All Chapters of 残り火 After Stage ―未来への灯火―: Chapter 71 - Chapter 80

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Final Stage 第6章:恋の炎は心の芯に灯し続ける8

穂高と千秋の苦悩の解放! (早めに行ったお蔭で、早く始めてくれたから良かった……) 就職試験を受けるのが俺だけだったこともあり、筆記試験と面接もスムーズに終わってしまった。 緊張していたのがムダになるくらい上手くいってしまった試験の結果を、昨日お出迎えしてくれた漁協のおばちゃん達に報告とお礼をするために足を運んだ。 康弘くんは学校だったからスーパーに顔を出し、お母さんである葵さんに伝えてもらうことにした。「それにしてもみんな揃って、ビックリした顔をしていたな。髪形をちょっとだけ変えて、スーツを着てるだけなのに」 何人かには赤面しながら見つめられてしまい、どう対処していいか分からなかった。穂高さんなら余裕な表情を浮かべて、その場をやり過ごすんだろうけど、モテたことのない俺には無理な話だった。(……そういや穂高さんは俺のこの姿を見て、唖然としていたっけ。立派なサラリーマンのでき上がり、なぁんて言っていたけど内心はどう思っていたのかな?)「ただいま!」 自分の身なりについては横に退けておいて、試験の結果をちゃんと伝えないといけない。昨日から応援してくれたんだから、尚更――。 引き戸を閉めて靴をきちんと揃えてから家の中に入ると、テーブルの前に座り込み、じっとしている穂高さんの姿があった。「あのぅ、穂高さん。ただいま戻りました……」 腰を少し屈めて顔を覗き込んだら一瞬だけ視線を絡めたのに、すっと外されてしまう。む……何だろ、この変な態度。「お帰り、千秋……。その顔は試験、上手くいったようだね」「はい! 穂高さんのお蔭で変なミスをすることなく、スムーズに筆記と面接も終わってしまったんです。早く終わったから昨日お出迎えしてくれたおばちゃんたちのトコに行って、挨拶をしてきたんですよ」「……その格好で挨拶回り?」 いきなり低い声で訊ねる。気だるげだった顔色が、途端に渋い表情に早変わりした。「はぁ、まぁ。試験が終わって直で行ったから、そうなりますけど……。何か問題でもありました?」 いたって普通に答えた俺に、じーっと睨みを利かせる穂高さん。そうされる意味が、さっぱり分からない。「その格好で島中をウロウロしたなら、女性の心をここぞとばかりに鷲掴みしただろうね」(……もしかして穂高さん、ヤキモチを妬いているの!?)「なっ、何を言い出すのかと思った
last updateLast Updated : 2025-12-13
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Final Stage 第6章:恋の炎は心の芯に灯し続ける9

「は?」 きょとんとした顔をしてまじまじと自分を見つめる表情を、視線の端に捉えた。 穂高さんの肩に置いていた両手をゆっくり移動させるなり首に腕を絡め、流し目らしきものをしてみる。俺を何とかしようと穂高さんがやっているのを、イヤというほど見ているからできていると思いたい。「取引先の新人をこんなふうに弄んだクセに、契約しないでポイする気ですか?」「ぽ、ポイ? ――って放り出すつもりはないのだが」「放り出さずに、ナニをするんでしょうか? そこのところを、優しく教えてほしいです」 絡めている腕に力を入れて、穂高さんの顔を引き寄せた。何がどうなってしまったんだろうという困惑の表情をキープしたままの様子は、眺めているだけでも結構面白い。「ね、井上さん。ダメですかぁ?」 正直なところ、ものすごく恥ずかしかったりする。 いつもは穂高さんに誘われて流されるように行為が始まっちゃうから、自分からこんなふうに誘うなんて、ありえない珍事がない限り夢にも思わなかった。 一生懸命に背伸びをして、誘っている俺を見下ろしていた穂高さんの闇色の瞳が、キラッと輝いたように見えたので、何だろうと思い瞬きをしたら、口元に艶っぽい笑みを浮かべる。「ぅあ……」 思わず声に出てしまうくらい、ヤバイ笑み――この笑顔の意味は、俺の芝居に乗ってやるという証拠だろう。 あまりの雰囲気にビビってしまい、穂高さんに絡めていた腕を恐るおそる外して距離をとってみた。後ずさりしても背中にあるのは居間の壁があるだけで、これ以上の逃げ場はない。 背中と両手に壁の冷たさを感じたら、躰の両脇に穂高さんの腕が突き立てられてしまった。「心外だなぁ、紺野くんみずからエッチな顔して誘っておきながら、逃げてしまうなんて。どんな手を使って気持ちのいいコトをしてくれるのか、ワクワクしながら待っていたというのに」「しっ、新人ですから……よく分からなくて。それでご教示くださればと」「ご教示、ね。はたして、それでいいのかな? ご教授でなく――確かに仕事で使う分にはちょっと教えて下さいという意味のご教示が適切だろうが、この場合は俺に訊ねているワケだし、ご教授が適切だと思うのだが」 むぅ……。ご教授って確か長い間、専門的なことを教えるっていう意味だからビジネスで使うには適さないという知識が、頭の中に入っていた。だからこそご
last updateLast Updated : 2025-12-14
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Final Stage 第6章:恋の炎は心の芯に灯し続ける10

