博文は振り返り、信之に一瞥をくれると、うんざりしたように眉をひそめ、ボディーガードに向かって言った。「まず彼を家に連れて帰れ。少し冷静にさせろ」そう言い残すと、博文は会社へと急いだ。葉山家の人間がすでに出資撤回の件で話をしに来ていたのだ。信之がボディーガードに連れられて家に戻ったとき、まだ激しく騒いでいた。ボディーガードに別荘へ放り込まれてようやく、信之は静かになった。家の中では、メイドたちが一様に立ち尽くし、失望の色を隠せずに彼を見つめている。信之は手近なものをつかみ、部屋の中へと投げつけた。「何を見ている!全員出て行け!」信之の怒声に、メイドたちは一斉に外へ向かった。執事が信之のそばを通り過ぎるとき、深いため息をついた。「旦那様、奥様はすでにすべての物を持ち出されました。それに、いくつかは売られたようです」そう言うと、執事は他の者たちと一緒に別荘を後にした。そのときになって初めて、信之は別荘の中がすでにがらんどうになっていることに気づいた。結婚写真は、桐子の姿はすべて切り取られ、額縁の中には信之だけがぽつんと残されていた。台所には、桐子が一番気に入っていた調理器具ももうなかった。彼は二人の寝室へ駆け込んだ。桐子の服も靴もすべて消え、クローゼットは空っぽだった。その奥では、ウェディングドレスが掛けられていた戸棚の扉が開け放たれている。中はすでに何も残っていない。桐子はウェディングドレスを持って行ったのか、それとも売ってしまったのか?信之は深く考えることができなかった。彼は空っぽの別荘に座り、自分の心までもえぐり取られたような、ぽっかり空いた感覚に沈んでいった。「桐子、どうしてそんなふうに去ってしまったんだ?なぜ俺に、せめて説明する機会もくれなかったんだ……?」信之は頭を抱え、声をあげて泣き崩れた。桐子の両親は自分のことを好まなかった。けれど、彼女はそれでも両親を説得して自分と結婚してくれた。自分のために、親に逆らうことさえ厭わなかった。桐子の愛は情熱的だった。好きになったら、迷わず一緒にいたいという人だった。だが、その愛が消えるのもまた早い。桐子はいつも言っていた。「あなたが一度でも過ちを犯したら、もう元には戻れない」と。その言葉どおりになってしまっ
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