All Chapters of 独立した末っ子が執愛属性持ち『魔王』になって帰って来た: Chapter 11 - Chapter 20

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【第9話】受け入れ体制

 あの後すぐに二度目の転移魔法を使って自宅に戻った。裸のままで、しかも首も座っていない歳の子だったため、レオノーラは着ていたローブを脱いで、魔族の赤ん坊をそれに包んで抱いている。「母乳の代わりに、どうやらヤギのお乳で代用出来るみたいですよ」 「そうなんだ?良かった」 家に到着するなり早速代替え品を調べてくれたセリンに、安堵した様子でレオノーラが返した。「赤ん坊の服なんて流石に無いからウチがちょっと作ってくるよ。あ、テオが昔着てた服ちょっといじるねー」 「多分衣装棚の一番下にしまったままだと思いますから好きに使って下さい。——じゃあ僕は、ベビーベッドの代わりになりそうな物を倉庫から探して来ますね。無かった場合は急いで作っておきます」 今度はアイシャが赤ん坊の服の用意を始めた。まだ『魔族』を拾った事に対して困惑気味ではありつつも、それを隠してテオドールもきちんと対応する。どうやら、この件に私情は持ち込むべきじゃないと決めたみたいだ。 即座に保護を決めて連れ帰ったはいいが、家には赤ん坊に必要そうな物など一つとして無い。既に子供が四人も居る家庭ではあれども、一番小さくても三歳からの子育てだったのだから仕方のない事だった。「んじゃ俺はヤギのお乳搾って来ようか?」 そう言うリトスの頭を優しく撫で、「そうだな。頼めるか?」とセリンが言う。 「リトスー、お乳を入れる瓶はちゃんと先に煮沸すんだぞ」とアイシャが声を掛けたが、「……『しゃふつ』?」と首を傾げたもんだから、リトスの方へ走って戻り、「おっし。じゃあ煮沸だけは手伝ってあげるから、こっち来なよ」とキッチンに兄を引っ張って行った。 「あれじゃ、どっちが兄かわかりませんね」 「ですね」  笑うテオドールとセリンの様子をじっと見上げ、レオノーラが感心している。(ウチの子達、四人とも能動的で偉いなぁ) 帰宅後すぐに動き出した四人とは違い、『母親』であるレオノーラはまだ何も出来ていない。そんな自分の自己評価を下げつつ家の中に入り、各部屋を回って柔らかそうなクッションを家中から集めて床に並べた。そして彼女は早速そこに一旦赤ん坊を寝かせようとしたが、ぎゅっと強く服を掴まれて離して貰えなかった。「……あちゃぁ」 だがこのままでは何も出来ない。連れ帰った責任は自分にあるのだから皆みたいに行動しないととは思うも、指
last updateLast Updated : 2025-12-09
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【第10話】『天災』

「ところで、この子の性別って女の子?それとも男の子かなぁ?」 本で調べた方法によると布に染み込ませて飲ませる方法もあるみたいだが、大人しい赤ん坊だし、それなら衛生的にもこっちの方がいいだろうという理由でヤギのお乳をスプーンで少しづつ飲ませながら、レオノーラが周囲に集まって観察している四人に訊いた。「男でしょうね」 「男の子ですよ」 「男に決まってるだろ?」 「むしろさぁ、何だってまた、この子が男の子以外の可能性なんか持っちゃってんの?」 長男のセリンを筆頭に、順々にそう指摘され、「——え、むしろ何で、みんなこそ『男の子』って断言出来るの?」とレオノーラが驚きながら返した。「だって、ちゃんと見てみて?このモチモチの柔肌、ぷりんとした輝くほっぺに、真っ黒ではありつつも後光さす小さな足とこのお手々!ふくよかさに溢れた溝ある腕と脚!そして何よりもこの大きな鱗で最大の急所が見事に覆われているから、完全に性別不明だよね?」 この魔族の赤ん坊の肌は全体的には白いのだが、手などの末端に近づくにつれ真っ黒になっている。爪と肌の間に境界線がまるで無く、今は丸い指先だが本人の意思次第で鋭く変異しそうな片鱗がある。レオノーラからちっとも視線を逸らそうとしない瞳の色は光をも反射しない程に黒く、漆黒の闇や深淵を他者に連想させた。まだ細くて柔い髪は綺麗な紺色で、両耳の上には大きな角が既にもう左右それぞれに生えている。生後まもないからなのか、まだその角は柔くてそっと触れると少しへっこんだ。尾骶骨の辺りからは爬虫類にも似た長い尻尾があり、股間の急所部分は大きくて黒い鱗で覆われている為一目では性別がわからないのに、『何故四人とも断言出来るの?』とレオノーラだけが困惑顔になった。「まぁ、その鱗のせいで性別の判断が難しいという母さんの言い分は理解出来ます。ちなみに、竜人族も普段はこの子の様に鱗で急所が覆われているので、その鱗は急所の保護の為であると断言出来ますよ」 「おぉぉ!『魔族』の生態なんてほぼほぼ知られていないから、コレって地味に大発見だね。他種族との共通点とか調べたら奥深そうっ」 研究や勉強好きなアイシャはセリンの話に興味津々といった様子だ。「なぁなぁ。それよりもさ、コイツの名前ってどうするんだ?」 リトスの問いに対し、レオノーラ達が『そうだった!』と表情を変えた。今まで
last updateLast Updated : 2025-12-15
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【第11話】成長

