All Chapters of 残り火 After Stage ―未来への灯火―: Chapter 51 - Chapter 60

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Final Stage 第2章:必要のない思い遣り7

***「だけど人の心は、移ろいやすいから。心変わりさせるキッカケを作って、アキさんを奪ってみせます」 険しい表情を浮かべて強気の発言をした竜馬くんを、ハラハラしながら傍で見つめるしかできなかった。 電話に出た当初はすっごく弱々しかった竜馬くんが、途中からガラリと態度が変わっていくとともに、会話の内容もエスカレートしていった。 竜馬くん側の内容しか分からないから何とも言えないけれど、穂高さんが挑発するようなことを言ったとは思えない。「俺の千秋に近づいてくれるな」とか、それに似たような言葉で止めに入っているはずだと思う。「ぁ、あのね、竜馬くん……」 耳からスマホを外して俯いたままでいる彼に、そっと声をかけてみた。 穂高さんとやり合った後なので、間違いなく興奮しているだろう。余計な話をしないで、さっさとスマホを返してもらおうと考えた。「そろそろスマホ、俺に返してくれないかな? もうすぐはじまる講義に行かなきゃならないし」 ごくりと唾を飲み込んでから、恐るおそる口を開いた。 次の講義は休講だったけどこう言えばすぐに手渡してくれると思い、アピールするように付け加えてみた。それに竜馬くんとふたりきりでいることも上手く回避できるという、一石二鳥のアイディアだった。「ゴメンなさい、アキさん。電話が終わったら、一気に力が抜けちゃって」 謝りながら1歩近づいてきた竜馬くんに向かって、右手を差し出した。その手にスマホを、載せてくれると思った。「わっ!?」 何の挙動もなく、いきなり抱きつかれてしまった。「イヤだっ!! 放してよ、竜馬くんっ!」「アキさんの中にある心の隙間に絶対に入り込んで、井上さんから奪ってあげる」「やぁっ! 耳元で喋らないで。いい加減、腕を外してって」 身長差が少ししかないから耳元で喋られると、吐息がダイレクトに耳に入ってきて、否応なしに感じてしまう。抵抗する力まで抜けてしまうくらいに。「へえ、耳が弱いんだ。それにすっごく可愛い声を出すんだね。乱れたアキさんの姿、見てみたいな」「お願いだから解放してよ。これ以上、何かしたら嫌いになるから」「分かった、嫌われたくないし。だけど覚えておいてほしいんだ」「…………」「アキさんを想うたびに気持ちがどんどん加速していって、止まらなくなるんだってこと。すごく君のことが好きだよ」 言い終
last updateLast Updated : 2025-11-23
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Final Stage 第3章:困難な日々

竜馬くんとの接触を控えるべく、まずはバイトのシフトの時間を変更しようと大学の授業が終わってから、コンビニに真っ直ぐ向かった。 従業員入り口から事務所に入ると、店長がパソコンの前で仕入れ状況の確認をしているところで、その背中に大きな声をかけた。「お疲れ様です!」「お疲れー。あれ、今日シフト入ってたっけ?」 キーボードの手を止めて小首を傾げながら、俺の顔をわざわざ見つめる。「いえ……。あのその件で、ご相談したいことがありまして」 店長がシフトという言葉を口にしてくれたお蔭で、すんなりと話ができそうだ。「紺野くんが深刻な顔して相談なんて、何だかドキドキするな。そういえば、スーパーのバイトを始めたそうだね。掛け持ちがキツくなってきたとか?」 傍に置いてあったパイプ椅子を目の前に用意し、座るように促されたので遠慮なく腰掛けて、背筋を伸ばしながら姿勢を正した。「スーパーは週末だけにしているので、全く問題ないんですけど……」 参ったな、竜馬くんとのシフトをズラす理由を考えてなかった――勢いだけで、ここに来てしまったから。「えっとですね大学の単位がですね、ちょっとだけヤバいのがあって……。できれば今のシフトの曜日を、変更していただけたら助かるんですが」 自分のバカさ加減を思いきり晒してしまうセリフになっちゃったけど、こうでもしないとシフトの変更をしてもらえないだろうと咄嗟に考えつき、眉根を寄せながら臨場感たっぷりに語ってみた。 俺の言葉に店長はパソコンの画面にシフト表を映し出して、う~んと唸る。「曜日の変更ねぇ。回数も減らした方がいい?」「やっ、そこまでしなくても大丈夫です! 曜日だけ変えていただければ、まったく問題ないですし」「だったら、俺のシフトとチェンジしたらどう?」 扉をノックする音と一緒に、聞き慣れた声が事務所の中に響いた。その声に振り返るなり、目が合った途端に微笑んでくれる。「ゆっきー?」「おっ、雪雄。いきなりの登場で話に入り込むとか、ちゃっかり盗み聞きしてただろ?」 店長はゆっきーの叔父さんにあたる人で、やり取りを見ていると親子のように仲がいい。「まぁ結果的には、そうなっちゃたけどさ。入りにくい雰囲気が、事務所の外まで漂っていたからね。で、シフトの話はどうかな千秋?」「ゆっきーのシフト?」「そ。ほら叔父さん、見せてやっ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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Final Stage 第3章:困難な日々2

