Todos os capítulos de 残り火 After Stage ―未来への灯火―: Capítulo 211 - Capítulo 220

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蒼い炎13

生暖かい風が吹く中、コンビニの外で350mlの缶ビールを開けた。ちょうど3本目を飲み終える頃にアキさんが外に出てきて、俺の姿を見た瞬間にぎょっとした表情を浮かべる。 ただ待っていただけじゃなく、飲んでいるという事実に面食らったであろう。「お疲れ様ぁ、アキさん。待ってるのが寒くって、こんなところで宴会しちゃった」 大きな声で話しかけたのにそれを無視して、脱兎のごとく駆け出した彼を追いかけるべく、転がしていた空き缶を手早く拾い集め、外にあるゴミ箱に捨てて、その背中を追いかけた。「うわー、飲んでるから追いかけるの、結構つら~……」 追いかけるアキさんの背中が、右に左によく揺れる。って俺が揺れてるから、そうなるのか。ちょっと飲みすぎちゃったな―― 若干の気持ち悪さを抱えながら、走ること数分。そうこうしている内に、もうすぐアパートに到着してしまう場所に差し掛かった。(――仕掛けるなら、今だろう……) 目をぎゅっと瞑り、思いきって転んでやった。ズシャッ! なぁんていう、大きな音までオマケでつくとかラッキー。「いったぁ……」 あまり痛くはなかったけど、転んだことを大げさにすべく大きな声で言い放つ。否が応でも、アキさんの耳に届いただろうな。 顔を歪ませて必死に笑いを堪えていると、アキさんが渋々といった感じでやって来て、俺に向かって手を差し出してきた。「大丈夫?」 まんまと騙されてくれたことに思わず笑い出しそうになり、慌てて顔を背ける。口元を押さえて、何とか微笑を隠した。「……あまりにも惨めな姿に、仕方なく手を貸してくれる気になったの?」 笑いを堪えているので、必然的に声色が震える。それが迫真の演技になって、彼に伝わったかもな。泣いていると思ったかもしれない。「そんなこと……ないよ。だって友達だし。俺たち……」 アキさんはどんな顔して、それを言ったんだろう。優しいくせに残酷な人だ――だけど俺は愛おしくて堪らない。「っ……なんで……なんで友達以上になれないんだよっ!!」 もしも願いが叶うなら井上さんよりも先に、アキさんに出逢いたかった。先に出逢っていたら、もしかしたら俺に恋していたかもしれないよな。「竜馬くん、お酒あんまり強くないのに、飲み過ぎたみたいだね」「何度となく告白してもスルーしたアキさんから、そんな風に優しい言葉をかけられるなんて
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蒼い炎14

つま先を使って抜き足差し足で忍び寄り、台所に立ってる細身の身体にぎゅっと抱きついてあげた。「なっ!?」「待っていられなくて、勝手に上がらせてもらっちゃった。お水、ありがとアキさん」 肩に顎を乗せてお礼を言うと、くちびるが見る間にぶるぶると震えだす。今直ぐにでも塞いで、その震えを止めてあげたいな。「はっ、放して、よ……。お願ぃ、だから」「そんな風に震えながら掠れた声をあげてくれるなんて、まるで感じてるみたいに聞こえるね」「ちがっ……。そんなんじゃ、な――っ!?」 ふふっと笑いながら、傍にあるふっくらした耳たぶを口に含んだ。柔らかくてしっとりしているそれに、どうにかなってしまいそうだ。 荒い呼吸を繰り返す身体を手早く反転させて向かい合う形にしたら、悲しげな色を宿した瞳が俺の顔を捉える。見つめられるだけで、体温が一気に上がってしまうよ。「もう誰にも邪魔されない。俺だけのモノにしてあげるアキさん」「それは……きっと無駄だよ。そんなことをしても、俺の心は手に入らない。むしろ君を、どんどん嫌いになるだけなのに」 静まり返る家の中にアキさんの声が響いた。自分のすぐ傍で告げられた言葉だったけど、ほぼ泣き声に近くて所々聞き取りにくかった。だからこそ、しっかりと耳を傾けたんだ。心と一緒に――。「嫌いなんていう、生ぬるい感情は嫌だな。むしろ憎んでくれて構わないよ」「えっ!?」「だってその方がアキさんの心の中に、深く深く残るでしょう? 真っ黒い影になって、井上さんという光を覆い隠す存在になるんだ」 漆黒の影になって心の中で光り輝いているであろう井上さんを飲み込み、忘れられない存在になってやる。「……可哀想な、ひと……」 切なげな表情をしながら、じぃっと俺を見つめたアキさんに、一瞬だけ息を飲んでしまった。(何で……なんだ――どうして!?)「こんなときまで、変な優しさをかけないでよ。自分が今、どんな状況なのか分かっているよね?」 動揺を悟られないように彼の腕を掴み、力任せに引っ張ってその場に押し倒してやる。どこか打ったのか、痛そうな顔を見て躊躇ってしまった。 ゴメンって、声をかけようかと思ったけれど――さっきのアキさんのように変な優しさをかけると隙を与えてしまう恐れがあると考えて、すかさずその身体に跨った。「その泣き顔を悦びに変えてあげる。いっぱ
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蒼い炎15

