All Chapters of 家から追い出された養女の華麗なる帰還: Chapter 1 - Chapter 10

10 Chapters

第1話

松浦大輔(まつうら だいすけ)への告白が失敗した後、私は松浦家によって留学させられた。私が帰国した後、周囲は皆、私がまた大輔に近づくんじゃないかって、心配していた。どうやら大輔自身でも、私がまだ彼に未練タラタラだとでも思っているらしい。だけど、今回私が帰ってきたのは、ただ別の人と結婚するためだけなのに……私が個室のドアの前に姿を現すと、その場の空気が一瞬で凍り付いた。大輔は、王様ゲームで負けた罰としてキスを迫ってきた女の子を、たった今断ったばかりだった。彼はソファにもたれかかり、だるそうに、でもどこか満足げな様子で座っていた。その沈黙は、誰かが吐き捨てた一言で破られた。「マジかよ、楓がなんで帰ってきたんだ!」その言葉で皆は我に返り、一斉に一歩前に出て、大輔を庇うように彼の前に立った。それは、何年も前と全く同じ光景だった。彼らは気まずそうに笑いながら、私の方を見た。「楓、いつ帰ってきたんだ?言ってくれれば、俺たち、迎えに行ったのにさ!」「どうしてここが分かったんだ?ご飯はもう食べたのか?よかったら中に入って、何か食べるか?」私はその場から動かず、個室のドアプレートを見てから、にこりと微笑んだ。「ううん、大丈夫。部屋を間違えたみたい」ドアの前に立っていた男たちは、思わずほっと息をついた。彼らが何かを続けようとしたその時、中からからかうような笑う声が聞こえてきた。大輔は目の前に立っていた、目に涙を浮かべた女の子の腰に手を回し、ぐっと自分の方へ引き寄せた。そして、その子の顎に手を添えると、そのままキスをした。「息継ぎしろよ。キスをおねだりなんて、女の子にさせることじゃないだろ」彼がだるそうな声で囁くと、腕の中の女の子は恥ずかしさでいっぱいになった。女の子は大輔の襟を掴み、震えながら緊張した声で言った。「大輔さん……わ、私……あなたの彼女に、なってもいいですか?」大輔は何も言わず、ただちらりと私に視線を送ると、さらに深いキスを続けた。その行動が、答えだった。女の子はとても喜んでいて、個室の中の他のメンバーも一斉にはやし立てた。私はちらりと時間を確認し、踵を返そうとした。しかし、背後からの声に思わず足を止めた。「楓」思わず振り返ると、個室から大輔が出てくるところだった
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第2話

啓太の薄い唇は、ライトに照らされて、完璧なラインを描いていた。私は足早に彼の元へ駆け寄った。そして、ポケットからプレゼントを取り出して、「お誕生日おめでとう!」と言った。彼の視線が、ゆっくりと下に向かって、「お前、遅れたな」と言った。腕時計に目をやると、針はもうてっぺんを指していた。日付が変わっちゃっている。私の顔に、思わず苛立ちが浮かんだ。あの二人にさえ会わなければ、絶対に間に合ったのに。啓太が私の腰を抱き寄せた。そして罰を与えるかのように、唇を重ねてきた。もともとは午前9時の便で、昼までには帰ってきて啓太と食事できるはずだった。でも、大学で急用ができて遅くなってしまって、夜になって慌てて戻ってきたんだ。夕食を一緒に食べる約束だったのに、来る途中でまた邪魔が入ったんだ。色々あって、結局こんな時間になってしまった。……料理はもうすっかり冷めていた。でも、周りの空気はどんどん熱を帯びていく。啓太は瞳の奥に欲望を押し殺しながら、私をふわりと抱き上げると、個室を出た。外は少し肌寒くて、啓太はソファにあった上着をひょいと取って、私の頭からすっぽりとかぶせた。啓太の匂いが鼻をくすぐり、心臓がドキドキした。道端に停まっていたのは、見るからに高級そうなマイバッハだった。それに近づいたとき、驚いたような聞き慣れた声が響いた。「啓太、いつ帰ってきたんだ?」少し離れたところから、大輔が澪の腰を抱いてこちらへ歩いてくる。大輔の声にはありありと驚きの色が浮かんでいた。上着をかぶせられて顔は見えないはずなのに、探るような雰囲気を感じ取った。啓太はただ大輔をちらりと見ただけだった。「ついさっき着いたところだ」大輔はからかうように言った。「おいおい、啓太。ついにお前も恋に落ちたか?どんな子か、俺にも顔を見せてくれよ」そう言うと、大輔は一歩前に出て、私の頭にかかった服を剥ぎ取ろうと手を伸ばした。私は啓太の肩に顔をうずめたまま、無意識に彼の襟を強く握りしめた。大輔の手が、啓太の服に触れることはなかった。啓太がじろりと見たので、大輔は結局、手を引っ込めた。「わかった、わかった。そんなに大事にしてるんなら、お邪魔はしないよ。今度はちゃんと俺たちにも紹介してくれよな」啓太は何も言
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第3話

