All Chapters of 拝啓ご主人様 捨てられたのはあなたです: Chapter 21 - Chapter 30

37 Chapters

30*祖父の死

 線香の煙が燻り、読経が荘厳に流れる。御堂には喪服の参列者が後を絶たず、白いハンカチで目を押さえながら焼香の列に並ぶ。楠木グループCEOの祖父、会長の葬儀とあり、小雨降る参道には白い傘が幾つも開き、まるで河を流れる白い花のように揺れる。「生前はお世話になりました」と、お祖父様に別れを告げる人々に会釈し、私は涙を流した。だが、頭を下げながら窺い見た七海の顔は、感情のない人形のようだった。黒曜石の瞳は虚ろで、赤いドレスの記憶を隠す喪服が無機質に映る。彼女の無表情は、祖父の死を悲しむ偽りか、それとも別の思惑か。私の胸に疑念が渦巻いた。     あの嵐の夜、赤色灯が楠木の屋敷を取り囲み、大理石のホールには人型の白線が冷たく引かれた。立ち入り禁止のバリケードテープが暴風に揺れ、雨が屋敷を叩く音が響く。私と相馬は屋敷に不在だったため、警察官の事情聴取は早々に切り上げられた。あとの三人は順番に応接室に呼ばれ、家政婦は緊張で顔を強張らせた。彼女はキッチンで夕食の準備をしていたと証言する。大きな物音に気付きホールに駆けつけた時、祖父は仰向けに倒れ、両脚が階段に残っていた。「階段から落ちた」と咄嗟に思ったと、声を震わせる。   健吾は一階のバスルームで風呂に入っていた。これまでの疲れで思わず浴槽でうたた寝をしていたと言う。彼は家政婦に声を掛けられるまで祖父の異常に気付かなかった。確かに私服に着替えた健吾の身体からは爽やかなバスソルトの香りが漂い、髪の毛も湿り気を残している。バスローブを着た健吾がホールに駆け付けると、そこには無惨にも目を見開いた祖父の姿があった。家政婦と健吾が口裏を合わせていなければ、二人の現場不
last updateLast Updated : 2025-11-12
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31*嘘と盲信

七海に心を奪われた健吾も、流石に祖父の死因に不審なものを感じ取ったようだ。応接室の長椅子に腰掛けた二人は、声を潜め、些細な口争いをしていた。あの嵐の夜、何があったのか……なぜ、祖父の和室に七海の赤いワンピースの繊維が残っていたのか。赤い糸、階段の踊り場、七海の冷やかな視線が脳裏をよぎる。私はスマートフォンの録画スイッチを押し、軋むドアの隙間からゆっくりデバイスを差し入れた。画角は満足のゆくものではなかったが、健吾の青ざめた横顔と七海の黒曜石の瞳は、しっかりと映り込む。彼女の震える唇、健吾の硬い表情……嘘か真実か、決定的な証拠がここにある。 「どうして祖父さんの部屋に行ったんだ」と、健吾が声を顰め、七海の肩に手を置く。しおらしく俯いた彼女の顔を覗き込むと、黒曜石の瞳から真珠のような涙がこぼれ落ちる。「……お祖父様が……この子を堕ろしなさいって怒鳴ったの」と、七海は怯える小鳥のように肩を震わせた。「祖父さんが……」と、健吾は呆然と呟く。当然だ。妾の娘、姓は違えど楠木の血を継ぐ孫娘が、結婚前に子を身籠るなど、祖父には許せなかった。だが、そこに実の兄の子供だという確信があったのか……祖父が死に、確かめようもない。ドアの隙間から差し入れたスマートフォンが、二人の横顔を冷たく記録する。七海の涙、健吾の動揺……嘘か真実か。 「それでどうなったんだ」と、健吾の顔は青ざめ、七海の肩を掴む指先に力が込もる。「お義兄ちゃん……痛いよ」と、七海が肩に手を置き、小鳥のように囀る。その一挙一動が、私には演技のようで、嘘に塗れた悲痛な声に恐ろしさが這う。七海は続ける…&hellip
last updateLast Updated : 2025-11-13
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32*ジョーカーの登場

