LOGINレオノーラは五人の子を持つ女性だが、その子らと血縁はなく、種族も竜人やエルフなど多種多様だ。『子供達には経験を積んで欲しい』との信念の元、成人までは面倒を見て順々に独立させた。とうとう末っ子カラミタもが独立。その後三年、義兄達よりも先に帰省した彼は、突然「結婚して」と彼女に迫る。さらに「邪魔な実父(前・魔王)と兄姉を討伐し、新たな魔王に就任した」と告げられ彼女は戸惑う。彼は本気で、自身が赤子から育てた子からの執愛にレオノーラは翻弄されてしまう。 【全50話】
View More私には五人の子供がいる。
全員血の繋がりはなく、親を失った挙句路頭で生活していた子だったり、元の場所からは逃げて来たばかりだったりと、様々な事情により自活せざるおえなくなった子供達だ。
世界樹・『ユグドラシル』と同じ名を持つ大陸の中央に位置する世界樹近傍の元。数多の精霊や聖獣達とのんびり暮らしてきた独り身の私では、色々な種族の子達の子育てなんて到底務まるとは正直思えなかったのだが、皆とても賢い子達だったおかげでお互いに助け合って日々を過ごした。
そうするうち、一人、また一人と、十五歳という成人年齢になったのを機に子供達は独立していった。いつまでも森の最深部に引き篭もっていては駄目だと思ったから『成人までは面倒を見るけど、それ以降は色々な経験をして』と私が引いた一線だった。一番長く森の奥に引き篭もっているのは他ならぬ私自身なので『どの口が言う』って感じだが、それでも。
三年程前にはとうとう最後の一人も独立し、今もまだ独りきりで暮らしている。もう他の子供は拾っていないし、この先は拾う気もない。私が動かずとも孤児の引受先が今なら多くあるのだから。
『情だけで五人も育て切ったんだ、誇らしくはあれども寂しくない』と言ったら嘘になる。だけど流石に『世界平和』なんて偉業を提げて、末っ子が魔族達の最高権力者である『魔王』になったうえ、『ヤンデレ』としか言いようがない程の執愛属性持ちになって帰省するだなんて未来はちっとも想像していなかった——
この二年間で、冒険者ですらないカラミタまでもがすっかり通い慣れてしまったギルドマスターの部屋の扉をアイシャがノックすると、すぐに「——どうぞ」と声が返ってきた。 扉を開け、アイシャ、カラミタ、リトスの三人が室内に入る。すると、彼の定位置でもある執務用の席に腰掛けているライゼの他にも、手前側にある応接スペースに一人の男性がいた。冒険者ギルドが総本部を構えている此処・シルト王国の王太子であるアリスター・クラウ・シルト殿下だ。魔王討伐に向けての国際会議などといった席で既に兄弟達と面識があり、彼自身Aランクの冒険者でもあるため、討伐に向けてシルト王国の代表として橋渡し役を担ってくれている。「——三人は、テオドールの件で来たんだね?」 簡単な挨拶もそこそこに全員が席に座り、アリスターはすぐ本題に入った。「共に育った兄弟だもんなぁ、安否が気になるのはわかるが、そう心配すんな。今は王宮の一室で待機中だ」 「牢にはぶっ込まれていないんだな」 『待機中だ』と言うライゼの言葉を聞き、リトスが安堵した。軽いノリでアイシャ達に知らせてはいたが、あれはどうやら弟達を不安にさせないためにとの考えからとった態度だったようだ。「経緯を聞かせてもらってもいい?あのテオが、意味も無く貴族を斬り殺すとは思えないんだよね」 アイシャの問いかけに対し、「それなら儂からよりも、アリスター王太子殿下からの方が良さそうだねぇ」と言ってライゼはアリスターに視線をやった。「あぁ、そうだね。私も丁度その話をしにギルドに来ていたんだ。ライゼは二度目になるけど、このまま此処でまた同じ話をしてもいいかな?」 「他の部屋じゃ、残念ながら誰が聞き耳を立てているかも知れんしな。