私・篠原美月 (しのはら みづき)と藤崎彰人 (ふじさき あきひと)は大学時代に出会い、恋に落ちた。卒業後、私たちはごく自然な流れで結婚した。翌年、藤崎遥斗 (ふじさき はると)が生まれた。けれど、不幸にも聴力を失うという後遺症が残ってしまった。それでも、私はその運命を甘んじて受け入れ、彰人が築いてくれた幸せな世界に、満ち足りた想いで浸っていた。けれど、ある日突然、私の耳が再び聞こえるようになってしまったのだ。彰人が部下の女性と睦言を交わす声。遥斗が、誕生日のパーティで「ママなんて、永遠にいなくなればいいのに」と願う声。それらを聞いてしまった瞬間、私の心は音を立てて崩れ落ちた。再会は、アズマニア共和国。遥斗がみすぼらしい姿で駆け寄り、泣きながら私に抱きついてこようとした時だった。私はその手をすり抜け、そばにいた別の子供を愛おしそうに抱きしめると、平坦な声で言い放った。「私はあなたのママじゃない。今度は……私があなたを捨てる番だ」……「なんでまたあの足手まといからだよ。パパ、早く電話出て!」画面の向こうから聞こえてきた幼い声に、私ははっと息を呑んだ。それが息子の声だと、少し遅れて気づく。どういうことだろう。今朝、幼稚園に行ったはずなのに。どうして彰人と一緒にいるの?「い……ま、どこ……?」聴力を失ってから、他人に嘲笑されるのが怖くて、私は一度も声を発したことがなかった。彰人は少し驚いたように私を見つめ、慌ただしく手話で伝えてくる。「会議、今終わったとこだよ、美月。どうした?俺に会いたくなった?今日、声が出せるようになったのか?!」私が口を開くより先に、画面の外から、軽蔑のこもったはっきりとした声が聞こえてきた。「フン!声が出たって何の意味があるんだよ。どうせ聞こえてないくせに」彰人はその声を無視し、優しい眼差しで私だけをじっと見つめ、辛抱強く答えを待っている。すると、少し焦ったような女の声が、息子を優しくなだめるのが聞こえた。「遥斗くん、パパの邪魔しちゃだめよ。学校に行ってないのがママにバレたら、また叱られちゃうでしょ」遥斗は嫌悪感を隠すことなく言った。「ありえないよ。あの人、耳が聞こえないんだぞ!何がわかるっていうんだ。せっかく遊園地に来たのに、僕のこと指
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