LOGIN元プログラマーである転生者のタケルが付与されたスキルは【IT】。これは精緻な魔法陣をプログラミングできるというものだった。 早速テトリスマシンを作る。これができるのであればスマホも作れるのではないだろうか? と、気づいたタケルは異世界でAppleのような巨大ITベンチャーを起業しようと思いつく。 世界を一変させ、世界一の大金持ちになって、圧倒的な金の力で魔王を打ち倒してヒーローになってやると燃えるタケル。 会長令嬢のクレアも巻き込み、一気にIT革命を実現していくタケルだったが、急激な変化に快く思わない勢力も出てきてしまって……。 異世界IT起業家の未来はいかに!?
View More「お前はクビ! とっとと出ていけ!」
夕暮れの食堂で、冒険者パーティーのリーダーがウンザリとした表情でタケルを罵倒した。
「えっ!? な、なんで……? 僕の武器の整備で強い魔物も倒せるようになって……」
「ありがとう! つまりもうお前なしでも十分勝てるってことなんだよ! はっはっは!」
リーダーは美味そうにビールジョッキをグッとあおった。
「そうですよ、タケルさん。アイテムの整備はもう十分……。戦わない人はパーティには要らないわ。ふふふっ」
ビキニアーマーの女魔導士はリーダーの首に手を回しながら、|嗜虐《しぎゃく》的な笑みを浮かべる。
「いや、契約書ちゃんと読んでくださいよ! それは契約違反ですよ!」
タケルはカバンから契約書を出すと、該当の条文を指さして怒った。
「んー? どれどれ……?」
リーダーは契約書を受け取ると、鼻で嗤い、そのままビリビリッと破いて床にぶちまけた。
「な、何するんだよぉ!!」
慌てて契約書を拾い集めるタケル。
しかし、リーダーはそんなタケルを思いっきり蹴飛ばした。
ぐはっ!
タケルはもんどりうって転がる。
「冒険者に契約書なんか関係あるかい! そういうところがお前はウザいんだよ。文句あるなら裁判所へ行けや! まぁ、訴訟費用があればだがな! はっはっは!」
くっ……!
タケルはリーダーを見上げてにらむ。明日の食費すら心配な自分にそんな費用など出せるわけがない。
「そしたら、僕は明日からどうやって食べて行けば……」
「知るか、バーカ! お前のその陰気なツラ見てっと酒がマズくなる! さっさと出てけ!」
リーダーはおしぼりをタケルの顔に投げつけると、女魔導士のお尻に手を回す。
「いやっ、ダメよ……」
女魔導士はまんざらでもない様子でほほを赤らめる。
タケルはギリッと奥歯を鳴らした。
「分かったよ! その代わり、僕の力が必要になっても絶対に助けないからな!」
「お前の力……? なんかあったっけ?」
「逃げ足の速さ……よね? きゃははは!」
タケルは怒りでブルブルと震えた。今まで自分が整備してきた魔道具のおかげで高ランクのモンスターを狩り、Aランクパーティにまで達してきたというのに、感謝の一つもないのだ。
「ぜっっっったい! 後悔させてやる!!」
タケルはビシッとリーダーを指さし、にらみつける。
「後悔? ははっ、お前をパーティに入れたことでもう後悔してるよ!」
「はい、お出口はあちら―!」
女魔導士は緑色の魔法陣を素早く浮かべると、タケルに向かって風魔法|烈風襲《テンペストチャージ》を放った。
うはっ!