「楓がもし変なことを考えないというなら、別に帰ってきても構わないけどな」たったそれだけの、短い言葉。三年前の私が見たら、息ができないほど胸が痛んだかもしれない。でも、今の私は……私は二通目のメッセージに目をやった。【楓へ。松浦家が嫁のために用意したブレスレット、あなたが持ってるでしょう?時間がある時に返しに来なさい。自分のものでもないのに欲張らないで。持ち主に返しなさい】これは大輔の口調じゃない。この二つのメッセージを送ってきたのが誰かなんて、私はすぐに悟った。私が帰国したことは、結局、松浦家の両親にも知られてしまった。ちょうど大輔の母親である松浦美智子(まつうら みちこ)の誕生日パーティーの日で、美智子から電話があり、家に戻るように言われた。私は少し黙り込んだあと、頷いて了承した。私が着いた頃には、松浦家にはもう大勢の客が招かれていた。三年前、松浦家の養女が、身の程知らずにも松浦家の唯一の跡取り息子に恋をしたという噂は、京市では知らない者はいなかった。私がパーティー会場の入り口に姿を見せると、周りの視線が一斉に私に集まった。驚き、好奇心、そして軽蔑……澪が美智子の周りで甲斐甲斐しく世話を焼いていたけど、美智子はどこかそっけない態度だった。でも、私が現れた途端、彼女はくるりと向き直って澪の腕を取り、嬉しそうに微笑んだ。そして、さも驚いたという顔で私の方を見た。「あら楓、帰ってたのね。こっちにいらっしゃい!紹介するわね、この子が大輔の彼女よ」美智子は「大輔の彼女」という部分を、ことさらに強調した。私はただ、静かに微笑んだ。私は持ってきた二つのプレゼントの箱を取り出した。一つは大輔にもらった松浦家のブレスレット。もう一つは、美智子への誕生日プレゼントだ。プレゼントを手渡しながら、私は少しだけ躊躇って、でもやっぱりこう呼びかけた。「お母さん、お誕生日おめでとう」美智子は私の手を取って、当たり障りのない挨拶を交わした。ブレスレットは受け取ってくれたけど、誕生日プレゼントの方は、無造作に傍らのテーブルに置かれただけだった。今日は大勢の来客があったから、美智子も私にばかり構ってはいられないようだった。私はそっとその場を離れ、松浦家の裏庭に出た。三年ぶりに来たけど、ここはす
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第4話