此処でがベストだろうさ」 「重要な話なら防音魔法の二重掛けでもしておく?」とアイシャが訊いたが、「あ、いや。現状レベルの防音で充分だ」とアリスターは断った。「まず先に結論から言っておくと、テオドールは今回の件で罪には問われないよ。アイデル・ロゼ・モルジャーヌ公爵の斬首は王命だった扱いにするからね。これはもう父と——国王陛下と早急に協議した『結論』だ」 カラミタを筆頭に、三人がほっと息を吐いた。だが今度はそこに至った経緯が気になる。そうであると既に察しているアリスターは三人にテオドールの一件について語り始めた。 ◇
冒険者ギルドのギルドマスターであるライゼだけじゃなく、セリン達も予想はしていた事だが、残念な事に『魔王討伐』までは、なかなかそう上手く話は進まなかった。『魔族』への恐怖はかなり根深く、各国の王族や皇族なども冒険者ギルドの伝手を駆使して巻き込みはしたが、世界的な連携を取るに至るまでだけでも二年近くかかってしまった。 他にも、『恩賞として、外界の土地や資源の採掘権を与える』とは誰も宣言していないのにもかかわらず、勝手に『利権の配分』ばかりを今から心配している者や、少しでも多くの利益を得ようと『魔王』となる予定のカラミタに対して媚を売る者なども多く現れ始め、毎日その姿を裸眼で見ようともレオノーラ不足に陥っているカラミタのストレスが日に日に溜まっていっている。「レラ成分が足りない!」「いや、今だってずっと見てんじゃん。満足しておきなよ」 冒険者ギルド総本部内に用意された自室で、机を叩きながら叫ぶカラミタにすかさずアイシャがツッコミを入れた。育ての親であるレオノーラに七年間会えていない身だからか、激しく同意しつつも、少しだけ不機嫌顔だ。自分が置いていった羊皮紙の魔導具のおかげで他の兄達が独立した時よりかはかなり頻繁にやり取りを出来てはいるが、育ての親を恋しく思う気持ちは二十二歳になった今でも隠しきれないみたいだ。それだけ十五歳になるまでの生活が幸せだった証拠だろうと当人は思っている。「目の前に居るのにこの手で触れないんだぞ?逆に拷問だと思わないか?」 「……自分でやっておいて、何言ってんだよ」 十七歳になり、随分と素晴らしい体躯に育ったカラミタの頭を容赦なく叩く。「痛いよ、兄さん!」と『弟』らしく口を尖らせながら、カラミタは斜め後ろに立つアイシャの方に振り返った。 『エルフ族』であり、その為成長の遅いアイシャの方は今も変わらず160センチ程度と男性としては小柄なままだが、『魔族』であるカラミタはこの二年間で随分と成長した。再会した当初はアイシャよりは少し大きい程度だったのに、今ではもう195センチにまで背が伸び、テオドールやリトスよりも大きくなった。流石に250センチもあり、『竜人族』のセリンと並ぶと『弟』感が残ってはいるが、もう彼を『末弟である』とは誰も思わないだろう。 肩まである紺色の髪をハーフアップにしてまとめ、左目側の空洞を隠す為にしている眼
「まぁ、わかった。先ほどまでの話から察するに、『魔王』の『性質の支配』の影響下に無いおかげで、カラミタは『特別な個体』って事だな?」 「そう思ってくれて構わない」とライゼの問い掛けにカラミタは答えた。 「そうか……。——なあ、セリン達よぉ」 セリンを筆頭とした兄弟達の視線がライゼに集まった。窓を背にして執務用の席に座るライゼに背後から太陽の光が強く差し込み、彼の表情を分かりにくくさせている。「現・魔王は随分と『好戦的』らしいが、カラミタの『性質』は、我々にとっても、次世代の『魔王』になるに相応しいもんなのかい?」「正直な話、少なくとも『王の器』ではないですね。ですが、統治力を求められる立場でもない様ですから問題はなさそうですけど」 「『相応しいか』と訊かれると『微妙』としか。