タケルは猛烈な風に吹き飛ばされ、ドアから外の階段へと転げ落ちていった。
「バイバァイ! きゃははは!」
「まぁ、せいぜい頑張れや! はっはっは!」
二人のあざける声が聞こえ、ドアがゆっくりと閉じていく。
「ち、畜生……」
タケルは打ちつけた腰をさすりながらよろよろと立ち上がった。
タケルは東京でITエンジニアをやっていた転生者だが、転生時にもらったスキルは【IT】という意味不明なもの。この剣と魔法の世界においてITと言われても何のことだかさっぱりだ。魔法の呪文はプログラム言語に似たところがあるので、魔道具の整備はできるが魔力がないので自分では魔法を使うことができない。
タケルの試行錯誤を経て整備された魔道具は圧倒的であり、光の刃を撃ち出す剣にあらゆる攻撃を防ぐ楯と、まさにチートレベルに高められる。そのおかげでパーティは快進撃を続けられたわけだが、逆に言えば整備された魔道具さえ手に入ってしまえばもうタケルは不要なのだ。
「ぜってー許さねぇ! くぁぁぁぁぁ!!」
タケルは天に向かって吠えた。いいように利用して捨てたあいつらを絶対に見返してやる。胸がやけどするような熱い想いが噴き出してきた。
街行く人々はそんなヤバいタケルに眉をひそめ、避けていく。
ふぅふぅと肩で息をしながら、どうやって見返してやるか必死に考える――――。
タケルは孤児院で育ち、十六歳になったのを機に卒業させられたが、全てをキッチリとしないと気が済まない不器用な性格が災いし、なかなか職が見つからない。この世界の人は仕事をあいまいに頼み、コミュ力でどうにかしていくのだが、タケルにはそれを受け入れがたかった。
雇用契約書を結ぼうとするタケルにどこも難色を示し、結局冒険者の手伝いとして荷物運びやアイテムの用意、魔道具の整備をして小銭を稼ぐくらいしかできなかった。
そんな中、魔道具の性能を上げられる腕を買われて何とかパーティーに入れてもらえたのだが、長い試行錯誤の結果、やっと剣や盾のチューンアップが終わった途端クビになってしまったのだ。
くぅぅぅぅ……。
タケルは湧き出てくる涙を止められない。せっかく転生したのに何の優遇もない現状にほとほとウンザリする。【勇者】とまでは言わないが、【剣士】や【賢者】くらいの冒険者になれるスキルは欲しかった。【IT】なんて、どう使っていいかもわからないスキルなどゴミ同然なのだ。
しかし、いくら憂えていても腹は減ってくる。何とか突破口を開かねば見返すどころか餓死してしまう。
『何とか……、しないと……。しかし、どうやって……?』
タケルはボーっと辺りを見回した。街灯がぽつぽつと石畳の道を照らしている――――。
この世界では魔法ランプが当たり前のように使われていて、光魔法の魔法陣が描かれたプレートに魔石をセットすると、魔力が続く限り光り続けるのだ。
この時ふと、この光魔法のプレートを整備したらどうなるんだろう? という好奇心がむくむくと膨らんできた。
今までモンスターを倒すことばかり考えていたが、こういう生活魔道具にも整備の余地があるのかもしれない。
タケルは道の脇に光っている街灯のカバーをパカッと外し、中のプレートをまじまじと眺めてみる。
魔石のセットされた明るく輝くプレートの裏では、精緻な魔法陣がキラキラと輝きを放っている。魔法陣は円の中に六芒星、そしてルーン文字で呪文が施されているのが基本だ。さらに一回り小さな円や星がまるで機械仕掛けの時計のように、内部でぐるぐると回り、不思議な幾何学模様を描きながら魔法を実現していく。
タケルはその精緻な模様や呪文から魔法の発現内容を推測し、前世で鍛えたプログラミング能力を生かして図形を書き換えたり呪文を修正したりして魔法の威力を上げるチューニングをやってきた。しかし、図形の相互作用は複雑で、チューニングするのがせいぜいである。
「うーん、まぁ武器に比べたら単純かな……。こうして見ると魔法陣って本当にプログラミングコードだなぁ……」
この時、ふと【IT】スキルのことが頭をよぎった。ITというのだからコンピューター系のスキルに違いない。で、この世界で一番コンピューターに近いのは魔道具だった。もし……、ITが実際に活躍できるとしたら魔道具相手ではないだろうか?