 保護すると早々に決めたはいいものの、内心では『赤ん坊の育児なんて私が本当に出来るんだろうか?』とレオノーラが心配している。出産経験も無く、育児に関する勉強をしてきたその道のエキスパートでもなし。『幸いにして人手の多い家だから何とかなるんじゃ?』という甘えは無かったとは正直言えない。セリンが文字の読み方を教えてくれたおかげで、子供達を保護するたびに育児関係の本だけは沢山読んではきたが、知識だけで実地に挑むのには不安がある。赤ん坊が相手では些細なミスも命取りになりかねないから、絶対に失敗は出来ないというプレッシャーも。 だけど、カラミタの『子育て』は実に拍子抜けするものだった。 生後間もない赤ん坊は三、四時間毎にお乳をあげると育児書には書いてあったのに、彼は爆睡タイプだった。一度寝ると朝まで、下手をすると三日三晩寝続けて『ちゃんと生きてる⁉︎』と皆が心配になったりもした。でも、思い返してみると上の四人も、もっと小さい頃には寝ている事が多かった。最長で一ヶ月間も起きなかった子も居る。(……あぁ、コレもまた『世界樹』のせいか) 彼女が今更そう気が付いたのは、五男となったカラミタの寝顔を見ている時だった。『きっと世界樹から受ける恩恵を、こうやって長く眠る事で体に馴染ませ、作り変わっていっているのだろう』と。 じゃないと、『魔族』であるカラミタが此処で生きていくには無理があるからだ。 実は、そうであると知ったのは、『魔族』の赤ん坊を保護して二、三ヶ月程も経過した後だった。子供達の間で『これを機に、魔族に関して真面目に研究してみる』という流れになり、長い歳月を掛けて拾い集めていた文献を漁っていく中で発覚したらしく、『——カラ、ちゃんと生きてる⁉︎』とアイシャ達が慌てて走って来た時、レオノーラはかなり焦った。でもよくよく考えると納得しか出来ない。『魔族』は世界樹のある大陸の中央部に行けば行く程出現報告が極端に少なくなっていく。世界樹が拒絶しているのか、魔族が世界樹を毛嫌いしているのか。魔族が世界樹に近づかない理由は不明なままで、その理由次第ではカラミタが死んでしまうのでは?と心配したのだが、保護してから一年近く経った今でも彼は元気いっぱいだ。「……でも、小さいねぇ」「あ、うぅー」と言いながら、レオノーラが腕に抱えているカラミタは『我関せず』といった様子で彼女の髪を
last updateLast Updated : 2025-12-19
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【第12話】約束

