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第2話

Author: ゆず
啓太の薄い唇は、ライトに照らされて、完璧なラインを描いていた。

私は足早に彼の元へ駆け寄った。

そして、ポケットからプレゼントを取り出して、「お誕生日おめでとう!」と言った。

彼の視線が、ゆっくりと下に向かって、「お前、遅れたな」と言った。

腕時計に目をやると、針はもうてっぺんを指していた。

日付が変わっちゃっている。

私の顔に、思わず苛立ちが浮かんだ。

あの二人にさえ会わなければ、絶対に間に合ったのに。

啓太が私の腰を抱き寄せた。

そして罰を与えるかのように、唇を重ねてきた。

もともとは午前9時の便で、昼までには帰ってきて啓太と食事できるはずだった。

でも、大学で急用ができて遅くなってしまって、夜になって慌てて戻ってきたんだ。

夕食を一緒に食べる約束だったのに、来る途中でまた邪魔が入ったんだ。

色々あって、結局こんな時間になってしまった。

……

料理はもうすっかり冷めていた。

でも、周りの空気はどんどん熱を帯びていく。

啓太は瞳の奥に欲望を押し殺しながら、私をふわりと抱き上げると、個室を出た。

外は少し肌寒くて、啓太はソファにあった上着をひょいと取って、私の頭からすっぽりとかぶせた。

啓太の匂いが鼻をくすぐり、心臓がドキドキした。

道端に停まっていたのは、見るからに高級そうなマイバッハだった。それに近づいたとき、驚いたような聞き慣れた声が響いた。

「啓太、いつ帰ってきたんだ?」

少し離れたところから、大輔が澪の腰を抱いてこちらへ歩いてくる。

大輔の声にはありありと驚きの色が浮かんでいた。上着をかぶせられて顔は見えないはずなのに、探るような雰囲気を感じ取った。

啓太はただ大輔をちらりと見ただけだった。「ついさっき着いたところだ」

大輔はからかうように言った。

「おいおい、啓太。ついにお前も恋に落ちたか?どんな子か、俺にも顔を見せてくれよ」

そう言うと、大輔は一歩前に出て、私の頭にかかった服を剥ぎ取ろうと手を伸ばした。

私は啓太の肩に顔をうずめたまま、無意識に彼の襟を強く握りしめた。

大輔の手が、啓太の服に触れることはなかった。

啓太がじろりと見たので、大輔は結局、手を引っ込めた。

「わかった、わかった。そんなに大事にしてるんなら、お邪魔はしないよ。今度はちゃんと俺たちにも紹介してくれよな」

啓太は何も言わずに、私を抱いたまま車の後部座席に乗り込んだ。

啓太は、京市では有名な御曹司だ。

そして、大輔の一番の親友でもある。

昔は、啓太と大輔が一緒に松浦家に遊びに来るのをよく見かけた。

二人は親友のはずなのに、当時の私にはなぜか、啓太が大輔に対してどこかよそよそしい態度を取っているように見えた。

その理由は、後になって分かった。

彼の本当の狙いは、別にあったということだ。

私が大輔に告白して振られた翌日、つまり、松浦家に海外へ送り出されたまさにその日に、啓太は私の後を追ってきた。

……

車がゆっくりと別荘へと向かう間、私は啓太の肩にうずくまったままだった。

後部座席のパーティションが上がった。

彼の手がゆっくりと這い上がってくる。その冷たい感触に、私は思わず息をのんだ。

私の髪が彼の顔に絡みつき、彼の瞳の色が深くなった。

華奢な首筋が露わになる。

彼の指が、私の肌の上を静かに探るように動く。

その感触に、私の体は思わず震えた。

レストランから啓太の別荘までは、結構距離がある。

啓太が前のパーティションをコンコンと叩くと、運転手は心得たとばかりに車を路肩に停め、降りて行った。

エアコンの温度と共に車内の気温は少しずつ上昇していった。

私は唇を噛みしめ、声が漏れないように必死でこらえた。

それなのに啓太は、わざと私の耳元で尋ねてきた。

「どうして何も言わないんだ。どこか具合でも悪いのか?」

何か言おうと口を開きかけたけど、次の瞬間、激しい突き上げに言葉を遮られた。

漏れたのは、ただの嗚咽だけだった。

どれくらいの時間が経っただろうか。ようやく啓太の動きが止まった。

薄暗いルームランプに照らされた彼の端正な顔には、満足感が浮かんでいた。

彼は私を抱きかかえ、優しく体を清めてくれた。

傍らに放り出されていたスマホを手に取って見ると、大輔からのメッセージが二通入っていた。

一つ目は、動画だった。

再生すると、大輔が個室で誰かと酒を飲んでいる映像が流れた。

大輔は指にタバコを挟み、無表情で椅子にもたれかかりながら、隣の誰かに話しかけていた。

「自分の義理の妹に好かれるなんて、マジで気持ち悪い」
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