タケルは小首をかしげながらつぶやいてみる――――。
「【IT】起動……」
魔法陣を見つめながら、その動作イメージを頭の中で思い描いていく……。すると頭の中でカチッと何かのスイッチが入った音が響いた。
ヴゥン……。
いきなり、空中に青いウィンドウが立ち上がる。
「えっ……、何これ……?」
タケルは焦った。今まで何度もITスキルを起動しようと試行錯誤してきたのに、こんな風になったのは初めてである。
「これは……、何が……?」
中を覗くと、そこにはシステム開発環境のようなツール群と、ソースコードがずらっと並んでいた。
タケルの心臓がドクン! と高鳴る。それは前世の時、よく使っていた開発環境と酷似していたのだ。
恐る恐る表示されているコードを読み込んでいく……。
「読める……、読めるぞぉ!」
タケルはITエンジニアとしてプログラムコードを紡いでいたころの経験が、ブワッとフラッシュバックした。そこには魔力を光に変換し、プレートに表示する仕組みがコードとして記述されていたのだ。
さらに、魔法陣のままでは図形の相互作用が複雑でとても解析できなかったが、コードであるならば依存関係も明白である。これなら複雑な開発もできそうである。
「もしかして、こうすると……」
表示されているソフトキーボードを使って、そのコードに手を加えていく……。
すると、輝くプレートに赤い丸が描かれたのだ。
「おぉ! じゃ、これはどうだ……」
夢中になってコードを打ち込んでいくタケル。それは久しぶりのコーディング体験だった。
「よーし、完成! さて……、動くかな……? |実装《デプロイ》……」書き換え終わったプレートの赤丸を、恐る恐る触ってみるタケル。すると、赤丸は弾かれたようにプレートの中をカンカンと飛び回る。それはまるでブロック崩しのボールのように、端で反射しながらプレート内を所狭しと動き回ったのだ。
「よーし! じゃぁ、こうだ!」
タケルはすっかりのめり込んで、コードを書き込んでいく。最初は思い出すのに戸惑ったものの、前世では名の知られた凄腕プログラマーだったタケルは、水を得た魚のように嬉々としてコードを打ち込んでいく。
「出来上がり!」
空中に浮かんだソフトキーボードのEnterキーをパシッと叩く。
久しぶりのプログラミング。その知的ゲームにタケルは圧倒的な充実感を感じ、爽やかな疲労感の中、夜空に大きく深呼吸をした。
「さーて、動くかな……。|実装《デプロイ》!」
すると、プレートの上の方から四角いブロックが四つ繋がったものが降りてくる……。テトリスだ。タケルは魔法のランプをなんとゲームマシンにしてしまったのだ。
下の方に表示されているボタンを押すと、左右に動きながら一段一段ブロックが降りてくる。
「うほぅ! できる! できるぞぉぉぉ!」
タケルは夜空にガッツポーズを繰り返した。
ゲームができるなら丁寧にコーディングして行けばスマホにもなるのかもしれない。だとすると電話もないこの世界にスマホが爆誕することになる。
「異世界スマホ……。行ける、行けるぞぉぉぉ!」
タケルは初めて【IT】スキルの本当の使い方に気がつき、嬉しさが大爆発した。これで、自分はこの世界でスティーブジョブズになれる、Appleを創れるんだとバラ色の夢が広がっていく。もはや金に困らない、それどころか世界一の金持ちになれる!
タケルはさっきまでの絶望はどこへやら、輝かしい未来への希望に包まれながら宙を見上げた。
と、ここで、タケルはリーダーたちを見返してやれる方法に気がついた。自分が魔物たちの王、魔王を倒してやったら、あいつらはどんな顔をするだろうか?
くふふふ……。
ITの力と、稼いだ莫大な金があれば人類の敵、魔王軍に対抗できるはずだ。そう、金で魔王を倒すのだ!