*** その日、いつものようにバイトに勤しみ、何ごともなく終えることができた。竜馬くんと一緒に仕事をしないだけなのに、ビックリするくらい疲れがなくて――。「それだけ彼の存在が俺にとって、ストレスになっていたんだな」 ぼそっと独り言を言いながらロッカーを閉め、軽い足取りで店の外に出た。体を包み込む冷たい空気も、全然平気――穂高さんもこの時間、海の上で頑張っているんだよなと口元に笑みを湛えたときだった。「お疲れ様、アキさん」 音もなく突如現れた竜馬くんに、絶句するしかない。この状況って俺が穂高さんに迫られたときと、まったく同じじゃないか。「な、んで?」 反応しちゃダメだって穂高さんに言われてたけど、待ち伏せされるなんて思ってもいなかったから、つい声をかけてしまった。「何でって、それは俺が言いたいよ。いきなりシフトを変えちゃうんだもんな。大学だって逢うのはマレなのに、ここでも逢えないとなったら、アキさんの帰りを狙うしかないじゃないか」 帰りを狙うって、そんな――。「ハハッ、すっごく驚いた顔してる。それに安心して。夜道で襲ったりしないから」「と、当然だよ、そんなの……」 今更だけど動揺しまくりの顔を見られないように顔を背けつつ、足早に歩き出した俺の隣にピッタリと並んで歩く竜馬くん。 ――思い出しちゃう。穂高さんと正式に付き合う前に、一緒に帰っていたのを。やってることがまったくと言ってもいいくらいに同じで、頭を抱えるレベルだった。「俺ね、アキさんが大学構内の階段下で電話してるの、偶然聞いちゃったんだ」「!!」 竜馬くんの言葉に一瞬声が出そうになり、慌ててくぅっと飲み込んだ。(――何であそこにいるのが、バレたんだろ?) 不思議に思って隣にいる彼のことを、恐るおそる見つめた。「『愛してる、穂高さん』って言ってるのを聞いて、すっごく妬けた。井上さんが羨ましくなった。だけどね……」 ため息をつきながら、こっちを見る。だけどそこはあえて無視しなきゃいけないから、視線を逸らそうと試みたけど、竜馬くんから放たれる熱のこもったものがすごくて、どうしても逃げられなかった。「俺の心の中に、蒼い炎がメラメラと燃え始めたんだよ。きっとアキさんの心に火を宿すために、俺の心に蒼い炎が点火したんだと思うんだ。この炎で君を包み込んで、奪ってあげるから。覚悟してほし
last updateLast Updated : 2025-11-25
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Final Stage 第3章:困難な日々3

