カーテンの隙間が、夜と朝の境目みたいに薄く明るんでいた。まだ太陽が顔を出しきる前の、世界全体が息を潜めているような時間帯だった。浩人は、胸にかかる重みがふっと消えた感覚で目を覚ました。さっきまで確かにそこにあった体温が、腕の中から抜けている。眠りの底から無理やり引き上げられた頭はぼんやりしていて、現実と夢の境をしばらく区別できなかった。鼻先に残るのは、シャンプーと、汗と、昨夜の湿った息の匂い。それが、今は布団と枕だけに薄く染みついている。視界をはっきりさせようとまばたきを繰り返し、身体を横向きに転がす。ベッドの中には、自分ひとりしかいなかった。代わりに、部屋の向こう側から同じ空気を吸う気配がする。隆寛が、窓際でシャツのボタンを留めていた。部屋の灯りは落ちていて、カーテン越しの早朝の光が、彼の輪郭を淡く縁取っている。白いシャツに腕を通し、下から順にボタンをかけていく指先は落ち着いて見えた。焦りも迷いも、表面からはうかがえない。その整った動きが、かえって不自然に感じられた。「……もう起きたのか」掠れた声が、枕に擦れた。自分でも聞き慣れないほど眠気の名残りを含んだ声だった。隆寛は振り返る。驚いているというより、声をかけられることを知っていたかのような、用意された反応だった。早朝の光の中で、その顔には影が少なかった。ただ、とてもきれいに整っていた。「起きちゃってた」柔らかく笑う。その笑い方は、どこか見覚えのあるものだった。教授に話しかけられたときや、知らない親戚に会ったときのような、表情だけで完成された笑み。どこにも、眠気も、後ろめたさも、寂しさも表には出ていない。浩人は片腕で上半身を起こし、背中を壁に預けた。布団がずるりと腰まで落ちる。肌に当たる空気はひんやりしていて、さっきまでそこにあった別の体温を思い出させた。「ずいぶん早えな」「今日は、ちょっと…朝一で行かなきゃいけないとこがあって」本当かどうか、判断のつかない説明だった。嘘と断じるほどの違和感はない。ただ、必要以上に
Last Updated : 2025-12-28 Read more