All Chapters of フォートレス・フロンティア・オンライン: Chapter 11 - Chapter 20

24 Chapters

第10話 束の間の楽園と、王者の視線

 地区大会一回戦の劇的な勝利から、二週間が過ぎた。 僕たちのチーム『ジャンク・キャッスル』は、あの後も、快進撃を続けていた。 二回戦の相手は、フィールド全体に巧妙な罠を張り巡らせる、待ち伏せ戦術を得意とするチーム『スパイダーズ・ネスト』。僕たちは、ユイの索敵・分析能力で全てのトラップの位置を事前に看破し、クエンティンがそれを掻い潜って敵を蹂躙した。 三回戦の相手、『アルケミー・ワークス』は、フィールドに配置された「魔法の素材」を誰よりも早く確保し、強力な属性攻撃だけで戦う特殊なチームだった。僕たちは、彼らが狙う「炎の魔石」を敢えて無視。代わりに、ユイの提案で、水場を利用して湿らせた木材で「燃えない壁」をクラフトし、彼らの戦術を完全に無力化した。 そして先日の四回戦。軍隊のように統率の取れた動きで相手を追い詰める『アイアン・センチネル』。その完璧な連携を、僕とユイがリアルタイムで作り出す、予測不能な「ジャンク・クラフト」でかく乱し、勝利をもぎ取った。 今日も僕たちチームが『シュミットの工房』に集まると、ヴィル爺さんが上機嫌で鼻歌を歌っていた。「よう、若きチャンピオンたち。祝勝金だ、持っていきな」 ヴィル爺さんは、そう言って、一枚のクレジットチップをテーブルの上に放る。そこには、僕たちのような高校生にとっては、ありえないほどの金額が表示されていた。「まだ賭けてたのかよ、爺さん!」「当たり前よ。お前さんたちのチーム、とんでもない大穴だからな。すでに、いつ敗退するかなんて賭けも始まっているくらいだ。おかげでワシの懐も、久々に潤ったわい」 彼は、にやりと口の端を吊り上げると、「たまには息抜きも必要だ。パーッと使ってこい!」と、僕たちの背中を押した。「ねぇねぇ! このお金があったらさ、ミッドタウンにある、あの高級な人工ビーチに行けるんじゃない!?」 ミミ先輩の提案で、僕たちの、たった一日だけの豪華な息抜きが決まった。 清潔で、洗練されたミッドタウンの街並みに、まず僕たちは気圧された。そして、目的地の巨大なドーム型人工ビーチに足を踏み入れた瞬間、誰もが息をのんだ。 完璧に再現された
last updateLast Updated : 2025-11-16
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第11話 二人だけの時間

 ランスロットたちと会って数日が経ち、無名のノーシードチームだった僕たちは、今や「今大会最大のダークホース」として、他のチームからも、観客からも、注目される存在になっていた。 だが、そんな喧騒とは裏腹に、僕にとって一日の中で最も大切な時間は、夜、自室のPCの前で、ユイと二人きりで過ごす、静かな時間だった。 もっとも、その静かな時間も、最近は少しだけ憂鬱なものになっていた。 僕は気が進まなかったため、最初は姉さんから渡された問題集を放置していた。だが、それが週末に抜き打ちでチェックに来た姉さんにバレると、毎日解いた問題集のページを写真で送るように言われ、今では渋々、FFOの練習の合間に問題集をこなす毎日だった。 その夜も、僕はうんざりしながら数学の問題集と格闘していた。隣のモニターでは、ユイのホログラムが、僕の手元を心配そうに覗き込んでいる。『リク……疲れてる?』「うーん、姉さんが課題をやれってしつこくてさ。あー、あのサプリ買えばよかったなぁ」 僕が愚痴をこぼすと、ユイは不思議そうに小首を傾げた。『サプリ?って何?』「えーと、FFOの練習の帰りにさ、いつもと違う道を通ったら、ちょっとした行列ができててさ。なんの行列なのか聞いてみたら『記憶力の上がるサプリ』の試験販売だったんだ。あれを飲めば課題も捗るんじゃないかって思ったんだ」「どうして買わなかったの?」 ユイはさらに不思議そうに小首を傾げた。「うーーん、クエンティンが言うにはさ、あれ『ゼノなんとか教』のサプリだから何が入っているか分からないからやめておけって止められたんだよね。僕はよく知らなかったんだけど、信者獲得のために、すごいサプリとかを格安で販売しているらしいんだけど、色々黒い噂があるって」『黒い噂?』「うん、なんだかその教団は『人類の人工的な進化』を掲げているらしくってさ。人体実験ですごい能力を持つ人間を作ろうとしているらしいんだ。『記憶力の上がるサプリ』もその一環なんだって。でもそういうのって副作用とかあったら怖いからやめとけって、クエンティンが」『……
last updateLast Updated : 2025-11-17
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第12話 空の上の番人