*** つい勢いで、電話を切ってしまった――直ぐ様、リダイヤルしなきゃならないというのに手が……心が動かない。(何をやってるんだ、俺は……。千秋が苛立つのも無理はないのに。不安で怖くてしょうがない気持ちのせいで、あんなことを言ったというのに) 千秋に昨夜のいきさつを聞きながらも、俺はどこかでそれを受け流していたと思う。仕事の忙しさや自分のおかれている立場に、ムダにイライラしてしまって余裕がなかったのは事実だ。 普段、力技を駆使しない彼が畑中君に迫られ、頭突きをかましたことをもっと褒めてあげなくてはならなかったハズだというのに。「……って、ちょっと待て。頭突きをかました時点で、どうして気がつかなかったんだ。それだけ近距離で、迫られていたってことじゃないか!」 今、それに気がつくとか、何て無能なんだ俺は――何事もなかったという事実に囚われて、重く受け止めていなかった。 へなへなとその場にしゃがみ込み、道路の真ん中に体を横たえる。寒風が吹き荒んでいたが、めちゃくちゃ天気が良く、青い色の空が目に眩しく映った。「こんなところで寝てたら、車に轢かれちゃうよ。穂高おじちゃん」 俺の肩を、ゆさゆさと揺さぶってくれる小さな手。それが温かいの何の。「ヤスヒロ、おはよう。これから学校かい?」 海で溺れ、内地の病院で2週間ほど入院してから、こっちに戻って来た。周防先生の息子さんの応急処置のお蔭で後遺症もなく、今も元気に学校に通っている。「おはよう! そうだよ、余裕を持って学校に行かなきゃ」 もうそんな時間なのか。早く朝ご飯を食べて、倉庫に戻らなければならないな。「穂高おじちゃん、すっごく疲れた顔してるね。千秋兄ちゃんとケンカでもしたんでしょ?」「……疲れた顔ひとつで、どうしてそこに千秋の名前が出てくるんだい?」 子どもならではの千里眼だろうか。しかもヤスヒロはこんなに小さくても、空気を読むことに長けているから尚更なんだが。「だってさ、穂高おじちゃんはどんなに仕事が忙しくても、楽しそうにしているもん。だからきっと、千秋兄ちゃんと何かあったんだなと思っただけ。当たってた?」 俺のことを、よく観察しているな。恐るべしヤスヒロ! 子どもにこれ以上、カッコ悪いところは見せられない。無言で起き上がり、お尻の部分をバシバシと叩いて汚れを落した。「ケンカというか、
last updateLast Updated : 2025-11-26
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Final Stage 第3章:困難な日々4

*** 穂高さんに電話を切られたあと、あのまま動けず、どうにもならないまま時間だけが経ってしまった。 穂高さんの生活のサイクルは夏休み一緒にいたため把握済みだったから、電話をかけていいタイミングも分かっていたのだけれど。(またしても繋がらないとか、どうすればいいんだよ……) いつも相手にばかり、かけさせていたツケだろうか。自分からかけた途端に、まったくもって繋がらない。しかも穂高さんからもかけてくれているのに、ゆっきーとシフトを変えたせいでタイミングが合わずに、ずっと出られないままだった。 ――まるで運命の神さまが、イタズラしているみたいだな。「あれから3日しか経ってないのに、ずーっと話せないでいるね。声が聞きたいよ、穂高さん」 俺の大好きな心に染み入るあの声が、聞きたくて堪らない―― 電話で話せないのならメールなり何なり、すればいいじゃないかと言われそうだけど、某アプリでメッセージのやり取りをやっていた。とりあえずまずはお互いに、謝るところから始まった。『穂高さん、ゴメンなさい。俺が変な事を言ったせいで、怒らせてしまって』『俺こそ済まなかったね。千秋が不安に駆られているのに慰めもせず、ちょっとした一言に反応して、カッとなってしまった。いつもなら受け流すことが出来るのに、全然そんな余裕がなくて。情けない』『情けないのは、俺のほうです。竜馬くんに待ち伏せされたくらいで酷く動揺して、情けないにも程がある』『それだけ怖い思いをしたんだ。予想出来なかった分だけ、衝撃は半端なかっただろう。その気持ちを分かってやれず、済まないと思ってる』 このやり取りも、スムーズにしたワケじゃない。既読するのも返事をするのも、お互い数時間後だったりした。いつもならどちらかが謝ったらそれで終いになって違う話題に移るハズなのに、何だか堂々巡りしそうな感じなんだ。 だからいち早く、直接話がしたいって思ってるのに――穂高さんの声を聞いて、不安を解消したいと願っている。未だに恐怖が続いているから、そう思ってしまうのは尚更なんだけど……。 あれからも、竜馬くんの待ち伏せは続いていた。『押し付けられる想いは、迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたりイヤなことをするようなら、俺にも考えがあるから』 そう言って次の日に実行した、シフトの変更。他にも何かするかもしれな
last updateLast Updated : 2025-11-27
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Final Stage 第4章:長い夜

