All Chapters of 【金こそパワー】ITスキルで異世界にベンチャー起業して、金貨の力で魔王を撃破!: Chapter 31 - Chapter 40

49 Chapters

31. アークスカイ・モール

「ちょ、ちょっと待て……。どんな……、アニメを観てるんだ?」 よく考えればアニメといっても別に日本に限ったことではない。タケルは恐る恐る聞いてみる。「ん? 最近は長寿のエルフの物語にはまっとるんじゃ」「えっ……ま、まさか……。好きなキャラとか……は?」「あー、それぞれ魅力があるがのう……。最近はほれ、断頭台の……」「アウラ!」 タケルはそう言って頭を抱えた。なぜ日本アニメをこんなところで観ているのだろうか!?「なんじゃ、なぜお主も観ておるんじゃ?」 ネヴィアはキョトンとした顔をして小首をかしげた。「ちょ、ちょっと見せてよ!」 タケルはネヴィアの肩をガシッとつかんではげしく揺らす。「うわぁぁ! え、ええが、拘束を解いてくれんとなぁ」「斬りかかって来ない?」 タケルはジト目で見る。何しろこの娘はさっき自分を斬り殺そうとしていたのだ。「アニメ好き仲間を攻撃などせんよ。カッカッカ」 ネヴィアは楽しそうに笑った。      ◇ その後、タケルはネヴィアから魔法についての情報や、日本のコンテンツが集積されているデータベースへのアクセス方法など、多くの情報をもらった。もちろん核心の情報は得られなかったが、周辺の情報だけでもタケルにとっては宝の山である。お礼にフォンゲートと金貨を一袋渡しておいた。「今日はありがとう。これからいろいろ相談させて。ネヴィアも何かあったらフォンゲートで呼んでね」 タケルは右手を差し出す。「うむ。たまには遊びに来てくれ。アニメは一緒に見る人がいた方が楽しいからな。カッカッカ」 ネヴィアは握手をしながら楽しそうに笑った。 一体二人の間に何があったのかよく分からないソリスとクレアは、微妙な表情でその様子を見ていた。廃墟と化していた古代遺跡の管理人の少女と、彼女から何かを受け取ったタケル。それはきっと世界を揺るがす大発見になるはずだったが、きっとタケルは公にはしないのだろう。ソリスも護衛中に知り得た情報は漏らすことはできない。 ソリスとクレアはお互い目配せし、肩をすくめた。       ◇ その後、事業は順風満帆に急速に伸びていった――――。 フォンゲートの人気は圧倒的で、成人への普及率は八割を超え、他の国へも急速に広まっていった。 こうなると信用創造の効果は莫大で、ジェラルド陣営の貴族、傘下の企業には湯水
last updateLast Updated : 2025-11-23
Read more

32. 金こそパワー

「わぁ、タケルさん、凄いですねぇ……」 クレアはタケルに手を引かれながら、お客がひしめき合うモールを進んでいた。モールは三階建て、吹き抜けで上まで見渡せる明るい通路には煌びやかなデコレーションがあちこちに施され、歩いているだけでワクワクしてくるのだ。「凄い人気だね。アバロンさんのお店はこの先だっけ?」「そうそう、タケルさんのおかげでいい場所もらいました。くふふふ」「儲かるといいね」「そうなんですけど、この人出だと商品が足りなくなることを心配した方が良いかも……?」 クレアは予想以上の大賑わいに不安げである。「ははっ、違いない。でも、たとえ売り切れても夕方には再入荷できるでしょ?」「そう! それが信じられないんですよ。今までは発注してから入荷まで一週間はかかりましたからね」「POS連動の在庫管理システムにサプライチェーンシステム、作るの大変だったんだから」 タケルは渋い顔をしながら首を振った。「ほんと、タケルさんは凄い!」 クレアはキラキラとした青い瞳でタケルを見上げる。「ははっ、まぁ、自分にはこういうことしかできないからね」 タケルはまんざらでもない様子で各店舗の賑わいを眺め、うんうんとうなずいた。 タケルが実現した流通革命はこの世界の人たちには驚異的だった。運搬は馬車から魔石で動く魔道トラックへと変わり、今までの何十倍の広さの倉庫を用意して物流の流れから変えたのだ。 生産者や工場が出荷する箱には全てQRコードがついており、トラックに積み込まれて運ばれたら巨大倉庫に積まれ、そこで集中管理されるようになった。商店へ出荷する際も全てフォンゲートで管理され、無駄なく確実に届けられる。商店主はフォンゲートで発注するだけで夕方には納品され、店頭に並び、決済は全て電子的に処理されるのだ。 人混みを進み、アバロンの店舗に来たタケルは入り口にうず高く積まれた商品の箱のタワーに圧倒される。「おぉ! これは凄いね…&hellip
last updateLast Updated : 2025-11-24
Read more

