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作者: RU
last update 最終更新日: 2025-10-24 13:17:31

 カプセルの中で目を覚ましたマークは、鋭い瞳をゆっくりと開けた。

 瞼の裏に隠されていた爬虫類特有の膜が、すっと横に動く。

「……ここは……?」

「ひゃああっ!」

 頭上から声が響き、マークは振り仰いだ。

 そこには透明な膜に包まれたホモ・サピエンスが、中空に吊るされ、両脚を開かれたまま、胯間に照射された光を浴びていた。

 不自然にのけぞった姿勢。

 脱力していながらも、時折ピクリと跳ねる体。

 全身にうっすらと浮かぶ汗、紅潮した肌。

「これは……一体……」

「やあ、目が覚めたね。僕はジョン。ごめんね、エドは今、僕にデータを提供するために協力してくれている最中で、挨拶は出来ないんだ」

「エド……? あの、上で悶絶しているホモ・サピエンスか?」

 マークの前に、膜の一部から立ち上がったマークそっくりの姿が現れる。

「磁気嵐にあったのは覚えてる? 僕は遭難していた船から、きみを回収して回復カプセルに入れたんだよ」

「俺を救助してから、どれぐらいの時間が経過した?」

「ヒューマノイドの共通時間で、約3日だね」

「あのホモ・サピエンスに、暴行を働いているのは、……おまえか?」

「彼はエド。きみはマークと言うんだろう? ヒューマノイドなら、個の名称を使うのが礼儀? のはずだよ。僕は、ヒューマノイドの生活仕様や思想を学んだんだけど、データと実地には違いがあるだろう? エドは実地のデータ提供をしてくれているんだ」

「データの提供? あまり……協力しているようには見えんが……」

「ヒューマノイドは、奥が深いね。言語では否定的な発言をしていても、バイタルは肯定を示していることがある。遠慮や謙遜、奥ゆかしさとか慎み深さを美徳としているんだね。興味深い」

 悲鳴が上がり、ガクガクと震えていたエドの全身から力が抜けた。

 膜がするすると下がってきて、その体を回復カプセルへと寝かしつける。

「お疲れ様、エド。よく、体を休めて」

 ジョンは、愛情深い母親のようにエドのひたいにキスをする。

「きさま、俺にも協力をさせるつもりか?」

「きみは傷が塞がったばかりだ。体力も落ちているし、無理な運動は傷が開く可能性もある。まだ安静にしているべきだね。僕は、集めたデータの再検討をするので、部屋でリラックスしてて」

 それだけ言うと、ジョンは天井の通気口から部屋を出ていった。

 カプセルに身を横た
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  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   エピローグ

     話を聞き終わったダニーは、しばらく黙っていた。「……えっと、その……ジョークっすよね?」 微かに引きつった顔で、ようやくそう一言吐き出す。「本当さ」 冷めきったコーヒーの最後の一口を飲み干し、エドはダニーに向かってニヤッと笑う。 だが、その表情は、言葉とは裏腹だった。「や……やだな〜、俺のこと、脅かそうとしてるんすね! ただでさえ眠気が飛んでるのに、そーいうのやめてくださいよ〜」「さて、時間か……。じゃあ、後は頼んだぞ」「はい、おやすみなさい」 ダニーの声を後に、エドは操縦席を離れた。§ エリオットのシャトルに取り付けたシールド発生装置は、出力と使用エネルギーの違いから限界を迎えた。 磁気嵐を脱出した直後、焼き切れて爆発を起こしたのだ。 それでも、シャトルそのものは無事に──人間の暮らす宙域に戻ることに成功したのだ。──そして、日常に戻った。 貨物船の廊下を歩きながら、エドは昏い目を足元へと向ける。 スペースパトロール員であったエリオットの采配により、磁気嵐に包まれたストームスポットは危険宙域として指定され、貨物船の航路は大幅に変えられた。 今やこの航路を飛ぶ船は、よほどの "ワケアリ" しかいない。 エドは、足を船尾に向ける。 あまりに強烈すぎた、ストームスポットでの日々。 スポットラップと呼ばれる、伝説の "危険生物" 。──それが、忘れられなくなるとは……な。 壁のボタンを押すと、警告音と共に脱出ポッドが起動する。 インターコムを通して、ダニーがなにか叫んでいるが、エドはそれを無視してポッドに乗り込んだ。 ここでポッドを切り離せば、磁気嵐に流されてストームスポットの中心へと運ばれる。 もう一度、あの場所へ……。終わり。

