読み書き算盤 アンヌは朝餉の料理を膳(ぜん)に乗せて離れに戻った。襖を開けると韓信はもう起きていて、竹製の算盤で計算をしていて、木簡に何やら書き物をしている。「韓信様、朝のご飯の支度ができたっちゃ」と膳を差し出して韓信様の前に置いた。あれ? 韓信様の前やと、つい長崎の訛りが出てしまうと。なんでやろ?作者も長崎弁の翻訳が面倒と言っているので、頑張って標準語で話そう!……つい、長崎弁が出るかもしれないけど……「ほほぉ、うまそうだな」「はい、米粥(巴蜀の主食)に蒸し豚と野菜の『蒸豬肉配蔬』、川魚の煮込みの『岷江魚煮』、デザートに桃の漬物の『桃漬』でございます」「蓉が作ったのか?」「はい、私の手作りです」「ありがたくいただく」 韓信はムシャムシャと食べだした。アンヌは、算盤や書き物って何をしているのか気になって韓信に聞いた。「韓信様、算盤で何をなさっとったとですか?」「ああ、今回の視察で、この近辺四十ヶ村の人口動態を調査したので、それの統計をとっていたんだ。人口数と男女の性別比人口とか、年齢層とか……ってお前にはわからないか」「拝見してもよかですか?」「ああ、いいぞ。蓉は算盤や木簡が珍しいのか?」とアンヌの方に算盤、木簡、筆、硯を押しやった。 木簡には几帳面な小篆の字で、村の名前と十代毎の男女の人口が書かれていた。へぇ~、この時代の辺境の蜀の村の人口って何人なんだろう?とアンヌは興味を持った。算盤で四十ヶ村の総人口を計算して木簡の隅に書き込んだ。「韓信様、四十ヶ村の総人口は8,654名で、男女比は男4,223名、女4,431名って普通じゃろか?男女比がほぼ同じというのは、この近辺で戦乱が起こっとらんけん、男が徴兵されとらんということじゃろかね?このデータで、年齢ごとの死亡者数とかも調査して、十年くらいのデータがあれば、平均余命表とかできちゃいますけどねえ」と食事中の韓信に尋ねた。 韓信はむせて胸をどんどん叩いて茶を飲んだ。「蓉は文字が読めるのか?書けるのか?算盤を使って計算ができるのか?」「ええ、村の長に習いましたばい」と、まさか高校の授業で数学の時間に統計を習ったとはいえないでしょ?と思ってこう答えた。「総人口は8,654名……合ってる……男4,223名、女4,431名……合ってる……」と自分で算盤
Last Updated : 2025-11-21 Read more