ただ理由も無く拳を振り上げる様なタイプではないな」 「コイツの重度のマザコンっぷりが、他の魔族達にどう反映されるかが不安だってくらいだな、俺としては」 セリン、テオドール、リトスが順にそう言うと、ライゼはリトスにだけ「お前が言うなや」とつっこみを入れた。どうやらライゼの中では、リトスのマザコンっぷりも十分重度のものの様だ。「ちょっと待て、オレはマザコンじゃない。レラを一度も『母親』だとは思った事がないんだからな」「うん、知ってるよぉ。でも一応はまだ『母親』だから、ね」と言い、アイシャが不機嫌そうにしているカラミタの肩を軽く叩く。 「悪かったって。お前を『弟』だと思ってるから出た発言なんだから、このくらいは許せって」 リトスの謝罪を聞き、ライゼが首を傾げた。『レラ』という女性が『母親』である事は間違いなさそうだが、『そうは思っていない』となると、じゃあ『どう思っているのか』が気になる所だ。「でもまぁ、母さんの次に一番長くカラと暮らしていたウチとしては、『カラミタ』は次の『魔王』になる素質を充分備えていると思うよ」 魔族の生態に関してのメモを取り続けていたアイシャが手を止め、ニッと笑う。「ぶっちゃけ、現・魔王を殺すつもりでいるんなら、こんな場所に立ち寄ってないでそのまま真っ直ぐ魔王の所に行けばいいのに、わざわざウチらに話をしに来たのってさ——」「魔族同士の『内戦』や『内輪揉め』で終わらせるんじゃなく、『魔族との和平』のきっかけにするつもりだからでしょ」 一度話を切
ギルドマスターの部屋の応接スペースに置かれたソファーに五人が腰掛ける。体が大きく、筋肉や種族特性の関係で分厚いセリンとリトスの二人が並んで座り、残りの三人はその対面にあるソファーに座った。「——んで、だ。カラミタ、お前さんの事をちょっと教えてもらってもいいかい?出来ればギルド本部への訪問の理由よりも先に、『特別な個体』である理由の方を聞かせてもらえんかねぇ。警戒心をどうにも捨てきれない儂を安心させて欲しいんだ」 ライゼにそう言われ「あぁ」とカラミタが素直にうなずく。その様子からすると、その点に関しても元々話すつもりで来ていた様だ。「かなり長くなるとは思うんだが、まずは、『魔族』の特性から話してもいいか?」 そう問われ、アイシャの目が輝く。長年『魔族』である末弟・カラミタと暮らしてはきたが、その特性や性質に関して語り合う様な機会などなかった。好奇心旺盛な彼は興味津々といった様子で、早速大量の紙と羽ペンを、腰に身に付けている収納魔法が付与された小さな鞄の中から引っ張り出した。「まず、『魔族』も『樹界』に住む者達となんら——」まで言ったカラミタの言葉を最速でアイシャが「待ったぁ!『樹界』って何?」と大声で遮った。 「『樹界』は、此処の様に、世界樹の影響下にある土地に対しての呼称だ。多分、魔族のみでの言い方なんだろうな、他では聞かないから」 「そっかそっか。おっけー話を続けて」 「『樹界』に住む者達と、『外界』に住む『魔族』の生態に大きな差はない。両親から生まれ、寿命があり、老いて、いずれは死ぬ。そして全ての個体が『天災』レベルの脅威でもなく、そういった個体はせいぜい上位一割程度だ」 この話には流石に納得がいかなかったのか、驚く声が他からあがった。「いやいや、よく考えてもみろ。じゃないと、今頃樹界はとっくに壊滅していてもおかしくないだろう?でも実際にはそうじゃないのが何よりの証明だ」「……確かに、そうだな。いくら世界樹の影響下にある地域には……君は別の様だが、何らかの理由で通常は来られないとしても、魔族全員で遠距離から大量の魔法をぶっ放すって手もあるんだしな」とライゼが口にし、うなずいた。 「能力的に上位に当たる魔族達は、他種族からは『天災』扱いされてはいるが、奴らには最大の欠点がある」 「欠点、ですか?」とセリンがこぼし、家族達を魔族に殺され