星野悟(ほしの さとる)と別れて二年、私の肺がんはついに末期に達した。命尽きる間際、私は激痛に苦しむ体を引きずり、神居湖へやって来た。付き合って999日記念日に、二人でここに来ようと約束した。けれど結局、来たのは私だけだった。先生から化学療法に戻るよう促す電話が、ひっきりなしにかかってきている。私はマナーモードに切り替え、悟がくれたペンダントを湖のほとりに埋めた。「悟、あなたを思い出すのは、これが最後よ。たぶんもう、二度とこんな機会はないから」言葉を言い終えた途端、鼻血が砂に滴り落ちた。その背後から、三年もの間、ずっと想い続けた声が聞こえた。「あの、すみません。写真を撮ってもらえませんか?」その瞬間、私の心臓がぴたりと止まった。慌てて鼻血を拭い、振り返ると、そこに悟が立っていた。私を見た途端、彼は驚きに目を見張った。「悟、知り合いなの?」彼の隣にいる女の子が、甘えるように腕に絡みつきながら、不思議そうに尋ねた。悟はぎこちなく私の顔から視線を逸らすと、女の子をぐいと腕の中に抱き寄せた。「いや、知らない」その声は、まるで神居湖の風のように冷たく響いた。二年間も付き合ったのに、知らない、か。私は無理に作った苦笑を浮かべた。胸に鋭い痛みが走り、息もできないほどだった。呆然としていると、悟が無理やりカメラを私の手に押し付けてきた。「撮るのか撮らないのか、どっちだ。こっちは急いでるんだ」その態度が良くないと思ったのか、隣の女の子が慌てて私に愛想笑いをしながら謝った。「すみません、彼氏、こういう不愛想なところがあって」彼女は悟の方を向くと、甘えるように、それでいて巧みに不満を匂わせながら言った。「もう、悟ったら。おば様が、旅行で仲を深めてツーショットを送ってきなさいって言ってたでしょ?不機嫌なのはわかるけど、知らない人にそんな失礼な態度はダメじゃない?」悟の母親の話題を出すと、彼女は再び私に向き直って言った。「すみません、お金はちゃんと払いますから。写真お願いします」しかし、悟は眉をひそめた。「奈央、こいつにそんな長々と話す必要はない」悟の言葉を聞いて、私の頭は真っ白になった。そうか、彼女が酒井奈央(さかい なお)……悟のお母さんが二年も前から認めて
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