栗原翠(くりはら みどり)が5年間待ち望んだ結婚式は、藤原蓮(ふじわら れん)の義理の妹・藤原光希(ふじわら みつき)の欠席によって、またしても延期となった。翠はこれまでの99回と同じように、段取り通りに招待客を全員見送った。彼女はふと、なんだかもう疲れてしまった。蓮は申し訳なさそうに翠に言った。「翠、光希はポップアップストアに行ってるみたいなんだ。たぶん忘れてたんだろう。結婚式はまた今度にしよう」翠は黙って頷いた。これまで99回、光希はいつも奇妙な理由で欠席してきたからだ。そして、藤原家には、結婚式には家族全員が出席しなければならないという伝統があった。仕方なく、翠は立ち上がった。「母を見送ってくるよ」式場の入口で、母親の栗原絵美(くりはら えみ)は目を赤くし、娘の手を何度も強く握りしめた。「翠、この結婚……」「もう、やめる」翠は穏やかに絵美の言葉を続けた。その口元には、どこか吹っ切れたような笑みさえ浮かんでいた。「お母さん、お父さんと先に帰って。蓮との共有口座解約して、荷物をまとめたら、私もすぐに家に帰るから」絵美はきょとんとした。まさか娘がこんなにあっさりと諦めるとは思っていなかったようだ。母の気持ちを察して翠は絵美の手の甲を軽く叩き、静かな口調で言った。「私も、もういい加減、目が覚めたの」絵美は何か言おうと口を開いたが、結局、深いため息を一つついて車に乗り込んだ。翠は両親の車を見送ると、会場へと引き返した。蓮はスマホに目を落とし、眉間にしわを寄せていた。翠が戻ってくると、彼は慌ててスマホをしまい、少しおざなりな口調で言った。「翠、光希が買い物をしすぎたみたいでね。迎えに行かないと」翠は静かに彼を見つめ、ふと口を開いた。「蓮、100回目の結婚式がダメだったら、私たちはもう終わりにしょうって約束したよね」彼女は少し間を置いて続けた。「その約束、守ってくれる?」蓮は一瞬きょとんとしたが、すぐに呆れて笑った。「記憶違いだよ。100回目なんて経ってないだろ?」彼は翠の髪をくしゃっと撫で、軽い口調で言った。「次は光希にちゃんと時間通りに来るように言っておくから。安心して」そう言うと、蓮は振り返りもせず足早に去っていった。その急ぐ後ろ姿には、その場に立ち尽くす翠を気遣う様子すらなかった。彼女はその場に立ち
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