 準決勝を翌日に控えた夜、僕たちチーム『ジャンク・キャッスル』は、『シュミットの工房』の事務室で、最後の作戦会議を開いていた。モニターに映し出されているのは、対戦相手である『グリフォン・ダイブ』の、これまでの試合のリプレイ映像だ。「これが奴らの『グリフォン・ダイブ』か……。単純な突撃だが、とんでもない速度と破壊力だな。相手に息つく暇も与えてない」 クエンティンが、腕を組みながら唸った。準決勝まで勝ち上がってきただけあって、その実力は本物だった。「うむ。個々の技量は、間違いなく今大会トップクラスだ」リョウガ先輩も、厳しい表情で同意する。「しかし、その戦術は諸刃の剣でもある。もし、この最初の猛攻を凌ぎきることができれば、一気に流れはこちらに傾くはずだ」「だよねー。あたしがちょこちょこっとかき乱している間に、クエっちがコア殴る、とかはどうかな?」 ミミ先輩の言葉に、僕は自分のアイデアを重ねた。「そうですね。僕がコアを囮に使って、素早く移動できる城でアタッカーたちを引きつけている間に、みんなで敵のコアを叩くのが、良さそうです」 作戦は、すぐにまとまった。相手の猛攻から逃げ回り、その隙に三人のアタッカーで、手薄になった敵のコアを一斉に破壊する。理論上は、妥当な作戦だった。 だけど、僕の胸には、拭いきれない、もやもやとした不安が広がっていた。これほど強いチームが、こんなにも分かりやすい戦術だけで勝ち上がってこれるものだろうか。『リク? ……どうしたの? 不安の感情の波形を感じる』 僕の視界の隅で、ユイのホログラムが、心配そうにこちらを覗き込んでいた。「大丈夫だよ、ユイ。……たぶん、考えすぎだよ」 僕は、そう言って笑ってみせた。 そして、運命の準決勝当日。 僕たちは、いつものように大会会場のブースに入り、それぞれのPCの前に座った。外の喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。僕は、自分の機材を一通りチェックすると、最後に、ジョイスティックの横に置かれたフィグモを手に取った。 あの日以来、僕は、ユイの顔をまとも
last updateLast Updated : 2025-11-18
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第13話 折れた翼の反撃

 ミミ先輩とクエンティンが、なすすべもなく空から落とされていく。モニターに映るその光景に、僕の思考は一瞬、凍り付いた。 だけど、絶望している暇なんて、一秒もなかった。 敵の護衛役が二人を落としている間、幸いにも、空中要塞『グリフォン』本体の『大砲』による砲撃は止んでいた。おそらく、『大砲』と『クロスボウ』の操作を同時にはできないためだろう。 好機は、今しかない。「今のうちだ! 逆転のためのクラフトだ!」 僕の頭の中には、この絶望的な状況を覆すためだけの、一つのアイデアが組み上がっていた。「ユイ! 僕の城と、あの空中要塞との速度差はどのくらい?!」『空中要塞のほうが、倍くらい速い! このままじゃ、直ぐに追い詰められる!』「そっか、『推進ファン』がいるな。とにかく、スピードだ!」 FFOでは『推進ファン』によって、さまざまなクラフトを飛ばすことができる。だけど、今からこの要塞を飛ばすほどの『推進ファン』を集めている時間はない。空中要塞を落とすだけなら、相手を上回る速度さえあればいい。 僕は、近くに転がっていた『推進ファン』を二つ、スキルで自分の元へと引き寄せた。そして、ユイの精密なアシストを借りて、速度アップと小回りが最も効く角度で、僕の要塞の側面の中央部に取り付ける。その作業が完了するのと、敵の砲撃が再開されるのは、ほぼ同時だった。 ——間一髪。 新たに『推進ファン』を搭載した僕の要塞は、地面を滑るように、まるで飛ぶように、猛烈な勢いで加速した。 そして、僕たちにとって幸運だったのは、空中要塞の『大砲』に『自動照準装置』が付いていなかったことだ。だから、彼らは要塞本体を動かして僕を狙うしかない。だが、高速で動き回る標的を、着弾が遅い『大砲』で正確に狙うのは、かなり難しいはずだ。僕は、降り注ぐ砲撃の雨を、余裕をもって回避しながら、敵との距離を少しずつ、しかし確実に広げていく。そんな時――。『リク、俺たちはどうすれば良い?』 リスポーンしたクエンティンから、通信が入った。「クエンティンとミミ先輩は、爆弾ダルを探してきて下さい。見つかったら
last updateLast Updated : 2025-11-19
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第14話 勝者と、次なる王

