冬の午後の光は、すでに色を失いかけていた。本堂の高い窓から差し込む陽は、白く薄く、畳の上に落ちる影を淡くにじませるだけだった。さっきまでぎっしりと埋め尽くされていたはずの座布団は、今はまばらにずれているだけで、人の気配は跡形もない。線香の匂いだけが、まだ濃く残っていた。甘く、少しだけ湿った香りが、肺の奥までゆっくり入り込んでいく。蝋燭の灯りはすべて落とされているにもかかわらず、焦げた芯と溶けた蝋の匂いが、どこかに小さな熱の名残を感じさせた。本堂の中央に置かれた祭壇には、遺影がまだ掲げられている。四十九日法要が終わり、読経も焼香もすべて済んだあと。檀家たちは皆、寒い外気の方へと戻っていった。静寂だけが、取り残された。隆寛は、祭壇から少し離れた位置で、僧衣の袖をきちんとたくし上げていた。手には掃き箒。畳の目に沿って、ゆっくりと前後させる。乾いた音が、規則的に本堂に響いた。「…」声にはならない息だけが、喉の奥で静かに出入りする。呼吸を乱さないように意識すると、そのこと自体がかえって胸に重さを作る。だが、それを無視する術はもう身体が覚えていた。修行の場で教え込まれた呼吸のリズムは、今も習慣として骨の内側に染み込んでいる。四十九日。区切りの法要。亡くなった者が、ようやく向こう側へと落ち着いていくための節目。その意味を知っているからこそ、読経には一つも乱れがあってはならなかった。実際、声は最後まで途切れていない。導師である父の声に、自分の声を重ね続け、音の川を濁らせることはしなかった。表面上は、何一つ問題はない。僧侶として、やるべきことをやっただけ。それでも、肩には疲労が静かに降り積もっていた。箒を動かすたびに、肩甲骨の奥で筋肉が重く軋む。読経のときに長く同じ姿勢を保っていたせいだけではない。張り詰めた意識を数時間保ち続けたあとの反動が、身体を内側からきしませている。「……」自覚したくなくて、隆寛はわずかに首を回した。僧衣の襟が、かすかに擦れる音を立てる。首筋に走る違和感が、すぐに見つかった。
Last Updated : 2025-11-28 Read more