでおくよ」『やりぃ! だから昇さん大好きだ』 昴さんの喜ぶ声に、苦笑いを浮かべてしまった。「おいおい、そんな大胆な告白、檻の中にいる恋人が聞いたら、泣いて悲しむんじゃないの?」『大丈夫、愛してると言ってないから』「惚気るのもいい加減にして。切るからね、じゃあね!」
last update最終更新日 : 2026-02-11
続きを読む

冷淡無情な心⑧

それから暫くして長かった髪を切り、顔のキズを整形手術でキレイにした。逢う人逢う人それぞれが俺を見るたびに、驚愕の表情を浮かべるので見ているのは面白かった。 今、目の前で驚いている紺野 千秋を含めて――『す、すみませんっ、あの……誰か分からなかったものですから』 明るくなったという人もいれば、若く見えると言った人もいたっけ。誰か分からなかったというのは、初めてだけど。 そんな彼の言葉に笑いながら、肩をすくめて訊ねてみた。「こんな時間帯で悪いんだけど、君と話がしたいと思ってね。コンビニの仕事は何時上がり?」 穂高のことで彼をキズつけた俺なのに、それでもイヤな顔ひとつせず、対応してくれるのは、とてもあり難い。 その後、仕事が終わった彼を車に乗せて、見晴らしのいい場所に連れて行く。車中で話しかけようかとも思ったけど、助手席の窓に映る曇りがちな顔のせいで、おいそれと口を開くことが出来なかった。 こういう時は回りくどい言葉よりも、ズバッと核心を突いた方がいいかもしれないな。「……穂高と、別れたんだってね」 見晴台で車を止めシートベルトを外して、楽な姿勢をとる。そんな俺を見ながら、静かに頷いた。 どんな別れ方をしたのか知らないけど、穂高といい紺野 千秋といい、未練たっぷりじゃないか。好きあってるのに、どうして――「恋人だった君が、何も知らないまま別れるか。それとも知った上で、納得して別れるか。あるいは追いかけるっていう、選択肢があると思うんだ」 さぁ、選んでくれ。君は真実を、知りたいと思うだろうか?『それは……俺が知ってしまったら、穂高さんは悲しみませんか?』 こんな時にまで相手のことを考えるなんて、何て優しいんだろう。俺なら相手の気持ちを考えず、いち早く真実を知りたがっているはずだ。 俺は人が思うよりも、貪欲に出来ているからな。すべてにおいて――「もし俺が君なら、迷うことなく相手の全部を知りたいって思うけどね。好きだからこそ、尚更――」 その言葉に触発されたのか、知りたいと言ってくれた彼に、穂高のことを教えてあげた。様子を窺いながら途切れ途切れに伝えていく言葉を、口を引き結び、黙って聞いていく姿に言い知れない不安を覚える。 真実を知ったからこそ、離れるかもしれないと直感を感じた。だから――「ああ。何だかさ、このまま何もしないでいると、
last update最終更新日 : 2026-02-12
続きを読む

それが恋だと気づくまで――

***「あーあ、何やってんだか。穂高が見たら、間違いなく怒りまくるだろうな」 千秋から夏休みが終わる前に島から戻って来るスケジュールを聞いていたので、彼が住んでいるアパート前で待っていた。 ベンツを路駐し、スマホをいじりながらぼんやりしていたんだけど、すぐ傍にある電柱にもたれかかった若い男に、自然と目が留まった。 短髪だからこそ整った顔立ちが露わになっていて、なかなかの色男だなぁと見惚れてしまったのだけれど、やっぱり穂高には及ばないなぁと勝手に比べてしまったのだった。 暇だったので、じっと色男の様子を窺ってみる。 そわそわして誰かを待っているのが、表情だけで分かった。もしかしてだけどもしかするなと考えて、パワーウィンドウの昇降スイッチを押した時に、タイミングよく声が聞こえてきた。「おーい、竜馬くん」「アキさん、お帰りなさいっ!」「わぁっ!?」 色男は急いで駆け出し、千秋の体をぎゅっと抱きしめる。そんな行動に戸惑いつつも無防備に微笑む姿に、自然とイライラした。 穂高という恋人がいるのに、どうして抱きしめ合うことが出来るのやら。しかも色男は間違いなく、千秋に好意を抱いている様子なのに。(流れる水は澄んだままでいられるけれど、動けずそのままでいたら腐っていくだけなんだ。俺のように、さ――) それを教えてあげないと、きっと大変なことになる。 過去の自分を振り返りながら、ひとつに重なり合う影を見つめ続けた。
last update最終更新日 : 2026-02-13
続きを読む

