LOGIN軌道戦記シリーズ 第2弾 高校生リクが率いるのは、旧式装備の落ちこぼれeスポーツチーム『ジャンク・キャッスル』。 彼の秘密兵器は、ゲームの深淵で出会ったAI少女ユイとの絆と、常識外れの「ガラクタ」クラフト戦術だ 。 快進撃の果て、絶対王者に不正を疑われ、最大の武器であるユイとの連携を封じられてしまう。絶体絶命の決勝戦。少年とAIの絆は、エリートの支配を打ち破れるか。熱血SFクラフトバトル、開幕! 本作はAIによる校正・表現の調整を行っております。
View More僕の名前はミシマ・リク。スペースコロニーのしがない公立高校 ヘロン第九高等学校に通う、高校一年生。ゲームが好きで、クラフトが好きで、……まあ、自分でも認めざるを得ない、どこにでもいるナードだ。
だけど、僕たちが今いるのは、そんな穏やかな日常が根こそぎ吹き飛ぶような、熱狂と喧騒の渦中だった。「うわー、すごい人……」
U19 eスポーツの地区大会会場。耳をつんざくようなアップテンポなエレクトロニック・ダンス・ミュージック、巨大スクリーンに繰り返し映し出される人気プレイヤーたちが派手なエフェクトと共に決めポーズを取るプロモーション映像、そして地鳴りのように響く観客たちの期待に満ちたざわめき。色とりどりのサイリウムの光が会場を埋め尽くしている。そのすべてが、僕たちチーム『ジャンク・キャッスル』を、場違いな闖入者のように圧倒していた。
僕らは試合会場に準備された各々のブースに入り、慣れない椅子に腰を下ろすと、愛用のジョイスティックをパソコンに接続した。そして僕は、クエンティンが作ってくれたフィグモ――ゲームのフィギュアの形をしたオプションパーツ――を、そっとジョイスティックのインターフェースに接続する。「頼むよ、ユイ」
誰にも聞こえないよう、僕はフィグモに囁きかけた。ちょうどその時、隣のブースに相手チームが入場してきた。その名も『ロイヤル・ソード』。お揃いの光沢のあるチームTシャツに、メンバー全員が見るからに高価なジョイスティックを持ち、そして脳波コントロールマウス機能付きの最新型VRゴーグルを首に掛けていた。
方や僕らは各々の普段着で、僕とクエンティンが使っているのは、一般的なジョイスティックとジャンク屋で買った型落ちの脳波コントロールマウスだ。VRゴーグルなんて、メンバーの誰も持っていなかった。
ミミ先輩が、羨望の混じったため息をつくのが聞こえた。
「いいなぁ、あれ。……せめてマウスだけでも新しければ、エイムももっと速いのに……」「みんな集まってくれ!」
そんな空気を振り払うように、チームリーダーであるリョウガ先輩の、低く、しかし力強い声が響く。僕たちは自然と彼のもとに集まった。
「相手は強豪『ロイヤル・ソード』だ。去年の地区大会でも準優勝している。正面から戦っても、正直、装備の差もあって勝ち目は薄い。だが、リクの作戦に従えば、きっと勝てる! 自分を信じろ。そして、ベストを尽くすんだ!」その言葉を、横目で見ていた『ロイヤル・ソード』のリーダーが、せせら笑った。
「おいおい、聞こえたかよ。作戦がどうとか言ってるぜ。今どきあんな型落ちの装備で大会に出ようなんて……まあ、俺たちに当たったのが運の尽きだったな。せいぜい足掻いてみせてくれよ、ジャンクども」その瞬間、クエンティンの肩がピクリと動いた。彼が唇をかみしめ、拳をギュッと握りしめるのが見えた。
「……リク、一発かましてやろうぜ!」 「うん」 僕は力強く頷くと、クエンティンと固く手を握りあった。言葉はなくても、想いは同じだった。――しかし、ゲーム開始から、わずか二分。僕らは早くも押し込まれていた。
実際、彼らは強い。脳波コントロールマウスの反応速度がコンマ数秒早いだけで、撃ち合いの結果は覆る。その上、彼らのチームワークは機械のように正確だった。僕が準備フェーズで設置した妨害用のクロスボウは、的確な集中砲火であっという間に破壊され、機能不全に陥っていた。『ロイヤル・ソード、容赦がない! 貴重なリソースである自爆ドローンを、惜しげもなく投入し、ミミ選手を圧倒!』
