私・冬月遥香 (ふゆつき はるか)、桐島湊斗 (きりしま みなと)と結婚して七年目。彼の「忘れられない人」が戻ってきた。彼女はSNSに、こんな投稿をアップした。【若気の至りで逃しちゃったけど、今は勇敢に愛を追いかけるつもり!】その夜、湊斗は火のついた煙草を指に挟んだまま、ベランダで一晩中、虚空を見つめていた。私のスマホもまた、一晩中通知音を鳴らし続けていた。彼の青春時代をすべて目撃してきた悪友たちは、彼と彼女のすれ違いを嘆き、そしてこの再会を祝っているようだ。そのグループLINEに、妻である私が混ざっていることなど、完全に頭から抜け落ちているらしい。湊斗は知らない。私が時折、彼に夢中でなりふり構わず追いかけ回したあの数年間を、ぼんやりと思い返していることを。そして長い月日を経て、私がもう、とっくに疲れ果ててしまっていることを…………【遥香は汚い手を使って今の座に納まったんだ。学生時代ずっと一緒だった「本命」に勝てるわけないだろ?】十七歳の私なら、きっとすぐにこのグループを脱退していただろう。湊斗のスマホを奪い取って「本命」の連絡先を消去し、一生私だけを愛すると誓わせたに違いない。でも、今の私はもう二十七歳だ。高嶺愛理 (たかみね あいり)が帰国したと知った時、私はキッチンに立っていた。フライ返しを握る手がわずかに震える。私は目玉焼きを裏返し、淡々とつぶやいた。「……よかったじゃない」二人の恋がどれほど情熱的で劇的なものだったか、仲間内では誰もが知っている。そして、私と愛理の差がどれほど残酷なものかも、周知の事実だ。だから、愛理の帰国を聞きつけた親友は、すぐに我が家へ乗り込んできた。私の味方をするために、ものすごい剣幕で。「もし湊斗があの女を連れ込んだりしたら、私が二人まとめてひねり潰してやるから」私は出来上がった朝食を皿に盛り、彼女の前に差し出す。そして、呆れたように笑った。「あの人はプライドが高いもの。そんな下品な真似はしないわよ」家に乗り込んで妻の座を脅かす。そんなのは、マウントの取り方としては最低ランクだ。事実はもっと残酷。彼女が指一本動かさなくとも、湊斗の心は勝手に彼女の方を向くのだから。だからこそ、卑怯なのは私の方だ。私はやったのだから。二人が喧嘩して拗
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