Semua Bab 残り火 After Stage ―未来への灯火―: Bab 81 - Bab 90

148 Bab

―未来への灯火―2

***(頬を撫でる風が、とても気持ちがいい――) 海上を走らせた船が小一時間で漁場に着く頃には穏やかだった海が、吹きつける風のせいで荒波になっていた。 ちょっとだけ頭痛を抱えていたものの、体温がいつもより高いお蔭でダルさを感じることなく、サクサクと仕事を進めることができた。「井上ぇっ! 網を落としてくれ」「分かりました!!」 レーダーのヒットしたところに網を投げ入れるべく、命令通りに海に向かって次々と網を投げ入れていたら。「何だか今日はやけに動きがいいが、波がたけぇから気ぃつけろよ!」 珍しく船長が褒めてくれたので嬉しくなって顔を上げた次の瞬間、グラリと身体が大きく跳ねた。 風で煽られた上半身を何とかしようと下半身に力を入れて踏ん張ったが、船体が大きく揺れているので、全く踏ん張りが効かない状態だった。手にしていた網を放り出し、両手を大きく振ってバランスをとってみる。「おっ、とっとっと!」 いつもならこの時点で身体を元に戻すことができるのに、風と波のせいでまったく上手くいかない。 これはヤバいと思ったそのとき、海に突き落とすような突風がビューっと吹き抜けて、簡単に俺の身体を真っ暗な海へと突き落とした。「こら、バカッ! 何やっとんじゃ!!」 バシャンと落ちたそのとき、船長の声が耳に聞こえたのを最後に、ズブズブと海の中に沈んでしまった。(身体が異常に重い――まるでスポンジが水を含んで、重くなったものに近いといったところか) 陸にいたときとは違い、やけに重たくなっていく身体に異変を感じた。何度となく船長の手で海に落とされているが、こんな経験は初めてだった。 必死に両腕を使ってもがいてみても一向に前に進むことがなく、海の底へどんどん飲み込まれていく。「っ、息がっ……、どうして――」 目の前に映る船の明かりが、見る間に遠のく。それだけで一気に心細くなり、何とも言えない焦燥感にかられた。 海中をもがき苦しみながら左手を伸ばすと、薬指の指輪が偶然目に入った。か細い光に反射して、キラリと眩しく光り輝いた。『穂高さん、お帰りなさいっ! 今日も大漁だった?』 毎朝に交わされる千秋との会話が、なぜだか頭に流れる。俺に向かって心底嬉しそうな笑みを浮かべたその顔が見られるだけで、漁の疲れが吹き飛ぶんだ。『ただいま、千秋。粋のいい魚が、たくさん捕れ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-23
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―未来への灯火―3

*** ガタガタガタッ!「わっ、ビックリしたな……」 夕飯を食べ終えて穂高さんが買ってくれたプリンに舌づつみを打っている最中に、強風で窓ガラスが音を立てはじめた。 海から吹き付けるような風はまるで台風の到来のように感じるもので、天気の急変時に毎回こんな風が吹くから、今は慣れてしまった。 ――それでも、心配の種が尽きないのは常なんだ……。(穂高さんがこの風に煽られて、海に落ちていなきゃいいけど。この様子だと、間違いなく波だって高いはずだ。いつもより仕事をするのが大変だろうなぁ) 疲れて帰ってくる穂高さんのことを考えて、明日の朝ごはんはスタミナ系のおかずにしようと考えついた。 手に持っていたプリンを食べてから、スマホでレシピを検索してみる。親切丁寧なレシピの数々に、頭が下がってしまう。俺でも作れそうなものが、結構出てきた。「焼き肉のタレに一晩漬け込んでおいて、あとは焼くだけにしておけば、朝からバタバタせずに済みそうだな。これにしようっと」 空になったプリンの容器を片手に台所に立ち、下ごしらえを開始する。穂高さんの喜ぶ顔を想像しながら作るだけで、楽しさが倍増するから不思議だな。『朝からこんなに精の付くものを作って、襲ってくださいと言っているように感じるよ千秋』 とか何とか言われちゃったら……。否定できない自分が、ちゃっかりいるのが恥ずかしい。 照れながらもきちんと料理の下準備を終えて、シャワーを浴びた。その後、テレビを見ながらアイロンがけをする。 賑やかなバラエティー番組を耳で聞きながら、ワイシャツの襟の部分を丁寧にアイロンを当てていたら、黒電話のけたたましい音が鳴った。突然すぎるその物音に、ビクッと肩をすくめてしまう。 アイロンを専用のスタンドに戻してからゆっくりと立ち上がり、何の気なしにひょいと受話器を取る。きっと強風が吹いているから、注意しろっていう島の連絡網だろう。「もしもし!」「もしもし、診療所の周防だ。今、大丈夫か?」 緊迫した声が聞こえた瞬間、一気に身体が緊張してしまった。「はぃ、大丈夫、ですが。……何か?」「井上さんが海で溺れて、ウチに運ばれた。頭を打っているから内地の病院に運びたいんだが、この強風でドクターヘリが来られないと言われてしまってな」 ――海で溺れて、頭を打った!?「あのっ、穂高さんは無事なんですか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-24
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過去への灯火