  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   §

     中空高く体を持ち上げられて、エドは喘いでいた。「データ収集を優先するから、いつもよりハード目になっちゃうかもしれないけど、ごめんね」 ボンテージ、スポットライト、戒め。 全てがエドの羞恥を煽る。「エリオットが目覚めた時、優しいハグだったのに、反応が大きかったよね。じゃあ、観衆の姿をエリオットにした方が効果はあがるのかな?」「ひっ……、よせ……っ!」 他人の目が、下から、上から、エドの痴態を射抜く。「も……、イク……イクぅ……」 無様に腰を揺らし、エドは懇願した。「うーんとね、前回の時に、きみのお願いに応じたら、以外に快感ポイントが上がらなかったんだよ。だから、もうちょっとバイタルの数値が上がってから解放するべきだと思うんだよね」「やぁぁ……! ゆる……ゆるしてぇ……!」「きみにお願いされると、弱いなぁ。あ、そうだ! ならデータベースでやってたやつを試させて。えっとね『お願いします、イカせてください。太くて大きな突起付きで、中をたくさんかきまわして』って言ってみて」 全身を勝手気ままに刺激され、既に思考も半ば出来なくなっていたが、流石にエドはハッとなった。「い……いやだっ!」「え〜、お願い、お願い。丁寧語で声に出すと、変化があるのかどうか、知りたいんだ」「い……や……」 頭を振るエドの体を、ぬるりと膜が舐め回す。 熱の昂ぶりを、やわやわと──まるで人の口内で愛撫されるように包まれる。 それでも、根本をしっかり抑え込まれて、ただ腰を振るだけでなんの解放も訪れない。「あっ! あっ! やぁ! お……お願いします! お願いします! お……俺の中を、太くて大きな突起付きで、壊れるまでかき回して! お願い、イカせて! イカせてくださいぃぃ!」 こらえきれず、叫んでいた。 叫びきった瞬間に、どうしようもない虚脱感が襲う。 が、それを認知する隙もなく、体内のジョンがぐるりと大きく動いた。「あああっ!」「うん、うん! すごいよ、数値が最高まで上がった。でも、ごめんね、僕はきみを壊すなんて、出来ないから。壊れない程度で、許してね」 体内の圧迫感が膨れ上がり、蠕動が快感を絶え間なく送り込む。 奥のもっとも感じる場所に突起が当たる度に、痺れるような痛みが送り込まれ、エドは狂ったように腰を振った。「ひっ! あっ! 

  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   §

     しばらくして、部屋にエリオットとジョンが戻ってきた。「どうなった?」 エドの問いに、エリオットは厳しい顔をする。「磁気嵐の話は本当だ。俺のシャトルのセンサーで確認した」 微かに、エドの顔が強張る。「あの磁気嵐を無事に越える方法を考えないと、無闇にステーションの外に出るとすごく危ないよ。でも、ホームに帰りたいって気持ちは僕にもわかるから、どうしても帰るなら、方法を考えるのを手伝うって、エリオットと話したんだ」 回復カプセルに座り込んだエド、その横に立つエリオット、そしてエドに寄り添うように膜で包み込むジョン。「方法が……あるのか?」「このステーションのベースにしてる船の、シールド発生装置を外して、エリオットの船に取り付けたらどうだろう?」「しかし、その船も磁気嵐で遭難したものだろう?」「違うよ。この船は、たぶん放棄された状態で、ストームスポットに流されてきたんだと思う。さっきも言ったけど、僕が見つけた時にはカラッポだったからね。だからシールドで船体を守っていたから、ここに流れ着いた時もきれいなままだったんだと思うよ」「だが、その装置を外して大丈夫なのか?」「構わないよ。ここはストームスポットの中心で凪いでいるからね。ヒューマノイドが生活するだけなら、きみたちの船についてるシールドで充分だもの」 ジョンの答えに、少し間をおいてからエリオットが口を開いた。「それはつまり、おまえは減圧環境でも生きているってことか?」「そうだよ。僕は家が欲しくて、理想的な場所を探してここにたどり着いたんだ。ヒューマノイドの船が流れ着くし、集団のヒューマノイドも現れにくい。すごく良い場所だろう?」 にこりと、ジョンは笑う。「そうだな。じゃあ、シールド発生装置はありがたく使わせてもらう。だが、仕様が合わないのをすり合わせる必要がある」「オッケー! じゃあ、それまでに最後のデータ収集をエドにお願いしたいなぁ〜」 ジョンの問いかけに、エドはギョッとした。「え……?」「体力の問題とかで無理なら断ってくれていいんだよ。でも、ここからきみたちがいなくなっちゃうなら、出来るだけデータを残していって欲しいんだ。駄目かなぁ?」 無邪気な顔で問われ、エドは答えに詰まった。──断れば、ジョンの機嫌を損ねるかもしれない。 そうなれば脱出の計画そのものが潰える。 だ