34. 冒険への扉

 タケルの困る顔を見てクスッと笑うクレア。「まぁ、そんなのは後でいいですよ。で、どうやって操縦するんですか?」 タケルは苦笑いを浮かべると、操縦用に設定されたゲーミングチェアのところまでクレアを案内する。ゲーミングチェアには近未来的な湾曲大画面がセットされ、まるでSFの世界のようだった。「操縦席はこちら。前方の視界はここに出る。コントローラーはこれね。これで上下左右、これで加速減速。そしてこのボタンでファイヤー!」 クレアは矢継ぎ早に説明され、困惑してしまう。「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 『ファイヤー』って何なんですか!?」「ファイヤーボールを撃つのさ。魔物たちの森を飛ぶんだから攻撃手段も無いとね。照準はこの画面だよ」 タケルは当たり前のように説明するが、クレアはドン引きである。「操縦しながら魔物なんて狙えないですよ!」「あー、ごめん、ごめん。今回は調査だからそんな撃つ機会なんてないから大丈夫だよ。やられたって段ボールだから痛くも|痒《かゆ》くもないしね」 クレアは無言で口をとがらせ、軽く言うタケルをにらんだ。      ◇ 操縦席に座らされたクレアはコントローラーをカチャカチャと動かしてみる。なぜ、商会の令嬢たる自分が飛行機の操縦をしなくてはならないのか|腑《ふ》に落ちなかったが、魔石不足を解消しなければ事業継続も危うい状況では仕方ないのだ。クレアは大きく息をつき、自分に言い聞かせる。「それでは飛ばすよ! 発進用意!」 タケルはオペレーター席に座ると、卓上の赤いボタンをガチリと押し込んだ。 ウィィィィン……。 かすかな機械音が鳴り響き、屋根のスリットが開いてまぶしい青空が広がる。 は? クレアは屋根が開く社長室のクレイジーな仕様に思わず目が点になった。 続いて射出用レールがウィィィィンと空へと伸びていく。「ちょっと、タケルさん! 何なんですかこれは? こんなの必要なんですか?」
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

35. ファイヤー!!

 城壁を超えると、太陽の光を浴びて黄金色に輝く広大な麦畑が広がっていた。風がそよぐたびに麦の穂は波のように揺れ、生き生きとしたウェーブを描き出している。その麦畑の上を気持ちよく飛ばしていけば、遠くに緑濃い森が現れ、その神秘的な姿が徐々にはっきりとしてきた。「ふぁーあ、ようやく森ですよ。なんだかやることないですねぇ……」 クレアはすっかり慣れ、コーヒー片手に眠そうに言った。「何言ってるの、これからが本番だよ。右手の高台に建物があるだろ? あれが辺境伯の拠点、ネビュラスピア城塞だと思うよ。つまりここから先は魔物の世界ってことさ」「ふぅん、で、魔石はありそうなの?」「うーん、まだほとんど魔力反応は無いんだよね……」 タケルは魔力反応画面を見ながら首をかしげる。「じゃあしばらくこのまま真っすぐ?」「そうだね、ただ、速度を二百ノットに上げて。魔物の世界でゆっくり飛んでたら怖いからね」「二百ノット了解!」 クレアはスロットルのノッチをカチカチカチっとあげた。 ゴォォォという風きり音が激しさを増し、森の木々がどんどんと飛ぶように後ろへと消えていく。 川を渡り、湖を越え、そして丘をも軽々と越えて行く。その旅は、まるで空を翔る鳥のように、自由で、壮大で、息をのむほど美しいものだった。「あぁ、綺麗な世界ねぇ……」 クレアはうっとりとその大自然のアートを眺める。「人間が手を付けてない世界だからね……。お、何か反応があったぞ……」 タケルはモニター画面をにらみながら地図にペンを走らせた。「鉱山? 引き返す?」「いや、まだ何とも言えないんでこのまま直進」「アイアイサー!」 その後、いくつかの反応をメモしながら直進し続けた。まるで魔王の支配地域とは思えない順調さに、二人は雑談をして時折笑い声を上げながら、淡々と進んでいく。
last updateLast Updated : 2025-11-26
Read more