「……うっ、いたっ!」 きりきり痛む頭を押さえて、横たわっていた場所からゆっくりと身体を起こしてみた。 しっかりと目を見開きながら周りを見渡してみたのだが、そこは真っ暗闇で何も見えない様子がまるで、さっき沈んでしまった海の底のようだった。(――もしかしてここは、死後の世界なんだろうか) 痛みを伴う頭はそのままに、自分の身体のあちこちを触ってみたけど、生きているときの感触と何ら変わりない状態に、首を傾げるしかない。 恐々とその場から立ち上がって周囲にしっかりと目を凝らしてみたら、光り輝いている丸いものを見つけることができた。 両足を踏みしめて足元が大丈夫なことを確認しつつ、その丸いものに近付いてみる。 よく見てみようと跪き、3センチ大の穴をしげしげと眺めた。光が漏れている様子に、向こう側にある何かが見えるのは一目瞭然だ。(久しぶりだな、この感じ。会社の情報を得るのにこうやって、こっそりといろんなものを覗き見たっけ……) そんな昔の自分を思い出しながら、穴に顔を近づけてみた。 どこかの会社の渡り廊下が目の前に展開されていて、それだけじゃなく――。「あら、どうしたの井上くん。血相を変えた顔で走ったりして」 見覚えのある女性の姿に、一瞬だけ息を飲んだ。そしてその女性の前に焦った様子で駆け寄る、今よりも若い顔の自分がその場にいたことに驚きを隠せない。(このシチュエーションは、確か――) 顎に手を当てて、眉根を寄せながら下くちびるを噛みしめる。胸の奥底にしまっていた苦い記憶が覗き穴の向こう側にいるふたりのせいで、痛みと共にまざまざと蘇った。 裏の仕事をはじめて、まだ1年と少ししか経っていない頃に彼女と出逢った。すれ違いざまに書類を落とした彼女に、声をかけたのがきっかけだった。 それから顔を合わせるたびに、少しずつ話をするようになった。 派遣社員として半月前に入社したばかりの彼女、安藤美咲さん。 背中まで伸ばしている髪を一つに束ね、眉毛よりもちょっとだけ短く切りそろえられた前髪の下にある、黒縁のメガネが印象的な女性だったな。 半年前から働く俺に近寄ってくる女性は吐いて捨てるほどいたが、彼女からは好意というよりも、母性の方をなんとなく感じ取っていた。年齢が8つ離れているのも理由のひとつだが、彼女の言葉がまるで弟に話しかけるようなセリフばかりだ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-25
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過去への灯火2

