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第9話

Author: ソバラ
食卓で、蓮は私の左に、律は右に座った。

向かい側の純子は、興味津々という顔で私を見ていた。

二人の男が、左右から次々と私の皿に料理を取ってくる。

「これ、美味しいよ。君、前はあっさりした味が好きだっただろ?たくさん食べな」

私は茶碗を持ったまま、彼の気遣いを避けた。

「あっさりした味なんか好きじゃないわ。辛いものが好きなの」

そう言って、テーブルの上の一番辛い料理を箸でつまむ。

蓮の表情が一瞬固まった。

「……でも、君は昔、辛いものなんて全然食べなかった」

私は表情を変えずに答える。

「それは、あなたが辛いのが苦手だったから。あなたの好みに合わせてただけよ」

蓮は私を見て、口を開いたが、結局言葉を飲み込んだ。

「ママ、僕もそれを食べたい。取ってくれる?」


律がおずおずと私を見つめた。

私は首を振った。

「もう幼稚園生なんだから、自分で取れるでしょ」

その言い方が冷たすぎたのか、律の目があっという間に赤くなった。

けれど、泣きはせず、ただ鼻をすんとすすった。

「でも……ママ、前はいつも取ってくれたのに……」

――以前の私は、彼を人生の全てだと思い
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「……でも、君は昔、辛いものなんて全然食べなかった」私は表情を変えずに答える。「それは、あなたが辛いのが苦手だったから。あなたの好みに合わせてただけよ」蓮は私を見て、口を開いたが、結局言葉を飲み込んだ。「ママ、僕もそれを食べたい。取ってくれる?」
律がおずおずと私を見つめた。私は首を振った。「もう幼稚園生なんだから、自分で取れるでしょ」その言い方が冷たすぎたのか、律の目があっという間に赤くなった。けれど、泣きはせず、ただ鼻をすんとすすった。「でも……ママ、前はいつも取ってくれたのに……」――以前の私は、彼を人生の全てだと思い、何もかも手をかけ、気をかけていた。私は彼を見て、以前のように甘やかしたり、あやしたりはせず、ただ淡々と口を開いた。「でも前は、ママのことをうるさいって言ってたじゃない?寧々お姉ちゃんのほうが好きだって」その瞬間、律の顔がぐしゃりと歪み、唇を噛んでいたが、ついに大声で泣き出した。「ごめんなさい!ママのことをうるさいって言わないから、僕を置いていかないで……!」蓮は律を抱きしめた。彼の顔色もみるみる変わり、まるで誰かに殴られたかのようだった。そして、やがて彼も目を赤くした。――その日の打ち上げは、子どもの泣き声の中で終わった。帰り道、純子は好奇心を隠しもせず、私を見つめながら歩く。私は仕方なく、蓮との関係を説明した。純子は私が結婚していたことを知っていたが、離婚の理由までは知らなかった。私の話を聞き終えた後、彼女は心痛そうな顔で私を見つめた。「佳奈さん……料理も上手いし、生活面でもきちんと整理されているし、デザインのセンスも才能にあふれてて、そのレベルは私たちが到底及びもつかないほどで、みんな尊敬してるんですよ。みんな佳奈さんを見習おうとし

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