貨物を運ぶ宇宙船の中は、機器を操作する音の他は、ほとんど静寂と言ってよかった。「コーヒー、飲みます?」 巨大な船は、ほとんどがAIによって操作される。 人間の搭乗員は二人だけ。 ただの生活物資を運ぶ、決まりきった航路の民間船。 実際には一人で充分だが、緊急時に備えて二人乗りと規約で定められていた。「ありがとう。でも、交代の時間には早いんじゃないか?」「こう頻繁にアラートが鳴ってちゃ、寝てらんないっすよ」 ため息をつき、ダニーは2つある操縦席の空いている方に座った。「最近のセンサーは過敏だからな。かなり距離のある磁気嵐も感知する」「ストームスポット……ですっけ? あんな距離のものまで警告する必要ないと思うんですけどねぇ」 片方のカップをエドに渡し、ダニーは自分のカップに口をつける。 合成だが、香りはかなり本物に近い。 長旅の宇宙船は、艦内に重力発生装置もあり、湯気がたゆたい、手を離せば床に落ちる。「今どき、こちらの航路で貨物を運ぶ路線が残ってることのほうが不思議さ」 エドが言った。「ストームスポットの奥には罠がある……。スポットラップの伝説……でしたっけ? そんなものに怯えて、わざわざ迂回路を飛ぶなんて、莫迦みたいじゃないっすか?」「スポットラップは、本当に存在するぞ」「まったまたぁ! 確かに磁気嵐が集まってるストームスポットは、なかなか解明が進まないとは聞きますけど、逆にそんな場所に、生き物がいるわけないじゃないっすか!」「ストームスポットが確認され、迂回路も整備され、いまや "伝説" なんて言われちゃいるが、実際にスポットラップは存在するのさ」「まさかっ! 見てきたみたい言ってぇ!」 冗談として打ち消そうと、ダニーはことさらおどけた調子で返したが。「……ああ、見てきたのさ……」 エドは、目線をストームスポットのある方角に向けたまま、短く答える。 その様子に、ダニーは微かな恐れと大きな好奇心を抱いた。
Terakhir Diperbarui : 2025-10-24 Baca selengkapnya