*** 週が明けて月曜になった。隠しておいたディスクを会社から持ち出そうと早朝出勤して、自分のデスクを見た瞬間に違和感を覚えた。物の配置が微妙にずれていたから。 慌ててファイルを抜き取ってパラパラめくってみても、そこからディスクが出てくることはなく――。 あまりにもマズい事態に、親父の会社に行って直接報告しようと駆け出したそのとき、彼女が突然現れて声をかけてきた。「あら、どうしたの井上くん。血相を変えた顔で走ったりして」 若い自分は目の前の光景に眉根を寄せてじっと見つめてから、それをしっかりと確認すべく傍に駆け寄った。 微笑みながら俺を見る彼女の右手人差し指には、表面が印刷されていない真っ白なディスクが差し込まれていた。「安藤さん……。その手にしているのは?」 自分が探している物じゃないことを、心の中で必死に祈った。どこにでもあるような物だし、彼女の私物かもしれないと思い込んだり――だがもうひとりの自分が、頭の片隅でせせら笑いながら言ったんだ。『謀られたね、これは――』 彼女の手からディスクを取り返して、誰の差し金なのかを吐かせなければならないと言ってる冷静な自分を、心の中で抹殺する。 彼女を信じたかった。両想いになったばかりの自分の恋を、どうしても守りたかった。 呆然としたままの俺を見上げて、手にしたディスクをヒラヒラと見せつけながら意味深にニッコリと微笑む彼女の笑顔は、残酷なまでに美しく見えた。「これは、井上くんが上手く隠したと思っているディスクだよ。あのとき抱きしめられながらも、手に持っていた小さな鏡でアナタの動きを逐一見ていたから」「そ、んな……」「他にもアナタの自宅に行ってから、いろいろと調べさせてもらったわ。お互い気持ちよくなってから一緒に飲んだお茶に、一服仕込んでおいたの。それのお蔭で井上くんは、ずーっと眠っていたからね」 言葉がまったく出てこなかった。信じたい気持ちが音を立てて崩れていくさまを、黙って見つめるのが精一杯だった。(もう、見てはいられない。あのときの痛みを、ふたたび噛みしめることになろうとは――) 俺は覗き穴に背を向けて、両膝をぎゅっと抱え込んだ。 あのとき一瞬で奪われてしまった恋する気持ちと、時間をかけながら苦労して裏で仕入れた情報――何もかもを失って絶望した自分は自宅に帰ってから、部屋の中にある
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-26
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過去への灯火3

 その衝撃に驚いてビクッと躰を震わせながら目を開けて辺りを確認したら、うす暗い部屋の天井が飛び込んできた。 さっきまで見ていた映像は夢だったのかとホッとした瞬間、左手を包み込むあたたかさを感じたので顔を上げるとそこには――俺の手を握りしめたまま突っ伏して寝ている、千秋の姿があった。「う、っ?」 声を出したいのに喉が渇ききっているせいか、上手く出せない。それだけじゃなく、身体に力がまったく入らない。首を動かすだけで精一杯って、どうなっているんだ。(……ああ、そうか。俺は海で溺れてそれから――あれ、どうやって助かったんだろうか? 船長が網を引き揚げて俺を助けたから、ここにこうして横たわった状態でいるのだろうか) いろいろ考えを巡らせながら、頭痛をひしひしと感じた。 手荒に引き上げられたときにでも、ぶつけてしまったのだろうか? 溺れた後って、こんなにも身体が重だるいものなのか? さっきから疑問ばかりが、頭の中でループしてしまう。溺れてからの記憶が、まったくもって思い出せなかった。だが――。(ちゃんとここに……千秋のもとに戻ってきたんだな) しっかりと握りしめられた左手に感じる千秋のぬくもりがその証拠で、自分が生きてることを身体に感じるつらさで再確認できた。 千秋、心配かけて済まない。明日だって仕事があるだろうに、こんな格好で付き添わせてしまうなんて。 上手く力の入らない左腕を、ゆるゆると揺さぶってみた。残念ながら僅かな振動にしかならないので、気がついてもらえそうにない。「ちあ、き……千秋っ、ち――」 情けないことに息も絶え絶えの状態。しかも蚊の鳴くような小さな声しか出せなかったが、ふっと千秋が目を覚ました。 視線をゆっくりと俺の顔に向けるなり、寝ぼけ眼だった顔がみるみるうちに驚きの表情に変わり、声にならない声で話しかけてくる。 音がなくても唇の動きだけで、何を喋ったのかがすぐに分かった。「…………」「…………」 千秋の言葉に、声にならない声で俺も返事をする。途端に大きな瞳から、ぽたぽたと大粒の涙を流しはじめた。「ううっ……ひっ、ひっく……ほらかさ、っ……ぉ、おかっ、お帰りなさいっ!」 ほのかに薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から入り込む月明かりが、笑い泣きをしている千秋の顔を照らし出していた。言葉にしなくても伝わった挨拶に、満面の笑
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-27
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過去への灯火4