 初めて『言葉』を発してから数日後。 カラミタが深い眠りから目を覚ますと、目の前には長男であるセリンが居た。しかも彼の大きな腕の中に抱えられているという状態で。反射的に「れぉにょ——」と舌足らずな状態のままレオノーラの名を呼ぼうとしたが、「シー。お静かに。母さんはまだ寝ていますから、そのままにしてあげませんか?」と口元に指を立てながら言われた。だがカラミタは顔を顰め、それでも尚彼女を呼ぼうとする。そんな彼をセリンがレオノーラの近くにまで敢えて運んだ。そして「……貴重な寝顔が見られてよかったですね」と小声で言う。するとカラミタがぐっと強めに口を閉じた。いつも自分よりも先に起きているレオノーラの寝顔を見られて歓喜している様だ。 少しの間。二人は揃って、眠るレオノーラの寝顔を観察した。早朝だからか彼女が起きる気配は無い。外もまだ薄暗く、やっと朝日がかろうじて姿を現したかどうかといった頃合いだ。他の部屋で休む兄弟達が起きている様子もなく、どうやらセリンとカラミタだけがかなり早く起きてしまったみたいだ。「…………♡」 セリンがちらりと視線をカラミタの方へやると、彼はいつも通りにレオノーラをじっと見ていた。その表情は完全に恋焦がれている者の目で、決して『赤子』が『親』に向ける視線ではない。「カラ……」 愛称で彼を呼び、セリンはとても小さな声で「少し、僕とお喋りしませんか?」と声掛けた。いつもなら問答無用で『ヤッ!』と拒絶してレオノーラにしがみついて離れないカラミタだが、今彼女は眠っている。普段ならば『赤子の特権』とばかりに我儘を突き通す彼だが、この寝顔を崩すのは流石に忍びない。ただ、寝起きのぼんやりとした表情にも興味があって、カラミタの心はしばらく揺れた。「僕との話が終わったら、ベビーベッドじゃなく、母さんのベッドに降ろすという特典をつけてあげますよ」 普通の赤子になら絶対に言えない台詞だが、セリンはカラミタであれば問題無いという確信を持ってそう提案する。するとカラミタは黒い瞳をキラキラと輝かせながら何度も首肯を返した。 「では、まだ寝ている人が多いので外に行きましょうか」 「ぁぃっ」と返事し、カラミタの小さくて黒い手がセリンの服をキュッと掴む。もう一年近く一緒に暮らしているのに初めての事で、セリンのドラゴンにも似た口元が優しく綻んだ。       ◇
last updateLast Updated : 2025-12-25
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【幕間の物語】お風呂

 日常のとある一日。 五人の子持ちであるレオノーラがお風呂に入ろうとした時の事だ。短い足で必死に立ち上がり、ちっちゃな両手を彼女の方に伸ばしながら、カラミタがこんな要求をし出した。「いっちょに、おふりょに、はいりゅ、の!」 まるで決意宣言でもするみたいにちょっと大きめな声で。ふわふわなほっぺをぷるんと揺らしながら言うもんだから、レオノーラが胸を射抜かれている。赤子特有の尊さのせいで呼吸まで苦しそうだ。「駄目ですよ、カラ」 優しい声色で声を掛けつつセリンがカラミタの小さな体を片手で持ち上げる。期待に揺れる尻尾を避けつつ彼を縦抱きにすると、カラミタは不貞腐れた顔になって兄を見上げた。「にゃんれぇ?」 そんな不満いっぱいの表情すらもまた可愛くって、もうレオノーラは息も絶え絶えだ。手に持っている着替えの服を落としそうにもなった。 アイシャも「何?どうしたの?」と訊きながらやって来て、自室で読書をしていたテオドール、風呂の順番待ちをしつつ庭先で鍛錬中だったリトスまでもが風呂場近くに集まった。「カラが、母さんとお風呂に入りたいそうなんですよ」とセリンが弟達に説明した。 「いやいや。ダメでしょ、カラは一緒に入っちゃ。後で君専用のお風呂で沐浴しようなぁ」 アイシャにまで『ダメ』と言われてカラミタが一層拗ねる。頭を撫でながら諭すような声で言われてもやっぱり同意は出来ないみたいだ。「だってさぁ、よく考えてみ?子供特権とばかりに一緒にお風呂入ったとするだろう?」「んっ♡」 瞳を輝かせ、カラミタが何度も頷く。その光景を想像までしているのか頬が少し赤い。「ウチの風呂は掛け流しの温泉だから赤ん坊にはちょっと熱いだろうしさ、興奮もしてさ、鼻血出しそうじゃない?」「あ、めっちゃありそうだな」 アイシャの立てた一連の過程に、流れる汗をタオルで拭きながらリトスが同意した。テオドールも「あぁー」と言いながら納得顔である。「んで、その様子を見て慌てた母さんが全裸のまま風呂場から飛び出して来たりでもしたら、今度はカラが悲鳴をあげたくなるんじゃない?んな姿の母さん、他の奴には見せたくないでしょう?ウチらだって反応に困るし」「——っ!」 カラミタの表情が一気に変わり、想像しただけで既に悲鳴をあげそうな顔になった。そしてすぐに態度を一転させ、レオノーラに向かって「いってりゃ
last updateLast Updated : 2026-01-02
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【第2章・第1話】旅立ち(レオノーラ・談)