*** 俺を求めるように半開きになっている色っぽいくちびるを思う存分に貪り、猛っている下半身を千秋自身に押し付けていたら、両足を腰に巻きつけてきて強請るように上下してくれた。それだけじゃなく――。「ん……?」 俺の胸元を両手で触っている? 触られても残念なことに、くすぐったさしか感じないのだが……。 それにしても変な触り方だ。上に引っ張り上げるように触ってくるなんて。 千秋の舌を解放して触れられている胸元を覗き込んでみたら、スウェットをたくし上げてる両手が目に留まった。もしかして、脱がせようとしているのか?「……そんなに、俺の裸が見たいのかい?」 なんて、ついイジワルなことを言ってしまう。赤面しながら困ってる千秋の顔が、実は結構好きだったりする。徹底的に困らせるとこちらの思惑とは別の想像のつかないことをしてくれるから、それを引き出したくて堪らなくなるんだ。 さっきだって俺の提案した言葉に文句を言いつつも、きちんと可愛い新人を演じてくれた。 潤んだ瞳で上目遣いをしながら甘い声で名字を呼ばれたせいで、無性にドキドキしてしまった。これでも、かなり必死になって取引先を演じた。あの顔で迫られたらノンケでも間違いなく、契約を結ぶという確信がある! 千秋が都会で働くことになっていたら、今まで以上に心配が尽きなかっただろうな。この島にいる田舎のおじさん・おばさん達も千秋の持つ色香に、ドキッとすることがあるかもしれないが、襲うという発想はないだろう(と切に願う)「違っ、穂高さんの肌が見たいワケじゃなく……。直接肌に触れて、ぬくもりを確かめたかったというか」 しどろもどろになってる言葉を理解し、目の前でさっさとスウェット上下を脱いでやった。勿論下着も――。「ぬくもりを直接確かめたいというなら、千秋も脱がなきゃいけないね」「あ、うん……」 割り込んでいた自分の躰を退かせたら、千秋自らいそいそと恥ずかしがりながら下着を脱いでいく。 普段はトランクス派なのに、今日に限ってボクサーブリーフなんていうのを身につけてくれたお蔭で、一緒にベッドに入ってからというものの、してはいけない妄想に拍車がかかったのは事実だった。 千秋の言いつけどおり垂涎モノのそれに一切手を出さず、明るく見送った俺にご褒美があっていいハズなんだ! 予め隠していたローションを手元に引き寄せ、
last updateLast Updated : 2025-12-15
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Final Stage 第7章:愛をするということ