ミミ先輩は両足にバネを付け、立体的な高速機動で敵をかく乱しつつ弓を放つ、敵からすると非常に厄介なプレイヤーだ。そのため自爆ドローンに狙われ、既に2回もリスポーンさせられている。 クエンティンとリョウガ先輩も既に1回ずつリスポーンしており、劣勢は明らかだった。「もっと、妨害用のクロスボウを用意しておくべきだったか……」
僕は思わず、爪を噛んでいた。僕のクラフトの選択が、仲間を苦しめている。焦りと後悔が、胸の中で渦を巻く。『リク、落ち着いて!……まだ作戦がダメになったわけじゃない!』
ユイの甲高い、けれど芯の通った声がヘッドセットの中で響いた。 「ありがとう、ユイ」僕は短く礼を言った。その時、ミミ先輩がリスポーンしてきた。ヘッドセット越しに、焦りながらも気丈な声が飛んでくる。
「リクっち、ごめん! もうやられたくないから、次は盾お願い!」このゲーム、『フォートレス・フロンティア・オンライン』、通称『FFO』は、魔法と戦乱に満ちたファンタジー世界を舞台に、世界の覇権を賭けて「光の種族(ヒューマン、エルフ、天使)」と「闇の種族(アンデッド、ダークエルフ、デーモン)」が終わりなき戦いを繰り広げる、クラフトとアクションが融合した大人気タイトルだ。プレイヤーはビルドフェイズで、魔法の鉱石や精霊の宿る木材、古代遺跡から発掘された遺物といった素材から、城砦(フォートレス)、魔法仕掛けの兵器を自由に構築し、キャラクターには強力な武具として装備させる。そしてアクションフェイズで、それらを駆使して敵陣営の力の源である「マナ・コア」の破壊を目指す。
その高い戦略性と、プレイヤーの自由な発想で作られたユニークな魔法兵器や移動する城砦などがSNSでバズり、瞬く間にeスポーツの公式種目になった。 僕は、チームでそのクラフトを担当する「クラフター」だ。ミミ先輩の要請に応え、僕はフィールドに配置された素材の中から「板」をエイムする。スキルを発動すると、板が青い光に包まれて浮き上がり、モニターの中で奮闘するミミ先輩のアバターの腕へと高速で飛んでいき、接着された。その時だった――。
「すまん、みんな!」
[ALLY RESPAWN: RYOGA - 10 SEC]
タンク(盾役)であるリョウガ先輩が倒された。モニターのステータス表示が、無情にも灰色に変わる。
「リク、まだか!? 俺ももう限界だぞ!」
クエンティンが、敵の猛攻を必死に回避しながら叫ぶ。彼の声には、本気の焦りが滲んでいた。僕はユイに聞いた。
「ユイ、敵の自爆ドローンは、あといくつ残ってる!?」 『あと一つ!……あ、今、ゼロになった!』ユイがそう叫んだのと、敵が最後の自爆ドローンを僕たちのマナ・コアを覆っていたブロックの壁に叩きつけたのは、ほぼ同時だった。
轟音。閃光。そして、砕け散るブロック。僕たちの命であるマナ・コアが、青白い光を放ちながら、ついに丸裸になった。『勝負あったー! チーム『ジャンク・キャッスル』、ついにマナ・コアが露出! 万事休すか!』
実況の絶叫が響き渡る。勝利を確信した『ロイヤル・ソード』のプレイヤーたちが、コアにとどめを刺そうと一斉にこちらへ向かってくるのがモニターに映った。
――この時を待っていた。
この瞬間のために、みんなに耐えてもらったんだ。「行くぞ、ユイ! サポートを頼む!」
『OK、リク! 任せて!』僕は、逆転のためのスキルを発動したのだった。