 メニューを持った店員に案内され、一番奥のソファ席に腰を下ろした。すっかり顔馴染みになった店員は、私たちの顔を見つけると手際よくテーブルを片付け、「こちらでよろしいですか?」とミネラルウォーターのグラスを置く。その慣れた仕草に、思わず二人で吹き出してしまった。いつものチーズハンバーグステーキを注文するところだが、今回はジョーカーをテーブルに並べる時だ。ホットココアを選んだ……舌にざらつくコーヒーより、甘く温かな味が復讐の冷たい炎を和らげるだろう。   録画された健吾と七海の口付け、七海の台本のような証言は、動画配信の切り札だ。あの嵐の事件以降も、私は屋敷の薄暗い廊下で仲睦まじく寄り添う二人、黒のセダンの助手席に滑り込む七海の後ろ姿、車内で貪るように口付ける様子を、吐き気を催しながらスマートフォンで撮影した。ファミリーレストランのソファ席、観葉植物の影が私たちの秘密基地を隠す。「これはまた……あからさまだね」と、相馬が銀縁眼鏡の奥で目を細める。「そうでしょう? ここまで大胆だと、呆れを通り越して応援したくなっちゃうわ」と、私は冗談まじりに肩を竦めた。「お待たせいたしました」ホットココアの甘い香りが漂う中、私は相馬と視線を交わし、冷たく微笑む。   「それで? このジョーカーはいつ使うの?」と私が問うと、ファミリーレストランの扉が軽く軋み、ハンチング帽を目深に被った少年が現れた。「いらっしゃいませ!お待ち合わせですか?」店員がメニューを持って微笑みかける。「…………」彼は無言で頭を下げると、迷うことなく私たちの秘密基地へと向かって歩いて来た。 
last updateLast Updated : 2025-11-14
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33*疑惑の香典帳

シトシトと雨が降り、離れの和室の障子を濡らす。お祖父様の形見分けもつつがなく終わり、私は畳に座り、庭の南天の赤い実が揺れるのをぼんやり眺めた。黄色く色付いていた葉は色褪せ、錦鯉が泳ぐ池に沈み、静かに朽ちていく。「……あんなに綺麗だったのに」と呟く。ふと、健吾の笑顔が浮かぶ……ケチャップのハート、タルトタタンの香り、欺かれた三年間の結婚生活も、今は池に沈んだ落葉のようだ。やがて腐り、泥となる。目頭が熱くなり、雨粒のような涙が頬を伝う。 「……そうだわ」 お祖父様の葬儀では、悲しみの嫁を演じるあまり、参列者に満足な挨拶もできなかった。離れの和室で雨を眺め、不意に思いついた私は、漆塗りの箱から芳名帳を取り出し、ペラペラと捲り始める。「……あら、こんな方までいらして下さったのね」と呟く。業界で楠木グループと肩を並べ、ライバル企業と称される会社の社長や会長の名が連なる。南天の赤い実が雨に揺れ、池の落葉が朽ちる。「これは、お礼状も書くべきかしら?」と考えるが、本来なら孫である健吾が気遣うべきことだ。なぜ、離婚届を突きつけられた私が気を揉むのか……嘲笑の笑みが漏れる。健吾と七海の蜜月、祖父の死、赤い繊維。何もかもが馬鹿らしく思えてきた。 何冊も重なった分厚い芳名帳の下に、香典の控えがあった。近しい親戚一同で香典の封を開き、香典帳に金額を書き出していた。途中までは私がペンを走らせていたが、急な吐き気が胸を締め付け、席を立った。ストレスからくる胃炎かと思い胃腸薬を飲んだが、吐き気は治まらず、家政婦に背中を撫
last updateLast Updated : 2025-11-15
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34*「八」の真実