36. 固い絆

 至近距離から放たれたファイヤーボールはワイバーンの背中に命中し、大爆発を起こした。 激しい衝撃で画面がビリビリと乱れ、ドローンはクルクルと宙を舞い、ワイバーンの悲痛な叫びが森にこだまする。 しかし、ファイヤーボール一発で倒せるような敵ではない。 手負いになり、怒りに燃えるワイバーンは巨大な翼を激しくはばたかせ、クレアを追った。 体勢を立て直し、全力で青空を目指すクレアだったが、パワーではワイバーンには敵わない。ワイバーンが追い付き、巨大な翼でドローンを打ち落とそうとドローン目がけて翼を振り下ろそうとした時だった。 クレアは機体を無理によじらせて失速状態へと落とし込む。こうなるともう正常な飛行はできない。ゆらゆらと落ちてくる木の葉のように機体は不規則に揺らめいた。 ググッ!? ワイバーンはその不規則な動きに翻弄され、狙いを絞りきれずに一瞬動きが止まってしまう。 その隙をクレアは見逃さなかった。 ファイヤー!! 鮮やかな閃光がワイバーンの翼を包み、ズン! という衝撃波が視界を揺らす。 うわぁ! 自らも爆風を受け、キリモミ落下していくドローン。 しかし、クレアはグルグル回る景色の中、冷静に体勢を立て直した。 ググっと機首を上げると、そこには片翼を失ったワイバーンが悲痛な叫びを上げながら墜落していくではないか。 ギュァァァァ! 徐々に小さくなっていく悲鳴。最後にはズーン! という腹の底に響くような重低音が森に響き渡った。「うぉぉぉぉぉ! 撃墜!! 撃墜王クレア爆誕!!」 タケルは跳び上がると、クレアのところにまで走り、興奮気味にパンパンと背中を叩いた。  クレアはドヤ顔でタケルを見る。そこには令嬢ではなく、テトリス大会で優勝した時の王者のオーラが輝いていた。 クレアの【ゾーン】というスキルは戦闘職向けで、令嬢にはそれを生かすチャンスなどない。しかし、遠隔操縦であれば安全にその力を存分に発揮することができる。クレアは期せずして天職を手に入れた実感
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

37. 切り裂かれた空間

 ヴァイパーウイングはドローンの機体をガッシリとつかむと飛び始めた。どうやら獲物を捕まえた気でいるらしい。 二人はどこに連れていかれるのかと、渋い顔をしながら揺れる画面映像を見て、コーヒーをすすった。 やがて見えてきたのは小高い岩山だった。森を突き抜けてそびえる岩肌には縦にいくつも亀裂が入り、荒々しい景観を誇っている。どうやらここに巣があるらしい。 と、その時だった。 ピーーーーッ! タケルのモニターが真っ赤に輝き、耳をつんざく警告音を発した。 へ……? タケルは何が起こったのか分からなかった。画面内でメーターが振り切れているのだ。「何の……音?」 クレアがけげんそうにタケルの画面をのぞきこむ。「魔力探知機が振り切れているんだよね。壊れちゃったのかな?」 タケルは首をかしげ、キーボードをカタカタ叩きながらその原因を探す。 クレアはドローンの映像を食い入るように見つめ、その岩肌の様子を探った。「あっ! 違うわよ! これが魔石鉱山なのよ!」 その岩肌にキラキラ光る魔石特有の輝きを見つけたクレアは、思わず両手を突き上げ、叫んだ。「え? 魔石……? でもこの数値はこの岩山全部が魔石でもないと出ない数値なんだよ?」「だったら、これ全部魔石なのよ!」 クレアは両手のこぶしをグッと握り、パァッと明るい顔で笑った。「え? これ……全部……?」 タケルは信じられずに静かに首を振る。一般に鉱山というのは地層の割れ目に沿って魔石の薄い層があるくらいなのだ。山全部が魔石なんてことがあったら、とんでもない発見である。「そう! 全部!」  クレアは呆然としているタケルの手をギュッとつかみ、嬉しそうにタケルの顔をのぞきこむ。「や、やった……」 大発見の
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