「へぇ、答えてくれないという事は、そうなんだろうね。いっその事、えぐっちゃおうか?」「くっ!?」「それとも俺が噛み取ってやろうか? どっちがいい?」 アキさんの顎を掴んで正面に向けさせると、ふわりとした笑みを浮かべた。その嬉しそうな表情に、胸の奥がきゅっとしなる。「竜馬くんの好きにしていいよ。俺は構わないから」「何、強がり言って――」「竜馬くんが何らかの手を使ってそこに傷を作っても、大きくなればなる程、穂高さんの付けた痕が大きくなるんだから」 その言葉に、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。もしかして今から俺がやろうとしていることは、同じことなんじゃないだろうかと思わされてしまった。 アキさんを抱いてしまったら、アキさんの中にある井上さんが今まで以上に光り輝いて、大きくなるのかもしれない――その証拠にこんな状況だというのに、さっきから落ち着き払っている様子も、何だかおかしい。「何で、そんなっ平然と――」(乱してやる……。そして穢してやろう。心の中の井上さんが大きくなる前に、俺に溺れさせちゃえばいい!!) 両手で顔を押さえ込み、何かを言いかけた口を強引に塞いでやった。無抵抗でいるアキさんの舌を、ぐちゅぐちゅを吸い上げてみる。「ぅうっ!? やぁっ…あっ」 嫌がったのか感じたのかは分からなかったけど、反応してくれたことにほっと胸を撫で下ろした。もっと感じさせようと、両手を使って身体のあちこちに触れてやった。「んっ、ぅ、っ……」「吸いつきたくなるような、白い肌をしているね」 首筋をなぞるように舌を這わせて、アキさんをじっくりと堪能してみる。縛り上げられていても、もっと抵抗するだろうなって俺の中では思っていたのに、まるで進んで身体を提供してくれる姿に、どんどん責めたくなってしまった。 キレイな色をした乳首にねっとりと舌を這わせてやると、ピクピクッと身体を震わせた。「へえ、男でも感じると乳首って勃つんだ。アキさん、気持ちいい?」 感じさせるべく執拗に舌先で転がしつつ、反対の手で残っている部分を摘んで可愛がってあげる。「はぁはぁ……っ、あ、ンっ」「恥ずかしがることはないよ、こんなになってるんだし。もっと声を出して」 そう告げた途端にぎゅっと目をつぶり、顔を背けて唇を噛み締めた。「それって井上さんに、操を立ててる感じなのかな。彼以外
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蒼い炎16

