***「だけど人の心は、移ろいやすいから。心変わりさせるキッカケを作って、アキさんを奪ってみせます」 険しい表情を浮かべて強気の発言をした竜馬くんを、ハラハラしながら傍で見つめるしかできなかった。 電話に出た当初はすっごく弱々しかった竜馬くんが、途中からガラリと態度が変わっていくとともに、会話の内容もエスカレートしていった。 竜馬くん側の内容しか分からないから何とも言えないけれど、穂高さんが挑発するようなことを言ったとは思えない。「俺の千秋に近づいてくれるな」とか、それに似たような言葉で止めに入っているはずだと思う。「ぁ、あのね、竜馬くん……」 耳からスマホを外して俯いたままでいる彼に、そっと声をかけてみた。 穂高さんとやり合った後なので、間違いなく興奮しているだろう。余計な話をしないで、さっさとスマホを返してもらおうと考えた。「そろそろスマホ、俺に返してくれないかな? もうすぐはじまる講義に行かなきゃならないし」 ごくりと唾を飲み込んでから、恐るおそる口を開いた。 次の講義は休講だったけどこう言えばすぐに手渡してくれると思い、アピールするように付け加えてみた。それに竜馬くんとふたりきりでいることも上手く回避できるという、一石二鳥のアイディアだった。「ゴメンなさい、アキさん。電話が終わったら、一気に力が抜けちゃって」 謝りながら1歩近づいてきた竜馬くんに向かって、右手を差し出した。その手にスマホを、載せてくれると思った。「わっ!?」 何の挙動もなく、いきなり抱きつかれてしまった。「イヤだっ!! 放してよ、竜馬くんっ!」「アキさんの中にある心の隙間に絶対に入り込んで、井上さんから奪ってあげる」「やぁっ! 耳元で喋らないで。いい加減、腕を外してって」 身長差が少ししかないから耳元で喋られると、吐息がダイレクトに耳に入ってきて、否応なしに感じてしまう。抵抗する力まで抜けてしまうくらいに。「へえ、耳が弱いんだ。それにすっごく可愛い声を出すんだね。乱れたアキさんの姿、見てみたいな」「お願いだから解放してよ。これ以上、何かしたら嫌いになるから」「分かった、嫌われたくないし。だけど覚えておいてほしいんだ」「…………」「アキさんを想うたびに気持ちがどんどん加速していって、止まらなくなるんだってこと。すごく君のことが好きだよ」 言い終
最終更新日 : 2025-11-23 続きを読む