就職試験から1ヶ月後、内定の通知がアパートに届いた。 大判の封書を開けて、書類の中にある『内定』という文字をじっと見つめる。これから先、事件や何か不測の事態が起こらない限り、内定が取り消されることはないだろう。「……お父さんが裏から手を回さなければ、きっと大丈夫なハズなんだ」 俺が小さい頃、休みの日があると自分の膝に乗せて、会社の出来事を面白い物語仕立てで、延々と楽しげに聞かせてくれた。 小さな俺には意味の分からない単語が時々出てきたので、はてなマークを頭に散ばせていたけど、それでも楽しそうに語ってくれるお父さんの姿が見られて、とても嬉しかったという思い出が胸の中に刻まれている。 だからこそ小さいうちから、父さんの会社で働きたいと強く思っていた。 しかしながら大きくなっていくうちに、いろんな方面に興味を持った結果、夢にズレが生じてしまったんだ。 島で働くと言ったときに見せたお父さんの顔が、とても悲しそうに感じたのは気のせいなんかじゃない。そして問題はそれだけじゃなく――。「……穂高さんはどうして、実家について訊ねてこないのか」 俺が口を割らないと、イジワルなことをしてでも絶対に問いただす彼だからこそ、実家について何も聞いてこないことが、逆に不自然に思えてならなかった。 穂高さんがそれに対してまったく興味を抱かないからなのか、はたまた既に知った事実だから聞く必要がないのか――どっちにしろ、話し合いをしなければいけないのは避けられない。 気の重い話題だけど顔をつき合わせたときにでも、思いきって話をしようと考えた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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Final Stage 第7章:愛をするということ2

***(話し合わなければいけないと思ったのに半年以上の間、何をやっていたんだ俺は……) 農協の内定が決まってからといって生活が一変するワケじゃなかったけど、夏休みや冬休みを利用して島に赴き、バイトと称して職場で仕事をさせてもらったりした。 それ以外の時間があったというのに、穂高さんと顔を突き合わせると、ムダにイチャイチャばかりしちゃって大事な話をせずに、互いの近況報告みたいなものだけで終わってしまい、あっという間に時が過ぎ去ってしまった。 そして年が明けて3月になり、島にある穂高さんの家に荷物を送ってアパートを引き払った。その足で実家に向かうべく、穂高さんの車に付いてるナビに住所を打ち込みながら重たい口を開いてみる。「あのね、穂高さん。ずっと聞きたかったことがあるんだけど」 案内開始のボタンを押したら、スムーズに車を発進させた。「なんだい?」 ナビの案内通りに左車線に入ってウインカーを点灯させると、ゆっくり左折しながら訊ねてくれる。ここからは暫く道なりに進むので、話をするのに支障がないハズだ。「俺の実家のこと。聞きたそうな素振りも見せなかったから、もしかして知っていたりするのかなって」 自分の考えを交えながら告げてみると、チラッと横目で顔を見てから印象的な闇色の瞳を細めた。「まったく。君には隠し事ができないね。実家については、偶然に知ってしまったという感じかな、義兄さん経由で」「藤田さん経由で?」「ん……。あの人、自分に関わりのある人間について徹底的に調べる人だから。仕事で使えそうな人をピックアップして、まとめているらしい。その関係で、千秋の経歴もしっかり調べたらしいよ」 言いながら膝に置いていた右手に、穂高さんの左手が重ねられる。いつも通りの冷たい手のひらに、反対の手をそっと重ねてぬくもりを分けてあげた。「穂高さんは俺の経歴を知って、どう思いました?」「そうだな。一番に思ったことは、千秋は恵まれた環境でとても大切に育てられたんだね。だから、心が清らかなんだなぁと思ったんだ」 重ねている左手に力を入れて、俺の右手を握り締めてくれる。「穂高さんが思うほど、清らかじゃないと思うんだけどな」「そんなことはない。一緒にいるだけで癒されているよ」(いやいや、それは惚れた欲目というか何というか――) あたふたする俺を尻目に、穂高さんは
last updateLast Updated : 2025-12-17
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Final Stage 第7章:愛をするということ3