辺りは静まり返った。目の前に立った美智子は、震える手で私を指さし、怒鳴りつけた。「楓!長年面倒を見てやった恩を、こんな形で返すつもりなの!?こんなことになるって分かってたら、あんたなんか松浦家に引き取らなきゃよかった!」美智子は、ありったけの力で私を引っぱたいた。私は唇の端からにじむ血を、指でぬぐった。私の母は早くに亡くなっていた。父と大輔の父親である松浦健太郎(まつうら けんたろう)は親友で、私が10歳の時、父は健太郎を助けようとして命を落とした。それで私は、松浦家に引き取られることになったんだ。松浦家は、私を10年間育ててくれた。そして今。この一発は、私の唇を切り裂いただけじゃない。松浦家と私の10年間の絆をも、断ち切るものだった。私はバッグからキャッシュカードを一枚取り出した。中には、2000万円が入っている。この日のために、ずっと前から用意していたものだった。私はカードを美智子に差し出しながら言った。「奥様、これは、この10年間、私にかけてくださったお金です。利子もつけて、一円残らず、全部お返しします」美智子は、きょとんとした顔になった。「今、なんて言ったの?」周りの人たちは、ピエロを見るような視線を私の方に投げつけ、好奇と軽蔑の感情を隠そうともしなかった。私の前に立った大輔は、眉間にぐっとしわを寄せた。「楓、もういい加減にしろよ」いい加減にしろって?大輔の言葉に、私は思わず皮肉な笑みを漏らした。10年前、私が松浦家に引き取られた時、周りの人たちはみんな私のことを見下していた。だって松浦家は名家でお金持ちだったから。それに比べて私は、両親もいない、何一つ持たないみなしごだった。周りの子供たちは陰で「親のいない子」だとか、「恥知らずにも松浦家にたかるつもりだ」とか、いろいろなことを言われた。それを知った大輔は、陰口を叩いた奴らを一人残らず探し出して、殴り飛ばしてくれたんだ。健太郎と美智子も、その子たちの親のところに話をしに行ってくれた。そして、「楓は今日から松浦家の一人娘です。息子の大輔と何ら変わりはありません。この子を侮辱することは、この松浦家を侮辱することと同じだとお考えください」って、言ってくれた。大輔が、松浦家に代々伝わるブレスレットを私の腕にはめてくれ
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第5話

「どうしても聞き分けがないって言うなら、澪に謝れ」大輔は鼻で笑うと、私の手を振り払い、澪の肩を抱き寄せた。「お前がさっき、澪を押したんだろ」澪は、大輔の腕の中で口の端を吊り上げた。でも、私のことを見ると、すぐに目に涙を浮かべた。「大丈夫よ、大輔さん。楓もわざとじゃないのよ、あなたのことが、ほんとに好きなんだから。楓、私は大丈夫よ。大輔さんのお母さんや大輔さんと喧嘩しないで」澪は囁くような声で、いかにも物分かりのいい女を演じていた。大輔は、冷たい目つきで私を睨みつけた。「選択肢は二つだ。一つ、澪に謝れ。二つ、二階の部屋に引っ込んで大人しくしていることだ。さもないと……」「ごめんなさい」私は、大輔の言葉を遮った。「これで満足?足りないなら、何度でも言ってあげるけど」大輔は一瞬きょとんとしていたが、すぐに怒りを露わにした。「へえ、そうか。海外で3年も暮らしていると、そんな口の利き方を覚えるのか?俺にそんな態度をとれば、お前のわがままを許すとでも思ったか!」私はもう大輔に目もくれず、背を向けて松浦家を後にした。美智子にひっぱたかれた時、啓太が近づいてきた。でも、私が目配せをして止めた。松浦家の問題に、彼を巻き込みたくなかったから。車の中、啓太は不機嫌そうな顔で私の手首を取り、黙って薬を塗ってくれた。手当てが終わると、彼は私の手をそっと横に置き、何も言わずに前を向いたままだった。ああ、怒ってるね、って私は分かった。私はわざとへらへら笑いながら彼にすり寄り、啓太の袖をちょんちょんと引っ張ってみた。「怒ってる?」返事はない。私はため息をつくと、彼の手を握った。「ただ、何でもかんでもあなたに頼りたくなかったの」松浦家に海外へ送られた初日に、私は運悪く海外で流行していたウイルスに感染してしまった。あの頃、私は一銭も持っていなかった。身の回りのものを全て売り払い、やっとのことで借りられたのは、ベッドが一つ置けるだけの古びたアパートだった。高熱でふらふらになりながらも、体を酷使して皿洗いや洗い物の仕事を続け、一日五つのバイトを掛け持ちし、何度も洗い場の前で意識を失いそうになった時、救いの手を差し伸べてくれたのは啓太だった。海外なんて、生まれて初めてだった。右
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第6話

