「手術は無事に終了しました。胎児は完全に排出されて、子宮内に残留物は一切ありません」結婚三周年の記念日に、葉山桐子(はやま きりこ)はまだ生まれていない我が子を失った。「桐子!大丈夫なの?」白衣を着た親友の白野美苗(しらの みなえ)が慌ただしくドアを押し開け、心配そうに声をかけた。「信之が浮気したの」桐子の表情は暗く沈んでいる。三年前、彼女が小山信之(こやま のぶゆき)と婚姻届を提出したあの日。桐子は信之に言った。「もし浮気したら、あなたのもとを永遠に去る」そのとき信之は神に誓うように言い切った。「浮気なんて絶対しないよ。もししたら、社会的に抹殺されても構わない。それでもお前に合わせる顔がなくなるくらいの覚悟はあるから」だが昨日、桐子はようやく知ったのだ。信之が自分に隠れて、佐伯遥(さえき はるか)と半年以上も一緒に暮らしていることを。遥は、彼女と同じようにすでに二か月の身ごもりだった。一晩中眠れなかった桐子は、今朝になって胎児の様子がおかしいことに気づいた。慌てて病院へ駆け込み、検査の結果、すでに胎児の心音が止まっていることを知らされた。「自分の子が男の子だったのか女の子だったのかさえ、私は知らないの」子どもの話を口にした途端、桐子の目からついに涙がこぼれ落ちた。「小山のクズ野郎!今すぐあいつのところへ行って、はっきりさせてくる!」美苗は怒りに震え、立ち上がって部屋を出ようとした。しかし桐子はその手をつかみ、「美苗、子どものことは、彼には言わないで」と静かに言った。美苗は一瞬言葉を失い、やがて落ち着きを取り戻して答えた。「わかったわ。でも、これからどうするつもり?」桐子は窓の外を眺めて、冷たい声で言った。「ドイツに戻るつもりよ」「それもいいわ。お父さんのドイツでの影響力を考えれば、小山はこの先一生あなたに会うことなんてできないでしょうね」美苗は胸の奥にこみ上げる名残惜しさを押し殺し、桐子の手をそっと握った。「それに、彼との離婚のことで悩む必要もなくなる」葉山家はずっと前に一家そろってドイツへ移住しており、桐子もドイツ国籍を持っている。彼女と信之が結婚したとき、ドイツでは結婚式を挙げていなかったため、その婚姻はドイツでは認められていない。美苗はもちろんその
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