草薙智也(くさなぎ・ともや)は、妹の草薙モモ(くさなぎ・もも)、そして幼馴染の五十嵐蓮(いがらし・れん)と──よく分からないまま異世界へ飛ばされることになる。◇◇◇事の発端は、蓮が路上で妙なノートを拾ってきたことだった。放課後、蓮は当然のように智也の部屋へ入り、モモも当然の顔でくっついてくる。蓮のファンである中学生のモモは、すばやく彼の隣へ陣取り、ひたすら「蓮ちゃん」と距離を詰めている。智也は鬱陶しげに眉を寄せるが、この賑やかさが嫌いなわけでもない。幼馴染と妹がそばにいる──それだけで、空気はどこか明るい。その明るさを、わざと冷やすように智也が皮肉を投げた。「金持ちの五十嵐家の御曹司が、路上で知らないものを拾っちゃいけませんって教わらなかったのか?」蓮はたいして気にした風もなく肩をすくめる。「いや、我が家の家訓は、何でも拾え。何でも奪え。欲しい物は強引にでも手に入れろだ」――なんだその教育。智也の口が尖る。「……なるほど、そうやってお前の家は金持ちになったんだな」横でモモが手を叩いてはしゃぐ。「蓮ちゃんのお嫁さんになるモモは、お金持ちの夫人になるのね。智也お兄ちゃんが路頭に迷ったら、私専用の運転手に雇ってあげてもいいわよ、ねー、蓮ちゃん!」蓮は腕を組み、くすっと笑った。「ペットの世話係で十分だろ、智也には」智也はむっとする。だが、蓮がからかい半分で言っているのが分かる。この軽口の応酬は、高校入学前から続いているいつものことだ。「モモも蓮も、僕の部屋から出て行ってくれ」つい言い出したものの、智也に本気で追い出す気はなかった。口先だけの抵抗だ。蓮は智也の抗議を軽く流し、ノートを取り出してページを捲る。そこには、汚い字で謎めいた文が記されていた。『新たな世界に旅立つ勇気のあるものは、このノートに思い通りの物語を紡ぐがよい』智也は思わず鼻で笑う。「はぁ……これ絶対小学生の悪戯だろ。字は汚いし。デスノートの真似事か?」「まあそう言うな。小学生の悪戯かどうかは書き込んでみれば分かる」蓮は楽しげだ。こういう冗談にいちいち乗ってくる性格なのは昔からだ。モモが身を乗り出す。「うん、うん。蓮ちゃん、何か書き込んで」彼女は智也の机から勝手にボールペンを拝借し、蓮へ差し出す。智也は止めようとしたが、この勢いはいつものことで、つい見守
Last Updated : 2025-11-16 Read more