All Chapters of 独立した末っ子が執愛属性持ち『魔王』になって帰って来た: Chapter 21 - Chapter 30

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【第2章・第6話】《回想》冒険者ギルド②

 テオドールはカラミタを連れて二階に上がり、冒険者ギルドの最高責任者であるギルドマスターの部屋に彼を案内した。流石に、部屋に入るなり、此処でまで攻撃をされたりはしなかったが、威圧的なオーラを纏ったギルドマスターと目が合った途端、カラミタが顔を顰めた。「……本当に、攻撃の意思は無いようだねぇ」 そう言うと、ギルドマスターの表情から威圧感がスッと消え去り、温和な表情になっていった。 彼は八十代にまで達しているのだが、まだまだ現役にも負けぬ圧と実力を兼ね備えた人物だ。『器用貧乏』と言われがちな『ヒューマ族』でありながら二十年近くギルド長を務めており、ご高齢になった今でもまだ現場に出る事のある行動派でもある。長めの白髪を後で緩く結いまとめ、髭を生やし、彫りの深い顔には年齢を感じさせる皺はあれど、その体躯は若者にも負けぬ程に逞しい。「まぁ、カラミタは、ただ俺達に会いに来ただけだろうからな。——でしょう?」 テオドールにそう問い掛けられ、「あぁ」とカラミタがうなずく。「こっちは、門番に『冒険者であるセリンに会いたい。もしくは、テオドールかリトス、アイシャでもいいんだが』って言っただけなのに、急に攻撃されて、致し方なく防衛しただけだ」 「入口を守る者には訪問者が不審者かどうかを見分けるために、変装などを見破る魔導具を持たせていますからね。いくらアイシャが作った偽装効果のある魔導具を身に付けていたとしても、『魔族』であると看破出来てしまいますから、それこそ事前に『来る』と言ってくれれば、こちらもそれ相応の用意をしたんですが……まぁ、それも今更ですね」 どこの国も主要な都市の門や施設の入り口などを守る警備兵などは、変装、もしくは擬態などの魔法を使っているか否かを判断出来る魔導具を身に付けている。指名手配犯ではないかをチェックする機能も搭載された優れ物だ。冒険者ギルドの門番が装備していた物の製作者がアイシャでなければ、それさえも誤魔化してすり抜けられただろうが、今回は相性が悪かった。「……その発想が、そもそも無かったな。『行けば何とかなるか』程度にしか考えていなかった」 「まぁ、そうですよね。僕らの育ち方では、どこかへ訪問するための礼儀なんかは学べませんでしたし。てっきり、カラは成人後も実家に残ると思っていたので、正直、今カラがここに居る事にすごく驚いています」と
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【第2章・第7話】《回想》冒険者ギルド③

 ギルドマスターの部屋の応接スペースに置かれたソファーに五人が腰掛ける。体が大きく、筋肉や種族特性の関係で分厚いセリンとリトスの二人が並んで座り、残りの三人はその対面にあるソファーに座った。「——んで、だ。カラミタ、お前さんの事をちょっと教えてもらってもいいかい?出来ればギルド本部への訪問の理由よりも先に、『特別な個体』である理由の方を聞かせてもらえんかねぇ。警戒心をどうにも捨てきれない儂を安心させて欲しいんだ」 ライゼにそう言われ「あぁ」とカラミタが素直にうなずく。その様子からすると、その点に関しても元々話すつもりで来ていた様だ。「かなり長くなるとは思うんだが、まずは、『魔族』の特性から話してもいいか?」 そう問われ、アイシャの目が輝く。長年『魔族』である末弟・カラミタと暮らしてはきたが、その特性や性質に関して語り合う様な機会などなかった。好奇心旺盛な彼は興味津々といった様子で、早速大量の紙と羽ペンを、腰に身に付けている収納魔法が付与された小さな鞄の中から引っ張り出した。「まず、『魔族』も『樹界』に住む者達となんら——」まで言ったカラミタの言葉を最速でアイシャが「待ったぁ!『樹界』って何?」と大声で遮った。 「『樹界』は、此処の様に、世界樹の影響下にある土地に対しての呼称だ。多分、魔族のみでの言い方なんだろうな、他では聞かないから」 「そっかそっか。おっけー話を続けて」 「『樹界』に住む者達と、『外界』に住む『魔族』の生態に大きな差はない。両親から生まれ、寿命があり、老いて、いずれは死ぬ。そして全ての個体が『天災』レベルの脅威でもなく、そういった個体はせいぜい上位一割程度だ」 この話には流石に納得がいかなかったのか、驚く声が他からあがった。「いやいや、よく考えてもみろ。じゃないと、今頃樹界はとっくに壊滅していてもおかしくないだろう?でも実際にはそうじゃないのが何よりの証明だ」「……確かに、そうだな。いくら世界樹の影響下にある地域には……君は別の様だが、何らかの理由で通常は来られないとしても、魔族全員で遠距離から大量の魔法をぶっ放すって手もあるんだしな」とライゼが口にし、うなずいた。 「能力的に上位に当たる魔族達は、他種族からは『天災』扱いされてはいるが、奴らには最大の欠点がある」 「欠点、ですか?」とセリンがこぼし、家族達を魔族に殺され
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【第2章・第8話】《回想》冒険者ギルド④