私が研究に没頭したいと言えば、彼は研究室まで用意してくれた。一人でいたくないと言えば、海外に会社を作ってまで、そばにいてくれた。まるまる三年間、ずっと。その間、松浦家から連絡が来ることは一切なかった。……これ以上、啓太に迷惑をかけたくないって、ちゃんと説明したかったのに。でも、そう言った途端、啓太の周りの空気は一変し、凍てついたようなオーラを放ち始めた。掴んでいた袖さえも、振り払われてしまった。今度はこっちがカチンときた。「啓太、こっち向いて」彼は二秒ほど黙った後、こちらを向いた。でも、その完璧なまでに整った顔は冷たく、相変わらず黙ったままだった。もういい。話したくないなら、別に。私も黙った。私は車の後部座席に寄りかかって、目を閉じた。最初は寝たふりをするつもりだったけど、いつの間にか本当に眠ってしまった。次に目が覚めたときには、もう家に着いていた。食事の準備もできていた。私の好きなものばかり。今日の松浦家のパーティーではほとんど何も食べていなかったから、確かにお腹がぺこぺこだった。啓太はソファでリモート会議をしていた。私に気づくと、こちらをちらっと見てから、会議を終えた。スマホを切ると、彼はそれを傍に置き、代わりに経済雑誌を読み始めた。私は彼のそばに歩み寄り、その膝の上に乗ると、両腕を首に回した。彼は抵抗しなかった。私は調子に乗って言った。「お腹すいた。食べさせて」啓太は片腕で私を支えながら、ダイニングテーブルまで連れて行ってくれた。私が膝から降りずにいると、彼は根気よく椅子に座ったまま、料理を私の口に運んでくれた。お腹が満たされてくると、私の手は彼の体を這い始めた。彼は私の手を抑えつけ、目で「よせ」と警告してきた。残念ながら、私は彼の言いなりになるような女ではない。私は彼の手を取って自分の腰に回させ、首に腕を絡めて、ぐっと引き寄せた。最高潮に達したその時、スマホの画面にビデオ通話の通知がポップアップした。いいところで邪魔をされると、本当に腹が立つ。相手を見ずに、手探りで電話を切ろうとしたら、間違って通話ボタンに触れてしまった。スマホから聞き覚えのある声が聞こえてきた。「楓!大輔さんが酔っ払ってるんだ。早く迎えに来てやって
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第7話

私が小さく呻くと、啓太は私を回り込み、スマホを奪い取って一方的に通話を切った。さっきまでは私から仕掛けていたのに、啓太は微動だにせず、ただそこに座っているだけだった。電話を切ると、啓太は私の後頭部を押さえつけ、顔を引き寄せた。「まだ、あいつのことを考えているのか?」その声は、氷のように冷たかった。言い返そうとしたけど、考え直して口を閉ざした。だってさっきまで、彼は私を無視していたじゃない。啓太の瞳が、さらに暗く沈んだ。「あいつのことは考えるな」啓太と熱いキスを交わしている時、家のドアがかすかに音を立てた。啓太はとっさにブランケットを私に被せた。鋭い視線でドアの方を睨むと、そこからひょっこりと顔が現れた。ドアの前に現れたのは、啓太とどこか面影が似ている女性だった。年は中年くらいのはずだけど、とても若々しくて、気品が漂っている。その女性を見て、啓太は警戒を解いた。そして、呆れたような声を出した。「母さん、なんでここにいるんだよ」ブランケットの下で、私の体はカチコチに凍り付いてしまった。五分後。私は急いで服を着て、真っ赤な顔でリビングに立っていた。気まずさで体が固まりながら、啓太の母親である藤井幸子(ふじい さちこ)の方を向いて挨拶した。「お、おばさま、こんにちは……」啓太と私のことは、ご家族は知らないはずだから。私は俯いたまま、幸子の顔をまともに見られなかった。三年前、大輔に告白して失敗し、松浦家から追い出されるように留学させられた時のことが、頭の中を駆け巡る。ふと、頭上に影が差した。啓太が私の前に立ち、光を遮っている。彼は黙ったまま、落ち着いた様子で幸子を見ていた。幸子も黙っている。この重い空気に私が耐えられなくなった時、突然、彼女が嬉しそうな声を上げた。「あったわ!」顔を上げると、幸子はスマホを手にしていた。画面に映っているのはカレンダーだ。「今月の八日、どうかしら?あと十日もあるし、今から帰って結婚式の準備を進めるわね!」「えっ???」何がなんだか分からない。私が状況を飲み込めずにいると、啓太がもう返事をしていた。「オッケー」「はぁっ!?」幸子は大喜びで、啓太をぐいっと脇に押しやった。そして私の腕を取ると、しげしげと私を眺め始めた。その笑顔は
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第8話

