静奈は反射的に道を譲ろうとしたが、体の反応が遅れ、足がもつれて前に倒れそうになった。背後のボディガードたちは顔色を変えた。病に苦しむヴィクトルがどれほど癇癪持ちであるか、彼らはよく知っていた。少しでも気に入らないことがあれば、すぐに殺意を抱くのだ。この女はヴィクトルの行く手を阻んだ。無事では済まないだろう。数人のボディガードが手を伸ばし、彼女を力ずくで引き離そうとした。ヴィクトルを怒らせないためだ。しかし、彼らの手が彼女に触れる直前、ヴィクトルは手を上げてそれを制した。彼は少し体をずらし、骨ばった手で静奈を軽く支えた。鼻先が微かに動き、淡い香りが届いた。実験試剤の清涼な匂いと、目の前の女性自身の甘い香りが混ざり合っていた。非常に淡く清潔なその香りに、彼はなぜか心地よさを感じた。その香りは彼の張り詰めた神経をわずかに緩ませ、体の不快感さえも和らげた。静奈は顔を上げ、目の前の男を見た。顔立ちは整っているが、肌は異常なほど青白く、こめかみの血管が透けて見えた。立体的で深い目鼻立ちは、油絵から抜け出してきたようだった。しかしその目には一切の温度がなく、全身から強い威圧感を放っていた。まるで優雅な猛獣が、いつでも牙を剥く準備をしているかのようだった。直感が、この男は危険だと激しく警告していた。静奈は緊張し、本能的に半歩下がって腕を引いた。「ありがとう」彼女の声は少し嗄れていた。ヴィクトルは答えず、ただ淡々と彼女を一瞥した。その灰青色の瞳には何の感情もなかった。彼がボディガードたちに囲まれて廊下の奥へ消えるまで、静奈は息を潜めていた。あの息苦しい威圧感が完全に消え去り、彼女はようやく息を吐いた。背中には冷や汗をかいていた。高熱による意識の混濁も、この突然の恐怖で少し薄れたようだった。彼女は壁に手をついて気を取り直し、受付へと向かった。受付、診察、検査オーダー、採血。静奈は手順通りに進め、結果を待った。彼女の血液サンプルは検査科へ送られた。臨床検査医はパソコンの画面のデータを見て、顔色を変えた。目をこすり、もう一度見て、瞳孔を収縮させた。彼は椅子から跳ね起き、院長室へ走った。「い、院長――」彼はドアを開け、震える声で言った。「ヴィクトル様の血液型と……9
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