突然かけられた声にも驚いたけど、愕然とした井上さんの視線にどうにも堪えられなくなり、アキさんの身体の上から飛び退いた。「ち、あき……千秋、ちあきっ」 そんな俺を無視して居間の入り口から動かずに、頭を抱えて体を震わせながら必死に声をかけ続ける姿に、次第に自分がしてしまった行為が飛んでもないことだと知り、自然と歯がガチガチと音を立てて鳴り始めてしまった。「千秋? 千秋……返事をしてくれ、ちあきぃっ!」 大きな声をあげながら家の中に足を一歩踏みしめたのを見て、思わずアキさんの肩に縋りつき、ぎゅっと抱きしめる。「アキさんは……アキさんは俺のモノだっ。絶対に渡さない!」 アキさんを離さない、離したくはない――たとえそれが恋人の井上さんであっても!「可哀想なヤツだな、君は。一番大切な人の変化にも気づけないなんて」「えっ!?」 何のことだろう――?「千秋の顔をよく見てごらん。俺たちの知ってる、千秋の顔じゃない」 低い声で告げられた言葉に、ゆっくりとアキさんの顔を見つめた。「!!」(な、んだよ……誰なんだ、この顔は――目の雰囲気が違うだけで、まるで別人に見えてしまう)「君のしたことで、千秋の心に傷が付いたんだろう。それだけじゃない、君の想いが彼の全部を焼き尽くしてしまったんだ」「俺の想いが、アキさんの全部を壊し、た……?」「ああ。千秋からいろいろ聞いてる。君が言ってた蒼い炎のことだ。普通の炎よりも温度が高いからそういう表現を使ったと思うのだが、俺からすると狂う方の狂気にしか見えないね。その高い温度で、何でも溶かせてしまうんだ。自分の中にある冷静な判断力を溶かして失わせ、終いには愛する千秋まで壊してしまったのだから。君の想いは、狂気であり凶器だと思う」 そんな……そんなのって、じゃあ俺のしたことは、アキさんを破壊する行為だっていうのか!?「きょうき……俺の想いが……大事なアキさんを、壊して、こわし、そんな、の……違ぅっ!」 アキさんの肩を掴んでいた両手が、力をなくして震えていった。というか、この身体に触れていちゃいけない気がして、頭を振りながら慌てて飛び退き、距離をとるしかない。目の前にある現実と井上さんに告げられた言葉が、ずしんと重く心に圧し掛かった。「こ、んなの、望んでない……無視して欲しくなくて。知って、欲しかっただけ……なのに。俺の
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蒼い炎17

*** 全てを捨てて、隣町にある実家に戻った俺。準社員として運送会社に勤めて、半年が経とうとしていた。 ちょうどお中元シーズンでたくさんの荷物に囲まれつつ、配送の仕事に勤しんでいる。忙しさの中に身をおいていると、余計なことを考えなくて済むからとても助かるんだ――。 そう、あのときの出来事を……大好きな人を傷つけてしまった事実は、今でも思い出すとつらくて切ない。 大学を去る前に、ゆっきーにメールでさよならを告げた。大学でもコンビにでもお世話になりっぱなしだったから、どうしても挨拶しなきゃと思ったから。『ゆっきーへ 突然だけど大学を辞める。コンビニのバイトも。 俺、アキさんをキズつけてしまったんだ。その罪滅ぼしにはならないだろうけど、ここから出る決心をしました。 ゆっきーにはバイトの相談や勉強の事で色々お世話になっていたのに、投げ出す形になってしまってゴメン。元気でね』 そんな簡潔すぎるメールを送信したら、いきなりスマホに着信があってディスプレイで確認したら、ゆっきーからだった。「もしもし……」 喋りにくいなぁと思いながら、恐るおそる電話に出る。「ううっ、竜馬ぁ~。ゴメンね、ゴメン……」 それは今まで聞いたことのない友人の大泣きしている声で、あまりの様子に焦るしかなく――。「ゆっきー、ちょっと待って。いきなり謝られることなんか、俺はしてないし」「ううん、そんなことないって。竜馬からのメールを読んで考えさせられたんだ。ひっく……だってさ、俺は千秋の話しか聞いてなくて、同じ友達のお前の話を……うぅっ。全然聞いてあげていないじゃないか。それって酷いヤツだって、批難してもいいくらいだと思うんだよ」 ヤバい、もらい泣きしそうだ――アキさんと同じく、ゆっきーもすっごく優しすぎるよ。「竜馬、何も出来なくて本当にゴメンね。こんな俺だけどさ、ここからいなくなっても、友達でいてほしいんだけど」「俺こそ……アキさんを傷つけちゃった俺だけど、友達でいてくれるの?」「もっ、うっく……もちろんだって! だから転居先の連絡、ちゃんと教えてくれよ。遊びに行くし」 心優しい友達の提案のお陰でアキさんがその後、元気になったことを知った。 井上さんが面倒を見続けると言った潔い気持ちが届いたから、きっと正気に戻ったのか。あるいは、お互いに想い合ってる気持ちが通じてい
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当たり前のような奇跡を感じて――