「まぁ、わかった。先ほどまでの話から察するに、『魔王』の『性質の支配』の影響下に無いおかげで、カラミタは『特別な個体』って事だな?」 「そう思ってくれて構わない」とライゼの問い掛けにカラミタは答えた。 「そうか……。——なあ、セリン達よぉ」 セリンを筆頭とした兄弟達の視線がライゼに集まった。窓を背にして執務用の席に座るライゼに背後から太陽の光が強く差し込み、彼の表情を分かりにくくさせている。「現・魔王は随分と『好戦的』らしいが、カラミタの『性質』は、我々にとっても、次世代の『魔王』になるに相応しいもんなのかい?」「正直な話、少なくとも『王の器』ではないですね。ですが、統治力を求められる立場でもない様ですから問題はなさそうですけど」 「『相応しいか』と訊かれると『微妙』としか。ただ理由も無く拳を振り上げる様なタイプではないな」 「コイツの重度のマザコンっぷりが、他の魔族達にどう反映されるかが不安だってくらいだな、俺としては」 セリン、テオドール、リトスが順にそう言うと、ライゼはリトスにだけ「お前が言うなや」とつっこみを入れた。どうやらライゼの中では、リトスのマザコンっぷりも十分重度のものの様だ。「ちょっと待て、オレはマザコンじゃない。レラを一度も『母親』だとは思った事がないんだからな」「うん、知ってるよぉ。でも一応はまだ『母親』だから、ね」と言い、アイシャが不機嫌そうにしているカラミタの肩を軽く叩く。 「悪かったって。お前を『弟』だと思ってるから出た発言なんだから、このくらいは許せって」 リトスの謝罪を聞き、ライゼが首を傾げた。『レラ』という女性が『母親』である事は間違いなさそうだが、『そうは思っていない』となると、じゃあ『どう思っているのか』が気になる所だ。「でもまぁ、母さんの次に一番長くカラと暮らしていたウチとしては、『カラミタ』は次の『魔王』になる素質を充分備えていると思うよ」 魔族の生態に関してのメモを取り続けていたアイシャが手を止め、ニッと笑う。「ぶっちゃけ、現・魔王を殺すつもりでいるんなら、こんな場所に立ち寄ってないでそのまま真っ直ぐ魔王の所に行けばいいのに、わざわざウチらに話をしに来たのってさ——」「魔族同士の『内戦』や『内輪揉め』で終わらせるんじゃなく、『魔族との和平』のきっかけにするつもりだからでしょ」 一度話を切
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【第2話・第9話】《回想》手のひら返し