*** 千秋の案内で、駐車場に無事停車させる。 エンジンを切り軽くため息を吐きつつ、ゆっくりとした動作で車から降り立ち、少し離れたところにある洋館に目をやった。そびえ立つ建物の大きさに飲み込まれないように、ぐっと奥歯を噛み締める。(とうとう、ここまで来てしまったんだな。もう逃げるワケにはいかない――)「穂高さん、こっち」「ああ、今行く」 心の中に気合を入れ直して、歩き出した千秋の隣に並んだ。 物珍しさから手入れのいき届いた中庭を見ながら歩いていると、袖をぐいっと引っ張られる。「ん? どうしたんだい」「俺たちは招かざる客だから、こっちから出入りすることになってるんだ。ごめんね」 寂しげに微笑んで、大きな扉がある玄関脇の小道に案内してくれた。「千秋はいつも、そこから出入りをしているのかい?」「大学に通い出してからね。最初はすっごく切なく感じていたんだけど、それが当たり前になったら、へっちゃらになっちゃったよ。それに、いいこともあるし」 慣れた手つきで質素な感じの扉を開け、顔だけ突っ込む千秋。この扉は、勝手口みたいなものなんだろうか?「ただいま~! 英恵(はなえ)さん、いる?」 言った途端に千秋が誰かによって引きずり込まれる様に、建物の中へと消えてしまった。待つこと10秒程度で直ぐに千秋が顔を出し、俺の腕を引っ張ってくれる。「ゴメンね、穂高さん。お手伝いさんに抱き抱きされちゃった。どうぞ中に入って」 お手伝いさんが羨ましい。この緊張感を何とかすべく、千秋を抱き抱きしたい。とは言えない。「お邪魔します……」 本音をぐっと飲みこんで中に入ったら、小さくて丸っこいモノに体当たりするようにぶつかってしまった。「失礼致しました、お怪我はございませんでしたか?」 慌てて頭を下げて小さい人を見下ろすと、タオルでほっかむりをしている可愛らしい妙齢のご婦人が、俺のことをしげしげと見上げていた。 その様子が大好きなクッキーのマスコットになっている、外国のおばさんにソックリでつい――。「ステラおばさんっ……じゃなく、その、失礼致しました」 慌てて謝ったものの初めて逢った感じがしないせいで、笑いが止らなかった。丸いメガネに丸っこい感じの体格が、本当にソックリだ。見ているだけで癒されてしまう。「千秋さん、こちらの方はどなたなの? さっきから私の顔
last updateLast Updated : 2025-12-18
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Final Stage 第7章:愛をするということ4

*** 襖を開けると妙に冴えた空気が、客間の中に広がっていた。そこを穂高さんとふたり、手を繋いだまま中に入る。 襖に手をかけた瞬間、握りしめている手を解かれると思ったのに、ぎゅっと力を入れてくれた。まるで穂高さんの手のひらから、勇気を貰った気がして嬉しかった。お蔭で、勢いよく襖を開けることができたんだ。「お久しぶりです。お父さん、お母さん」 どちらともなく手を離して用意されている座布団に座らず、その場に正座して目の前にいる両親を見たら、唖然とした表情を浮かべていた。(――この状況で、驚かないほうがおかしいだろうな)「この方が俺とお付き合いしている、井上穂高さんです」「お初にお目にかかります。千秋さんとお付き合いさせて戴いている井上と申します。職業は漁師で、現在は北海道の――」「ちょっと待ちなさい! 何をふざけた真似をしているんだ? ウチの会社に入りたくないからと、こんなことをしてまで反抗するなんて、何を考えているんだっ」 烈火のごとく怒りだすお父さんに、隣にいるお母さんは小さなため息をついていた。「お父さん、落ち着いて話を聞いて下さい。ふざけてなんていません、俺たちは本気です。真剣にお付き合いしているんですから」 膝に置いてる両手に拳を作り、負けないような大きな声を出して応戦する。「千秋、しょうがないよ。誰が見たって俺たちの付き合いは、ふざけたものにしか見えないのだからね」「でも……」 お父さんや俺とは違い、穂高さんの告げた言葉はとても落ち着いたものだった。切なげに瞳を揺らしながら俺を見ている視線が、痛々しくて堪らなくなってしまう。「紺野さんがお怒りになるのは、当然のことだと思います。大切な息子さんが俺のような同性の男と付き合うこと自体、許されないものでしょうし。だけど千秋さんを叱らないで下さい。きっかけは、俺が彼を騙したことから始まったのですから」「穂高さん、何を言って!?」「だって、そうだろう? あのとき俺がまんまと君を騙して車に乗せなければ、客と店員という関係は崩れなかったと思うのだが」「そ、それはそうかもしれないけど、でも……」 少しだけ柔らかく微笑みながら俺を見、ふいっと顔を逸らして目の前にいる両親を見た穂高さん。 この顔は――この表情は忘れやしない……。降りしきる雨の中、別れを告げたとき最後に見せてくれた、穂高
last updateLast Updated : 2025-12-19
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Final Stage 第7章:愛をするということ5