 僕のジャンク・キャッスルは、その半分を爆発で吹き飛ばされていた。 一瞬の静寂。そして、僕の脳を焼く、絶望的な光景。「リョウガ先輩!」 僕は、ヘッドセットに叫んでいた。『なんとか生きてる』 リスポーン待機中を示す灰色の表示から、やがて緑のランプが灯る。リョウガ先輩の声は、悔しそうだったが、まだ戦意は失っていなかった。 良かった……。安堵も束の間、僕は即座に新しい指示を飛ばす。「もう後は総力戦です。敵のコアが露出してる! みんなで攻撃をお願いします!」『分かった。こっちは任せてくれ』「僕は、こっちについて来ている敵のアタッカー一体を引きつけておきます!」『分かった』 リョウガ先輩が、リスポーンした仲間たちに檄を飛ばす。『ミミ! クエンティン! 聞いてのとおりだ! 行くぞ!』『リョウガ先輩! 待ってくれ! 俺は空から行く!』 クエンティンの声。『分かった』 リョウガ先輩は、先ほど僕が投げた『バネx2』を再び立て、それを支える。そのタイミングを完璧に合わせたクエンティンが、すごい勢いでバネを駆け上がり、再び上空へと舞い上がった。『ミミ、俺達も急ぐぞ!』『うん!』 そこからは、まさに総力戦だった。 上空からクエンティンが、手持ちの最後の爆弾を空中要塞へと投下する。しかし、敵の護衛アタッカーの一人が、信じられない動きで空中要塞の甲板を駆け上がり、その身を挺して爆弾を受け止めた。自らのアバターと引き換えに、コアへの直撃を防いだのだ。だが、これで空中要塞の護衛は、クエンティンと一騎打ちを演じている、残り一人になった。 僕は、前半分だけになった要塞を、ありったけの速度で飛ばし、僕を追ってくるアタッカーの攻撃を必死に避けていた。後のタイヤが無いため、土台の板が地面に激しく擦れ、要塞全体がガリガリと嫌な音を立てて揺れる。操縦しにくいことこの上なかったが、『推進ファン』で無理やり加速する僕の要塞は、なんとか追手のアタッカーを敵のコアから引き離していった。 その時だった。僕の胸
last updateLast Updated : 2025-11-20
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第15話 共犯者たちの逆光

 準決勝の劇的な勝利から、数日が過ぎた。  僕たちのチーム『ジャンク・キャッスル』の快進撃は、大会の話題を独占していた。無名の公立校チームが、優勝候補を次々と撃破していく。そのシンデレラストーリーは、賞賛と共に、しかし、それ以上に大きな疑惑の対象となっていた。「『あのクラフターの、あの走りながらのクラフト、絶対何かある!』   『あのクラフターのフィグモが、ヤバいブツなんじゃねーの』だってさ……。あたしらが何したって言うのよ!」『シュミットの工房』で、ミミ先輩が、自分の腕にはめたリストバンドのディスプレイを苛立たしげに指で弾きながら、怒ったように言った。大会の公式フォーラムやネット掲示板は、僕たちの話題で燃え上がっていた。  工房の隅に置かれた大型モニターでは、ローカルニュースが流れている。『……相次ぐ小規模なシステムダウンについて、専門家は「老朽化した電力ノードが原因か」と指摘。特に、ダウンタウン区画での頻発が問題視されています……』 キャスターの淡々とした声が、僕たちの熱気とは対照的に、このコロニーが抱える問題を映し出していた。 僕は、自分のPCのモニターで次の対戦相手のデータを表示させながら、その会話を聞いていた。僕のディスプレーの隅だけ表示されているユイのホログラムが、ミミ先輩の言葉に、悲しそうに俯いたのが見えた。『……私の、せい?』 か細い、僕にしか聞こえない声。その声に、僕の胸は締め付けられるようだった。違う、君のせいじゃない。君を見つけて、みんなをこの危険な道に引きずり込んでしまった、僕のせいだ。「……我々がやるべきことは変わらん。決勝で、実力で全てを黙らせるだけだ」  リョウガ先輩は、そう言って黙々と機材のメンテナンスを続けている。 「リク、気にするな。何かあっても、俺とヴィル爺さんが何とかしてやる」  クエンティンが、僕の肩を叩いた。みんな、僕を、そして僕の後ろにいるユイの存在を、守ろうとしてくれている。その優しさが、僕には余計に重かった。 そして、決勝戦を翌日に控えた、公式記者会見の日。  僕たちは、眩いラ
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第16話 円卓の亀裂