  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   §

     人の声と、なにかが動く音で、エリオットは覚醒した。 自分が寝かされているのは、見慣れぬカプセル。 体を起こすと、自分は全裸で、近くから断続的に声が聞こえる。「なにをしている?」 男が一人、貫頭衣のような布に、透明な膜で包まれて喘いでいた。「あ、目が覚めたんだね!」 喘いでいる男の様子からは想像も出来ない、朗らかで無邪気な聲が──耳ではなく頭の中に響く。「やあ! 僕はジョン。彼はエド。エド、エリオットが目覚めたよ」「ひっ! やあっ! 見るなぁっ!」 柔らかな快感に押し流されていたエドは、そこに立つエリオットの姿に──その突き刺さるような目線に気づき、逃れるように身を捩った。「あああんぅっ!」「おや? 快感ポイントが高いなぁ。激しい時と同じくらいの数値だ。これは、エリオットに見られたから?」「言う……なっ!」 ぎゅうっと手を握り、エリオットから逃れるように顔を背け、エドは奥歯を噛んだ。「俺は、シャトルが磁気嵐に巻き込まれたはずだ」 状況が飲み込めないまでも、エリオットは軍人らしく冷静に事態の把握に努めた。「ここはヒューマノイドの言う "ストームスポット" 。このステーションは僕の家だよ。エドに頼まれたから、漂流していたきみの船を回収して、きみを回復カプセルにいれたんだ。あ、僕はデータを精査するから、あとはエドから話を聞いてね。エドはすごく繊細だから、あんまり冷たい態度は取らないで。それときみの服は好ましくない放射線を含んでいるので、洗浄するよ。これを着てて」 にこっと笑い、ジョンはエリオットにも貫頭衣を渡し、天井の通気口へと消えた。「それで、おまえは話が出来るのか?」 床にへたり込んでいるエドに向かって、貫頭衣を身に着けながら、エリオットは問いかけた。「別に……。なんでも聞けよ」「あの生物はなんだ?」「わからない。俺もあんたと同じように、船が磁気嵐で壊れて、気がついた時にはここにいた」「なぜ、異生物とセックスをしている?」「したくてしてるわけじゃない! やつがヒューマノイドに興味があるというから、船のコンピューターへのアクセスの仕方を教えたら、娯楽用VRの知識を片っ端から俺に試してきたんだ!」「それに、唯々諾々と従っているのか?」「あんたの前に来たスクアモス人のマークってやつは、抵抗して殺されたんだぞっ!」 エリ