***「実はばあやには、穂高さんと付き合ってることを暴露していて……」 施設の廊下を歩きながら、穂高さんにばあやのことについて説明をしていた。 大学進学に反対された俺を応援すべく、両親の代わりに後見人となってくれたお蔭で、大学に通えた上にアパートが借りることができた。 すっごくお世話になっているからこそ隠し事をしたくなかった俺は、ばあやに穂高さんとの付き合いを早いうちに告白していたのだ。 同性と付き合っているという話を聞き、最初は驚いた表情を浮かべていたばあやだったけれど、写真を見せたら妙に納得してくれたっけ。『千秋、ずっと仲良くして戴けるといいわね』 そう言って笑いながら応援してくれたことが、とても嬉しかった。「勿論、反対されただろう?」「それが……そうでもなくて」 微妙な表情で歩いていたら、ばあやのいる個室前に到着したので、軽快に扉をノックした。するといきなり音もなく扉が開いて、ニコニコした可愛らしい皺くちゃの顔が出迎えてくれた。「待っていたわよ、千秋。それと穂高くん!」 80過ぎの動きとは思えない早さで俺たちの腕を素早く掴み、部屋の中に引き入れる。「あ、ぅ……はじめましてっ、おばあさん!」 強引に引っ張られながらも、何とか挨拶をしようと必死になる穂高さんの顔が面白い。両親の対応との違いに、さぞかしビックリしているだろう。「さぁさ、これに座ってちょうだい。今、お茶を淹れますからね」「いいよ、ばあや。あまり長居はできないんだ、ごめんね」「そうなの?」 何故か俺じゃなく、穂高さんの方を見る。おじいさんに代わり、少しの間だけど会社を切り盛りした関係で、人柄を見切ることのできるばあやは、弱い部分を瞬時に嗅ぎつけてしまうんだ。 「……少しくらいなら大丈夫かと」 弱ったなぁという表情を、ありありと浮かべて答える穂高さんに、俺は椅子に腰かけながらキッと睨んでやった。「ダメだよ、穂高さん。仕事が待っているんだからね。船長さんが困ってしまうだろ!」 ここから長時間をかけて車を運転し、島に戻ってすぐさま漁に行くことになっている穂高さんの躰を考えたら、少しでも余裕を持って行動したいと考えた。 しかしながら、好意的な態度をとる恋人の家族と対面したのはやっぱり嬉しいだろうし、少しでも話をしたいというのが穂高さんの心情かもしれないな。「千秋
last updateLast Updated : 2025-12-20
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Final Stage 第7章:愛をするということ6