ITエンジニアである自分こそが、魔王を倒す真の勇者だったのかもしれない……。
妄想が轟音を立ててタケルの中を駆け巡り、喜びが爆発する。タケルは、月へと誓いを立てるかのように、こぶしを夜空に突き上げた。
「タ、タケル君、どうした?」 急に黙ってしまったタケルに会長は不審に思い、首をかしげる。 タケルはこの世界には珍しい黒髪の若者だった。お金には苦労していそうではあったが、清潔感のある身なりには好感が持てるし、話してみると大人の思慮深さを感じる不思議な雰囲気を纏っている。 長くお付き合いできればと、かなりいい条件を提示したつもりだったが、タケルは押し黙ってしまった。 すると、タケルは顔を上げ、覚悟を決めた目で会長を見つめた。「会長、一台当たり銀貨三枚でいいので、一万個売れませんか?」「い、一万個!?」 会長は目を白黒させ、タケルを見つめ返す。「多くの人が買える値段で一気に普及させたいのです」「ふ、普及って言ったって……、ゲーム機なんて前例のない商材は……」 会長は腕を組み、首をひねって考え込む。百個ならお得意さんに卸して行けばすぐにでも捌けるだろうが、一万個となると庶民向けの新規の流通経路がいるのだ。ゲームは面白いが、ゲームに大金を払える庶民なんて本当にいるのだろうか? 前例のない商品を新規の流通経路に流してトラブルにでもなったら、アバロン商会の信用にも傷がついてしまう。合理的に考えればとても乗れない提案だった。 渋い顔をする会長にタケルは両手を前に出し、まるで夢を包むように想いを込める。「テトリス大会を開きましょう! ハイスコアトップの人に賞金で金貨十枚を出すのです!」 起業家は商品を売る前にまず、夢を売らねばならない。前例のない提案でも熱い情熱で相手を動かす、それがわが師、スティーブジョブズの教えなのだ。「じゅ、十枚!?」「それ素敵! 私も出るっ! きっと私が優勝だわっ!」 クレアは太陽のように輝く笑顔で笑った。 その今まで見たこともないような、希望に満ち溢れた笑顔を見て会長はハッとする。娘がここまで入れ込むなんてことは今までなかった。つまりこれは新たなイノベーションであり、ブレイクスルーに違いない。ここは若い感性に賭けるべきでは無いか?「ふぅ……。タケル君……。キミ、凄いね……。うーーーーん……。分かった、一万個、やってやろうじゃないか!」 会長はタケルの手を取り、グッと握手をする。その瞳にはタケルやクレアから燃え移った情熱の炎が燃え盛っていた。 タケルも負けじと情熱を込め、グッと握り返し、うなずく。 かくして、テトリ
タケルがやってきたのはアバロン商会本店。目抜き通りにある豪奢な石造りの建物で、木の板にフェニックスをあしらったシックな看板がかかっている。中には煌びやかな宝飾品が並び、ボロい服を着たタケルではとても気軽に入っていける雰囲気ではない。「あのぉ、すみません……」 タケルは入り口の警備員にクレアと約束があることを告げた。「タケル様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ……」 警備員はにこやかにタケルを二階のVIPフロアへと案内していく。豪華で煌びやかな室内、床には赤いカーペットが敷かれてあり、庶民には実に居心地が悪い。タケルは店員たちの鋭い視線に渋い顔をしながら、警備員に着いていった。 洗練されたインテリアの応接室に通され、言われるがままにフワフワとした豪奢なソファーに腰かけたタケルだったが、とても場違いで居心地が悪い。出された紅茶の繊細な香りに圧倒されているとコンコンとドアが叩かれ、クレアが顔をのぞかせる。「タケルさん、お待ちしておりましたわ!」 クレアは満面の笑みで足早に入ってくると、後からは恰幅のいい紳士もついてきた。会長だろうか?「きょ、恐縮です」 タケルは慌てて立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げた。「で、商品版はできましたの?」 クレアは待ちきれない様子でタケルの顔をのぞきこむ。「は、はい。こちらです……」 タケルは早速テトリスマシンをクレアに渡す。「わぁ……、随分……変わりましたね……」 クレアはハイスコア表示もされ、ブロックに色もついたテトリスマシンに目を輝かせる。「ほう……、これは珍妙な……。一体これは何なんだね?」 紳士はクレアの後ろからテトリスマシンをのぞきこみ、口ひげをなでながらけげんそうな顔で聞いてくる。「ゲームマシンよ? こうやるのよ!」 クレアは【START】ボタンをタン! と叩いた。「ほう……? なんか動いとるな……」「これは列を消して楽しむのよ!」 クレアは得意げにタン! タン! とボタンを叩き、次々とブロックを積み上げていく。そして『棒』のブロックがやってきた。「見ててよ! えいっ!」 クレアは得意満面に棒のブロックを|隙間《すきま》に落とす。 ピコピコっと点滅しながら四列が消えていった。「ほう! なるほどなるほど……、これは新鮮じゃな……。どれ、ワシにも貸してみなさい」 紳