*** 次の日、引きつるような腰の痛さでふと目覚めた。カーテンの隙間から差し込む光が目に眩しい。 目を擦りながら身体を起こして、横たわっている穂高さんの様子を眺めてみた。 苦しそうに呼吸をしていた昨日よりも穏やかな感じで息をしていて、高熱で赤みのあった頬も、いつもの見慣れた感じになっていた。「良かった……」 船長さんと周防先生に改めてお礼を言わなくちゃなと思いながら席を立ち、診察室を出てお手洗いに向かう。用を足して洗面所で顔を洗い、ハンカチで水滴を拭ってから出ると、目の前に人影が――。「あ、おはようございますっ!」 聴診器を首にぶら下げた周防先生が、キョトンとした顔で俺を見つめた。「おはよう。診察室にいなかったから、てっきり帰ったのかと思った」「いえいえ、黙って帰りません。一声かけてから帰ります」「島の人間は基本、自由な人ばかりでな。ここを、自分の家のように使っているから。とりあえずこっちに来なさい」 俺の右腕をぎゅっと掴み、廊下を真っ直ぐに突き進んでいく。「あ、あの周防先生?」 いきなりのことで、恐るおそる声をかけてみた。「これから帰って自分で朝ごはんを作ってから、職場に行くのは大変だろう? 母さんが張り切って、君の分まで大量にご飯を作ってしまったんだ。済まないがそれを食べてから、自宅に戻ってくれないか?」 うわぁ……。穂高さんが急患で運ばれて迷惑をかけたというのに、俺までお世話になってしまうなんて。「とんでもないです! 自分のことは何とかしますので」 恐縮しまくって言葉にすると、振り向いて眉根を寄せながら口を開く。「言ったろう、母さんが大量にご飯を作ったって。俺ひとりじゃあ、さすがにあれは食いきれない。頼むから、助けると思って食べてくれ」 大量にって、どれくらいなんだろう。周防先生の表情から想像すると、相当な量のような気がするけれど。「……分かりました。頑張ります」 渋々承諾したら掴んでいた腕を放し、にこやかな顔になった。もしや、今までのは演技だったのだろうか。「井上さんの具合も安定したし、夕方には帰れるかもしれないな。心配なのは、怪我をした頭くらいだが。さあ遠慮しないで入ってくれ」 一緒に突き当りまで進むと引き戸があり、周防先生自ら開けてくれた上に、背中をぐいぐい押されて中へと足を踏み入れた。 ああ、診療所の中
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-28
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急転直下

この日の夕方、穂高さんと一緒に自宅に帰れることになった。 頭の傷によるふらつきや目眩などの症状がなかったので、安心して自宅養生するにあたり、俺のマスク着用とうがい手洗いをしっかりすることを条件に帰してもらえたのだけれど――安定というか、すんなりといかないのはお約束だったのである。 職場にかかってきた周防先生からの帰っていいよという電話を受けて、仕事が終わったらそのまま真っ直ぐ診療所に行こうと考えていた矢先に、またしても俺宛てに電話がかかってきた。「紺野くん、外線一番の電話。漁協のフミさんからねー」 船長さんじゃなくフミさんからの電話に、どうしたんだろうと思いながら受話器を取る。「もしもし、千秋です」「あ~、忙しいトコ済まないねぇ。溝田さんから聞いたがらさ、井上さが風邪ひいて海に落っこちたって」(――ああ、もう漁協の内部に知れ渡ってしまったんだな)「そうなんです。ご心配をおかけしましたが、夕方には自宅に帰れることになりまして」「そうかぁ、それはよがったな。しっかしあんなに図体のデカい男が風邪に倒れるところが、いまいち想像つかねぇわ。アハハ!」 心配そうな声が明るいものに変わり、大笑いするフミさんにつられて俺も笑ってしまった。「風邪といっても今回はインフルエンザだったので、倒れてしまったんだと思います」「そうそう! 周防先生がさ、井上さに近付くなって言ってたがらよ、みんなが持ち寄った見舞いの品がたぁくさん、漁協の事務所にあるんだわ。千秋ちゃん悪ぃけど、仕事が終わったら取りに来てくれんべか?」 その言葉に、自分が寝込んだときに戴いた見舞いの数々を思い出した。買い物をしなくても、一週間もってしまった量だったっけ。「分かりました。終わったら寄らせてもらいますね」「頼んだよ。したっけな!」 念押しして切られた受話器を手にしたまま、ちょっとだけ考える。 穂高さんを連れて漁協に顔を出すわけにはいかないから、俺ひとりで行くのは当然なんだけど、一往復で持って帰れる量だろうか……。 みんなが持ち寄った見舞いの品という言葉で、ものすごい数になっているのが容易に想像つくだけに、困り果ててしまった。 まずは帰る前に診療所に電話をして遅れることを告げてから、漁協に行ってお見舞いの品を確認してみようと考えついた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-29
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急転直下2

