「ママ、かくれんぼしようよ?」息子の久我湊斗(くが みなと)の甘い声が耳に届いた瞬間、私は全身をこわばらせる。見下ろすと、五歳の湊斗が私の膝に顔をのせ、まんまるな瞳で見上げている。太ももに伝わるぬくもりが、やけにリアルだ。――これは、死ぬ間際に見た幻じゃない。私は、本当に生き返ったのだ。湊斗が「かくれんぼ」を口実に、私をベランダへ誘い出し、鍵をかけて閉じ込め――私を凍え死にさせた、あの日に。前の人生で、私と湊斗の関係はうまくいっていなかった。彼は、何をしても叱らない父の久我彰人(くが あきひと)が大好きで、口うるさい私を嫌っていた。だから私が話しかけるたびに、彼は狂ったように物を投げつけ、私を蹴り、叩いた。一番ひどいときには、私は病院で八針も縫うケガを負った。退院したあと、私は湊斗を思いきり叩いた。けれど彰人が止めに入った。「子どもなんだから、わからなくても仕方ないだろ。大人が本気になってどうする」――そう言って。そのとき友人が言った。「どんなに血がつながってても、育たない子はいるのよ。生まれつき恩知らずの子もね。それに彰人さん、あの子ばかりかばってるじゃない。そんな家、早く離れたほうがいい」でも私は離れられなかった。湊斗をこの世に連れてきたのは私だ。だから、彼の未来に責任を持たなきゃいけないと思っていた。けれど現実は、そんな私を無惨に裏切った。前の人生で私は、どうにか湊斗との関係を取り戻そうと必死だった。だから彼が急に甘えた声で「ママ、かくれんぼしよう」と言ったとき、胸がいっぱいになって、何度も頷いてしまった。――まさか、五歳の子どもが、自分の母親を殺そうとしているなんて、誰が想像できるだろう。 かくれんぼの途中、湊斗は何度もベランダに隠れた。湊斗がどこに隠れるのかを見て、次は同じ場所に隠れたらきっと喜ぶだろうと思った。まさか、その一歩が――死を招くことになるなんて、思いもしなかった。私がガラス戸を出た瞬間、湊斗はすぐにその戸を閉め、鍵をかけたのだ。音に気づいた私は慌てて引き返し、ガラス戸の前に駆け寄った。冬の寒さは容赦がなかった。大粒の雪が白い羽のように空を舞い、ベランダには冷たい風が絶え間なく吹きつけていた。さっきまでリビングにいたせいで、私は薄
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