私がファミリーレストランの秘密基地……観葉植物の影に隠れた奥のソファ席……に腰を下ろすと、程なくしてドアが軋み、長身の男性が肩の雨粒を払いながら入店した。これまでのスーツ姿とは違い、ラフなダンガリーシャツにTシャツという出立ちの相馬だった。片手を小さく上げ、銀縁眼鏡の奥で微笑む姿は、シロツメクサの草冠を編んでくれた少年の面影を残す。思わず鼓動が速くなり、「いやだ……私ったら」と心で呟く。頬が薄っすら赤らむのが分かった。「お待たせ、冴子ちゃん」と彼が言う。「ううん、今来たところ」と、思わず声が上擦る。それはまるで高校生の待ち合わせのような初々しさだった。ホットココアの甘い香りが漂い、香典帳の「八」の秘密が胸を締め付ける。 彼もホットココアをオーダーし、テーブルの上で拳を握った。銀縁眼鏡の奥の目は真剣で、獲物に牙を立てようとする肉食獣のようだった。観葉植物の影に、ファミリーレストランの喧騒が遠ざかる。私は加賀友禅の風呂敷包の結び目をゆっくり解き、漆塗りの木箱を取り出した。蓋はダウンライトに照らされ、重厚な趣と冷たい光を放つ。香典帳をそっと取り出し、結城・七海の母親がペンを走らせたページを相馬に向けて開いた。そこには、丸が二つ連なったダルマのような「八」の字が並ぶ――健吾の両親を自動車事故に見せかけ殺害した八百万円の証拠。「……これは」と、相馬の声は掠れ、小さく呟く。ホットココアの甘い香りが漂う中、七海の母親の闇が浮かび上がる。 「それで……どうだった?」と、私はテーブルに身を乗り出し、ホットココアの甘い香りが漂う中、息を詰める。香典帳のページを捲っていた相馬の指先が止まり、銀縁眼鏡の奥の鋭い視線が私を突き刺した。「あったよ」と、彼が低く答える。「&he
last updateLast Updated : 2025-11-16
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35*冴子の変化

郊外のマタニティクリニックに一台の黒いタクシーが滑り込んだ。後部座席から降りる足元が緊張で震え、ハイヒールがアスファルトを小さく鳴らす。「何だか……ドキドキするわ」と呟き、自動ドアの前で一旦止まり、大きく深呼吸した。静かに開くドアの向こうは、まるで別世界だった。優雅なバックミュージックが柔らかく流れ、温かみのあるベージュの壁紙、ふかふかの椅子が高級感を醸し出す。部屋には豪華な調度品、色鮮やかな花々が飾られ、大きな窓のドレープカーテンが空調の風に軽やかに揺れる。陽光がカーテンを透過し、柔らかな光が新しい命の誕生を祝福するようだった。 私はソファに座りながら落ち着かず、マタニティクリニックのパンフレットを手に取っては眺め、育児雑誌を手に取ったかと思うとラックに戻すを繰り返した。柔らかなベージュの壁紙、陽光に揺れるドレープカーテン、優雅なバックミュージックが流れる待合室で、周囲を見渡す。お腹の大きな妊婦がパートナーと寄り添い、朗らかに言葉を交わす。その笑顔に、胸が締め付けられる。妊娠が分かった時、素直に喜べるか……不安が心を蝕む。離婚を言い渡した健吾の子供、自分はどうするべきか……。そっと下腹を撫でるが、温もりは感じられず、七海の黒曜石の瞳が脳裏をよぎる。復讐の炎と母性の揺らぎが交錯した。 自動ドアが静かに開く音が響き、何気なく振り返ると、スーツ姿の相馬が息を荒くして私の隣のソファに腰を下ろした。「弁護士が弁護人とプライベートで会っていると、不埒なことを言い出す人が現れるかもしれない」と、以前彼は慎重に言ったはずだ。なのに、私がマタニティクリニックを受診すると聞き、慌てて駆けつけたという。銀縁眼鏡の奥の目はベージュの壁紙を凝視し、周囲に聞こえぬ小さな声で「もう診察は終わったの?」と尋ねる。私は首を横に振った。
last updateLast Updated : 2025-11-17
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36*突然のプロポーズ