 アヴァロン・ガーディアンズに与えられた控室は、その豪華さとは裏腹に、氷のように冷たい空気が漂っていた。磨き上げられた黒曜石のような床に、ホログラムで投影されたスポンサーのロゴが静かに揺らめいている。 記者会見を終えたランスロットは、一人、壁際のターミナルで何かを確認しているモードレッドに、静かに声をかけた。「モードレッド。あの会見の目的は何だ?」「何を言ってるんだ、ランスロット。奴らが不正をしているのは明らかだ。俺達の目的は優勝。不正をする連中に阻まれるわけには行かないだろう?」 モードレッドは、端末から目を離さずに答える。その横顔には、何の感情も浮かんでいなかった。「誤魔化すな」 ランスロットの声は、静かだが、強い確信に満ちていた。彼は一歩、モードレッドに近づく。「先ほどの君の行動は、試合に勝つためのものとは思えなかった。あれは、意図的に混乱を招き、運営や世間の注目を、別の何かから逸らすための動きに見えた。君は、この決勝戦を、別の目的のために利用しようとしているのではないか?」 その言葉に、モードレッドの指が、ピタリと止まった。彼は、ゆっくりとランスロットへと振り返る。その顔には、全てを見透かしたような、冷たい笑みが浮かんでいた。「……買い被りすぎだ、ランスロット。あるいは、まだ足りないか。君はいつだって、ゲームの盤上のことしか見ていない。……俺には、そういう君の真っ直ぐなところが、少し羨ましいよ」 その瞳には、侮蔑と、そして、ほんの少しだけ、本物の羨望のような色が混じっていた。 モードレッドの、どこか憐れむような、はぐらかされた言葉。 ランスロットは、得体の知れない胸騒ぎを覚え、アップタウンにある自室へと戻っていた。 広大で、ミニマルな調度品が置かれただけの、がらんとした部屋。大きな窓の向こうには、コロニーの美しい夜景が広がっているが、今の彼の心には、少しも響かなかった。 彼は、自室の端末で、エインズワース家とブラックウッド家の、公的な記録を検索していく。パーティーの記録、経済的な繋がり、そして、学生時代の名簿
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第17話 決勝戦 - 前編

[BUILD PHASE START] 決勝戦の開始を告げる無機質なアナウンスが、僕の意識にスイッチを入れた。 作戦は決まっている。相手の『拠点制圧』戦術の弱点、前線に出てくるクラフターを、僕たちが作る空中要塞で叩く!「ユイ、いくよ!」『了解、リク!』 僕は、ユイとの高速連携で、複雑なクラフトを一気に組み上げようと、スキルを発動した。 しかし——。[INPUT REJECTED: ABNORMAL COMMAND FREQUENCY] ゲーム画面に表示された無慈悲な赤色の警告。僕のコマンドが、弾かれた。 もう一度、試す。だが、結果は同じだった。運営が仕掛けた「負荷軽減パッチ」が、僕とユイの連携を、僕たちの最大の武器を、完全に塞き止めていた。『おーっと、どうしたことでしょう! ここまで神がかり的なクラフトスピードを見せてきたチーム『ジャンク・キャッスル』のリク選手、手が完全に止まっています! これは、運営から発表があった「負荷軽減パッチ」の影響なのでしょうか!?』「くそっ……!速く、作れない……!」 指が、思考が、止まる。どうしようもない焦りが、僕の全身を支配した。『リク、高速な連続入力がダメなら、一つ一つのコマンドを、丁寧に、最大効率で実行するしかない』 パニックに陥る僕の心に、ユイの、静かで、しかし透き通った声が響いた。「うん。……落ち着け! 落ち着け、僕!」 僕は、自分の頬を一度だけ、強く叩いた。気持ちを無理やり鎮め、猛スピードで頭を働かせる。敵が拠点を作って包囲陣形で攻めてくるなら、こちらは一点突破しかない! なら!「みんな、今から言うパーツを探して来てほしい」僕はヘッドセットに叫んだ。「それから、クラフトのビルドに時間がかかる。ビルドフェイズの時間をオーバーしてしまうかも……」『分かったよ。みなまで言うな!』即座に、クエンティンの力強い声が返ってきた。『任せろ! 時間
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第18話 決勝戦 - 中編