 いつものように仕事を終えて、恐るおそる外に出る。 この日は肌寒くなくて、身を縮こませることなく歩き出せた。ちょっとだけ、あったかい感じの南風が吹いてるせいかな。凍てつくような北風なら、穂高さんのいる島の空気を思い出せるのに。 そんなことを考えつつ、通りすがりに横目で竜馬くんの姿を捜してみたら、店舗の入り口付近に座っていた。足元には缶ビールの空き缶が、数本転がっている状態だった。 その様子にドン引きして足早に走り去ろうとしたら、大きな声で話かけられる。「お疲れ様ぁ、アキさん。待ってるのが寒くって、ひとりで宴会しちゃった」(――こんなにあったかく感じるのに寒いなんて、ちょっとおかしいんじゃないのか!?) 陽気に笑って話しかけてきた竜馬くんに、眉をひそめて振り返ると、足元の空き缶を外にあるゴミ箱に手早く捨てて、「さてと」と一言呟きながら振り向く。 俺と目が合うと嬉しそうに微笑んで足を進めてきたので、逃げるように走ってやった。「うわー呑んでるから追いかけるの、結構つら~……」 とか何とか言いながらもちゃっかり追いかけてくる彼に、嫌悪しか感じない。 ついてくるなと必死になって走っていたら、アパートの近くに辿り着く。内心安心したその途端だった。 ズシャッ! 明らかに転びましたという音が、耳に聞こえてしまった。「いったぁ……」 酔っているのに、走ってついてくる竜馬くんが悪い。自業自得なんだけど――。 ため息をついて走っていた足を止め、踵を返して彼の元に渋々歩いて行った。「大丈夫?」 言いながらぶっきらぼうな感じで手を差し出すと、転んだ状態を崩さずに、ふっと顔を背けた。「……あまりにも惨めな姿に、仕方なく手を貸してくれる気になったの?」「そんなこと……ないよ。だって友達だし。俺たち……」 竜馬くんがこんな風になる前は、仲のいい友達だった。彼の人柄を知っているから、手を貸さずにはいられない。「っ……なんで……なんで友達以上に、なれないんだよっ!!」 俺に顔を背けたまま言い放った声が、住宅街の中に響いた。悲しみの中にやるせなさを含んだ声色だったけど、心の中には全く響かない。「竜馬くん、お酒あんまり強くないのに、呑み過ぎたみたいだね」 言い放ったセリフをスルーして、違う言葉をかけてやる。あえてそれを言うことで、どんな言葉をかけられても俺
last updateLast Updated : 2025-11-28
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Final Stage 第4章:長い夜2

 待たせている間に気が変わったりしたら、堪ったもんじゃない――その思いがあったので何をするにも、イライラしながら行動する。鍵を開ける手ですら、もどかしさを感じてしまった。 急がなきゃと呟いて扉を勢いよく開けて、玄関にぽいぽいっと靴を脱ぎ捨て居間に入り電気を点けた。 向かって左側にある冷蔵庫に手を伸ばし、水の入ったペットボトルを持って台所に行き、洗い籠の中にあった大きめのコップにだばだばと注ぐ。 そして、ペットボトルのキャップを閉めようとした瞬間だった。太い二の腕が俺の身体に、ぎゅっと巻きついてきた。「なっ!?」 何でという言葉が、一瞬にして奪われた。顔のすぐ横にある竜馬くんの微笑みに、躰が固まってしまう。「待っていられなくて、勝手に上がらせてもらっちゃった。お水、ありがとアキさん」 アルコールのニオイが鼻腔をつく。それだけじゃなく背後から抱きしめられている躰から、竜馬くんの体温やらいろんなものが伝わってきて、瞬く間に恐怖心が増していった。「はっ、放して、よ……。お願ぃ、だから」「そんな風に震えながら掠れた声をあげるなんて、まるで感じてるみたいに聞こえるね」「ちがっ……そんなんじゃ、な――っ!?」 いきなりくちびるで耳たぶを食まれてしまい、言葉を止められたけど――いつもより感じられないのは、この先に行われるであろう行為を予測して、身体が拒絶反応を表しているのかもしれない。 ゾクゾクという感覚じゃなく、肌の上にビリッとした電気が走っているみたいだ。 くるりと身体を反転させられたせいで、竜馬くんと向かい合う形になった。目の前にあるギラギラした瞳を目の当たりにして、藤田さんが告げた言葉をふと思い出す。『堰き止められた想いは、水と同じなんだ。互いに想いが伝わり、流れ続けていればキレイでいられるけど、堰き止められたままでいたら、みるみる内に腐っていく。腐敗した想いを抱えていたら、どうなると思う? 俺のように、拗れた人間になっちゃうんだよ。腐敗した想いを何とかしたくて、汚い手を使って相手を落とし込んで、想いを通わせようとするんだ。キレイになりたいから……。少しでもいいから分かってほしくて、ね』 竜馬くんの心は、腐ってしまったのかな。俺の知ってる優しい彼は、もういないのだろうか?「もう誰にも邪魔されない。俺だけのモノにしてあげるよアキさん」「それ
last updateLast Updated : 2025-11-29
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Final Stage 第4章:長い夜3

