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第7話

Author: 星崎
取材の傍ら、私は行き場を失った孤児たちの世話に追われている。

私と圭吾は、瓦礫の中からあの子たちを一人、また一人と拾い出し、ここでの寝床に詰め込んでいる。

あの子たちは幼い頃からあまりに多くのことを経験しすぎた。だから、妙に早熟で、その健気さが私の胸を締め付ける。

ただ、時折、砲弾が私たちの近くに落ちると、普段は大人びている子供たちも、判で押したように私の腕の中に縮こまり、震える声で「ママ」と、か細く私を呼ぶ。

私があとどれくらいここにいられるかはわからない。ただ、ここを離れる前に、あの子たち全員に安住の地を見つけてやりたいと、それだけを願っている。

ある日の真夜中、情報提供者から連絡が入った。私は夜も明けきらないうちに、唯一の自転車に乗って街の中心部へと向かった。

だが、戻る途中で不意に襲撃に遭い、砲火の中で、私は手近な遮蔽物を探した。

パニックの中、傾いた瓦礫を踏みつけて足首を捻ってしまう。全身を突き抜けるような激痛が走った。

立ち止まるわけにはいかない。私は服の裾を破り、簡易的な包帯にして足首に巻き付けた。

「美月、大丈夫か?」

少し震えた声が、探るように響いた。

こんな場所で、彰人に会うなんて。

彼は崩れ落ちた入り口から駆け込むなり、私を強く抱きしめた。薄汚れたその顔は、失ったものを取り戻したかのような、狂喜に満ちている。

「見つけた……やっと、見つけたぞ!無事でよかった……」

私は一瞬、何が起きたかわからなかった。正気に戻ると、私は力の限り彰人を突き飛ばした。

「なんであなたがここにいるの?」

彰人は核心を避け、曖昧に答える。

「美月が街に入ったって聞いたから、俺も追いかけてきた」

彼は私から視線を逸らして俯くと、そっと私の足首に触れようとした。私は距離を取る。彼を上から下まで、じろりと観察した。

彰人はひどい火薬の匂いがする。まるで走ってきたかのようだ。まだ整わない呼吸に合わせて、胸が激しく上下している。

まだ肌寒い早春だというのに、彰人の額には汗が浮き、それが土埃と混じって泥の点となり、前髪をぐっしょりと濡らしている。

彼は眉をひそめ、ごく自然に私の足首をぐっと押した。長年の付き合いで、私の世話を焼くことは、すっかり彼の習慣になっている。

私は彼の手を振り払った。

「平気。骨折はしてない。とにかく戻るわ。

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