 冒険者ギルドのギルドマスターであるライゼだけじゃなく、セリン達も予想はしていた事だが、残念な事に『魔王討伐』までは、なかなかそう上手く話は進まなかった。『魔族』への恐怖はかなり根深く、各国の王族や皇族なども冒険者ギルドの伝手を駆使して巻き込みはしたが、世界的な連携を取るに至るまでだけでも二年近くかかってしまった。 他にも、『恩賞として、外界の土地や資源の採掘権を与える』とは誰も宣言していないのにもかかわらず、勝手に『利権の配分』ばかりを今から心配している者や、少しでも多くの利益を得ようと『魔王』となる予定のカラミタに対して媚を売る者なども多く現れ始め、毎日その姿を裸眼で見ようともレオノーラ不足に陥っているカラミタのストレスが日に日に溜まっていっている。「レラ成分が足りない!」「いや、今だってずっと見てんじゃん。満足しておきなよ」 冒険者ギルド総本部内に用意された自室で、机を叩きながら叫ぶカラミタにすかさずアイシャがツッコミを入れた。育ての親であるレオノーラに七年間会えていない身だからか、激しく同意しつつも、少しだけ不機嫌顔だ。自分が置いていった羊皮紙の魔導具のおかげで他の兄達が独立した時よりかはかなり頻繁にやり取りを出来てはいるが、育ての親を恋しく思う気持ちは二十二歳になった今でも隠しきれないみたいだ。それだけ十五歳になるまでの生活が幸せだった証拠だろうと当人は思っている。「目の前に居るのにこの手で触れないんだぞ?逆に拷問だと思わないか?」 「……自分でやっておいて、何言ってんだよ」 十七歳になり、随分と素晴らしい体躯に育ったカラミタの頭を容赦なく叩く。「痛いよ、兄さん!」と『弟』らしく口を尖らせながら、カラミタは斜め後ろに立つアイシャの方に振り返った。 『エルフ族』であり、その為成長の遅いアイシャの方は今も変わらず160センチ程度と男性としては小柄なままだが、『魔族』であるカラミタはこの二年間で随分と成長した。再会した当初はアイシャよりは少し大きい程度だったのに、今ではもう195センチにまで背が伸び、テオドールやリトスよりも大きくなった。流石に250センチもあり、『竜人族』のセリンと並ぶと『弟』感が残ってはいるが、もう彼を『末弟である』とは誰も思わないだろう。 肩まである紺色の髪をハーフアップにしてまとめ、左目側の空洞を隠す為にしている眼
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【第2章・第10話】《回想》令嬢の告発

 この二年間で、冒険者ですらないカラミタまでもがすっかり通い慣れてしまったギルドマスターの部屋の扉をアイシャがノックすると、すぐに「——どうぞ」と声が返ってきた。 扉を開け、アイシャ、カラミタ、リトスの三人が室内に入る。すると、彼の定位置でもある執務用の席に腰掛けているライゼの他にも、手前側にある応接スペースに一人の男性がいた。冒険者ギルドが総本部を構えている此処・シルト王国の王太子であるアリスター・クラウ・シルト殿下だ。魔王討伐に向けての国際会議などといった席で既に兄弟達と面識があり、彼自身Aランクの冒険者でもあるため、討伐に向けてシルト王国の代表として橋渡し役を担ってくれている。「——三人は、テオドールの件で来たんだね?」 簡単な挨拶もそこそこに全員が席に座り、アリスターはすぐ本題に入った。「共に育った兄弟だもんなぁ、安否が気になるのはわかるが、そう心配すんな。今は王宮の一室で待機中だ」 「牢にはぶっ込まれていないんだな」 『待機中だ』と言うライゼの言葉を聞き、リトスが安堵した。軽いノリでアイシャ達に知らせてはいたが、あれはどうやら弟達を不安にさせないためにとの考えからとった態度だったようだ。「経緯を聞かせてもらってもいい?あのテオが、意味も無く貴族を斬り殺すとは思えないんだよね」 アイシャの問いかけに対し、「それなら儂からよりも、アリスター王太子殿下からの方が良さそうだねぇ」と言ってライゼはアリスターに視線をやった。「あぁ、そうだね。私も丁度その話をしにギルドに来ていたんだ。ライゼは二度目になるけど、このまま此処でまた同じ話をしてもいいかな?」 「他の部屋じゃ、残念ながら誰が聞き耳を立てているかも知れんしな。此処でがベストだろうさ」 「重要な話なら防音魔法の二重掛けでもしておく?」とアイシャが訊いたが、「あ、いや。現状レベルの防音で充分だ」とアリスターは断った。「まず先に結論から言っておくと、テオドールは今回の件で罪には問われないよ。アイデル・ロゼ・モルジャーヌ公爵の斬首は王命だった扱いにするからね。これはもう父と——国王陛下と早急に協議した『結論』だ」 カラミタを筆頭に、三人がほっと息を吐いた。だが今度はそこに至った経緯が気になる。そうであると既に察しているアリスターは三人にテオドールの一件について語り始めた。       ◇
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【第2章・第11話】『初夜』の回避・前編