*** 目の前の出来事を現実と認識するには、あまりにも惨いものだった。『これは悪夢であって現実ではない』と脳が勝手に判断して踵を返しかけたが、その現実を確かめるべく反射的に叫んでいた。「千秋っ!?」 その声に驚いて千秋の上から退く男に、視線を飛ばす。その表情は、何で来たんだと顔に書いてあった。 男に対して文句を言いたいのは山々だったが、それよりも――。「ち、あき……千秋、ちあきっ」 可哀想に冷たい床の上に両腕を後ろ手に縛られているだけじゃなく、全裸で横たわったまま真っ白い顔色をして……。「千秋? 千秋……、返事をしてくれ、ちあきぃっ!」 傍に駆け寄り抱きしめたいのに、居間の入り口から一歩も動けずにいる自分。さっきから躰の震えが止まらない。 姿かたちは千秋なのに、ただ目が――虚ろな目をしている千秋が、俺の知ってる千秋じゃなかった。それは別人に見えるくらいのレベルだった。 躰の震えを止めるべく両手にぎゅっと力を入れると同時に、奥歯を強く噛み締めた。(――逃げてはいけない。一番辛い思いをしているのは、目の前にいる千秋なのだから。早く傍に行って、頬を濡らしてる涙をこの手で拭ってやらねば。俺は彼の恋人なんだ!) 何とか左足を動かした途端に男が……畑中君が千秋の躰に覆い被さった。「アキさんは……、アキさんは俺のモノだっ。絶対に渡さない!」 もしかして、千秋の変化に気がついていないのか!? 「可哀想なヤツだな、君は。一番大切な人の変化にも、気づけないなんて」「えっ!?」「千秋の顔をよく見てごらん。俺たちの知ってる千秋の顔じゃない」 俺の言葉にゆっくりと首を動かし、覗き込むように千秋の顔を見る。「!!」「君のしたことで、千秋の心に傷がついたんだろう。それだけじゃない、君の想いが彼の全部を焼き尽くしてしまったんだ」 千秋から聞いた畑中君の告白を思い出しながら、眉根を寄せて告げてみた。「俺の想いが、アキさんの全部を壊し、た……?」「ああ。君が言ってた蒼い炎だよ。普通の炎よりも温度が高いから、そういう表現を使ったと思うのだが、俺からすると狂う方の狂気にしか見えないね。その高い温度で、何でも溶かせるんだ。自分の中にある冷静な判断力を溶かして失わせ、終いには愛する千秋まで壊してしまったのだから。君の想いは、狂気であり凶器なんだ」「きょうき…
last updateLast Updated : 2025-11-30
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Final Stage 第4章:長い夜4