 その幼さ故に私の事を『れぇおにょーら』などと可愛く呼んでくれる末息子のカラミタが三歳になった年、長男・セリンが家を出た。『レオノーラ』ときちんと発音出来る様になった頃には次男のテオドールが、そして三男のリトスと続き、『レラ』と愛称で呼ばれる様になって一年程が経った今日、とうとう四男であるアイシャもこの家を発った。 皆、『子供達には見聞を広めて欲しい』という私の願いに従った出立だ。 子供の頃からずっと世界樹の麓に引き籠っている私に言われても『どの口が』って内心では思われていそうだが、彼らには広い世界を知り、そして楽しんで欲しい。学んで、多くの経験をしてもらいたくって随分前に決めた『成人年齢である十五歳になったら旅に出る』は我が家のルールの一つである。その約束に従ったセリンも、テオドールも、リトスも、一年に一通程度『伝え鳩』に持たせた近況を綴った手紙をくれるくらいで一度も帰省はしていない。ただ、三人とも一緒に居るらしく、今さっき出発して行ったアイシャもすぐに兄達と合流するつもりでいるそうだ。『ウチはもっと頻繁に連絡するから、心配しないで』 錬金術が得意で、魔導具作りにも精通しているアイシャはそう言って去り際に通信用アイテムを置いていってくれた。一見するとただの羊皮紙なのだが、その魔導具に文字を書くと、対になっている紙に文字が転送されるという仕組みらしい。双方とも書いた文字は数日経つと消え、文章の保存能力は無い不完全な試作品らしいが、『いつかちゃんと完成させて、改めて贈る』とアイシャは約束してくれた。「……フフッ」  アイシャの置き土産を見ているとつい笑顔が溢れる。今後は子供らと簡単にやり取り出来る事が嬉しくって堪らない。でもあまり頻繁に送り過ぎない様に気を付けねば。『ご飯は食べた?ちゃんと睡眠は取ってね』なんて何度も送って、『ウザイ』とか『うるせぇクソババァ』なんて返ってきたらきっと泣く。……いや、絶対に泣いちゃうから。「嬉しそうだね、レラ」 私の前に淹れたてのお茶で満ちたカップを置いてくれ、カラミタが対面の席に座った。五人全員で食事が出来る様にと大きめのテーブルをリビングに置いていたが、とうとう二人だけになった。妙に広く感じ、ちょっと寂しくなってくる。子供の成長も旅立ちも心から嬉しく思うが、常に賑やかだったあの頃を懐かしむ気持ちはどうしょうもなかっ
last updateLast Updated : 2026-01-08
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【第2章・第2話】日々の生活(レオノーラ・談)

 子供達が皆独立した事で一人暮らしに戻ったが、案外何とかなっている。セリンと出会う前まではずっと長年一人きりだったのだから当たり前と言えば当たり前か。 昔から私達を気に掛けてくれている聖獣や精霊・妖精達などの手を借りつつ結構元気にやっていけているとも思う。アイシャの置いていってくれた羊皮紙型の魔導具のおかげで子供達の近況は前よりもずっと早く得られているし、詳しくは教えては貰えていないけど、カラミタも兄達と合流したそうだ。セリンが一緒ならきっと大丈夫だろう。あの子は誰よりも家族思いの子だし、カラミタの扱いも一番上手かったから。 前までは年に二度くらいのペースで町まで買い物に出掛けていたのだが、此処最近はそれもしていない。カラミタが旅立って以降、実に絶妙なタイミングで飛行型の魔物が不足品を宅配してくれる様になったからだ。収納魔法が付与された小さめの鞄を身に付けて、実家位置の特定が困難になるように『深淵の森』に点在している魔力溜まりを経由して此処までやって来ているらしいのだが、『一体どう魔物を訓練したらそんな事を出来るようになるんだろうか?』と不思議でならない。賢い個体だとこちらの言葉をそれなりに理解してくれる者も居るのは知っているけど、意思の疎通なんて、せいぜい雰囲気から読み解く程度しか私には出来ないのに。「それにしても……」 不定期で、でも頻繁に届けてくれている荷物の中に最近は服が沢山含まれている。流行りの服なのか、どれもお洒落な物ばかりで着るタイミングに困ってしまう。畑仕事には絶対向いていないし、着たって誰に見せるでもなし、実年齢的にも痛々しい気がするし。だけど男兄弟達が頭を悩ませながら女性ものの服を選んでくれている光景を想像するとちょっと楽しくなった。「……でも、コレだけはどうしたもんか」 誰が選んだのか、肌着なんかも多数荷物の中に入っているのだが、どれもこれも『初夜くらいにしか出番がないんじゃない?』とツッコミたくなるような総レースのスケスケなパンツやら乳押さえ……今はブラジャーって言うんだっけ?——まぁ、そんな感じの物が何着も届く。もっと普通の肌着が欲しいのだが、良かれと善意で送ってくれているであろう息子達に『コレなんか違う』ってわざわざ言うのも恥ずかしい。「これってきっと、店員さん達が、恋人へのプレゼントか何かと勘違いして薦めてきてるんだろう
last updateLast Updated : 2026-01-14
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【第2章・第3話】書類にサインを書く時は内容を確認しましょう(レオノーラ・談)