 「その赤いハイヒールはもう履かない方がいいね」と、相馬が黒いセダンのハンドルを握りながら微笑んだ。これまで贅沢を避けてきた私だが、健吾との闘いを前にジミーチュウのボルドー色のハイヒールを購入した。王侯貴族やセレブリティを虜にするラグジュアリーなブランドは、一億五千万の貯金の前では安い買い物だった。踵を鳴らすたび闘志が沸き、七海の黒曜石の瞳を睨みつける力が湧いた。だが今、お腹の子供の安全を考え、ローヒールの生活に逆戻りだ。「そうね、その方が私らしいわね」と、下腹を撫でながら笑みが漏れる。出産か、堕胎か……答えはもう分かりきっていた。この子を産み、健吾と七海の嘘を暴く。   今、私のショルダーバッグの中には、あのマンションの登記簿謄本ではなく「妊娠届出書」が入っている。車が青信号で滑らかに動き出すたび、ショルダーバッグの中でカサカサと音を立てる「妊娠届出書」が、私の醜い復讐心を温かな光で包んだ。健吾の裏切り、七海の黒曜石の瞳……私を悲しみの淵に追いやった全ての出来事が遠ざかり、トクトクと響いた小さな心音が未来を照らす。この子を産み、ジミーチュウのボルドー色のハイヒールはローヒールに変わり、悲しみは母性の光で新たな形を取る。相馬のセダンが街を進む中、私は下腹をそっと撫でる。   市役所の駐車場にゆっくりと停まった相馬の黒いセダンは、私を幸せに導いた。運転席から慌てて降りた彼は、そっと私の腕に手を添え、気遣うように微笑む。楠木グループCEOの肩書きを背負った健吾は傲慢で、私に手を差し伸べるなどなかった。楠木の父親に唆され、セクシーな下着姿で彼のベッドに横たわった私に、不愉快な視線を投げたこともあった。赤いケチャップのハートで飾った朝食の裏に隠され
last updateLast Updated : 2025-11-18
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37*新しいアカウント

ファミリーレストランの秘密基地、観葉植物の影に隠れたソファ席。艶やかな赤いイチゴ、滑らかなホイップクリームが輝く。「……何、何かあったの?」と、ジョーカーが縮れた長い前髪の隙間から二人を覗き込む。煌めくガラスの器に盛られたイチゴパフェの天辺、ミントの葉を齧りながら問いかけた。冴子は頬が熱くなるのを感じ、相馬は銀縁眼鏡の下で目を硬く瞑る。「何でもないのよ、気にしないで」と、冴子が微笑むが、声はかすかに震える。ジョーカーはハンチング帽を被り直し、「ふーん……」と呟き、先割れの長いスプーンでバニラアイスクリームを崩す。パリパリとコーンフレークが砕ける音が、微妙な静寂に響く。アールグレイの余韻、桜色の母子手帳、相馬のプロポーズが胸を締め付けた。 「大人は……色々大変そうだね」と、ジョーカーがイチゴパフェのミントを齧りながら呟く。その言葉は、昨夜の抱擁を覗き見られたようで、心臓がドキドキと跳ねた。密かに隣の相馬を見遣ると、彼も気まずそうに銀縁眼鏡を上下し、頬が微かに赤らむ。「んっんんっ!」と、相馬が意図的に咳払いし、唇を結び直す。スマートフォンを胸ポケットから取り出し、真昼の陽光に照らされた画面が眩しく光を弾く。観葉植物の影でホイップクリームの甘い香りが漂う。ジョーカーの無垢な瞳が、復讐の舞台を静かに見つめる。 相馬は滑るような動作で暗証番号を打ち込む。「何か分かったの?」と私が問うと、「……ああ」と彼が低く答える。疑惑の「八」を、入手したメモと香典帳と一緒に鑑定に出したという。「そんなことが出来るの……?」と声を顰めると、相馬は銀縁眼鏡の奥で鋭く目を光らせた。「別の交通事故……不審死の捜査をしていた田辺さんという警察官が依願退職
last updateLast Updated : 2025-11-19
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38*不貞の現場撮影