スタジアムの非常用ランプが消え、やがて、メインの照明が一つ、また一つと、温かい光を取り戻していく。スクリーンに映し出されたアップタウンの街並みにも、再び命の灯が宿っていた。 誰からともなく上がった歓声は、やがてスタジアム全体を揺るがす、割れんばかりの大歓声へと変わっていった。それは、eスポーツの勝者を称えるものではない。コロニーの危機を救った、名もなき若者たちへの、心からの感謝と賞賛の叫びだった。 僕たちのブースでは、駆けつけた救護班が、ヴィル爺さんの応急処置を行っていた。幸い、骨に異常はなく、打撲だけで済んだらしい。 その喧騒の中、コロニー防衛軍の兵士たちが、壇上へと駆け上がってきた。しかし、彼らが確保に向かったのは僕たちではなく、その場に崩れ落ち、完全に機能停止したモードレッドのアンドロイドだった。 やがて、会場の巨大スクリーンに、ニュース速報のテロップが流れる。『速報:テロの首謀者、モードレッド・ブラックウッドの身柄を確保』 キャスターが、興奮した様子で続ける。『……モードレッド・ブラックウッドは、決勝戦終了直後のブラックアウトの混乱に乗じ、本物の彼と、あらかじめ用意していたアンドロイドを入れ替え、スタジアム近隣に父の会社が借りていたプライベートルームから、テロ行為の指揮を執っていた模様です。CDFの特殊部隊が、先ほど、その部屋に突入し、身柄を確保しました』 画面には、無表情のまま、兵士に連行されるモードレッドの姿が映し出されていた。 ブースの隅では、ランスロットが、CDFの司令官らしき人物と、険しい表情で言葉を交わしていた。彼は、自らの家の醜聞と、チームメイトの凶行の責任を、全て一身に背負う覚悟を決めているようだった。彼のその気高い姿が、僕たちが不当な疑いをかけられることから守ってくれる、最初の盾になってくれていた。 数日後の、『シュミットの工房』。 工房のモニターで、事件の顛末を伝えるニュースを、僕たち全員が見ていた。『……今回の事件で、テロウイルスの鎮圧に貢献したとされる「所属不明の自己進化型AIプログラム」について、
アンドロイドが完全に沈黙し、ひとまずの脅威が去ったことに、会場の観客たちも、安堵のため息をつく。誰もが、これで事件は解決に向かうと、そう思った瞬間——。 スタジアムのメインスクリーンに、再び、あのピエロのような仮面が、今度は大写しで映し出された。その口元は、明らかに嘲笑の形ではなく、激しい怒りに歪んでいた。『やってくれたな、老いぼれ! お前らもだ! もう容赦しない!』 その声は、もはやふざけてはいない。底冷えのするような、純粋な憎悪が込められていた。『クエンティン・ミラー。俺はここまでやるつもりはなかった。だが、ことごとく邪魔をしたお前らが、この決断をさせた。悪いのは、お前らだ!』 モードレッドは、コロニー中に向け告げる。 彼が仕掛けたウイルスの、恐るべき第二段階の存在を。「電力テロは、二段階で実行されるようにプログラムされていた。第一段階は、今お前たちが目にしている、アップタウンのブラックアウト。そして、お前たちが俺の人形を止めた、今この瞬間が、第二段階への引き金だ」 スクリーンに、コロニーの電力供給網の模式図が映し出される。そして、アップタウンを制御する複数の「電力ノード」が、次々と危険を示す赤色に点滅し始めた。「俺が仕掛けたウイルスは、今この瞬間から、各ノードの冷却システムを停止させ、制御不能な熱暴走――超電導クエンチを引き起こす。クエンチが発生すれば、超電導電磁石に蓄えられていた膨大なエネルギーが、一気に熱や衝撃波となって爆発的に放出される。あと10分もすれば、ノードは連鎖的に、物理的に溶け落ち、コロニー全体の電力網は、二度と修復不可能なダメージを受ける!」 絶望的な宣告に、会場全体が本当のパニックに包まれる。もはや、なすすべはない。誰もが、ただ、終末へのカウントダウンを見守ることしかできなかった。 僕は、腕の中のフィグモに、祈るように叫んだ。「ユイ! これをなんとかする方法はない!?」『……今、やってる。でも、ウイルスの進行が速すぎる。私の計算能力だけじゃ、とても足りない……』 ユ