  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   5.エリオット

     回復カプセルの中で、エドは静かに覚醒する。「やあ! 目が覚めた?」 膜が、下半身どころか、自身の身に一切触れていない。「きみに知らせがあるよ」 嬉しそうに告げるエイリアンに、エドは一瞬、表情を曇らせた。 脳裏に、その言葉が告げた後に起きた悲劇が一気にフラッシュバックする。「まさか……」「うん、磁気嵐に巻き込まれて、遭難船が漂流している」「……回収……するのか?」「そこが問題だよ! 僕は出来れば回収したいと思ってる。ヒューマノイドの作る "船" を集めるのが好きだからね。でも、マークの時のように、中に生存者がいて、またきみを傷つけたら嫌だなぁ」 自分の顔で困ったように眉を寄せ、首をかしげているジョンに、エドは答えに迷った。 ここでの返答次第で、再び自分が誰かの命を奪う可能性が出てくる。 否──。 既にこの問いは、その可能性をはらんでしまっている。「生存者が……いるのかどうか、わからないのか?」「待ってね。前回は生命体を感知する方法がわからなかったけど、あれからデータベースで学びを得たから。えーと、サーモセンサーに反応があるね。32度って出てる。これは……ホモ・サピエンスだった場合は、低体温症って状態かも」 回収を断れば、遭難者を見捨てたことになる。 だが、助けたところでジョンの気分次第で殺される可能性は残るのだ。「…………っ!」 エドは数秒の迷いの後、心を決めた。「回収してくれ!」「オッケー! ドローン出すよ!」 ジョンのはずんだ声が、新しいおもちゃを手に入れた喜びのように聞こえる。 だが、ここで生存者を見捨てれば、今度こそ自分は殺人者になってしまう。 数秒が、数時間に感じる──間。 前回同様、接岸する音は聞こえなかった。「じゃあ、生存者を連れてくるね。あ、そうだ。これ渡しておくね」 ばさりと何かを投げ渡し、ジョンは天井の通気口へと消える。 エドは渡された布状のものを広げてみた。「なんだこりゃ?」 長い布状のものの中心に、穴が空いている。 長辺の端には四箇所、細い紐状のものが付いていた。 つまるところ、貫頭衣なのだが、貨物運搬専用の宇宙船操縦者であるエドには、全く見た事もない奇妙な布にしか見えなかった。 だが、これから新たなヒューマノイドが部屋に来ることを考えると、全裸でいるより

  • ミルメコレオ ─宇宙スライムのヒューマノイド観察日記─   §

     四時間の睡眠と、終わりのないエクスタシー。 エドは、良くも悪くもジョンの思惑通りに、マークの死について考えられなくなっていた。 羞恥の果てに絶頂させられることも、虚脱する隙もなく次の快感に突き落とされる。 高度文明の生み出した高性能回復カプセルによって、体は健康を保たれていたが、思考に関しては落ち着いてものを考えることが全く出来ない状態になっていたのだ。「やあ! 目が覚めたね」「んぁぁっ!」 下腹部への刺激で目覚めを促され、体は中空へと持ち上げられる。「前回は、ごめんね。体液の生成が間に合わなくて、出せなくなる時があるって知らなかったんだ」 全身を包む膜が、いつものように肌を撫で、吸い、舐め、快感を送り込む。 腕を抑えられ、足首を太ももに固定され、背後から圧力が掛かり体内へと侵入される。 だが、今回は新たな動きが加えられた。「だからね、体液の放出をある程度抑えたらいいと思うんだよ」 そういって、立ち上がってきた熱の根本が、ぎゅっと締め付けられる。「よせっ!」「大丈夫。僕は決して、きみを苦しめたり傷つけたりするつもりで、こんなことをしていないからね。むしろ、体液の生成される速度を考えたら、これはとても合理的なんだよ。さぁ、体の力を抜いて、僕に任せて」 体内に侵入したジョンは、体積を増やし、ゆっくりと動き始めた。「僕の本来の質感よりも、ヒューマノイドの舌みたいな質感のほうが、より快感を得る。それも大きなものではなく、ヒューマノイドと同サイズのもののほうが良い。ただ、肌の広範囲を複数の舌で撫でられるのは好きだよね」「あっ! あっ!」 首筋に、背中に、脇に、胸に。 複数の舌のようなものが、早く、遅く、ぬめぬめと肌を這う。 だが、熱が集まりエドがどれほど身をくねらせても、そこはしっかりと堰き止められて、解放してはもらえない。「くそっ! イ……イかせろっ!」 思わず、口をついて出た。「うわあ。初めておねだりされた! 嬉しいなぁ、僕に甘えてくれたんだね!」 根本の戒めがほどけ、ビクッと体が跳ねると同時に熱が解き放たれた。「あああっ!」「あ、すごいね。今、心拍数が跳ね上がった。快感が大きかったってことだ。これは、体液の放出を焦らされた所為? それとも、自分からおねだりをしたから?」「違う! ねだってなんかいない!」 思わず

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