*** どうしてだろう、肩口がすごく熱い。しかも痛みがどんどん増していってる。 聞き覚えのある声が直ぐ傍で聞こえたのに、瞬く間にその人の気配が掻き消えたと思ったら、左肩に違和感を覚えた。鈍痛じゃなく、まるで咬まれてるような痛さ。この感じ、前にも体験したことがある気がする。そう、あれは――。『ゴメン、痛くしてしまって』「井上さん、思いっきり咬んだでしょ」『……咬んだ。俺のだっていう印を、どうしても付けたかったから』 店員と客という間柄だったのにも関わらず、いきなり咬みついてきた変な人がいたな。俺は誰のものにもならないと言ってるのに、闇色をした瞳に強い光をまとわせ、絶対に俺のものにすると豪語されたんだ。 何て勝手な人だと内心は腹を立ててしまったけれど、それとは裏腹に惹かれずにはいられなかったっけ。 自分が持っていない大人の雰囲気や胸に響くような低い声色が、否応なしに心を揺さぶってきて、気がついたら好きになっていた――抱かれてからは、もっともっと好きになってしまった。「ほ……だか、さ――ぃ、たい、よ」 ――俺の最愛の人、井上穂高。かけがえのない唯一無二の存在――「千秋っ、千秋、気がついたのかい!?」「ぁ……れ?」 声を出したいのに上手く出せない。自分の躰なのに、コントロールができないとか情けないな。「千秋……ちあ、きっ…戻って来てくれて、ありが、うっ……ううっ」 目の前にいる穂高さんが、両目から涙を溢して泣き出してしまった。その涙を拭いたいのに手を動かすことができないなんて、ダメな恋人だな俺は。「泣かな、ぃで。穂高さん……」 戻って来てくれてって、一体どこから? 俺ってどこかに行ってたのかな? それにどうして島にいるハズの穂高さんが、俺の部屋にいるんだろう? まるで夢を見ているみたいだ。 ……まるで、夢を見ているみたい? 次の瞬間、俺の頬に穂高さんが流した涙がぽとりと落ちてきた。その感触に、これは夢じゃないって分かったのだけれど。 ――俺は何で大事な人を、こんな風に泣かせてしまったんだっけ?『もう誰にも邪魔されない、俺だけのモノにしてあげるよアキさん』 考え込んでいると、竜馬くんの声が不意に頭の中に響いた。今まで聞いたことのない彼の声色に、躰が自然と竦んでブルブルと震えてくる。 そうだ、俺は――。「千秋?」 頬を涙で濡ら
last updateLast Updated : 2025-12-01
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Final Stage 第4章:長い夜5

「千秋――」「ごめっ、穂高さんの気持ち、ちゃんと考えてなかったよね。本当にご――」「参った……」 謝り倒そうとした俺の言葉に、低い声色で告げられた穂高さんの言葉が重なる。「あれ?」 きょとんとした俺に背を向けて、着ていたTシャツをさっさと脱ぎ捨てる。鍛えられた上半身が目に映り、それだけで体温が上がってしまった。 はーっと深いため息をつき、右手で栗色の髪の毛をくちゃくちゃっと掻き上げながら、チラリと視線だけでこっちを向く。その目はいつもと違って、やるせなさを含んでいるものだった。「ぁ、あのぅ?」「千秋、強請ったからには、イヤだとか止めてなんていう言葉をなしにしてくれ」「は?」「一旦シャワーを浴びるなり、どうにかして時間をおいて、俺なりに頭を冷やそうと考えたんだよ。畑中君に感じさせられてイカされた君の姿を目の当たりにして尋常でいられる程、できた人間じゃないんでね」 ――それって、穂高さん……「俺の方が、千秋をもっと感じさせることができる。散々啼かせながら喘がせて、もっと気持ちよくさせる自信があるからこそ、直ぐにでも抱きたかった。だが君は傷つき、精神的に参ってると思ったから我慢したワケなのだが……」 ふっと視線を俺から外し、明後日を向いてしまう。その表情がをどうしても見たくて起き上がりながら、横顔を眺めてみた。「さっきから物欲しそうな顔をしたり、俺を煽るような言葉を言ったり。参ったとしか言いようがない」「……だって穂高さんが欲しいんだもん。しょうがないじゃないか」「ほらまた煽る! いつものように優しくはできないから、覚悟してくれっ」 苛立ち任せに言い放つなり、ベッドの下に置いてあるプラスチックケースからバスタオルを引っ張り出して首にかける。その姿をぼんやり眺めていたら布団を剥ぎ取って、いきなり肩に担がれてしまった。「うわぁっ!」 強引モードに入ってる穂高さんは、何を仕出かすかさっぱり分からない!「暴れないで、じっとしていてくれ。首にかけたバスタオル敷くから、取ってくれないか?」「わわっ!? ぁ、あぁ、あの……ハズカシイよ。それにアブナイ」 差し出した手に何とかバスタオルを握らせたけれど、今の状況はいろんな意味でヤバい。 バスタオルを敷こうと屈み込む穂高さんの背中に、すごい体勢のまま全裸でしがみ付く自分。ただ全裸ってだけじゃな
last updateLast Updated : 2025-12-02
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