六月某日の週末、穂高は千秋と一緒に島にある小高い丘に来てきた。 この時期になると辺り一面に芝桜が咲き乱れ、観光客や写真家がフェリーでこぞってやって来る。今日は特に天気が良かったのも手伝って、丘の上は人が溢れ返っていた。「ピンク色に敷き詰められた絨毯に、空の青と海の青がよく映えて見えるね。穂高さん」 弾んだ声をあげる恋人を、静かに見下ろしながら思い出した。去年の同じ時期に、なんとはなしにひとりでここに来て、同様の景色を眺めた。 普段は静かな島が活気に溢れている様子を肌で感じつつ、ぼんやりと目の前に広がる光景を見つめながら考えていた。 千秋にもこの景色を見せてあげたいな、と――「穂高さん?」 不思議そうな表情を浮べて、自分を見上げる千秋が愛おしい。こうしてこれからも一緒に、同じものを分かち合えることができるのだろうか。「千秋、綺麗だね」 当たり前のように隣にいる可愛い恋人に話しかけると、花が咲いたように笑いかけてきた。「穂高さんと一緒に見てるせいか、いつもより綺麗に感じるのかな」 嬉しいひとことを告げるなり、穂高の手を繋ぐ。手のひらに感じるあたたかさをぎゅっと握りしめてから、ほかの人からは見えないように脇の下に隠してみた。「……もしかして、これって隠してるつもりだったりする?」「もちろん。そのつもりだが」「俺の腕が不自然に穂高さんの脇に入っていて、余計に目立ってますけど」 言うなり繋いでいた手を解いて、脇をくすぐり始めた千秋。いきなりの先制攻撃に穂高はなすすべがなく、声をたてて笑った。あまりの騒ぎっぷりに、傍にいる観光客が自分たちをじろじろ見つめてきたが気にしない。「千秋、もう参ったからやめてくれ」 涙を滲ませながら降参した哀れな恋人に向かって、千秋は眼下から望む景色に負けないくらいの笑顔を返した。「また来年もこの時期に、ここに来ましょうね」「ああ。来年は、俺が千秋をくすぐる番だな」「穂高さんみたいな変なこと、俺はしませんのであしからず!」 そう言って穂高の手を掴み、力ずくで引っ張って丘を駆け下りる。日の光を浴びた薬指の指輪が時折キラキラ瞬くのを、繋がれた自分の手を見ながら幸せを噛みしめたのだった。
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当たり前のような奇跡を感じて――(千秋目線)