38. 翼牛亭

「へっ!?」「キャァッ!」 驚く二人の前で、その空間の亀裂からニョキニョキっとかわいらしい指が湧きだしてきた。そしてその指が亀裂をガバっと押し広げる。「今、到着! きゃははは!」 なんと出てきたのはネヴィア。ボタンを掛け違えたままのだらしない、もふもふパジャマ姿で、嬉しそうにシュタッと床に着地した。「お、お前、そんなこと……できたの?」「くははは、どう? 凄いじゃろ? でもこれは我のスキルだから解析しても無駄じゃがな!」 ネヴィアはドヤ顔でタケルを見つめた。ただ、緩いパジャマの隙間から胸が見えそうで、タケルはほほを赤らめながら目をそらす。「ちょ、ちょっとネヴィアちゃん! そんな恰好、ダメよ!」 クレアはネヴィアの腕をガシッとつかむと隣の部屋へと引っ張った。「えっ? な、何がダメなんじゃ?」「ダメったらダメなの!」 クレアはピシャリと言い放った。        ◇ しばらくしてクレアの服に着替えてきたネヴィアは、タケルの説明を聞いて嬉しそうに笑った。「ほほう、お主、凄いものを見つけたのう! これは実に愉快じゃ。カッカッカ」 「で、これの回収方法を相談したいんだけど……」「まぁ、ゴーレムに掘らせればよかろう」 ネヴィアはテーブルのバスケットからクッキーをつまむとポリポリと食べ始める。「じゃあ、ゴーレムの召喚の方法、教えてくれる?」「千枚じゃ」 ネヴィアはニヤッと笑って手を出した。「千枚……って?」「察し悪いのう、金貨千枚で教えてやろうって言っておるんじゃ」 タケルにとっては、この日本円にして一億円相当の金などもはやはした金ではあったが、このまま払うのも癪に障る。「あぁそう! 金取るならいいよ、もう頼まない!」 タケルは腕を組み、プイっとそっぽを向いた。
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

39. 揺れる緊急会議

 結局、採掘した魔石はネヴィアに借りたマジックバッグに詰めておき、ネヴィアが暇な時に金貨一枚の手間賃で空間をつなげて回収することにした。マジックバッグは小さなカバンだが中身は小屋くらいの容量のある異次元空間になっており、そこに詰めておけば、時間かからずに回収が可能なのだ。 タケルは洞窟のデータセンターと、魔石の貯蔵倉庫に採掘した魔石を供給し、違和感なく魔石の供給問題を解決していく。フォンゲート用に売れていく魔石の大半がゴーレムの採掘したものへと変わっていったが、誰も気づくものはいない程だった。魔石を買い占めて高値を要求していたアントニオ陣営側の業者たちは、いつまでたっても価格交渉で折れてこないアバロン商会に根負けし、だぶついた在庫を安値で吐き出し始めるまでになる。これで、懸案の一つは完全に解決されたのだった。 アントニオ陣営側最大の切り札が無くなってしまったことは、陣営内に深刻な動揺をもたらす。最後は魔石価格を釣り上げてジェラルド陣営側の利益を吸い上げようという計画だったのだが、それが失敗となるともはや経済的には対抗手段がないのだ。 アントニオ陣営側の魔導士たちはフォンゲートの魔法陣を解析して弱点を探そうとしたものの、魔法陣には一ミリに満たない幾何学模様がそれこそ万単位でぐるぐると回っている。このあまりに複雑な魔法陣はとても人間の読めるものではない。タケルの書いたソースコードは数十万行に及んでおり、コードを読むのすら難しいのに、魔法陣になった後ではとてもリバースエンジニアリングは不可能だった。 弱点が見つからず、経済的にも劣勢となったアントニオ陣営。最初に音を上げたのは商会たちだった。利権で押さえている商流があるからすぐには倒産とはならないものの、遅い、高い、不明瞭な取引に取引先たちが難色を示しだしてしまっている。事業はじり貧だし、何しろ働く社員たちが仕事に疑問を感じだして、次々と辞めていくのを止められない。 やがて一社、また一社と、巧妙な理由をつけながらアントニオ陣営から逃げ出し始めた。 こうなると瓦解は時間の問題だった。アントニオ陣営は急遽公爵の屋敷に集合し、緊急会議が開かれることとなる。 会議室には公爵だけでなく侯爵を始め、そうそうたるメンバー
last updateLast Updated : 2025-11-30
Read more

