Mag-log in慶林寺の副住職・隆寛(りゅうかん)は、剃り上げた頭と黒い僧衣の下に、ひとつだけ過去を残している。 左耳の、小さな穴。 大学時代、その耳に初めてピアスを通し、息を止めさせたのは、今や商社マンとなった浩人だった。 出家前夜まで激しく求め合いながら、「お前の未来の邪魔にはなれない」と笑って去った隆寛。 数年後、上司の葬儀で再会した二人は、僧侶と故人の部下という仮面を被ったまま、視線だけを交わす。 寺を継ぐ責務、空白の時間、修行で燃やそうとした恋情。 敬語と礼儀で固めた距離の内側で、まだ耳はあの頃と同じように震える。 いずれ、祈りと欲のどちらかを捨てなければならないのだろうか… 答えは、まだ雨音の向こうに隠れている。
view more"Ah ...."
Desahan rendah dan berat memenuhi seisi ruangan. Gemuruh di dalam dada Andini pun seolah menyambutnya. Hari ini, Andini, genap 2 bulan bekerja di perusahaan RA Company. Dengan bantuan dari sahabatnya—Siska, ia berhasil menjadi pegawai magang di divisi sekretariat direksi. Semua itu adalah demi mengejar lelaki yang kini tengah menikmati sentuhannya. Berusaha tetap tenang, Andini bertanya, “Gimana? Enak kan, Om?” "Ah … ya." Lelaki yang dipanggil dengan sebutan ‘Om’ mendesah pelan sambil mengernyit. "Tapi Andini, kita sedang di kantor. Kamu jangan panggil saya Om!" Gadis bermata kecoklatan itu terkekeh jahil. "Oh iya! Andini lupa, Om!" "Andini!” tegur pria yang dipanggil Om itu. "Kamu lagi-lagi panggil saya Om!" "Oh iya!" Andini terkikik. Gadis berusia 22 tahun itu memang sengaja. Ia hanya ingin menggoda atasannya, yang notabene adalah Satria Hasan. Presiden Direktur RA Company. Pria yang telah mengisi hari-harinya sejak kecil dan telah membuat Andini jatuh cinta sejak SMA. Dia juga adalah ayah dari Siska. “Kamu pintar juga, An,” puji Satria sambil memejamkan mata. “Belajar dari mana?” “Siska kan sering pingsan kalau upacara, Om—eh, Pak. Saya suka pijetin dia.” Bibir Satria membentuk huruf O tanpa suara. Andini yang memang sudah berhasrat terhadapnya pun merasa tergoda untuk menyentuh bibir itu. Namun, ia tidak punya keberanian sampai ke sana. Demi menurunkan ketegangan yang ia buat sendiri, Andini berpikir kalau ia harus segera membuat jarak dengan Satria. "Sudah apa belum Pak?" tanya Andini yang masih menekan ibu jarinya di leher Satria. Sebenarnya tadi malam, Siska cerita kalau ayahnya sedang kurang enak badan. Sekejap, Andini langsung belajar teknik pijat kilat dan mempraktekkannya pada Satria pagi ini. "Saya rasa sudah!” Satria melepaskan diri dari pijatan Andini. “Thanks, An!” Kemudian Satria menambahkan, “Tapi, sepertinya saya tetap harus minum obat. Tolong ambilkan di laci meja sana, Andini!” "Oke, Pak." Dengan sigap Andini menuju laci yang ditunjuk Satria barusan. Andini memperhatikan obat itu sambil berkata dalam hati, ‘Kalau mau menikah dengan Om Satria, aku harus tau obat-obatan aaaayang dia perlukan. Ini untuk darah rendah. Ternyata penyakitnya sama seperti Siska.’ “Ada nggak, An?” tanya Satria yang melihat Andini dari kejauhan tak kunjung kembali. “Apa saya lupa beli lagi?” Sadar dari lamunannya, Andini segera menutup laci dan berbalik untuk menyerahkan obat yang ia temukan. “Ada, Pak!” "Harusnya Pak Satria banyak istirahat! Kalau ada apa-apa sama Bapak, gimana nasib perusahaan ini?" ucap Andini sambil menyerahkan obat tersebut. Kaget dengan ucapannya sendiri, Andini langsung menutup mulut lancangnya dengan kedua tangan, "Astaga! Maaf, Pak. Saya nggak bermaksud sok pintar. Maksud saya, Bapak jangan terlalu keras bekerja!" "Nggak apa-apa, An. Kamu benar.” Satria tersenyum tipis. “Terima kasih sudah ngingetin saya." Satria baru saja akan meminum obatnya, tetapi air di gelas yang ada di tangannya sudah dingin. Dia kembali melihat ke arah Andini. ”Tolong ganti dengan air hangat, An! Yang ini sudah dingin.” “Siap Pak!” Dengan cekatan, Andini segera berlari menuju pantry kecil yang ada di sudut ruangan untuk mengambilkan air hangat. Dari tempatnya, Andini melirik Satria. ‘Astaga! Andai dia jadi suamiku, mungkin tidak berakhir hanya pijat kepala!’ Andini nyengir. Merasa mulai membayangkan yang tidak-tidak, Andini langsung menggelengkan kepala. Menghapus semua bayangan menggoda itu. ‘Aku semakin gila karenanya!’ Andini terkekeh kecil. Sementara itu, Satria jadi menimbang teguran Andini tadi. Sang presdir bahkan tidak ingat, kapan terakhir kali ia mendapat waktu istirahat yang berkualitas. Sejak perceraiannya, Satria memilih untuk menenggelamkan diri dalam pekerjaan. Ia bahkan berhasil membuka cabang di luar negeri dan sukses setelah 3 tahun fokus di sana. ‘Ah … Benar kata Andini. Kurasa, aku harus liburan. Siska juga pasti merasa kesepian selama ini,’ batin Satria berniat memperbaiki keseimbangan hidupnya. Tanpa sadar, netra Satria berkelana menatap Andini. Ia tidak menyangka gadis kecil yang dulu sering sekali datang ke rumahnya untuk bermain dengan Siska, kini sudah menjadi perempuan dewasa dan mulai bekerja. Dulu, Andini kecil sering sekali minta dipangku dan dibacakan buku cerita olehnya. ‘5 tahun nggak ketemu, Andini jadi berbeda,’ batin Satria. ‘Well, setidaknya dia tumbuh dewasa dengan baik.’ Satria tersenyum lega. Namun, tiba-tiba kepalanya kembali terasa sakit. Ia pun tak sengaja mengerang pelan. “Ah ….” Mendengar erang kesakitan dari Satria, Andini kaget. Diapun tidak sengaja menumpahkan air dan segera berlari kembali untuk menyerahkan gelas berisi air hangat. "Maaf, Pak! Saya kelamaan! Ini airnya!" Wajahnya pucat, takut kalau sakit Satria semakin parah. Stok air panas kosong. Jadi Andini harus menunggu air matang dulu di dalam teko pemanas. Makanya ia jadi terlalu lama menyerahkan air hangat untuk Satria. ‘Aku harus memperhatikan stok air panas untuk selanjutnya!’ batin Andini, mengoreksi diri. Karena Satria tengah memejamkan mata menahan sakit, ia menjulurkan tangan kanannya tanpa melihat. Maksud hati mengambil gelas yang diberikan Andini, tangan Satria ternyata berakhir tidak tepat pada sasarannya. ‘Apa ini? Kenapa terasa empuk ... dan … kenyal?’部屋の中の時間が、ふっと緩んだ。さっきまで耳の裏側に落ちていたキスの感触は、もうほとんど熱だけになっている。それでも、左耳たぶの一点に、じわ、と凝ったようなぬくもりが残っていて、そこから、胸の奥へ向かって、遅れて波紋が広がっていく。布団の中で、隆寛は小さく息を吸った。胸の前で、浩人の腕が緩やかに回っている。肩と背中をまとめて抱き込むようにして、軽く身体を寄せてくる。その重みが、日ごろは僧衣の下に隠している筋肉の緊張を、少しずつほどいていった。耳の穴の縁を押さえていた自分の指は、知らないうちに力を抜いていた。かわりに、浩人の腕のほうへ、そのまま滑らせる。手の甲に触れると、風呂上がりの石鹸の匂いが、まだ微かに残っていた。「寝るか」浩人が、胸のほうで呟く。「……ああ」返事をしながら、わずかに顎を引く。彼の胸に額を押し当てると、体温と、心臓の音が近くなった。トン、トン、と一定のリズムで刻まれる音。寺の鐘と違って、誰かに聞かせるためのものではない。誰にも聞かせる必要のない、ただ生きているというだけの音だ。それを耳の奥で聞きながら、隆寛は目を閉じる。部屋の空気はほのかに暖かい。暖房を切ったあとに残る熱と、二人分の体温が混ざりあって、布団の中をゆっくりと満たしている。薄いカーテンごしに、外のビルの灯りが、ほんのわずかに網目の影を作っているのが分かった。マンションの外には、別の生活の灯りが点々と浮かんでいるのだろう。遅くまで起きている家のリビング。コンビニの看板。タクシーのヘッドライト。街全体の、そのどれもが、自分とは関わりの薄い明かりだ。けれど、この部屋の小さな暗闇と、スタンドライトの余韻と、耳の一点に残る熱だけは、はっきりと自分に繋がっている。「炎は燃やせ、と教えられてきたのにな」ぼんやりと、そんなことを思う。護摩行の堂で初めて火を見た夜を、身体はまだ覚えている。炎は、迷いも欲も執着も、全部飲み込むためのものだと、上座に座った老師が静かに言った。燃やしてしまえ。手放してしまえ。
暗闇に慣れた目には、天井の境目がぼんやりと浮かんでいた。スタンドライトはさきほど消した。代わりに、カーテンの隙間から、向かいのマンションの非常灯がかすかに差し込んでいる。その薄い光が、部屋の中の輪郭を、最低限だけ保っている。布団の中は、まだ温度の名残を抱えていた。さっきまで絡み合っていた体温が、少し落ち着いて、ぬるい湯に浸かっているような感覚だけが残る。隆寛は横向きになり、枕に頬を半分埋めていた。背中側には、浩人の胸の厚みと呼吸がある。ゆっくりと上下する胸板が、僧衣の下では絶対に感じない、生活のリズムを伝えてくる。耳たぶのあたりに、さきほどから同じ温度が留まり続けている。浩人の指が、左耳の縁をなぞり、ピアスホールの周りを細い円を描くように動くたび、つい肩が小さく跳ねた。「……っ」無意識のうめきが、喉の奥から漏れる。抑えようとしても、完全には抑えきれない。息を飲み込むたび、喉の奥が熱くなる。耳を触られているだけなのに、躯の奥のほうで、別の記憶が微かに目を覚ましてしまう。大学の頃の夜。護摩行堂の炎の前。山門の庇の下。色の違う夜が、全部この一点に重なっている。「まだ起きてるだろ」後ろから、低い声が落ちてきた。「……起きてる」「返事がえらい素直だな」「疲れてるんだよ」「耳だけ、元気そうだけどな」「うるさい」言葉ほどの力は、自分の声には乗っていない。自覚はある。だからこそ、余計に腹が立つ。指が、ピアスホールの縁を軽く押した。透明な樹脂ごしに、そこだけ少し固い感触がある。剃髪した頭皮を撫でられるのには慣れた。僧侶になってからずっと、親類や檀家の子どもたちに、面白がって触られることもあった。それはそれで恥ずかしいが、耐えられないものではない。けれど、左耳だけは違う。ここに触れていい手を、自分は一人分しか想定していない。「お前さ」浩人の指先が、いったん動きを止める。「こっち向
