翌日。時哉の帰りを知った結衣はここぞとばかりにキッチンに立ち、腕によりをかけた朝食を作った。悠樹と拓海は一週間ぶりに会う時哉に大喜びで、彼にまとわりつきながら、我先にと話しかけていた。「パパ、ママはもう帰ってこないんでしょ?結衣さんに僕たちの新しいママになってもらおうよ!」「そうだよ、パパ!僕たち、結衣さんと生活するの、大好き!」時哉の箸を持つ手が止まった。こんな言葉を聞くのは初めてではなかったが、今回はなぜか不快感がこみ上げてきた。結衣はだし巻き卵を一切れ、時哉の茶碗にそっと入れた。「子供の言うことよ、本気にしないで。梨央さんが機嫌を損ねている間は、家のことは私がちゃんと見るから、安心して」時哉はまるで優しさで潤んでいるかのような結衣の瞳を見つめ返し、微笑んだ。「君には苦労をかけるね」時哉は朝食に集中しようとしたが、心も頭も梨央のことでいっぱいだった。昨夜、家に戻ってから、何もかもがしっくりこなかった。シーツは梨央が整えた時のようにパリッとしていなかった。布団はいつものようにふかふかでもなく、あのお日様の匂いもしなかった。服からも梨央がいつもまとわせていた、あのほのかな清潔な香りが立ち上ってこなかった。それどころか、食卓の食器でさえ、梨央がいた時ほどピカピカに磨き上げられてはいなかった。何もかもがおかしかった。時哉の視線がテレビ台の上で、不意に止まった。そこには写真立てが置かれていた。元々は時哉と梨央の結婚式の写真だったはずだ。それが今、結衣一人のスナップ写真に変わっていた。時哉は眉をひそめ、箸を置いた。その声には自分でも気づかないほどの怒りが滲んでいた。「テレビ台に置いてあった結婚式の写真は?」結衣はビクッと身を硬くし、唇を噛み、か細い声で言い訳を始めた。「写真立てが空っぽだったから、悠樹君と拓海君が気に入った写真を選んで入れたの。私、結婚式の写真なんて見てなくて……」涙が頬を伝ってゆっくりと流れ落ちた。悠樹と拓海もすぐに同調した。「そうだよ、パパ!結婚式の写真、どこに行ったかわかんない。きっとママがわざと隠したんだよ!」時哉も結衣の涙に気づき、すぐに表情を和らげた。「すまない、結衣。僕の言い方が悪かった。君を責めたわけじゃないんだ。この家は君の好きに飾ってくれて構わない……」結衣は
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