 いつもより穂高さんってば、はしゃいでいるな――。 大好きな恋人の手を引っ張り、丘を下りながら考えた。何かしら、はしゃぐ要因があっただろうかと。 土日の週末は基本的には漁はお休みで、千秋自身も仕事が休みだからずっと一緒にいられる。日頃互いの仕事のサイクルが違うためすれ違ってしまうからこそ、貴重な週末なのだけれど……。 それがはしゃぐ要因になっているとは思えないなぁと、改めて考え直していたときだった。「ねぇ千秋、お土産屋さんでも覗いてみるかい?」 唐突になされた提案に、リズミカルに下りていた千秋の足がゆっくりになる。必然的に穂高と並んで歩いた。「お土産屋さん?」「ん……。今晩の晩酌に、島の特産になっているチーズと干物を手に入れたいと思ってね」「だからって、あまり飲みすぎちゃ駄目ですよ」 アルコールに強いことが分かっていても恋人の躰の心配をする千秋の言葉に、小さく笑いながら頷いた穂高。絡んでくる視線が自分を好きだと言っているのを、自然と感じることができた。 包み込むような眼差しひとつに、躰が疼いてしまう――。 それを隠そうと視線を外した途端に穂高は千秋に顔を寄せるなり、こめかみにそっとキスを落とす。自分から視線を外すなと言わんばかりに。「穂高さん、人目のあるところで大胆なことをしちゃ」「だって千秋が、可愛い顔を隠すせいだよ。貴重なその表情を拝んでいたいというのにね」 とどめをさすように繋いでいる手を持ち上げて、千秋の甲にちゅっとくちびるを押しつけた。穂高の嬉しそうな顔に、しょうがないなぁと思わされてしまう。「それでお土産屋さんに寄ることは、どうするのだろうか?」 耳元で囁かれる穂高の声で躰がゾワッとし、眉根を寄せて肩を竦めた。迷惑そうにしている千秋の表情を見てもなんのその、困った顔をしているのを楽しげに見下してくる。「勿論、行きますよ。晩酌するのが分かっているからこそ、行かなきゃって感じですし」 だったら早く行こうという感じで、繋いだ手を引っ張って歩く。そんな穂高の手をぎゅっと握りしめた。「千秋?」(いい大人の自分たち――この島では兄弟という間柄になっているから、手を繋いでいても変な目で見られないだろう。だけど……) 千秋は服の下に隠しているネックレスの先についている指輪に、反対の手で触れた。これからもずっと一緒に生きていこう
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すべてはそこから始まった

 ――コイツと一緒に、海を見たかっただけ……気分転換になるだろうなと思ったから。「あっ、小林さん。お疲れ様です」 先に来ていた後輩は顔だけ振り向いて、嬉しそうに微笑んできた。 もうすぐ日没を迎えようとしている、国道沿いにある某浜辺。デートスポットにもなっている場所なので、平日ながらカップルがぽつぽつといらっしゃる状態だった。「おー、お疲れ。外回りは順調だったか?」「それなりに、まあ。……てか、どうしてここを待ち合わせ場所にしたんですか? 男同士で来てるの俺たちだけって、ちょっと――」「どうしても海を見ながら、煙草を吸いたくてな。ひとりぼっちは寂しいから、お前を呼んだだけ」 眉をひそめ、辺りをキョロキョロする挙動不審な後輩に、笑いながら理由を告げてやった。「げーっ。それだけのために呼ばれたなんて……」 他にも何か文句を言い続けるのをしっかり無視して、上着のポケットから煙草を取り出し、口にくわえた。「……はい」 隣から火の点いたライターが、そっと差し出される。海風に消えそうなそれを手で包み込み、顔を寄せて煙草に火を点けた。「いつも気が利くな、ありがとよ」「別に。……小林さんには世話になってるから」 目の前で沈む夕日を浴びているせいか、後輩の頬を赤く染めているのを横目で見た。短く切り揃えられた前髪が、時折吹き抜ける風で舞い上がり、端正な輪郭を更に格好良くみせている。(どーして世の中、こんなにカッコいい男を振るヤツがいるんだろうか) などとしんみり思いながら、煙草の煙をふーっと吐き出した。「お前、海が嫌いか?」「えっ!?」「やっ、何かさっきから、つまらなそうにしてるからさ。カップルだらけの中で野郎といるのが嫌とか、要因はたくさんあるだろうけど」 俺は一緒に、海が見たかったんだけどな――「……元奥さんと来た場所ですか?」 ワガママを発動して連れてきた俺に復讐すべく、平然とした顔でさらりと酷いことを言う。「どうだったかな。大昔の話過ぎて覚えちゃいない」「嘘だぁ! 記憶力が社内で一番の小林さんが、覚えちゃいないなんて言葉は信じられませんって」 どこか可笑しそうにくちゃっと破顔してから、夕日が沈みかける海原へ、そっと視線を移した後輩。 絶好のロケーションのはずなのに、それを見つめる瞳はどこかやるせなさを含んだもので。見覚えのある
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それらすべて愛しき日々