***「すっかり遅くなっちゃったけど、大丈夫?」「隣に千秋がいれば問題ない、大丈夫だ」 これからずっと一緒にいられるというのに俺たちは手を繋いだまま、実家に置いてある車を目指して歩いていた。通りに誰かいたとしても、繋いだこの手を離さないだろう。「穂高さん、ありがとね。いろんな気持ちにさせちゃったけど、俺の家族に逢ってくれて嬉しい……」「ふっ、千秋の心が、キレイな理由が分かってなによりだった。さて、これからどうするつもりなんだい?」 隣にいる穂高さんを見上げると、傾きかけた太陽が栗色の髪に反射して金色に見えた。それは親子の証――イタリアにいる本当のお父さんと、同じ髪色なんだよな。 残念ながら俺には、そういう物はない。紺野のお父さんとの結びつきは、戸籍上だけ。温度(ぬくもり)を感じることができない紙の結びつきのみで、穂高さんの髪とはえらい違いだ。「ハハッ。どうすればいいのか、サッパリ分からないや」「分からないと言いつつ、随分と嬉しそうな顔をしているね」「嬉しいよ、だって……。穂高さんとこれから一緒に暮らすということは、家族になるってことでしょ?」 大きな影が目の前に差し込む。実家にある門扉がそこにあった。「……千秋と家族になる」 穂高さんは口元に笑みを浮かべたまま噛みしめるように呟き、瞳を揺らめかせる。「血の繋がりのない俺たちが家族になれるんだから、余計なことをゴチャゴチャ考えなくてもいいのかなって思うんだ」「そういうものだろうか」「だって穂高さんと藤田さんは血の繋がりがないのに、俺から見てもしっかりと兄弟しているよ。羨ましいくらいにね」 ばあやが穂高さんに答えを言わないようにした理由は、そこにあるんだろうなって考えてみた。血の繋がりのない家族の中で、彼なりに必死に愛情を注いでいる話を、俺は見聞きしているのだから。「穂高さんと同じように、俺もお父さんに愛情を与えてみたい。どうすればそれを与えられるのかは分からないけれど、頑張ってみたいって思ってる」「だったら競争しようか、千秋」 右手をピストルの形にするとそれを空に向けながら、楽しげに提案した。「競争って、なに?」「千秋のお父さんは、俺にとってもお父さんになる。正直なところ色々やってしまったハンデはあるが、息子になりたいという気持ちは君に負けないつもりだ」 笑いながらバンッ
last updateLast Updated : 2025-12-21
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―未来への灯火―

 当たり前のように、穂高さんが傍にいる――。 島に就職が決まり、本土からここに移住して約一か月が経とうとしていた。 都会に比べて島民の人口が少ないから仕事量だって少ないと思いきやその逆で、職員五名で350名分のお客様に関する仕事をこなさなければならない。 そんな農協でのお仕事は当然初めて尽くしなので戸惑うことが多いけれど、職員のオジサンたちが優しく仕事を教えてくださる方々ばかりで、毎日が恐縮しまくりだったりする。 大変だけど、すごくやりがいがある。ここに住むことができて本当に良かった。 そんなことを考えながら現在、必死こいて自転車のペダルを最大限に回していた。農協から漁協までの登り坂を、思いっきりあくせくしながらだけど。 さいわいなことに滅多に残業のない職場なので、午後五時ちょうどに仕事が終わるんだ。「お先に失礼しますっ! お疲れ様でした!」 仕事終わりのお茶を美味しそうに飲んで、まったりと和んでいる職員の皆さんにしっかりと挨拶をしてから、脱兎のごとく表に駆け出して自転車に跨り、漁協に続く道のりをひた走る。穂高さんの船出を見送るために――。 一緒に暮らしていても残念ながら、俺たちの生活サイクルはかみ合うものではなかった。それは暮らす前から分かっていたことなれど、やはりちょっぴり寂しい。 それでも波が高かったり悪天候だったりした場合は、漁がお休みになるのでそのときはもう、ね。穂高さんが俺の仕事帰りを、今か今かと首を長くして待っている状態だったりする。 かくいう俺もべったりできるひとときを大事にしたいから、喜び勇んで帰る。 どんなに肌を重ねても穂高さんに飽きがこないのはやっぱり、お互い求めているせいなのかなって最近思うようになった。 一緒にいて幸せを感じられる人。傍にいられるだけでこんなに嬉しくて――。「あっ、穂高さーんっ!」 夕日の色が映える栗色の髪をなびかせて元気に右手を振る愛しい人が、俺の姿を見て柔らかく微笑んだ。「千秋、お帰り。今日も一日頑張ったね」 登り坂の途中にいた穂高さんに合わせるべく、微笑み返しながら自転車を降り、寄り添うように隣に並ぶ。視線が絡んだだけで、胸がきゅっとなった。相変わらずの自分の反応に、毎度戸惑ってしまう。「良か、った、今日もっ、間に合った!」「ん……。千秋が毎日一生懸命に自転車を漕いでるからか、逢
last updateLast Updated : 2025-12-22
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