「楓、ごめんなさいね……」やっぱり……私は微笑んだ。幸子に何かを言おうと口を開きかけた時、彼女は突然私の手を握って、心配するように話し始めた。「勝手にあなたのことを調べちゃったの。だから、あなたの事情は全部知ってるわ。でも安心して、これからは私が、お母さんのようにあなたのことを大切にするわ。啓太のことよりも、あなたのことをずっと可愛がってみせるわ!」私はあっけにとられて、その場で固まってしまった。でも、幸子はそんな私をあっという間に車の中へと促した。「啓太はあなたのことを全然教えてくれないし。だからどうしても気になって、自分で調べちゃったのよ。楓、本当にごめんね。あなたは本当に優秀な子なのね。国内でトップクラスの大学に受かって、海外でも指折りの学校に通っていたんでしょう?それにあなたの研究チームの成果が、この間、世界的なコンクールで一位になったって聞いたわ。それに比べてうちの啓太ったら、お金を稼ぐことくらいしか取り柄がないんだから。正直、あなたには釣り合わないわよね……」幸子は私の手を握ったまま、たくさん話してくれた。その言葉の一つ一つが胸に響いて、私はとうとう目頭が熱くなってしまった。幸子はその日のうちに私を連れてウェディングドレスをオーダーしに行き、次の日には招待状を発送した。三日目と四日目は買い物に連れて行ってくれて、五日目には、夜を徹して作られたドレスがもう仕上がっていた。正直なところ、結婚式の準備って、本当に疲れるものなのね。ウェディングフォトの撮影が終わって、やっと一息つくことができた。そういえば、ここ何日もスマホを見る暇がなかった。今日、久しぶりに手に取ってみると、たくさんの着信とメッセージが届いていた。その中でも一番多かったのが、大輔からのメッセージだった。送られてきたのは、手の写真のスクリーンショット。啓太が先日のビデオ通話を切った時に、偶然映り込んだ手だった。【これ誰の手だ?男の手なのか?】【楓、たいしたもんだな。男を使って芝居するなんて。お前の周りによからぬ男が現れたからって、俺が昔みたいに心配するとでも思ったか?俺の気を引きたいのか?いい加減、そんな子供じみた真似はやめろ!】……【楓、俺の我慢にも限界があるぞ。おとなしくしていれば、義理の妹として認めてやらんでもない。
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第9話

