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第4話

Author: 星崎
誰かが私の後ろで息を呑むのが聞こえた。

振り返ると、そこには剥き出しの嫉妬と憎しみを湛えた沙友理の瞳があった。

彼女は挑発するように片眉を吊り上げると、くるりと踵を返し、エレベーターに乗り込んでいった。

随分と時間が経ち、会場からはすっかり人気がなくなった。それなのに、彰人が戻ってくる気配はない。

悪い予感がして、私は震える手で携帯を取り出し、車のドライブレコーダーの映像を呼び出した。

真っ暗な画面の中、二人の熱っぽい喘ぎ声だけが、やけにはっきりと響いていた。

「彰人さん……ん……もう、ゆっくり……」

広々とした後部座席で、二人が服を乱したまま、もつれ合うように抱き合っていた。

彰人は沙友理のしなやかな腰を掴み、その目を赤く充血させていた。

「ん?……ほんの少し離れただけなのに、我慢できなくてコソコソ誘惑しに来たのか。今日、美月に何を言った?あいつ、一晩中機嫌が悪かったぞ。言っておくが、裏でコソコソ小細工するのはやめろ。お前と俺はただの遊びだ。美月だけは……俺の絶対的な一線なんだ」

彰人の言葉が終わるか終わらないかのうちに、沙友理はわざとらしくしゃくり上げる声を出した。

「私に何ができるっていうの。どうせまた、私が悪いって言うんでしょ。私の唯一の間違いは、彰人を好きすぎること。あなたの心に私がいないってわかってるのに、それでも自分を安売りして、第三者でいることに甘んじてる。

あなたのキャリアのために、脇役に徹してる。毎日、こんなに長い時間あなたと一緒にいるのに、まだそんな風に私を疑うの?」

彼女の泣き落としに、彰人はすっかり絆されたようだ。気まずそうに口調を和らげ、彼女の唇の端にキスを落として、なだめる。

「わかった、わかった。俺が悪かったよ。こうしよう。お前がいい子にしてるなら、褒美をやる。何が欲しい?」

沙友理はピタリとしゃくり上げるのをやめ、可哀想な私、という顔で彰人を見つめ返した。

「さっき、彰人が競り落としたあのネックレスが欲しい」

彰人の声が、低くなった。

「ダメだ。あれは、美月にやるとずっと前から約束していたものだ」

その瞬間、沙友理の目から再び涙がこぼれ落ちた。実に憐憫を誘う泣き顔だ。

「それが『ディアレスト』シリーズのジュエリーだってこと、知ってる。私はあなたと公の場で一緒にいることもできない。欲しいのは、ほんの少しの愛の欠片だけなのに……それすらも、くれないの?」

彰人は彼女の涙に根負けし、ついに折れた。

「もういい。欲しいならくれてやる。ネックレス一本でそんなに泣くな」

私は、彰人が再び彼女に覆いかぶさり、キスをするのを、ただ見ていることしかできなかった。

心臓が、長く修理もされずに錆びついた機械のように、ぎこちなく軋みながら回っている。ギ、ギ、という音さえ聞こえてくるようだった。

手足が抑えきれずに震え、冷や汗が背中を伝っていく。

私は奥歯をきつく噛み締め、涙がこぼれないように必死で堪えた。彰人と過ごした甘い日々が、映画のように一場面、また一場面と目の前を滑っていく。瞬きを一つすると、それらはすべて、粉々に砕け散った。

浮気の現場をこうして目の当たりにし、どうしようもない無力感が、私の神経のすべてを蝕んでいく。

私は疑い始めていた。あの時、自分の夢を諦め、彰人と共にこの地に根を下ろし、安定した生活を選ぶという決断は、本当に正しかったのだろうか、と。

彰人から、メッセージが届いた。

【美月、ごめん。急なトラブルで、これから少し出張しなきゃならなくなった。ネックレス、今日は受け取れそうにない。必ず、もっといいものを埋め合わせに贈るから、先にタクシーで帰ってくれるか?】

私は力なく笑いながら首を振った。急なトラブルなんかじゃない。沙友理が、彼を捕めて離さないだけだ。

私はついに決心を固め、久しぶりに、局長のオフィスを訪ねた。

彼女は私を見て少し驚き、「どうしたの?」と尋ねてきた。

すぐに私が聞こえないことを思い出し、デスクの上から慌てて紙とペンを探し出してくれた。

私は、自ら口を開いた。

「局長、アズマニア共和国へ、戦場記者として派遣させていただきたく、申請に参りました」

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