 今から三年前。 最後に見たカラミタはもっと線の細い印象の子だった。十五歳で世間一般的には『成人』になったけれども、まだ『少年』と言う表現の方がしっくりした。『エルフ族』が故に早々に成長が極度に遅くなった四男のアイシャよりもは大きいが、次男である『ヒューマ族』のテオドールよりも小さく、『獣人』である三男のリトスよりもすばしっこそうな感じだったのに。(——いやいやいや!流石にたった三年で、コレはおかしくないかなぁ?) 家の中。 食事時の定位置であった椅子に座り、私が淹れたお茶を嬉しそうに飲むカラミタの姿を対面から仰ぎ見ているのだが、疑問符で頭の中がいっぱいだ。どうしたって記憶の中の『彼』と一致しない。どう甘く見積もっても二メートル近くは身長がありそうだし、筋肉質な事が上着を脱がずともその体躯だけで見て取れる。顔立ちは精悍でありつつも綺麗過ぎて、知らない人みたいで何だかちょっと怖い。光を反射しないくらいに黒い瞳、ハーフアップにしてある紺色の髪や耳上にある大きな角、先程からぺたんぺたんと床をリズムよく叩いている竜みたいな尻尾が無ければ、『貴方は誰ですか?』と、ついうっかり真顔で口にしてしまっていただろう。(十五年間、この手で育ててきたのに、ごめんね!) 無条件に『彼』の成長を受け止めきれてはいないとバレたらどうしようと思うせいか、冷や汗が肌を伝う。対面に座る今でも、この『成長』を脳が処理しきれていないせいで、余計に焦る気持ちが落ち着かない。「ねぇ、今まで何処に?」 声まで低くなっている。怒っているからとか心配でとかじゃなく、彼も兄達と同じく声変わりしたのだろう。「聖獣達と森の中の散歩に行ってたの」(全くの嘘、ではないからこの返答でもいいよね?) ダンジョンの攻略についてはまだ言うつもりは無いから伏せておく。まだ始めたばかりなので、『彼らの仕事を少しは理解出来た』と思えてはいないからだ。いくら聖獣達が同行してくれていても、言えば、家族の中でも最弱な私では『危険だ』と怒られるかもだしね。「ゴーレムを置いて?」 「あ、そういえばそうだね。いつもは当たり前に付いて来ているから、傍に居なかったって逆に気が付いていなかったよ」 キョロッと今更周囲を探すと、いつも通り隣の席によじ登りながらゴーレムがじっとこちらを見上げてきていた。『深海』や『深淵』
last updateLast Updated : 2026-01-20
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【第2章・第4話】返答は慎重に

