寺務所の窓の外は、いつ雨が落ちてきてもおかしくないほど、白く曇っていた。冬の手前の、色を失いかけた空。薄い光だけを落としながら、どこか重さを孕んでいる。外から入ってくる光はやわらかいのに、そのやわらかさがかえって、室内の細かなものをくっきりと浮かび上がらせていた。小さな寺務所の机の上には、紙の束がいくつも積み上げられている。参列者リスト、供花の一覧、香典の振り込み明細、当日のタイムテーブル。どの紙も同じような白さをしていて、細かい文字だけが黒く並んでいる。その机を挟んで、椅子が二つ。本来なら、この寺務所には折り畳み椅子が三脚置いてある。だが今日は、父が別の檀家の納骨の対応に向かう前に、「後は任せた」と言って、自分の椅子を廊下側にずらして出て行った。残されたのは、机の片側に僧衣の男、もう片側にスーツの男だけ。「…では、このリストが現時点での参列予定者の確定分です」隆寛は、手元の紙を整え、机の中央に置いた。紙が木の天板の上で、さらりと音を立てて滑る。その音が、妙に大きく感じられた。部屋の中には、今、自分たちの気配しかないのだということを、あらためて意識させる。「ありがとうございます」浩人が、短く礼を言った。彼も椅子に座っている。椅子を引きすぎると、机から遠くなりすぎてしまう。自然と、二人の膝の位置は机の下で近づいていた。机の脚と脚の間は、それほど広くない。膝を少しでも前に出せば、互いの足がぶつかるだろう。だから二人とも、膝を揃えて、微妙な角度で引き気味に座っている。それでもなお、膝と膝のあいだの距離は、拳一つ分もあるかどうかというところだった。「…当日、香典は会社としてのものをまとめてお持ちする形でよろしいでしょうか」浩人が、紙を目で追いながら言う。「はい。その方が、受付としても取り扱いがしやすくなります」隆寛も、紙の文字に目を落とした。「個人でお持ちになる方がいらっしゃる場合は、別途、香典袋にご芳名をお書きいただくようお伝えいただければと」
Última actualización : 2026-01-07 Leer más