「やるぞ……、やったるぞぉぉぉ!」 月を見つめ、武者震いするタケル……。すると、若い女の子の声がする。「あのぅ……、それ、何ですか?」 金髪の少女が碧い瞳をクリっと輝かせながら、好奇心いっぱいに声をかけてきたのだ。指さす先にはテトリスがピコピコと動いている。「あ、これは……ゲーム、ゲーム機です。やってみますか?」 挙動不審だった自分が恥ずかしくて真っ赤になったタケルは、テトリスマシンを差し出した。「ゲーム?」 小首をかしげる少女。薄手のリネンのシャツと、その上に重ねられた装飾的なボディスが、彼女の上品な雰囲気を演出していた。かなり裕福な家の娘に違いない。 タケルは少女の澄んだ碧い瞳に見つめられて、ほほを赤らめながら丁寧に説明していった。「ここを押すと右、ここで左、これで回転ですね……」「はぁ……?」 少女は押すたびにチョコチョコとブロックが動くのを見て、不思議そうに首をかしげた。「で、ここを押すと……」 タケルがブロックを隙間に落とすとピカピカと光って列が消える。「うわぁ! 面白い!」 少女は碧眼をキラッと輝かせて嬉しそうに笑った。「簡単でしょ?」「うん! やらせて!」 少女は受け取ると、好奇心いっぱいの瞳で画面を見つめ、ブロックを操作していく。 最初は下手だった少女も段々慣れてきて、うまく列を消せるようになってくる。「やったぁ! 四列消しよっ!」 少女は自慢げにタケルを見て、パアッと笑顔を輝かせた。「上手ですね、僕より上手いかも」 タケルは喜んでくれるのが嬉しくて、ニコニコしながら少女の横顔を見入る。不器用なタケルは、前世でも女の子に喜んでもらった経験などなかったのだ。 ものすごい集中力で
「お前はクビ! とっとと出ていけ!」 夕暮れの食堂で、冒険者パーティーのリーダーがウンザリとした表情でタケルを罵倒した。「えっ!? な、なんで……? 僕の武器の整備で強い魔物も倒せるようになって……」「ありがとう! つまりもうお前なしでも十分勝てるってことなんだよ! はっはっは!」 リーダーは美味そうにビールジョッキをグッとあおった。「そうですよ、タケルさん。アイテムの整備はもう十分……。戦わない人はパーティには要らないわ。ふふふっ」 ビキニアーマーの女魔導士はリーダーの首に手を回しながら、|嗜虐《しぎゃく》的な笑みを浮かべる。「いや、契約書ちゃんと読んでくださいよ! それは契約違反ですよ!」 タケルはカバンから契約書を出すと、該当の条文を指さして怒った。「んー? どれどれ……?」 リーダーは契約書を受け取ると、鼻で嗤い、そのままビリビリッと破いて床にぶちまけた。「な、何するんだよぉ!!」 慌てて契約書を拾い集めるタケル。 しかし、リーダーはそんなタケルを思いっきり蹴飛ばした。 ぐはっ! タケルはもんどりうって転がる。「冒険者に契約書なんか関係あるかい! そういうところがお前はウザいんだよ。文句あるなら裁判所へ行けや! まぁ、訴訟費用があればだがな! はっはっは!」 くっ……! タケルはリーダーを見上げてにらむ。明日の食費すら心配な自分にそんな費用など出せるわけがない。「そしたら、僕は明日からどうやって食べて行けば……」「知るか、バーカ! お前のその陰気なツラ見てっと酒がマズくなる! さっさと出てけ!」 リーダーはおしぼりをタケルの顔に投げつけると、女魔導士のお尻に手を回す。「いやっ、ダメよ……」 女魔導士はまんざらでもない様子でほほを赤らめる。 タケルはギリッと奥歯を鳴らした。「分かったよ! その代わり、僕の力が必要になっても絶対に助けないからな!」「お前の力……? なんかあったっけ?」「逃げ足の速さ……よね? きゃははは!」 タケルは怒りでブルブルと震えた。今まで自分が整備してきた魔道具のおかげで高ランクのモンスターを狩り、Aランクパーティにまで達してきたというのに、感謝の一つもないのだ。「ぜっっっったい! 後悔させてやる!!」 タケルはビシッとリーダーを指さし、にらみつける。「後悔? ははっ、お前
Comments