リョウガ先輩の雄叫びと共に、陸上戦艦『ヤマト』と名付けられた僕たちの城は、その巨体に見合う咆哮を上げて、敵陣へと進撃を開始した。  三門の『大砲』が一斉に火を噴くたび、『アヴァロン・ガーディアンズ』が築いた前線拠点が、いとも簡単に粉砕されていく。「やった! いいぞ、リョウガ先輩!」 「このまま押し切れ!」 クエンティンとミミ先輩の、興奮した声がヘッドセットから響く。『チーム「ジャンク・キャッスル」の陸上戦艦ヤマト、止まりません! アヴァロン・ガーディアンズの拠点を次々と粉砕していく!』 しかし、これだけの巨体と武装だ。重量ゆえに進む速度は、どうしても遅くなる。僕はその時間を無駄にはしなかった。『ヤマト』が敵の拠点を破壊するたび、僕はその後方に残り、まだ使えるパーツを回収していく。『見てください! ジャンク・キャッスルのクラフター、リク選手! 破壊した敵の拠点からパーツを奪い、その場に砲台を設置し直しています! これは……進軍した道がそのまま自軍の支配領域となる、恐るべき戦術だ!』 勝利は、盤石かと思われた。  だけど、僕の心の中の、あの言いようのない不安は、まだ消えてはいなかった。最強の王者である彼らが、このまま無抵抗に、意気消沈するとは到底思えなかった。 敵のプレイヤーたちは、とっくにリスポーンしていた。だが、下手に出てきても各個撃破されるだけだと判断したのだろう。彼らは、フィールドの中央、自陣のコアを守る最後の境界線となっている拠点に立てこもり、僕たちが来るのを待ち構えているようだった。 そして、ついに『ヤマト』が、その最後の拠点への射程距離に近づいた頃。  王者の、本当の反撃が始まった。 『リク、高速接近物体を複数確認!』  ユイの警告と同時に、敵の拠点から、5、6機の小さな影が、一斉にこちらへ向かって飛び出してきた。『ここでアヴァロン・ガーディアンズ、動いた! 自爆ドローンだ! 数は6機か!? 残っていた爆弾ダルを全て投入したか!? 圧倒的な攻撃力を誇るヤマトを止めるには、これしかないと判断したか! チャンピオン、ここで全てを賭けた総攻撃で
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第19話 決勝戦 - 後編

 がら空きになった、僕たちのコアへと向かう敵のアタッカー。  その光景を、僕は、壊された砦の陰から、ただ見ていることしかできなかった。 この時ほど、ユイとの高速連携を封じられたことに、苛立ちを感じたことはなかった。  リョウガ先輩のリスポーンまで、約9秒。敵のアタッカーが、コアのある場所に辿り着くまで、恐らく12〜13秒。その差、わずか数秒。  そして、僕たちの周囲には、まだ敵のアタッカーが二人もいる。僕たちは、装備の性能差もあって、一対一の戦闘では勝ち目が薄い。それを補ってきたのが、僕とユイの連携による、常識外れの超高速ビルドだった。  ユイがいれば、どんなピンチからだって、きっと形勢逆転ができた。でも今、それは出来ない——。 ——でも、本当にそれでいいのか? クエンティンと交わした、未来を変えるという約束。  ユイが、これからも安心して暮らせる、僕たちの居場所。  決勝戦の前にぶつけられた、「チート野郎」という不当な汚名。  今、ここで、負けるわけにはいかない——! 覚悟を決めた、その瞬間だった。  僕の世界から、音が消えた。  あれほど激しかった心臓の鼓動が嘘のように鎮まり、時間の流れが緩やかに引き伸ばされる。まるでサードパーソン・シューティングゲームのように、自分自身の姿と戦場全体を冷徹に俯瞰する、不思議な感覚に支配されていた。心なしか、時間の流れも、ゆっくりに感じられた。  これが、いわゆる「ゾーンに入った」って感じなのかもしれない。「みんな、30秒間だけ、耐えてほしい。その間に、逆転のための一手を作る」  僕の声は、自分でも驚くほど、冷静だった。 『おう!』『了解!』『任せろ!』  仲間たちの、信頼に満ちた声が、即座に返ってきた。『リク選手、絶体絶命のこの状況で、一体何を作るというのでしょうか!』「ユイ! 近くにある『ハンドル』と『推進ファン』を探して!」 『了解!』  ユイが、僕の視界の中で、必要なパーツをハイライト表示してくれる。良かった! すぐ近くにあった! 後は、スキ
last updateLast Updated : 2025-11-25
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