「——という感じで、後はもうとんとん拍子で話が進んでいってくれて、今に至るって訳だ」「急に端折ったね⁉︎」 「だって、シルト王国での資金調達はモルジャーヌ公爵家を継承したラウエルが私財を投げ打ってまで用意したおかげもあってスムーズにいったとか、有象無象な魔物は各国の代表として参加した騎士や有志の冒険者達が引き受けてくれたから、そりゃもうアッサリと事が進んだとか、また更に長々と聞かされてもつまらないだろう?」 「いやいや、楽しいよ?十分過ぎる程に興味あるよ!冒険譚を聴く的な感じもあるし!」 ずっと膝の上に座らされたままなレオノーラが必死に訴えたが——「ボクと兄さん達が、ボクの実の兄姉達と実父を容赦なく殺した話なんか、本当に聞きたいの?」 と言われて急に押し黙った。 『魔族』達が今までやってきた行いを思えば『討伐』は当然の事に思えるが、それはあくまでこちら側の視点からの話でしかない。話を聞くに、人々にとって『天災』となった魔族の大半は膨大な知識を受け止めきれずに精神崩壊を起こし、そこに『好戦的』という『当代の魔王が持つ性質』の影響を受けて暴走に至ったようだから、ひっそりと暮らしていた他の魔族達からしてみれば、今回の一件は樹界に住む者達による一方的な侵略行為としか感じられなかっただろう。しかも、政治的な統治をしているわけではないにしても、『王』として『魔族』に頂点に君臨している者を、その息子が人間達と共に討伐したとなれば、その心境は想像もつかない。(……確かに、血縁のある家族達を殺した話なんか、育ての親相手にも話したいものじゃないよね) 配慮不足を悔やみ、項垂れるレオノーラの頭にカラミタが頬を寄せる。「そんなに気にしないで。そもそもさ、『魔王』の継承には当代の魔王を殺さないといけないのは昔からの決まり事だから、実父も、別にボクを恨んでなんかいやしないよ。まぁ、ここまで早いとは流石に思っていなかったみたいで、『もう俺を超えたのか⁉︎』的な反応をされはしたけどね」 「……か、軽いね」「『魔族』の出自が出自だからね、オレ以外は、『自身の生』に関心が低い者が多いんだろうなぁ」 ぼそっと呟いた一言はあまりに小さく、彼の膝に座るレオノーラの耳にすら届かなかった。「——とにかくだ、さっきも言った通り、親の屍を超えていかないと次代の『魔王』にはなれないのは
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【第2章・第12話】『初夜』の回避・後編

「——ぷはっ」 長い長いカラミタの補食めいた口付けから解放され、レオノーラが浅い呼吸を繰り返す。頭がぼぉとして働かず、体もぐったりとしていてカラミタに体を預けきっているからか、彼の表情はとても満足そうだ。「鼻で息をしないと駄目だろう?レラは無知で、本当に可愛いね」 頬を染め、カラミタがぎゅっとレオノーラの小さな体を抱き締めた。『子供』としてじゃなく、『夫』としての抱擁なのだと思うとコレだけでも心が躍る。夢見心地のままレオノーラの細い脚に視線をやると、まだ小刻みに震えている太腿は心なしか濡れている気がする。口付けだけでこれ程まで感じてくれているのかと思うと、彼の心は一層高鳴った。「ボクよりもずっとずっと初心なレラの願い通りに、結婚式を挙げるまでは最後まではしないであげようかな」 一見すると優しそうな雰囲気のまま、カラミタがニタリと笑う。だがレオノーラはそんな表情を浮かべる彼を見上げても、『息子への絶対的な信頼』が仇となって、真意を悟れずにほっと息を吐いた。「ほ、本当に?」 「うん」 「ありがとう……」 ふわりと笑うレオノーラにカラミタが優しい笑みを返したからか、やっぱり彼女は警戒心なんか微塵も抱いていない。「でもね、条件があるんだ」 「条件?」「今日から結婚式を挙げるまで、ボクの『手伝い』をして欲しいな。一日の例外も無く、レラがもし疲れて寝ていても、レラの体を使ってもいい?」「……?(身の回りのお世話をしてって事、かな?)」 半裸に近い状態のまま膝に座らされ、貪る様なキスまでされたというのに、まだ全然、自分がカラミタに性的な対象として見られていると自覚出来ていないレオノーラは、迂闊にもあっさりと「わかった。いいよ、任せて」と断言してしまった。 言質は取ったと、カラミタの整った口元が弧を描く。すると彼はすかさずレオノーラの体を抱き上げ、食卓テーブルの方へと向かい、彼女の体をそのテーブルの上に押し倒した。「……カラ?」 「ん?」 仰ぎ見る様な状態のまま、レオノーラが困惑気味に彼の愛称を呼ぶ。『オカシイな。こういった行為を回避出来たはずでは?』とは思うも、高揚している様にしか見えぬ彼の表情を前にすると、とてもじゃないが口には出せなかった。「もしかして、『呼んでみただけ』って感じだった?なら、もっと甘い声色で呼んでくれてもいい
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【第3章・第1話】翌日(レオノーラ・談)