***(想像以上だよ、これは――) 診療所に電話をしてから自転車で真っ直ぐに漁協へ行き、二階にある事務所に足を踏み入れた瞬間、それは目に飛び込んできた。 たくさんの見舞いの品々に、感嘆のため息が漏れてしまうしまうくらいの量だった。 何だかんだ言っても穂高さんってば、漁協のおばちゃんたちに十分愛されているじゃないか――寝込んだ俺宛てに届けられる見舞い品に対して、いちいち嫉妬していた穂高さんの気持ちが、今頃分かってしまってもな。 見舞いの品は食べ物だけじゃなく、綺麗な切り花まである始末。まるで、島のアイドルみたいだ。さすがは、元ホストというべきなのか……。 当然、一度で運べる量じゃないし自転車で来ているので、手提げ袋で持って帰れる物だけまずは運んでしまおうと考えつく。 そして家に一度帰ってそれらを置いた後に、穂高さんの車を借りてここにきて荷物を載せてから、診療所に向かうのが手っ取り早そうだ。 しかしここで問題が発生する。俺、ペーパードライバーだから……。十八歳でとったきり、一度も運転していない状態だった。(いいや、悩んでいる場合じゃない。どっちみち、歩いて帰らせるわけにはいかないんだし) 両腕に手提げ袋を引っ掛けて自転車を漕いで自宅に向かい、居間に荷物を置いてから穂高さんの車のキーを手に、ドキドキしながら運転席に乗り込んだ。 いつも指定席になってる助手席が恨めしいこと、この上ない。 恐るおそるスイッチを押し、エンジンをスタートさせた。ナビに表示される、インフィニティのロゴとエンブレムをぼんやりと眺める。身体に響いてくる聞き慣れた重低音なのに、自分がエンジンをかけたというだけで、一気に緊張感が増してしまった。 その緊張感を何とかしようとキョロキョロして、改めて運転席周りをチェックしてみた。 オートマチック車だからギアをドライブに入れて、普通に動かせばいいのは分かる。なのにどうしてハンドルに見知らぬスイッチが、こんなにもたくさんついているんだろう? ――よくよく考えたらシートだって革張りだし、電動で座席が前後するところをみると、この車って高級車になるんじゃ……。(うわぁ、擦ったりしたらどうしよう!?) ハンドルに付いてるスイッチを触らないように、上の方をぎゅっと握りしめて自分を落ち着かせるべく深呼吸を数回したのちに、ギアをドライブに入れて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-30
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急転直下3