それが恋だと気づくまで――②

*** 親父の再婚で穂高が家に来てから、ずーっとイライラしっぱなしだった。 反抗期を絵に書いたような自分とは違い、従順に言うことを聞く穂高を、親父はとても可愛がっていた。そこに穂高の母親が加わり家族ゴッコが形成されている様を見るのが、本当に嫌で堪らなかった。 何もかもすべてが嫌になった時、穂高が俺の頬にキズをつけたんだ。 兄である俺に懐こうと必死になっていたヤツが歯向かってくるなんて、思いもしなかった。そのせいで心も身体もキズつき、家族の中で唯一異質な空気をまとう自分を消したい一身で、悪いグループと付き合っていた学生時代。 特に高校生の時が、一番酷かったと記憶している。 高校に入学してすぐに、先輩に呼び出されてしまった。 派手な行動ばかりして無駄に目立つという理由だけで、ボコボコにされたんだけど集団の中のリーダーに目をつけ、ソイツがひとりになったところを色仕掛けで抑え込み復讐してやったんだ。 男に感じさせられ喘いでいる姿をスマホで撮影して、脅しのネタとして使ったお陰で、上級生を牛耳ることに成功。穂高が入学してくるまでは、それはそれは快適な学園ライフを送れたのに――。「藤田先輩、ちょっといいですか?」 2年に進級したある日、見慣れない1年に声をかけられた。顔を覗き込みながら目線を合わせてくるソイツに、愛想笑いを浮かべてやったら途端に頬を染め上げる。まったく単純なヤツだな―― 自分にとって害のある存在だと分かったら、迷うことなく叩き潰してあげるけどね。「何か用?」「はい。藤田先輩の弟さんって、井上穂高ってヤツですよね?」「……そうだけど。穂高が何かやった?」 中学の時は自身の目立つ容姿のせいで随分と苛められ、同級生からボロボロにされていたはず。高校に入学してからは、どうなっているのやら――「いえ……やったというか、その。俺と同じクラスなんですけどね、ちょっと際立っているっていうか」「しょうがないんじゃない。女子が勝手に騒ぎまくるような容姿なんだからさ」 腕を組み、苛立ち紛れに舌打ちをしてやる。「容姿で言ったら、藤田先輩も負けてないっすよ。すごくキレイ」 言いながら馴れ馴れしく髪に触れてきたので、遠慮なくその手を叩き落としてやった。「何だよ、お前。誘えば俺がほいほい誰とでも寝ると思って、声をかけてきたのか?」「まさか! キレイ
last update最終更新日 : 2026-02-14
続きを読む

それが恋だと気づくまで――③

*** 1年に穂高のことを聞く前に、はじまってしまった行為――。 音楽室の防音設備をいいことに、ふたりに向かってでかい声で文句を言いまくってやった。「ちょっと待ってよ、まだ話の途中なのにさ」「そんなの後にしろって。ほら1年、さっさと藤田のネクタイ解けよ」「先輩、暴れないで下さい。俺も頑張って、感じさせてあげますから」(――テメェは頑張らなくてもいい。とっとと穂高の情報を寄越せ!) 苦情を告げる前に大谷先輩に唇を塞がれた。「んぅ…ぁ、はあ…あぁっ」 1年は俺の背後から両手を使って身体を念入りにまさぐりながら、首筋に舌を這わせてきた。「や……っめ、…っ!」 ふたり同時になんて、身体が持たないって――。「藤田先輩の肌って、すっげぇきめが細かいっすね。色も白いしキレイだ」 耳元であやしく囁き、耳朶を唇で食みながら音を立てて吸い上げる。「っ…ひっ…ぅ……あ、っ」「そこら辺にいる、女子を抱くよりも気持ちイイんだぜ。それに……おい、両腕を押さえ込め」 大谷先輩の指示に従い、俺が暴れる前に拘束されてしまう。 上半身を半裸にされた時点で何かをされるのが明らかすぎる展開に、ふたりを鋭く睨みつけてやった。「痛いだろ、放せって!!」「藤田のこういう強気なトコ、俺は大好きだよ。その鼻っ柱をへし折るべく、気持ちイイことをたくさんしてあげるからな」 薄ら笑いを浮かべて俺のベルトに手をかけて外し、下着と一緒にスラックスを手早く下ろされる。「何だかんだ言っても、俺らの愛撫にしっかり感じてんじゃん」「え~っ、俺ので感じたんですって。ゾクゾクしたでしょ?」 あー最悪。こんなヤツラに感じさせられて、勃ちゃってる俺が一番最悪か……。「甘いな1年。藤田が感じまくったら、ココがな――」 言いながら顔の右半分を覆ってる前髪に手をやり、無理矢理に頬のキズを露わにされた。(――見られたくないキズを、勝手に晒すんじゃねぇよ) 抵抗すべく首を横に振ったけど、大谷先輩の両手で呆気なく押さえられ、背後にいる1年に見えるように、キズ痕を晒されてしまった。「キズの盛り上ってる部分、ココな。感じてくるたびに、どんどんピンク色になるんだぜ。激しく動かしたら髪の隙間からそれが見えるんだけど、そりゃあもう、エロいの何のって」「いいっすね。見てみたいな」 穂高につけられたキズが
last update最終更新日 : 2026-02-15
続きを読む