 昨日、十五歳で独立した末っ子が執愛気質持ちになって三年ぶりに帰って来た。 ……だけど改めてちゃんと思い返し、『あれ?カラの昔の様子を振り返ってみたけど、元々そう、だったのかも?』と今更気が付きながらベッドの上で怠い体をゆっくり起こす。昨日の出来事を全て『夢だった』と思いたいくらいの気分なのに、食卓テーブルで擦れて床擦れみたいになってしまっている背中の傷の痛みと、普段しない可動域を強要された股関節がギシギシと悲鳴をあげていて、『現実』だったと残酷なまでに突き付けている。(……にしても、私達がもう既に『結婚した』って本当なのかな) 渡された書類に流れ作業的にサインを書いた『だけ』なせいで、全然ちっともピンとこない。それこそ結婚式でも挙げない限りは実感なんか湧いてこない気がするのだが、『果たして本当に、このまま流れに任せてもいいのかなぁ。カラの事は好きでも、恋愛感情とは違うのに』と思いながら、子供達が贈ってくれた服の一つに着替え、リビングスペースに向かう。「——おはよう!レラ」 カラミタがテーブルに朝食を並べてくれていた。……昨日はあんな事をしたテーブルに、今では美味しそうな軽食が並んでいる。元々料理のやり方は子供ら全員に叩き込んだから出来るのは知っているけど、腕前は今の方が格段に上がっている。まぁ、私が教えた調理法なんて全て自己流か本の受け売りなので、あれ以上の上達なんか容易いのはわかるけど——(見ているだけで、よだれが止まらんっ!) パッと見ただけで丁度いい塩梅に焼かれているとわかる鶏肉には甘酢ソースがとろりとかけられ、焼き立てとしか思えぬパンは甘くて魅惑的な香りを放っている。今さっき庭から収穫してきたであろう採れたて野菜のサラダは私が盛り付けるよりもずっとおしゃれで繊細だし、ホットミルクには隠し味にハチミツを入れているっぽい匂いがほんのりと感じ取れた。そしてそれらの料理は全てワンプレートに盛り付けてあってお店みたいだし、それがシチューみたいな色合いのスープと一緒に、愛らしさのあるランチョンマットの上に並んでいるからより一層映えている。テーブルの中央には小さな花瓶には敢えて香りの弱い品種の薔薇の花をチョイスして飾ってあるという気遣いっぷりだ。(このスキルがあるなら、どんな淑女でも娶れたのでは?) なのに何故私なんだと不思議でならない。育ててもらっ
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【第3章・第2話】結婚式について(レオノーラ・談)