「……えっと、今の誓約魔法って、何?」 一応知っておきたいな、くらいの雰囲気でレオノーラが訊く。するとカラミタはふわりと幸せそうな笑みを浮かべた。「何って、結婚の誓約魔法だよ」「え!結婚?わぁ、おめでとう!」 「うん、そうだね。おめでとうだね」 ニコニコとカラミタが笑っている。その笑顔のまま席を立ち、じわじわとレオノーラとの距離を詰め始めた。「あ、じゃあもうすぐに行かないとだよね?結婚が成立したんなら大事な初夜だ!」 「うん。ボクなんかもう、すぐにイキたいくらいだよ」 「式はどうするの?きちんと挙げる感じ?」 「まだゴタゴタしてるし、もう少し情勢が落ち着いたらって考えてる」 「そっかぁ。私も参加出来たら嬉しいなぁ」 「勿論。レラは『一番の特等席』だよ」 「本当?楽しみだなぁ。——あ、ごめんね引き止めるみたいに話続けちゃ——」まで言ったレオノーラの体を持ち上げ、カラミタがテーブルの上に押し倒す。顔の両サイドにドンッと手を置き、見下ろされる様な体勢にまで一気に持っていかれた。「……えっと?」 きょとん顔になっているレオノーラとは違い、カラミタは酷く高揚している。口元は弧を描き、いかにも『魔族』といった様相だ。頬と耳が赤く染まっていなければ殺人行為寸前と受け止める者がいてもおかしくない表情をしている。「早く行かないと、なんだよ、ね?」 絶対の信頼を寄せているからなのかレオノーラに怯えた様子はないが、この状況を理解出来てはいないようだ。「『早くイかないと』だなんて。あぁもう、そんなに急かさないでよ。最初はベッドでってちゃんと考えていたのに、もうここで始めたくなっちゃったじゃないか」 興奮まじりに言われても、まだ一ミリの危機感すら抱けずにいるレオノーラの頬にカラミタが触れる。テーブルの上にあったティーカップや羽ペンといった雑多な物をゴーレムがササッと片付け始めた。「あ、あの……カラ?一体どうし——」とまで口にした言葉の続きはカラミタの口の中に溶けて消えていった。お互いの柔らかな唇が重なり、中途半端に開いていた唇の隙間を彼の舌が割って入っていく。厚みのある彼女の舌にカラミタのやや細めで長い舌が絡み、熱を分け与えでもするみたいに優しく撫でる。そして彼女の細い両脚の間にぐっと体を割り込ませると、レオノーラの着ている服のボタンを上から一つづつ外し
last updateLast Updated : 2026-01-26
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【第2章・第5話】《回想》冒険者ギルド①

 レオノーラを膝の上に乗せ、ご満悦の顔になったカラミタの話は三年前の出来事にまで遡った所から始まった。        ◇ ——カラミタが成人を迎え、レオノーラの元から旅立った日の同日夕刻頃。 シルト王国の国史に残る一大事が王都北東部にある冒険者ギルドの総本部で起こった。 『魔族』の襲来である。 各国の主要都市の地中深くには、世界樹の根の中でも際立ってかなり太い根が張っている。そのおかげで長い歴史をどんなに遡っても『魔族』からの襲撃は一度も無く、外界から近づいて来る危険な魔物の出没確率もかなり低く済んでいる。それに加え、世界樹そのものからも比較的近い、もしくは細いながらも根が地中深くに張っている場所は安全地帯だとされ、首都以外の都市や各貴族の領地などがその上に点在している。根の上部では『魔力溜まり』も現れやすいため、魔力資源確保の観点から見ても昔から都市が出来やすいのだ。 王都などのように重要な都市であればある程、その分当然守りはどこよりも堅いが、あくまでも他国との戦争や魔物を対象とした物であり、『天災』にも等しい『魔族』の襲来までは想定していない。頑丈な壁、屈強な騎士や兵士達、冒険者などにも守られている都市とはいえ、人口が多い分統制が取れず、その被害も他の領地とは比べ物にならないだろう。街を守るための壁のせいで逃げ場がなく、一方的に蹂躙されてしまう可能性もあり得る。 だからこそ、この襲来により冒険者ギルドの総本部に走った激震は言葉では例えようがない程のものだったに違いない。「——今すぐ攻撃を中止しろ!止めろと言っていんだ!聞こえないのか⁉︎」 冒険者ギルド・総本部一階。 訓練場がある最奥から正面入り口方向へ移動しながらテオドールが怒号のような声をあげた。十五歳で家を出た時よりも随分良い体躯になった体で全力疾走しようとしているが、慌てふためく者達や建物の内部なせいで速度が制限されて苛立ちを覚えている。思うように先へ進めず、黒く短い髪をグシャリと掻きむしり、眼鏡の奥にある茶色い瞳が不安で揺れた。「とは言っても、相手は『魔族』ですよ⁉︎」 悲鳴のような声が周囲から返ってきた。運悪く今日が警備当番だった冒険者の一人だ。「よく見ろ!向こうに殺意は無い!こちらからの攻撃を、今すぐに、止めろと言ってるんだ!」 どうにか問題の地点にまで辿り着いたはいい
last updateLast Updated : 2026-01-29
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