それが恋だと気づくまで――④

***(身体が重だるぅ……) うつ伏せのまま冷たい床に横たわりながら、グッタリしていた。 行為から時間が経ってきたせいで、火照っていた身体がどんどん冷えてくる。傍に落ちていた自分のブレザーに手を伸ばして羽織りながら、目の前にいるふたりに視線を飛ばした。「んもぅ、先輩ばっかズルいですって。藤田先輩と2回も立て続けにヤるなんて」「これは、いつものお約束なんだよ。それに俺がヤってる最中、お前のを藤田が尺って気持ち良くしてもらっていただろ」「だけどイケてないんですよ。辛すぎます!」 3Pを楽しむみたいなことを言ったくせに、実際は先輩が挿入してから数分で、1年の身体を俺から引き離した。 口の中で感じている張り詰めたモノが、もう少しで爆発するんじゃないだろうかと思っていた矢先だったから、1年が喚き散らす気持ちも分からなくはない。 故に裸のままで、待っているのだけれど――。「1年の分際で先輩にシてもらえるだけ、あり難いと思えよ。しかもこのキレイな藤田に口で奉仕させてもらったのに、直ぐにイカないお前が悪い」 やれやれ……。1年の腰の動きを見てイキそうなのを察知し、そのタイミングで止めさせたのにさ。ひで~ことを言いまくって。「大谷先輩ってば、俺が他の男のモノを美味しそうに咥えながら喘いでるのが、イヤだっただけでしょ?」 瞳に涙を浮かべるという、絶妙な演技つきだったけどね。「やっ、それは……ちげぇよ」 頬を赤く染め、ぶんぶん首を横に振る姿に1年が眉根を寄せた。適当に言った言葉が図星とか、こりゃ笑うしかない。「どうなんですか、先輩っ?」「1年、許してやんなよ。お前だって美味しい思いをしてるんだし。条件付きで今度は、最後まで付き合ってヤるから」 大谷先輩に掴みかかろうとした1年の手を止めるべく、穏やかぁな声で話しかけてやった。「条件?」「穂高の情報をちょうだい、詳しくね。それと大谷先輩」「……何だよ?」「3Pなんてワガママ、金輪際言わないでよ。結局面倒くさいことになるんだから」 よいしょっとかけ声をかけて身体を起こし、散らばっている服を手繰り寄せ、さっさと着替える。こんな雰囲気じゃ、行為再開にはならないだろう。「また、久松の家に行くのか?」「久松って、もしかして生活指導の久松!?」 愕然としている1年を尻目に着替えを終えた。真逆な雰囲気
last update最終更新日 : 2026-02-16
続きを読む