 朝食を食べ終えて一時間後。いつもならまだまだ色々と忙しい時間帯なのだが——(困った。……暇だ) アイシャがカラミタに持たせてくれた十体ものゴーレム達のせい……もとい、おかげでもう家事の大半が終わってしまったのだ。五人もの食べ盛りな男の子達の腹を満たせていた程に広大な畑に行くと、既に手早く雑草は抜かれ、収穫可能なものは魔導具でもある保存庫の方に運び終わっていた。 庭の花の手入れも、洗濯も、室内の掃除なんかも終わっている。 なら『普段はちょっとサボりがちな風呂場の掃除を』と思って足を運ぶと、そこもゴーレム達が掃除し終わった後だった。 洗濯物は流石にまだ乾いていないから、畳んで片付けるわけにもいかない。昼ご飯の準備をするにも時間的に早過ぎる。楽ではあるが、此処三年間はずっと私と一体のゴーレムとで捌いていたから、正直手持ち無沙汰だ。 本に逃げようにも、家にあるものはもう全て読んでしまった物ばかりなので、流し読みして終わりそうだ。最近はまとまった時間があったらダンジョンに行っていたけど、今日はカラミタが居るからそれも出来ない。(どうしようかなぁ。新しい服を沢山貰ったから服の修繕をする必要もないし。何でも送ってくれるから、すっかりお買い物にも行かなくなって、お金稼ぎになる様な物を作る必要もなくなってるんだよねぇ) リビングスペースにある椅子に座り、ぶらんぶらんと足を揺らす。子供達のサイズに合わせて造った椅子なので、私にはちょっと大きいから足がつかないせいでこんな事が出来ちゃうんだけど、コレでは自分の方が子供みたいだ。「どうしたの?レラ」 朝食を済ませた後。片付けはゴーレム達に任せて自室に篭っていたはずのカラミタにこんな姿を見られてしまった。私はこの子の『母親』なのに恥ずかしい。あ、実感は無いけど、今は『嫁』か。「……顔、真っ赤だよ?もしかして——」と言い、カラミタが私の耳元に近付いて来た。「昨日の事でも思い出してた?」 吐息まじりにそう囁きかけられ、ゾクッと体が震えてしまう。カラミタの形の良い口が言葉を編むたび、私の耳に触れる柔らかな唇の感触のせいで顔どころか耳まで赤くなっている気がする。「ち、違うよ。ゴーレム達が何でもやってくれるから、暇だなって思ってただけで」 そっと離れてカラミタと距離を置く。こっちはずっと『子供』としての接してきたから、
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【第3章・第3話】ダンジョン到着(レオノーラ・談)

 私室のクローゼットに仕舞ってあった服の中から出来るだけ動きやすい服を選ぼうとしたのだが、適当な物がなく、結局私はカラミタがもっと小さかった頃に着ていた服を勝手に借りて着ることにした。——だからなのか、違うのか。真偽は不明だが、何故かカラミタが鼻血を出したまま床に這いつくばっている。ダイイングメッセージみたいな血文字を指先で途中まで書いて。「……大丈夫?立てる?」 「勃ってるよ。そりゃもう、めちゃくちゃ痛いくらいに」 どう見ても床に這ったままなのだが……何となく、これ以上は訊かない方がいい気がしてきた。「……そんな状態で、行ける?」 「目の前にレラが居るから、いつでもイケるよ♡」と言いながら上半身をぐっと起こしたが、どうしてか話が噛み合っている気がしない。だけどそんな事よりも今は鼻血をどうにかした方が良さそうなので、カラミタの鼻にそっとハンカチを当ててやる。そしてセリンほど上手くはないけど回復魔法をかけてもあげた。「ありがとう、レラ」 「どういたしまして。……んでも、このくらいカラも出来るよね?」 「出来るけど、レラにしてもらうのがいい」 ハンカチを掴む私の手に頬擦りをしながら、声も瞳もうっとりとしている。『恋をしている人』という者を間近で見た経験は無かったけど、きっとこういう状態を言うんだろうなと思ってしまった。「それにしても、『彼シャツ』の破壊力ってえげつないね」「……そうかい?」 そもそも『彼シャツ』とじゃ何ぞや?って感じだが、カラミタが嬉しそうだから、それでいいか。「さて、このままのんびりしていると今以上に昨日の続きをしたくなってくるから、さっさと行こうか」  現状で、もうしたいのか……と、遠い目になってしまったが、墓穴を掘るだけな気がしたので、何も突っ込まないでおく事にした。       ◇ いつもなら聖獣達が一体か二体くらい同行してくれるのだが、今日はカラミタがいるからか、家を出でも誰も待機してはいなかった。なので二人だけで『深淵の森』内部にあるダンジョンの入り口近くまで転移魔法で一っ飛びで移動した。手を繋ぐか、服に掴まるか。側に居るだけでも一緒に転移出来るのに、カラミタの強い強い要望により、お姫様抱っこの状態で。本来なら私が抱っこするべき立場なのに、体格差のせいで、抱っこされているのが自分である事が心底悔しい。帰ったら
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