最近の投稿は、澪とのことばかりだった。本気で好きなんだろうね。タイムラインを更新すると、一番上に新しい投稿があった。啓太からの投稿だ。文章はなく、一枚の写真だけ。ペアリングをした私と彼が、手を繋いでいる写真だった。コメント欄は大騒ぎになっていた。一番乗りでコメントしたのは大輔で、相手は誰なんだと啓太に食い下がっていた。でも啓太は彼を無視。他の人からのお祝いコメントには、一つひとつ丁寧に「ありがとう」と返信していた。とうとう大輔までがお祝いのメッセージを送ったけど、啓太はやっぱりスルーしていた。しびれを切らしたのか、大輔は啓太にダイレクトメッセージを送って、最近どうしたんだ、と聞いていた。それでも、啓太は返信しなかった。かといって大輔をブロックするわけでもなく、ただインスタに、私との写真を毎日二、三枚投稿するようになっただけだった。とはいえ、まだ顔がはっきり写った写真は載せていない。……啓太との結婚式を翌日に控え、私は藤井家の屋敷を訪れていた。すると門の前で、前祝いに来たらしい大輔たちとばったり出くわした。大輔の隣にいた澪が、私に気づいて驚きの声を上げた。「楓、どうしてこんな所まで来たの!」その声に振り返った大輔は、私を見るなり、その口元には、隠しきれない嘲りが浮かんでいた。彼は腕を組むと、顎をしゃくって私を見下ろした。「なんだ、自分が悪かったとやっと分かったか?こっちに来い」私は彼を無視し、屋敷の中へと足を進めた。大輔はカッと顔色を変え、私の前に立ちはだかった。「楓、何してる!ここは松浦家じゃない、お前が騒ぎを起こしていい場所じゃないんだぞ!」私は思わず眉をひそめた。大輔って、本当にうっとうしい。澪も近づいてきて、私を落ち着かせようとした。「楓、ここは藤井家なのよ。あなたが勝手に入っていい場所じゃないわ。もし藤井家の方々の機嫌を損ねたら、誰も庇ってくれないのよ。大人しく帰ってちょうだい。話があるなら、私と大輔さんが戻ってから聞いてあげるから」澪が言い終わるか終わらないかのうちに、屋敷の中から男の子が一人、駆け寄ってきた。啓太の叔父の息子だ。まだ五、六歳くらいの小さな子だ。きょろきょろと辺りを見回していた彼は、私を見つけると、ぱっと顔を輝かせた。「お
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第10話

大輔は目を血走らせ、燃え盛るような怒りを剥き出しにしていた。しかし、大輔が啓太に殴りかかる前に、逆に蹴り飛ばされてしまった。怒り狂った獣のように、目を血走らせながら、大輔は啓太に向かって何度も叫んだ。「誰がてめぇなんかに妹をくれてやるか!あいつは俺の妹だ!俺のだぞ!」啓太は眉をひそめ、ボディーガードを呼んで大輔を追い出そうとしたが、私は彼の腕を掴んで止めた。私は啓太に向かって首を横に振った。啓太の表情が険しくなり、私の手を強く握り返そうとしてきた。でも、その前に私は大輔の前に立っていた。そして、彼の頬を思いっきりひっぱたいた。「分かってるでしょ。私はあなたの義理の妹でしかないの。私が誰と結婚しようが、あなたには関係ないはずよ。それに、育ててもらったお金は、利子をつけて全部返した。父は、あなたの父親を助けて死んだのよ。あんたたち松浦家には、何の借りもないわ!あんたたちとは、もう何の関係もないのよ!だから、もう二度とそんな気持ち悪いこと言わないで!」一発ひっぱただけでは気が収まらず、私は彼のもう片方の頬も力いっぱい叩いた。それから、啓太の手を取って家に帰った。あの日以来、大輔とは二度と会っていない。松浦家に関わる人たちの連絡先も、すべてブロックした。けれど、一ヶ月後。家を出ようとしたら、玄関先で美智子が待っていた。この間、何があったのか。いつもは身なりに気を使っている美智子だったが、その日は髪もボサボサで、目の下には深い隈ができていて、ひどくやつれた様子だった。私の顔を見るなり、彼女は目を真っ赤にして駆け寄ってきた。「楓、お願い。大輔に会ってやってくれないかしら」美智子の話によると、大輔は最近ひどく荒れているらしかった。一日中部屋に引きこもって飲まず食わず。かと思えば、家を飛び出してはお酒に溺れて喧嘩ばかりしているという。体中傷だらけなのに、手当てもしようとしないそうだ。今度は、誰かとカーレースをして崖から転落し、集中治療室に運ばれたらしい。今も意識不明の状態が続いているらしい。「楓、大輔はあなたのことが好きなの。澪とはもう別れたわ。全部私のせいなの、あの時あなたたちを反対しなければ……お願いだから、大輔に会ってあげてちょうだい……」私は、美智子に掴まれた手を振りほどいた
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