*** 何が一体、どうなってしまったというのだろう――。 寝る準備をしていた俺に告げられたお風呂上りの穂高さんの言葉に、ぴきんと固まってしまった。 五日間、周防先生の言いつけどおり手を出さずにいた、模範的な病人だった穂高さん。 付き合う前に一度だけ彼を看病したときは我儘がさく裂して、そりゃあもう大変だった。そんな過去があったからこそ内心覚悟をしていたのに、五日間ずっと肩すかしを食らったんだ。 お互いマスクをしていたからキスができないのは当然だけど、抱きしめることはおろか、手を握ったりという軽い接触もしてこないくらい、大人しく生活していたお陰で平穏だった。(――だけどちょっぴり寂しかったというのは、ここだけの話にしておいて)「……穂高さん今、何て言いました?」 本日は六日目。普通の生活に戻ってよしと太鼓判を押されて、明日から仕事に復帰することになった穂高さんなのだが――。「ん? 千秋が自分の手で、大事なところを解しているのを見たいと言ってみた」「それって、つまり――」 あっけらかんという感じで告げられた言葉に、ぶわっと赤面するしかない。どうして、そんなものを強請るんだよ。今までの反動がそうさせているのか!?「千秋のいろんな顔を今のうちに見ておかないと、間違いなく後悔すると思ってね。今回のことで、それが嫌というほど身に沁みたから」 両腕を組み、どこか遠くを見ながらカッコよく告げられても、俺に強請ったものは卑猥に満ち溢れているものだから、当然格好よくは見えない。「何を言い出すかと思ったら、そんなの嫌に決まってるよ。恥ずかしいっ……」 ドライでイくことを覚えた身体は、前だけでイけなくなってしまった。だから自分で解す行為は、実は初めてじゃない。それを穂高さんの目の前でスルということは、その――。「恥ずかしいのなら仕方がない。それなら譲歩して、俺のを咥えている千秋の動画を撮影しようか」(――ちょっと、待ってよ穂高さん)「く、咥えるくらいならいくらでもやりますけど、それを動画で撮影するなんて、悪趣味にも程があります」 無駄に両手を握りしめながら必死になって言い放った言葉だというのに、あからさまに顔を曇らせる。俺がいくらでもやると言ったのにだ、どうしてだよ。「美味しそうに咥えている君の姿を、いつでも見たいと思っちゃダメなのかい?」 真顔で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-31
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急転直下4

***(猛烈に恥ずかしいよ。まじまじと見つめないで欲しい……) 結局、穂高さんが最初に提案したものをすることになってしまった。他のものは記録として残ってしまうから、絶対にやりたくなかった。 俺には選択権なんて最初からないに等しい状態だったので、本当にもう仕方なく涙を飲んでそれを受け入れたんだ。 全裸の俺はベッドの上で、いつものようにタオルケットを敷いてスタンバイする。手には、いつも愛用しているボトルを持っていた。 ベッドの下で座ってこっちを見ている、穂高さんの視線を背中に感じて、頬を染めていると思われる。頬だけじゃない、顔全部が熱くなっている状態――。「千秋、俺はいないと思ってはじめてくれ。さぁ、どうぞ!」「……無理ですよ。穂高さんの視線が、ぐさぐさっと背中に突き刺さってきてますもん。気にならない方がおかしいですって」 ちょっとだけ振り向きながら渋い顔で告げた途端に、ソロリと腰を上げる。「そんなに気になるのなら、いっそのこと間近で見てあげようか?」「ダメですって。これ以上近づかないでくださいっ。はじめられないですよ」「千秋の下半身が、準備OKなのは知ってる。何もしていないのに、ね――」「ううっ!」 上げかけた腰を戻しながら、ずばりと指摘されてしまった下半身の事情に、更に赤面するしかない。穂高さんに見られるだけで反応しちゃうなんて、何も言えないじゃないか。「いつまで経ってもはじめないのなら、君の手首を掴んで俺が強引にはじめてしまうかもね」「今すぐやるんで、そこで黙っていてくださいっ!」 脅しともいえる言葉に、慌ててボトルの中身を出して指に付ける。背中を丸めて、そろりそろりと後孔の入り口に塗り付けた。(俺が背中を向けているとはいえ、ヤってるのが見たいなんて、何を考えているんだろう……) 背後を気にしつつ、ゆっくりと人差し指を挿れてみた。「んんっ!」 ぬるりと侵入する指の存在を感じただけで、何とも言えない快感が下半身を襲う。いつもより感じているのは、穂高さんに見られているせい? いやきっと、久しぶりだからだよな。 すごく恥ずかしいのに火が付きはじめた身体は快感を求めて、奥深くまで人差し指を飲み込んでいく。何度か抜き差しし、息を切らしながらベッドに横たわった。「ぁ、あっ……はあはぁ、ぅあ――」 もう一本指を増やして内壁を擦り上
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-01
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