電子レンジの「チン」という軽い音が、ニュースキャスターの声にかぶった。リビングのテーブルの上には、買ってきた総菜を温め直した皿と、簡単に炒めた野菜、味噌汁代わりのスープ。食べ終わったあとに残るのは、箸を乗せたままの小皿と、半分ほど口をつけたグラスだけだった。テレビの画面では、週末恒例の経済ニュースが流れている。株価だとか為替だとか、難しい言葉が並んでいるのを、隆寛は横目で眺めながら、ソファの背にもたれて息を吐いた。「歩君、遠足どこ行くんだっけ」隣で缶ビールを持ち上げながら、浩人が何気なく問う。「市内の科学館と、自然公園。お弁当持って」「お、がっつりコースだな。バス酔いしないか」「乗り物には強いみたい。こないだの社会見学も平気だったって」「さすが寺の子。肝が据わってる」くす、と笑いがこぼれる。テーブルの上のグラスからは、ほのかにウイスキーの香りが立ちのぼっていた。氷はほとんど溶けて、薄くなった液体が喉の奥を温める。浩人は、ビール缶を指先でくるりと回しながら、テレビとグラスと隆寛の横顔を、順番に眺めているようだった。「で、その遠足の紙を、また寺務所の机の上に山積みにしてんだろ」「…よく知ってるな」「だってお前、プリント類すぐ溜めるじゃん。大学の頃から」「昔の話、掘り返すな」軽く肩でぶつかると、浩人の身体が、わざとらしくぐらりと傾いた。「いってー。暴力反対」「うるさい」二人の声の上を、キャスターの抑揚のない言葉が通り抜けていく。海外のニュース映像。どこかで暴動が起きているらしい。画面の中で、煙と人の影が揺れる。ここは、静かだ。エアコンの低い駆動音と、冷蔵庫の奥で何かが動く音と、ビル風が窓をなでる気配。マンションの上階からは、誰かの足音が遠くに響く。「会社は」隆寛が、グラスを指で回しながら尋ねる。「相変わらず。決算前でバタついてる」「部下の人たち、大変だな」
ランドセルの金具が鳴る、乾いた音がした。庫裏から廊下に出たところで、隆寛はふと足を止める。春から初夏へと移るこの時期、慶林寺の空気は少し湿りを帯びながらも軽く、その中を、小さなスニーカーの足音がせわしなく行き来していた。山門のほうへ向かっていく足音と、すぐに折り返してくる足音。それから、なぜか廊下の角で一度止まり、また走り出す気配。階段を数える小さな声も、風と一緒に聞こえてくる。「いち、に、さん……あれ、さっきと数違う…」声変わりにはまだ遠い、高い声だった。寺務所に戻る前に、と廊下の突き当たりから玄関のほうを覗くと、ランドセルを背負ったままの少年が、本堂の石段を上り下りしている。額にはうっすらと汗がにじみ、黒い髪がまだらに光を受けていた。段の数を数えるたびに、指が折られ、また伸ばされる。時々、何段目か分からなくなっては、ふう、と大げさなため息が落ちる。「歩」呼びかけると、その小さな背中がぴたりと止まった。振り返った顔が、ぱっと明るくなる。「隆寛兄ちゃん」ランドセルの肩ひもを直しながら、歩が駆け寄ってくる。靴底が石畳を叩く音が、以前よりもこの境内に馴染んで響いた。「おかえり。今日は、早いな」「うん。今日は委員会なくて。帰り道で桜のとこ寄ってきた」「川沿いのか」「そう。花びら、もうほとんど落ちてたけど…でも、なんか、全部散っちゃう前の匂いって感じした」言葉を探すように眉をひそめる姿が、どこか泰然に似ている。歩の肩から、ランドセルをそっと受け取る。ずしりとした重みが掌に移る。教科書とノートと、筆箱と、まだ何かこっそり詰め込んでいるような不揃いな重さ。「とりあえず、荷物置いてきなさい。宿題は」「九九のテスト返ってきた」「どうだった」「……八の段、まちがえた」語尾が少し小さくなる。ランドセルの中からしわくちゃになっ
靴箱の前にしゃがみ込み、紐を結びながら、自分の声が少し硬くなっているのを自覚していた。「四葉商事の野上さんと…少し飲みに行くことになりまして」土曜の夕方の玄関は、いつもより少しだけ冷たい空気を含んでいる。庫裏の台所からは味噌汁の匂いが流れてきて、廊下の先からは祖母の咳払いがかすかに聞こえた。玄関の土間に降り、スニーカーを履く。足袋ではない靴の感触が、まだ身体から浮いている。襖の向こうで衣擦れの音がして、泰然が姿を現した。普段着の上に袈裟を重ねてはいないが、背筋の伸びかたはいつもと変わらない。「野
剪定ばさみの刃が、枝を噛む音がした。ぱつん、と小気味よい音が、静かな境内に小さく響く。切り落とされた枝からは、青い匂いが立ち上っていた。まだ冷たい空気の中で、その匂いだけが春を先取りしている。土曜の午後。日が傾き始めた境内には、長い影が伸びている。千草は、腰を少し曲げて、低く伸びた枝に手を伸ばした。剪定ばさみを握る手には、家事でついた細かな傷がいくつもある。枝を一つ切り、足元に落とす。乾いた土に、小さな葉が散る。「…んしょ」軽く腰を伸ばし、背筋を伸ばす。本当なら、これも隆寛がやる
午後の光が、寺務所の障子越しに白くにじんでいた。机の上には、檀家の名簿と、月参りの日程を書き込んだノート。半分まで減ったボールペンのインクが、ところどころかすれた線を描いている。千草は、最後の一件を書き終えると、ペンをそっと置いた。「…一段落、ね」小さく呟く。書き物の合間に煎れていたお茶は、いつの間にかぬるくなっていた。湯飲みを手に取り、少しだけ口をつける。渋みが舌の奥に広がる。障子の外からは、風の音と、遠くで子どもが騒ぐ声が微かに聞こえていた。平日の午後の慶林寺は、法事のない限
目を開けたとき、最初に目に入ったのは、天井ではなかった。カーテンの隙間からこぼれる、薄い灰色の光。夜の濃さが抜けきらない朝の光は、白でも青でもなく、どこか曖昧な色をしていた。細く開いた隙間から差し込んだその線が、壁と天井の角に淡い帯を作っている。布団の中は、ほんのりと温かい。シーツはところどころ皺になり、肌に貼り付いている。昨夜の汗が完全に引ききっていないのだろう。わずかに湿った布地に、石鹸と、互いの身体の匂いが混ざっている。耳の奥に、かすかな音が届いた。シャワーの音だと気づくまで、少し時間がかかった。