 ジョーカーは私に、楠木家を連想させる七海の投稿をスクショして保存するよう指示した。「楠木の家?」と訝しげにデバイスをテーブルに置くと、「うん、楠木さんちの玄関先とか、表札が写り込んだ画像、そこに二人……いや、七海が映り込んでいれば最高だね!」と、彼はチェスの駒を摘むように楽しげに言う。   「これでも良いかしら?」と、私はスマートフォンに収めた悍ましい画像を差し出す。応接間のエミール・ガレの百合のランプが仄かに灯り、逆光の中、健吾と七海が激しい口付けを交わす。七海の顔は薄っすら浮かび、腕は健吾の背中に回る。「これとこれ! 良いじゃん!」と、ジョーカーが二個目のイチゴパフェから真っ赤なイチゴを満足げに摘む。「……これは」と、相馬が銀縁眼鏡を上下させ、七海の手首を指差す。「何? どうしたの?」と問うと、そこには例のパティップの新作の腕時計が光っていた。   「これは健吾から贈られた腕時計ね? これがどうしたの?」と、私の声は上擦る。ジョーカーは先割れスプーンで生クリームを掬い、満足げに微笑む。「かくれんぼするんだよ」「え?」と私が返すと、「これから僕は七海のアカウントに爆弾を落とすよ。みんな楽しくて必死に探す……でも、ネットのリサーチ力は凄いよ〜、あっという間に身バレしちゃうね」と、彼はチェスの駒を動かすように言う。そしてもう一度、「冴子さん、その応接間を撮影してきて。いちゃついてる画像と同じ角度で……会社のアカウントで、ん〜、お祖父さんの形見の百合のガレのランプです、とかアップしてよ」と指示する。その意味はすぐには掴めなかったが、隣の相馬の口元が冷ややかに微笑む。七海にとって痛手になる
last updateLast Updated : 2025-11-20
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39*ネット炎上

 ジョーカーは偽アカウントで、楠木家の仄暗い応接間で激しく口付けする健吾と七海の画像を投稿した。#家政婦は見た#なんか見た#秘密のエミールガレ……ハッシュタグが火種となり、『何これ!』『芸能人?』『誰?』『ガレのランプ! 超金持ちじゃん』『ガレって何?』『このランプ偽物じゃねぇの?』と、インターネットの波が凄まじい速さで拡散される。   その頃、私はジョーカーの指示で楠木グループのアカウントに、エミール・ガレの百合のランプが仄かに灯る画像を投稿した。「冴子さん、次は#秘密のエミールガレ#お祖父様の遺品#楠木グループってハッシュタグを付けてね」と、ジョーカーの声は嬉々とする。次々に落とされる爆弾が、健吾と七海の姿を鮮明に浮かび上がらせてゆく。   黒のセダンに乗り込み口付けする画像は、ドラマのワンシーンのように美しく、悍ましい。「冴子さん、楠木さんちの玄関とか、会社とかの画像を投稿して!」と連絡が入り、#楠木グループ#楠木グループ社屋で核心に迫る。ショルダーバッグの母子手帳が勝利を支え、七海のインスタグラムのネクタイが火種となる戦いは、この拡散で決定的になる。私は下腹を撫で、冷たく微笑む。   数日もしないうちにコメント欄に異変が起きた。『これ......パティップの人?』『そうかも!』と、七海がアップしたイタリアンレストランでの光景に反応するネットユーザーが現れる。七海の手首に光るパティップの時計の繊細な輝きは、賞賛や祝福の的でもあり、羨望、妬みの対象でもあった。彼女の輝か
last updateLast Updated : 2025-11-21
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