私は一途な「サブヒーロー」を五年間攻略してきた。彼と共に困難を乗り越え、ついに彼はテクノロジー企業の新鋭へと這い上がった。
幸せな日々が続く中、「ヒロイン」が突然帰国した。その日は、高橋蓮(たかはし れん)との結婚五周年記念日。私は例の「ヒロイン」のSNS投稿を見てしまった。
【今日の私は、世界でいちばん幸せな女よ】写真には、彼女が私の息子を抱き、サファイアのネックレスをつけて花火を見上げる姿が写っている。写っているのは二人のはずなのに、地面には三つの影。夫の大きな影も、こっそりと写真に収まっていた。事情を知らない人なら、幸せな三人家族だと思うだろう。私は無言で「いいね」を押した。
【よかったね、お幸せに】スマホを置き、すっかり冷めた食卓を片付ける。蓮と息子は辛い物が苦手で、料理は全て彼らの好みに合わせて作った。システムが、そっと慰めるように囁く。「マスター、大丈夫です。サブヒーローのヒロインへの気持ちは、若かりし頃の未練に過ぎないです。あなたは彼と共に数多の困難を乗り越えてきました。彼が最も大切に思っているのは、間違いなくマスターです。それに、お二人には息子がいます。子供はきっと、ママが一番好きですよ――」その時、スマホの鋭い着信音がシステムの言葉を遮った。電話に出ると、蓮の声は、いつもの穏やかさの裏に冷たさを帯びていた。「佳奈(かな)、寧々(ねね)は俺の幼馴染だ。彼女が落ち込んでいたから、気分転換に連れ出しただけだ。君が彼女のSNSであんなコメントしたら、寧々が困るだろう」続いて、息子――高橋律(たかはし りつ)の幼い声が聞こえた。「寧々お姉ちゃん、ママは心が狭くて怒りっぽいだけなんだよ。パパがちゃんと叱ってくれるから、怖がらないで」夫と息子の声が、私の耳に刺さる。突然、ひどく疲れを感じた。きっと、一途なサブヒーローは結局、ヒロインしか愛せない。私が産んだ息子でさえ、愛するのは別の女。以前の私なら悲しみ、無性に自分を主張しただろう。どうして私を見てくれないの、と。一緒に歩んできたのは、ずっと私なのに。でも今はもう分かった。愛されないなら、無理に求めなくていい。「高橋蓮、離婚しましょう」彼は一瞬戸惑ったか、口調は和らいだように感じた。「怒ってるのか?
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