夢の中で見たあの人と、再び現実で対面したその瞬間、佐久の体内では、アドレナリンが一気に噴き出した。理性が追いつくより先に、彼の足は明子の方へ駆け出していた。その時、店主が店の奥へと引っ込み、ほどなくして数人の屈強な男たちを引き連れて戻ってきた。顔つきは荒々しく、明らかにただ者ではない。彼らは明子をぐるりと取り囲み、輪を作った。危険を察知した佐久は、迷うことなく飛び込んだ。だが次の瞬間、待っていたのは雨のように降り注ぐ拳と蹴りだった。必死に抵抗しながら、彼は声を張り上げた。「明子!早く逃げろ!」しかし、両腕はすぐさま背中にねじ上げられ、冷たい手錠が音を立てて締まる。男たちは彼を無理やり引きずり上げ、明子の目の前へ突き出した。その顔を見た瞬間、明子の表情が一瞬だけ驚きに揺れた。だがすぐに冷静を取り戻し、片手を上げて制止を命じた。「もうやめて!あなた、ここで何してるの?」実は、すべてが明子と同行していた私服警察たちの囮捜査だった。岩切家が最近掴んだ情報によると、この辺境の村に大規模な麻薬組織の残党が潜伏しているという。そして、店の店主とのやり取りは、犯人たちを誘い出すための暗号だった。長い準備の末に、ようやく罠を仕掛けた矢先のこと――まさか佐久が乱入して、作戦を台無しにするとは誰も思わなかった。呆然とする佐久。言いたいことは山ほどあったのに、明子の冷ややかな視線を浴びた途端、喉が詰まって声が出なかった。彼は周囲の男たちと店主を見比べ、ようやくすべてを悟る。喉を震わせながら、絞り出すように言った。「明子......俺はそんなつもりじゃなかった。知らなかったんだ、何も......」「もういい」明子の瞳には、一片の温度もなかった。「ここはあなたが来ていい場所じゃないわ。私はもう結婚したの。もう関わらないで」数日も張り込んでようやく犯人を誘い出せるところだったのに、すべてが無駄になった。仲間たちも苛立ちを隠せず、皮肉混じりに呟いた。「岩切さんには敵わないのは仕方ないけど、せめて邪魔はしないでほしいよな」「口で『愛してる』って言うのは簡単だ。どうせなら、麻薬犯の一人でも捕まえて見せろよ」佐久の顔から血の気が引いていった。明子が背を向けて去っていく。その
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