アップタウンから光が消え、一部では火災まで起きている。その地獄のような光景を背景に、モードレッドは恍惚とした表情で、自らの行いを語った。「おい、ちょっと待て!」 最初に我に返ったのは、クエンティンだった。その声は、怒りと、それ以上に焦燥に染まっていた。「停電ってことは、病院にも電力が行かないってことだな!」「もちろんそうだ」 モードレッドは、さも当然というように答える。「ふざけるんじゃないぞ! お前の勝手な復讐に、無関係な人まで巻き込むな!」「おや? クエンティン・ミラー。君たちのことは、少し調べさせてもらったよ。君の父親が、宇宙放射線病なんだって?」「……それがどうした!?」「そこのランスロットの父、ハワード・エインズワースは、コロニーのモノレール会社の、トップだよ」「えっ!」 クエンティンが、息を呑んだ。僕も、耳を疑った。親父さんを苦しめた会社の、トップ。それが、ランスロットの父親……?「そうだ! 良いことを思いついた。取引をしないか?」 モードレッドは、手に持っていたマシンガンを、こともなげにクエンティンへと差し出した。「は?」「なに、簡単なことさ。この銃で、あの来賓席にいるハワード・エインズワースを殺してくれば、ウイルスを止めよう。そうすれば電力は回復するし、僕は自ら手をくださないですむし、君はダウンタウンの英雄になれるかもしれないぞ。一石三鳥じゃないか」「何を馬鹿な! ふざけるな!」「おや? 条件が悪かったかな」「そこまでだ! モードレッド・ブラックウッド。銃を下ろせ!」 その時、僕たちとモードレッドの間に、3名の警備員が割って入った。その銃口は、真っ直ぐにモードレッドに向けられている。だが、彼は、全く意に介していないようだった。「いやいや、給料安いんでしょ? 無理しない方が良いと思うな」「いいから銃を下ろせ!」 警備員たちが、じりじりと包囲を狭めてきた。 すると突然、モードレッドの身体が、ブレた。そう思った瞬
ミミ先輩の手から放たれた爆弾が、美しい放物線を描き、がら空きになった敵のコアの中心に吸い込まれていく——。 勝利を、確信した。 その、瞬間だった。 世界から、全ての光と音が、突然消えた。[CONNECTION LOST] ヘッドセットから音が消え、現実世界に戻った僕の耳に、観客たちの混乱した声が、大きなうねりとなって押し寄せてきた。勝利を祝うはずだったスタジアムが、どよめきと不安に満たされている。 どこか投げやりな、しかしスピーカーを通して増幅された声が、その喧騒を切り裂いた。 「静粛にー、静粛にー、……静粛にって言ってんだろうが!」 次の瞬間、乾いたマシンガンの発砲音が、三発、立て続けにスタジアムに鳴り響いた。 悲鳴が、会場を埋め尽くす。これは、もうゲームじゃない。 パッと、非常用の赤いランプが点灯し、薄暗い闇の中に、僕たちのブースと、巨大なメインスクリーンがぼんやりと浮かび上がった。そして、そのスクリーンに映し出されたのは、不気味に笑う、ピエロのような仮面だった。『いやぁ~、まさか君たちが勝つとはね』その声は、甲高く、どこかふざけているようだった。『ランスロット、手を抜いたんじゃ無いだろうね? 君、弱者に同情するとこあるじゃない? そう言うの、本当に失礼だからね?』 「何をバカな!」ブースから飛び出したランスロットが、スクリーンに向かって叫んだ。「我々は全力で戦った! ただ、彼らの戦略と執念が、我々を上回っただけだ!」 『ん~~、良いことを言うね。“執念”、そう“執念”だ。僕にも、執念って奴があってね、そのために今、こんな事をしてる』「アンタなんなの!? 決勝戦を滅茶苦茶にして、何が楽しいの!?」 目に涙を浮かべたミミ先輩が、ブースから飛び出していきそうなのを、リョウガ先輩が、その巨体で必死に抑えつけている。『あ~~、ゴメン、ゴメン。ほら、コッチにも都合って物があってさ。今この瞬間なら、コロニー中の人間が、この放送を見てるだろ? なんたって、この試合の一番良い所だったんだからな』 「お前は一体、何をしたいんだ!」 リョウガ