それが恋だと気づくまで――⑤

*** うんざりするような夕食を終え、さっさと風呂に入り自室に篭っていたら、扉をノックする音が響いた。義理の母親が俺の部屋に来ることはなかったので、相手は親父か穂高だろう。「誰?」「義兄さん、俺……」 その声に渋々扉を開けてやると、俺よりも一回り以上大きな体を縮込ませながら、いきなり頭を下げてくる。「……何の真似だよ、これは」「無理矢理連れ帰ったのに、嫌な顔一つしないで夕飯食べてくれてありがとう、義兄さん」 親父がいる手前上、変な態度をするワケにもいかないし、自分のために作られたご馳走に罪はない。ポーズだったがニコニコしながら、それらを口にし、義理の母親にはお礼を言ってやった。「お前に、そんなことを言われる筋合いはないよ」 チッと舌打ちしながら言ってやったのに、それでも嬉しそうな表情を崩さない。「そうかもしれないけど、母さんがすごく喜んでいたから。これをきっかけに、家に帰ってきてはくれないだろうか?」「……嫌だね。ここに俺の居場所はないんだから」「それって俺たち親子が、ここにいるから?」「違うよ。元々親父と一緒にいるのがイヤなんだ。お前たちは関係ない」 実の母親が死んでから、親父との溝が深まったのは事実だ。そのきっかけを作ったのは穂高の母親なれど、それを指摘したところで溝が埋まるはずがない。 しかも放っておいてほしいのに、コイツがわざわざ首を突っ込んでくるから、ムダにイライラしてしまう――。「ねぇ義兄さん、田中と一緒にいたけど、どうして?」「それもお前には関係ないことだ、しつこいね。まったく……」「だって田中はクラスの中でも、素行があまり良くないヤツだ。それに俺に掴みかかってきた3年の先輩。あの人も、おんなじだよね?」 形のいい眉根を寄せて、心配そうに俺を見下ろす穂高。 コイツにその2人と卑猥なことをいたしてましたと言ったら、どんな顔をするだろうか。ただ分かるのは、そういうことを止めてくれと言うのが容易に予想出来てしまう。「俺が誰と付き合ったって、お前には関係ないことでしょ。一緒にいて楽しければ、それでいいんだって」「だけどっ! そうかもしれないけど、でも……そいつらと付き合うことで、義兄さんの品位が落ちてしまうんだよ。そんなの俺は嫌だ」(品位ときましたか、驚き――)「お前に俺の品位を、どうこう言われる筋合いはないよ
last update最終更新日 : 2026-02-17
続きを読む

着火

……これ、手を出さずに、いつまで見守っていなきゃならないんだろうか――「あ、あの穂高さんっ、時間が限られてることですし」 汗を滴らせながら手元のものを上下に一生懸命に扱いていく姿を窺いながら、どうにも我慢出来なくて声をかけた。 今日の夕方漁に出るというのに今ここで力を使い果たしそうで、見ているだけで切ないよ。「君はっ、何もっ、しなくていいっ、から!」 ――俺は何もせずな状態は、ホントに辛いのにさ。 おいおい、笑顔が引きつってきてるってば! 相当疲れてきてる証拠だって……。「だったら穂高さんのしていることについては、一切手を出さないから。その代わり俺は俺で、勝手に動いていい?」「千秋の自由を、嫌だと言うワケがないだろう。さっきみたいに俺の上で――」「分かったからっ! それ以上言わないでって。思い出すだけで、顔から火が出ちゃうから」 昼夜逆転している穂高さんは、本来ならば昼間に寝なきゃならないのにも関わらず、俺がいるものだからここぞとばかりにスキンシップに励んできた。 疲れているのが分かっているからこそ俺から動いてあげたら、そりゃもう大喜びしちゃって大変だった。その弊害が現在行われている、庭でのバーベキューだったりする。 意味深に笑う穂高さんを無視して、庭をキョロキョロしてそれを探した。 庭の中央に置かれていた七輪を見つけて跪き、それの下部に設けられた風口を全開にした。すかさず縁側から家の中に入り、古新聞を何枚か引っつかんで戻る。「千秋、さっきから一体、何をしようとしているんだい?」 必死に火を熾そうと棒を動かしている手を止め、俺の手にしてる新聞を不思議そうな顔して眺めた穂高さん。 昔ながらの手法で火を熾したらきっと美味しく食べられるだろうからと、頑張っていたのだけれど、それは体力を使うから美味しく食べれるんだろうなぁって思わずにはいられなかった。「簡単に、炭に火を点けようと思って」「そんな……俺の努力が無駄に」「無駄にはなりませんっ! 穂高さんの頑張りを、間近でちゃんと見てましたから」 言いながら畳んであった新聞紙を広げて、A4サイズくらいの大きさに千切ってからぎゅっと捻って、七輪の中に井桁状に組んでいく。捻った新聞紙を10本ほど中に入れたら、その上に小さめの炭を新聞紙の周りをとり囲うように、丁寧に置いていった。「扇ぐなら
last update最終更新日 : 2026-02-18
続きを読む
前へ
1
...
101112131415
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status