40. 絶対の禁忌

「知っとるのか?」 公爵はいぶかしげにアントニオの顔をのぞきこむ。「始末しそこなった……。ジェラルドの奴にもう一歩のところで止められてしまったのだ。あの時構わずに斬り捨てておけばよかった……」 アントニオは忌々しそうにそう言うと、頭を抱えた。「お、恐れながら何か手はあるのでしょうか? うちも傘下の企業からの突き上げにあっておりましてですね……」 侯爵が恐る恐る質問する。 子爵以下多くの参加者は核心を突いた質問に息をのみ、じっとアントニオを見つめた。この追い詰められた苦しい現状も、希望が持てる策があればまた変わってくるのだ。「策ぅ? 我が陣営は軍部を傘下に置いている。武力に訴えれば圧勝だ!」 アントニオは握りしめたこぶしをグッとつきだし、吠える。 静まり返る会議室――――。 出席者たちは渋い表情でお互いの顔を見合わせる。それはもはや内戦ということであり、多くの国民が死に、勝っても諸外国や魔王軍に付け入る隙を与えてしまう悪手にしか見えなかった。「コホン! あー、その、Orangeって会社の営業を停止させてしまえばいいんじゃないのか?」 公爵はマズい雰囲気の流れを変えようと、Orangeのビジネスに矛先を変える。「それはフォンゲートを使用禁止にするってこと……でしょうか? すでにフォンゲートの普及率は八割、王国民を敵に回すってことになります。敵陣営も死に物狂いで反発してくるので、影響がどこまで出るか予測できないです」 事務方の若い男性が慌てて声を上げた。「じゃあどうするんだ!? 対案を出せ!」 アントニオが喚いた。しかし、王国民と経済を握られてしまった今、アントニオ陣営には『王位継承権』と軍隊しか残っていない。 出席者たちは顔を見合わせ、重苦しい雰囲気が部屋を包んだ。「くぅぅぅ……。嘆かわしい……」 アントニオは髪をかきむしる。早く何とかしないとジェラルド支持者が主要貴族を押さえてしまう。そうなってしまうと、王位継承順位も絶対ではなくなってしまうのだ。「今……父上がお隠れになられたら……」 アントニオはうつむきながら禁断の一言を漏らす。「お主! 何を言うか!」 公爵が慌てて叫ぶ。「いや、仮の話ですよ、仮の……」 アントニオはそう答えたが、その瞳の奥には|昏《くら》い情念の炎が渦巻いていた。     ◇ その晩、アント
last updateLast Updated : 2025-12-01
Read more

41. 起死回生の提案

 ひぃぃぃぃ! いやぁぁぁぁ! キャァァァァ! 女の子たちは|脱兎《だっと》のごとく一斉に逃げ出した。「ゴラァ! 待ちやがれぃ……」 アントニオは王剣を振り回し、追いかけようとする。一人くらい血祭りにあげねば気がすまないのだ。しかし、飲みすぎて足にきており、タタッと駆けた後、よろめいて思わずテーブルに手をついてしまう。 くっ……! VIPルームの周りからは人影がすべて消えてしまい、不気味な静けさだけが残った。「クソどもが!」 アントニオは柔らかな丸椅子を一刀両断にしてふぅふぅと荒い息を立てる。 畜生……。 陣営は傾き、飲みに来ても楽しくない。追い詰められたアントニオは、なぜこんなになってしまっているのか理解できず、苦しそうに顔を歪めた。 コツコツコツ……。 突然足音が静かな室内に響く――――。 女の子が逃げていったドアから、美しく長い銀髪の若い男がニコニコしながら入ってきたのだ。カチッとしたフォーマルのジャケットに、ワンポイントの銀の鎖が胸のところでキラキラと光っている。 アントニオは気品漂うその見たこともない不審な男を、けげんそうに眺めた。「おやおや殿下、王国の蒼剣ともあろう方がどうなされたのです」 男は両手を広げ、嬉しそうに笑う。「なんだ、貴様は!?」 アントニオは男のにやけ顔が気に入らず、剣を振りかぶった。「おや? 私を斬る? どうぞ? せーっかくいいお話を持ってきたというのに残念ですがね」 男はひるむこともなく、オーバーアクション気味に肩をすくめた。「……、いい話? どういうことだ?」 アントニオはピクリとほほを引きつらせる。「王国の蒼剣は次代の王国の太陽です。こんなところで|燻《くすぶ》っているなどあってはならないことだと考えております」「&helli
last updateLast Updated : 2025-12-02
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status