(……面白くない) 小林さんと両想いになって、今日でちょうど一ヶ月が経った。 ぶっちゃけると、あの海辺でキスをしてから一切何もない。普段の日常が毎日、繰り広げられているだけなんだ。あの告白が、まるでなかったように―― 両想いなのに、何でこんなに苦しまなきゃならないんだよ。片想いしている方がまだマシじゃないか! 定時になり、仕事を終えた仲間が次々と去って行く中、デスクの上で拳を握りしめた。(奥手すぎる、小林さんを好きになったツケがこれなのか!?) そんな自分の恋愛運を呪いつつ前方で残業らしきことをしている小林さんに、じーっと視線を飛ばしてみる。「そんな書類なんか見てないで、俺の視線に気がついてくれって……」 恨めしくぼそりと零したところで仕事熱心な恋人は、まったく俺の視線に気がついてはくれない。その様子は、清々しさを感じてしまうくらいだ。 視線を飛ばしていないで、さっさと声をかければいいって思うだろう? できたらやっているさ、踏み込めない理由があるからできずにいる。互いに一度、恋愛で痛い目に遭っているからこそ妙に引き際がいいせいで、踏み込む直前になって逃げるように、自分から引いてしまうんだ。相手をキズつけないように…… 想い合いすぎて引いちゃうとか、笑い話にもならないよな。バカみたいだ、俺たち。 小林さんから視線を逸らそうとした瞬間、やっとこっちを見てくれた。 俺の顔を見て、『あ……』と言いながら目をキョロキョロさせ、頬をぽっと赤くする。無性に可愛いすぎる姿に、苛立っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。 そんな小林さんの赤ら顔を他の同僚に見せたくないというジレンマと、変わらない間柄に苛立っていた俺は、あることを思いついてしまった。『好きですよ』 未だにこっちを見ている小林さんに向かって、そう口パクしてやった。それなのに何を言ってるんだという表情を浮かべ、小首を傾げながら肩を竦める。 いいようのないもどかしい距離感――伝わらない気持ちは以前のままなれど…… デスクの上で握りしめた拳を使って、えいやと立ち上がり、靴音を立てて愛しい恋人の傍まで赴いた。「り、竜馬?」 傷つけないように、深く愛したいだけなのにな。どうして上手くいかないんだろう?「――今夜、お暇でしょうか?」 きっかけを作れば、この人は動いてくれる。……と思いたい。「
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しあわせのかたちを手に入れるまで

小林が竜馬に贈った指輪のサイズを直すことと、同じ指輪を注文するためにふたりで宝飾店に足を運んだ。 同性が同じ指輪をすることに多少なりとも店員に嫌悪感を示されると思いきや、そこはサービス業らしく、嫌な顔ひとつせずに接客してもらえた。そのお蔭でふたりで時折顔を見合わせたりと、和やかに過ごすことができた。 竜馬に贈った指輪の直しは、保証期間内ということで無料でやってもらえることになった。その後、小林に贈るための指輪を購入すべく店員に金額を聞いて、竜馬は心底驚いてしまったのである。「何が『そんなに高いものじゃないから気にしないでくれ』ですかっ。気にしちゃう金額でしょ!」「わっ悪かったって。ああでも言わないと、貰ってくれないと思ってだな」 突然はじまった口論に店員が弱ったなぁという表情で、チラチラとふたりを見やる。「小林さんが不愛想な顔して、強引に指輪を渡したりするからですよ。絶好のロケーションの中で、あんな風に色気のない渡し方をしてきてさ」「しょうがねぇだろ。オーダーメイドってヤツは手間暇かかる分、高くなっちまうんだから。それくらいの価値が、お前にあるってことだよ」 不愛想を指摘したからか満面の笑みで気持ちを告げた小林に、竜馬はなす術がなかった。いつものように黙り込むしかない。「……すみません。分割払いってできますか?」 いろんな事情で頬を染めながら店員にお願いし、オーダーは無事に完了したのだった。
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